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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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052・マールと姉妹の新生活2

ブクマ100件ありがとうございます! 感謝の3日連続更新、その2日目!


第52話になります。

それでは、よろしくお願いします。

「いってきます、ソルティス」

「ソル? あとは頼みましたよ」


 僕とイルティミナさんは、「へ~いへい」とぞんざいな返事をするソルティスに見送られて、家を出た。


 姉妹の家は、緩やかな坂道の途中にある。

 そのため、ここからは王都ムーリアの景色を、斜めに見下ろすことができた。


(うわ、本当に広いね、ここ)


 明るい時間に初めて見て、それを実感する。


 城壁は、遥か地平にある。

 昨日、僕らの入った正門から、神聖シュムリア王城までは、南北5キロぐらいかな? そして、東西の方向にある城壁から城壁までは、その3~4倍の距離がありそうだった。端の方は霞んで、見えないぐらい。


 でも考えたら、当たり前だ。

 30万人の暮らす都市なんて、前世の中核市ぐらいの規模なんだから。 


 イルティミナさんは、僕の手を握りながら、


「マール。もし迷子になったら、まずは、お城を目印にしてくださいね。あれは、王都のどこからでも見つけられますから」

「ん?」

「そこから湖に沿って、西側に向かえば『月光の風』があります。万が一の場合は、そこで待ち合わせましょう。ですから、決して城壁側には行かないように、気をつけてください」


 落ち着いた口調だけど、瞳は真剣だ。

 でも、なんで?


「東西の城壁近くは、貧民街スラムになっています」

「貧民街?」

「はい。王都は広い分、闇も深い……そこには、『魔血の民』も大勢います。『血なし者』には、特に危険な地区なのです」

「…………」


 そっか。

 そりゃ、『魔血の民』だって、いい人も悪い人もいるよね?


「わかった。約束する」

「はい」


 イルティミナさんは、安心したように笑った。


「マールは可愛いので、すぐに愛玩奴隷にされそうですから。しっかり気をつけてくださいね」

「…………」


 こ、怖いことを……。


 ブルッと身を震わせた僕は、イルティミナさんの手をしっかりと掴みながら、王都ムーリアの中心部へと坂道を下っていった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 歩くにつれて、通りは広くなり、街並みも整備されて美しく、人の数も多くなった。

 まるでメディスの大通りみたいな混雑だ。


(これは、手を繋いでないと迷子になるよ)


 イルティミナさんが心配するわけだと、納得する。


 彼女は先を歩いて、子供の僕に、他の人の身体がぶつからないようにしてくれる。その後ろを必死について行くと、やがて僕らは、噴水のある広場に辿り着いた。

 円形の広場の外周には、様々な店舗が並んでいる。


「うわ~、色んなお店があるね?」

「はい。まずは、当面の食材を買い集めましょう」

「うん」


 そうして、僕らは歩いていく。


(……あれ?)


 近くにある野菜屋さんの前を通り抜けて、イルティミナさんは、ちょっと離れた野菜屋さんへと向かった。

 気づかなかったのかな?


「イルティミナさん、そこのお店にも、野菜、売ってるけど?」

「……あそこは、駄目です」


 なんで?

 あ……もしかして、高いのかな?


 僕は、呑気にそんな風に思った。


「あの店には、『魔血の民』は入店できないんですよ」

「……え?」


 驚く僕に、イルティミナさんは儚げに笑う。

 その白い指が、店先を示して、


「あれは、魔力測定具です」 


 それは、大きな風鈴みたいだった。

 外身から下がった細長いぜつの部分が魔法石になっている。多分、あれが魔力に反応して、風鈴を鳴らすんだ。


 見れば、『悪魔の子、入店お断り』と、ご丁寧に看板まで用意されている。


(どうして……?)


