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472・海上の稽古2

第472話になります。

よろしくお願いします。

「しかし、よくぞ1人でそこまで二刀流の動きを身につけたの。大したものじゃ」


 キルトさんは、感心したように言った。


 実際に剣を合わせる稽古が終わったあと、キルトさんは改めて、僕の二刀流についての話をしてくれたんだ。


 僕は答える。


「1人じゃないよ。僕の二刀流の動きは、リカンドラさんの動きを真似て覚えたんだ」

「リカンドラ?」


 キョトンとするキルトさん。


 僕は、現在の『金印の魔狩人』で、エルドラド・ローグさんの弟だという二刀流の短剣使いの青年のことを教えてやる。


「あぁ、エルの弟か」


 彼女は、思い出したように声を漏らした。


 それから苦笑し、


「兄弟揃って『金印』か。ローグの一族は恐ろしい血族じゃの」


 そうぼやく。


 そして、キルトさんは改めて僕を見つめた。


 正確には、その視線は、僕の細い両腕と2つの木剣に向けられていて、


「なるほどの」

「…………」

「確かに、動き自体は悪くない。しかし、木剣を1つの腕で扱うだけの筋力が、まだマールには足りておらぬな」


 うぐ……。


(そ、そっか)


 僕は体格的には小柄だし、リカンドラさんみたいな『魔血の民』でもない。


 筋力不足。


 動きは真似できても、こればかりはどうしようもない。


 結果として、僕の剣は、理想とするリカンドラさんの剣に比べて、精密さ、速度、威力に置いて、大きく劣ってしまうんだ。


 その事実を指摘されて、少し落ち込む。


「まだ、と言ったであろ」


 キルトさんは、困ったように笑った。


 僕は顔をあげる。


 キルトさんは僕の顔を真っ直ぐに見つめて、


「鍛えていけば、必ず筋力はつく。無論、『魔血』を持たぬ以上、剣士としての不利は否めぬ。しかし、それは今更であろう?」

「うん」

「その上で、わらわはそれを覆す術を教えてきた。覚えておるな?」


 その問いに、僕は答えた。


「剣技」

「その通りじゃ」


 キルトさんは、弟子の答えに満足そうに笑った。 


「片腕にて、これまでに学んだ剣技を使うのは難しかろう。しかし、使えるようになれば末恐ろしい。その強さは、飛躍的に伸びる」


 僕は、師匠を見つめる。


 彼女は頷いた。


「このまま精進せよ、マール。困難な道じゃが、その先には、大いなる可能性が待っておるぞ」


 力強い声。


 それは、まるで道標のように、剣の道を歩む僕の光となり、また背中を押す力となった。


「はい!」


 僕は、大きく頷いた。


 キルトさんもまた笑って、頷いてくれる。


 それから彼女は、僕の木剣を受け取って、左右の手に2つの木剣を構えると、それを使って剣舞を見せてくれた。


(う……わ……っ)


 その動きに驚いた。


 これまで1つの剣を使うところしか見てこなかったけれど、キルトさんは、二刀流でも見事な動きだったんだ。


 リカンドラさんにも負けていない。


(いや……)


 もしかしたら、それ以上に洗練されているかもしれない。


 キルトさんは、ずっと剣の道を歩んできた人だ。


 そして、誰よりも多くの危険な戦いの中に身を置いてきた人だ。


 その人生において、ひょっとしたら二刀流を志した時期があったのかもしれない。その上で、彼女は1つの剣で戦う方を選んだのかも……。


(凄いなぁ、本当に……)


 この人が僕の師匠である幸運を、改めて噛み締めてしまった。


 …………。


 その美しい動きを、目に焼き付ける。


 周りで見ている人たちの視線も吸い寄せられるように、キルトさんの剣舞に集められていた。


 人々を魅了するほどの剣。


 やがて、その剣舞も終わった。


 舞い踊っていた銀色の髪が、ゆっくりとその背中に流れ落ちていく。


 短い吐息。


 それから、その黄金の瞳が僕へと向いた。


「ありがとうございました!」


 僕は、稽古をつけてくれた師匠へと深く頭を下げる。


 そんな僕に、キルトさんは「うむ」とどこか楽しそうに頷くと、白い歯を見せて笑ったんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 僕との稽古が終わっても、キルトさんは疲れた様子もなかった。


 そして彼女は、そのまま今度はソルティスとの稽古を行うことにしたんだ。


「よっしゃ、行くわよ!」


 気合の入ったソルティス。


 彼女の左手には木剣があり、右手にはコロンチュードさんにプレゼントされた『竜骨の杖』がある。


『魔法使い』ではなく、『魔法剣士』として。


 彼女は、キルトさんとの稽古に臨もうとしていた。


 キルトさんも「うむ」と頷き、


「来い」


 木剣を正眼に構えながら、ソルティスを促した。


 そうして始まった2人の稽古を、僕は、イルティミナさんたちと一緒に見守った。


 カン カカァン


 海上に、木剣のぶつかる音が木霊する。


 相変わらず、ソルティスの身体能力は凄い。


 それこそ、僕とは大人と子供以上に差があって、素直に『羨ましい……』と思うほどだ。


 そんな少女は、左手の木剣は防御のみに使っていた。


 そして、


「エルダ・レイヴィン!」


 ヴォン


 右手の『竜骨の杖』の魔法石からは、光の刃が伸び、そちらを攻撃に用いていた。


 魔力の刃だ。


 触れたら、木剣でも切断されてしまう――つまり、木剣で受けることはできない。


 そんな刃の攻撃を、


 ヒュッ ヒョイ


 キルトさんは当たり前のように、次々とかわしていく。


 そして、間合いを詰めると、振り下ろされる『竜骨の杖』に木剣を当てて、その攻撃を止めたりしていた。


 …………。


 遠目に見ていてわかる。


(キルトさん、ものすご~く余裕だ……)