 恐ろしい差別を目の当たりにして、僕はショックを受けていた。


「人々の安心のためです」

「安心?」


 意味がわからない。

 イルティミナさんは、自分に言い聞かせるように、僕に説明する。


「血に目覚めた『魔血の民』は、魔力だけではなく、筋力も強いのです。その力は、マールよりも幼い女の子が、成人の男性を、素手で引き裂き、殺せてしまうほどです」

「…………」

「同じ店内に、そのような存在がいたら、皆、どう思うでしょう?」


 店主らしい人が、チラッと見えた。

 普通のおばさんだった。

 人の良さそうな、優しそうな雰囲気の人だ。差別をするようには、とても見えない。


「魔力測定具のある店は、そのような安心を、客に保証しているのです。現に、売り上げは、そちらの方が高いと聞いています」

「…………」

「差別ではなく、金銭のために、魔力測定具を用意する店もあるのですよ」


 そんなことが、あるんだ……。


(これはもう、理屈じゃなくて、生物としての感情の問題だよ……)


 唇を噛んでうつむく僕の髪を、イルティミナさんは、優しく撫でてくれる。 


「ありがとう、マール。私たちのために、そんな顔をしてくれて」

「…………」

「でも、私は、笑っているマールの顔を見るのが、好きなんです。だから、ほら……ね? 貴方は、どうか笑っていてくださいな」


 あぁ、なんて人だろう。

 イルティミナさんは、自分よりも僕を気遣ってくれていた。


(応えなきゃ、男じゃないぞ、マール?)


 僕は、顔を上げた。


「うん、あんな店、こっちからお断りだよ!」

「はい」

「あっちより美味しい野菜、いっぱい買ってやろう、イルティミナさん!」

「フフッ、もちろんです、マール」


 僕らは、笑い合った。

 イルティミナさんの笑顔を見たら、こんなの些細なことに思えた。


(うん、負けるもんか!)


 人の闇だけでなく、人の光も見ていこう。

 僕らは、魔力測定具のない野菜屋さんへと、意気込みながら突撃していった――。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 野菜屋さんの次は、肉屋さん、酒屋さんへと突撃した。

 買った品物で、イルティミナさんの肩に提げられた大きなトートバッグは、パンパンに膨れている。


「重くない?」

「赤牙竜の牙に比べたら、全然ですよ」


 それも、そうか。

 でも、3人分にしては、ちょっと多すぎる気もする。

 そう聞いてみると、


「ソルは、3人分食べますので……」

「あぁ、なるほど」 


 とても納得です。


(つまり5人分の買い物なんだね、うん)


 苦笑していたイルティミナさんは、僕の手を引いて、お店の前から噴水広場へと戻っていく。

 と、急に噴水の水が勢いを増した。


「おや、もう11時ですか」


 どうやら、特定の時間だけ、水量が変わるみたい。


 流れる水たちの踊りは、とても綺麗だ。

 近くにいる人たちも、僕らと同じく噴水を見ている。


 トンッ


「わ?」

「おっと、ごめんよ」


 だからかな?

 余所見をして歩いていたらしい男の人が、僕にぶつかった。僕はよろけて、イルティミナさんが「マール」と慌てて、支えてくれる。

 男の人は、彼女の横を通り抜け、


 パキンッ


「いぎっ!?」


 突然、その男の人は悲鳴をあげて、地面に転がった。


(……え?)


 その人の右手の人差し指と中指が、変な角度に曲がっている。いや、折れている?


 ポカンとする僕を支えながら、イルティミナさんが低い声で言った。


「……狙う相手を間違えましたね」

「! くそっ!」


 男の人は蒼白になり、指を押さえながら、人混みの中に消えていった。

 あっという間だった。

 そのせいで、周りの人たちも、今の出来事に、全然、気づいていない。


(えっと……?)


 困惑する僕に、イルティミナさんは優しく言う。


「大丈夫でしたか、マール?」

「あ、うん」


 でも、今のはいったい?