 ソルティスの動きは、決して悪くない。


 剣士としての実力も身についているし、並の相手だったら充分に倒せるだけの動きだと思った。


 でも、キルトさん相手だと、やっぱり遊ばれている感じだ。


「この……っ!」


 それがわかっているのか、ソルティスも少し悔しそうな顔だった。


 そして、キルトさんが攻めに回る。


 ガッ ゴィン ガギィン


 木剣とは思えないような激しい衝突音を響かせながら、キルトさんの攻撃を、ソルティスは左手の木剣で必死に防いでいる。


 その時だ。


 ソルティスの瞳がキラッと輝いた気がした。


 次の瞬間、


(――あ)


 ヴォオン


 ソルティスの右手にあった『竜骨の杖』が突き出され、魔力の刃が弾けた。


 まるで至近距離からの散弾だ。


「むっ!?」


 キルトさんの表情も変わる。


(ソルティス、わざと誘ったな!)


 彼女の表情から、それに気づいた。


 まんまと接近させられたキルトさんは、けれど、次の瞬間、その木剣を霞むように振るって、全ての『魔力の弾』を叩き落した。


 パパパパァン


(うえっ!?)


 あり得ない速度の剣だ。


 分散した魔力の刃は、木剣でも弾けるほどの威力となっていた……それは、わかる。


 わかるけど、


(だからって、あれだけの魔力弾を全て防ぐの!?)


 信じられない。


 フレデリカさんもあまりの神業を目にして、『そんな馬鹿な!?』と強張った顔をしている。


 それこそ、罠を仕掛けたソルティスも唖然だ。


 倒せなくても、何発かは当てられると思っていたと思う。


 僕だって、そう思った。


 でも、現実は、キルトさんは無傷でそれを防いでいて、


 ヒュン ピタッ


「……あ」


 唖然としている少女の首に、キルトさんの木剣が押し当てられていた。


 プスプス……ッ


 魔力弾を斬った影響か、木剣が少し焦げている。


 キルトさんは笑った。


「見事じゃったぞ、ソル」

「……全然、見事じゃないわよ」


 一方のソルティスは、褒められても仏頂面だ。


 少女は、両手をあげて『降参』と示す。


 それから、


「キルトと稽古すると、なんだか自分が弱くなったように感じるわ」


 とぼやいた。


 キルトさんは「そうか」と苦笑する。


 そんな2人を眺めていると、僕の隣にいたイルティミナさんが真紅の瞳を細めながら、ため息のように呟いた。


「キルトは、また腕を上げましたね」


 ……そうなんだ?


 あまりに強すぎて、僕には、以前との違いが明確にわからない。でも、イルティミナさんの実力だと、それがわかるらしい。


 僕の奥さんは、


「キルト・アマンデスという人間には、限界というものがないのでしょうか? 正直、同じ人間とは思えません」 


 と、どこか遠い目だ。


(あはは……)


 褒めているのか、呆れているのかわからない呟きに、僕は苦笑してしまった。


 キルトさんは、ソルティスにも色々とアドバイスをしている。


 少女は、何度も頷いた。


 それからお互いに礼をして、キルトさんとソルティスの稽古は終わったんだ。


 そして、


「よし、次はフレデリカじゃな」


 キルトさんは休むことなく、次の相手を指名した。


「私か!?」


 フレデリカさんは愕然とした顔だ。


 彼女も、アルン神皇国では皇女殿下の護衛を任せられるほどの騎士である。


 そんな彼女が、少し怯えていた。


 キルトさんは、ニコニコ顔だ。


 逃げられないと悟ったフレデリカさんは、「はぁ……」とため息をこぼすと、木剣を手に取った。


 僕は、


「がんばって、フレデリカさん」


 と声援を送る。


 青い髪のお姉さんは、こちらを振り返って、小さく苦笑した。


「行ってくる、マール殿」


 それから気持ちを切り替えたように、生真面目な表情でキルトさんの方へと歩いていった。


 その背中を見送る。


「さて、キルト相手に、どれだけできるのか拝見させてもらいましょうか」


 イルティミナさんが呟いた。


(うん)


 そうして僕は、向き合う元・金印の魔狩人とアルン騎士の稽古を、しっかりと集中して見守ることにした。

ご覧いただき、ありがとうございました。



次回更新は、3日後の月曜日0時以降になります。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ 流石はキルト! 剣技と酒飲みに関しては右に出る者無しですね‼︎(笑) まだまだマールやソルティスでは敵わない存在として君臨し続けるのでしょうね。 [一言] …
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