「あの男は、スリだったんですよ」

「……はい?」

「マールに気を取られた私から、財布を抜き取ろうとしたんです。なので、その指を折ってやりました」


 そ、そうだったんだ。

 全然、わからなかった。というか、いつすろうとして、いつ折ったのかも、わからない。


「王都には、こんな危険もありますので、マールも気をつけましょうね?」

「う、うん」

「さて、いい時間です。買い物もこれぐらいにして、少しお茶でもしてから帰りましょうか」


 そう笑って、彼女は、近くの喫茶店を探す。


(……まるで今のことが、なかったみたい) 


 イルティミナさんにとっては、スリなんて、大したことじゃないのかもしれない。

 というか、王都ではよくあることなのかな?


 安心大国の日本から転生した僕は、もっと注意しなきゃな、と思った。


(うん、異世界での生き方の勉強になるね)


 そういうことを色々と教えてくれる美人先生は、僕の手を引きながら、「なんだか、デートみたいですね」と恥ずかしそうに呟いていたけれど。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「マールは、将来、やりたいこととかあるんですか?」


 喫茶店で、そんな質問をされた。


 僕は、ちょっと驚きながら、アイスレモンティーのグラスを傾けるイルティミナさんを見る。ちなみに僕は、アイスミルクティー。


 真紅の瞳を細めて、彼女は笑う。


「もしあるなら、私は、マールの力になりたいのです。協力できること、何かありませんか?」

「う、う~ん?」


 急だったので、びっくりしてしまった。

 僕は、考えながら、こう答える。


「メディスでも言ったけど、僕は、自分の失った記憶や過去を知りたかったんだ」

「はい」

「でもそれは今、ムンパさんが調べてくれることになって」

「ムンパ様が?」


 彼女は、驚いた顔だ。

 僕は頷いて、昨日、ムンパさんにお願いしたことを、イルティミナさんにも伝えた。彼女は、真剣な顔でそれを聞いてくれて、


「それでは、しばらくは、その報告待ちなのですね?」

「うん」


 僕は、アイスミルクティーのグラスを、口に運ぶ。

 甘くて、冷たくて、美味しい。

 そんな僕を見ながら、彼女は、美しい髪を揺らして、首をかしげた。


「では昨日、キルトに言っていた『マールの考えていること』とは、なんでしょう?」

「それは……」


 言うか、ちょっと迷った。

 だから、逆にこちらから質問してみる。


「それに答える前に……イルティミナさんは、冒険者をしていて楽しい? それとも、やっぱり辛い?」

「え?」


 真紅の瞳が丸くなる。

 それでも見つめ続けると、彼女は、ゆっくりと考えてから、教えてくれた。


「そうですね……両方です」

「両方?」

「はい。もともと、生きるために始めた職です。楽しさも辛さも関係なく、やるしかありませんでした。正直、辛い方が多いです。ですが、この年まで続けられている以上、その中に楽しさも見つけているのだと思います」


 答える表情は、清々しかった。


(そっか)


 僕の中にあった想いは、それを見て、固まっていく。


「あのね、イルティミナさん?」

「はい」

「僕は欲張りだから、欲しいものや、やりたいことが、たくさんあるんだ。そのために必要な手段を、今は、1つだけ見つけてる」

「手段、ですか?」


 彼女は、不思議そうに僕を見つめた。


(イルティミナさんには、反対されるかもしれない)


 不安だった。

 でも、もう決めた。


 アイスミルクティーを一口飲んで、喉を湿らす。

 その冷たいグラスをテーブルに戻して、僕は、美しい真紅の瞳を見つめ、


「――僕は、これから、『冒険者』になろうと思ってるんだ」


 そう、はっきりと口にした。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、明日の金曜日0時以降になります。3日連続更新の最終日ですね。

※そして次話では、一応ですが、お風呂シーンがございます(……あまり期待はしないでくださいね?)。もしよかったら、明日も読んでもらえたら幸いです。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >「血に目覚めた『魔血の民』は、魔力だけではなく、筋力も強いのです。その力は、マールよりも幼い女の子が、成人の男性を、素手で引き裂き、殺せてしまうほどです」 ソルティスはまだ血に目覚…
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