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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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469・ヴェガ国への航海と再会

祭469話になります。

よろしくお願いします。

 僕とイルティミナさんは、冒険者ギルドの最上階を訪れた。


 ギルド長室前の秘書さんに声をかけると、すぐにギルド長室内へと通してもらえた。


「いらっしゃい、マール君、イルティミナちゃん」


 植物の茂った部屋の中、人工の川の中央にある真っ白な円形の島の執務机から立ち上がって、笑顔のムンパさんが出迎えてくれる。


 挨拶を返して、僕らは、そちらに向かった。


 ムンパさんに勧められるままソファーに腰かけると、秘書さんが飲み物をテーブルに置き、一礼して去っていく。


 彼女が部屋を出たのを見計らって、


「2人とも、クエストから帰ったばかりで、疲れているのにごめんなさいね」


 ムンパさんが、そう申し訳なさそうに謝った。


 僕らは、


「ううん」

「大丈夫ですよ」


 と笑顔を返した。


 ムンパさんも安心したように微笑んでくれる。


 それから、


「実はね、2人のクエスト中にシュムリア王家から連絡があったの」


 と言った。


(シュムリア王家から連絡?)


 なんだろう?


 驚く僕とイルティミナさんに、ムンパさんは教えてくれた。


「あのね、前に2人が訪れたドル大陸、そのヴェガ国のアーノルド王子が3ヶ月後に、正式に国王に即位することが決まったの」


 え!?


(あのアーノルドさんが?)


 アーノルド・グイバ・ヴェガロス王子は、3年前、僕らがヴェガ国に行った時に色々とお世話になった獅子の獣人さんだ。


 ヴェガ国の聖神樹。


 そこに封じられた悪魔から2体の『悪魔の欠片』が現れて、『闇の子』と共闘して倒したんだっけ。


 その時に、色々お世話になったんだ。


 凄くいい人だった。


 そうそう、キルトさんに求婚したけれど、断られてしまったりもしていたね……。


(あれから、アーノルドさんが結婚した、なんて話は聞いてないなぁ)


 まだキルトさんが好きだったりするのかな……?


 そんなことを考えていたら、


「そのアーノルド王子がね、3ヶ月後の即位式に、イルティミナちゃんやマール君たちを招待したいって言ってるんだって」


 とムンパさん。


(え? 僕らを?)


 イルティミナさんも驚いた顔だ。


 ムンパさんは優しく笑う。


「彼は、マール君たちのことを『我が心を許す友人たち』だと書状に書いていたそうよ」

「…………」

「…………」


 アーノルドさん……。


「ヴェガ国王家の正式な招待でもあるし、友好国であるシュムリア王国としても断る理由はないの。だから、2人ともヴェガ国に行ってくれるかしら?」


 ムンパさんがそう問いかけてきた。


 もちろん、断る選択肢なんてない。


 立場的にもそうだけど、僕個人の気持ちとしてもそうだった。


「もちろん行きます!」


 僕は笑った。


 イルティミナさんも頷いて、「お受けいたします」と答えていた。


 ムンパさんは、


「そう、よかったわ」


 と微笑んだ。


 そういえば、招待されているのは僕らだけなのだろうか? 3年前は、他にも人がいたんだけど……。


 そう訊ねると、


「ソルティスちゃんとポーちゃんには、すでに承諾をもらったわ。残念ながら、コロンちゃんには『面倒……』って断られちゃったけど」


 あらら……。


(さすが、コロンチュードさん……ぶれないね)


 僕は苦笑する。


 イルティミナさんは、長い髪を肩からサラリとこぼしながら、首をかしげる。


「キルトはどうなりますか?」


 あ……。


 そういえば、キルトさんは今、隣国のアルン神皇国にいるんだ。


 この間もらった手紙には、神帝都アスティリオに到着して、ダルディオス将軍のお宅でお世話になっているって書いてあった。


 皇帝陛下に挨拶したり、フレデリカさんと稽古をしたり、将軍さんと酒の飲み比べをしたりしてるって。


(……キルトさんらしいよね)


 でも、そんなわけで彼女は、今、シュムリア王国にいない。


 どうなるんだろう?


 そう心配になっていると、ムンパさんが微笑んだ。


「大丈夫。アーノルド王子の即位については、アルン神皇国にも伝わっているの。当然、キルトちゃんの耳にも入っているはずだわ」


 あ、そうなんだ。


 シュムリア王国からヴェガ国に向かうには、アルバック大陸の南海を船で渡っていく。


 その途中で、アルン南部の港町に立ち寄り、そこでキルトさんと合流して、一緒にシュムリア王国の一員としてヴェガ国へと向かうことになる予定なんだって。


 そうした連絡の翼竜便は、すでに出してあるそうだ。


(さすが、手回しがいいなぁ)


 政治的な部分もあるだろうから、もしかしたら、レクリア王女が即対応してくれたのかもしれないね。


 イルティミナさんも、


「そうですか」


 と納得の顔で頷いた。


 …………。


 キルトさんに会うのは、1年ぶりぐらいになるのかな?


「元気かなぁ、キルトさん?」


 僕は、少し遠くを見て呟いた。


 ムンパさんとイルティミナさんが、そんな僕の顔を振り返ってくる。


 2人とも、優しく微笑んだ。


「キルトちゃんだもの」

「きっと元気ですよ。ふふっ、会うのが楽しみですね」

「うん!」


 僕は、大きく頷いた。


 こうして僕らは、キルトさんとの再会が決まり、遠いヴェガ国を3年ぶりに訪れることになったんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 ムンパさんとの話があってから、1週間後、僕らはシュムリア王国の使節団と共に出国することになった。


 でも、その前に、


「リカンドラに挨拶しましょうか」


 とイルティミナさん。


 菓子折りを用意して、僕とイルティミナさん、合流したソルティスとポーちゃんの4人で、金印の魔狩人リカンドラ・ローグさんの元を訪れた。


 理由は、迷惑をかけるから。


 現在、シュムリア王国で活動している『金印の冒険者』は、イルティミナさんとリカンドラさんの2人だけだ。


 そして彼女は、これからしばらく王国を離れる。


 そうなると『金印のクエスト』は全て、リカンドラさん1人で対応することになってしまうのだ。


(ま、イルティミナさんのせいではないけれど……)


 でも、冒険者の仁義というか、そういう時は、ちゃんと挨拶はしておくべきなのだそうだ。


 そんな訳で、冒険者ギルド・黒鉄の指へ。


 彼の所属ギルドであり、アポイントメントも取ってあったので、すぐに応接室で会うことができた。


「おう、久しぶりだな」


 白い犬歯を見せて、野性的に笑うリカンドラさん。


 そばには、かつて『金印』の座を争い、現在はリカンドラさんのパーティー仲間となった『銀印』の美女レイ・サルモンさんもいた。


 事情は聞いているのか、2人に驚いた様子はなかった。


 挨拶がてら、少し雑談もした。


 リカンドラさんが『金印』に就任してから、およそ2ヶ月が経っているけど、様子はどうかという話題が出ると、


「楽しいぜ」


 と、彼は笑った。


「金印のクエストは、なかなか手強い魔物も多くてな、やりがいがある。自分がどんどんと強くなっていくのを実感しているところさ」


 そう嬉しそうに語った。


 さすが、金印を目指した理由が『世界一強くなりたいから』なんて言った人だよ……。


 ソルティスなんかは、ちょっと呆れた顔だった。


 でも、レイさんが隣から、


「勘違いをしないでくれ。これでも金印の責任を理解し、人々を守る意味も感じている。リドの軽口は、自分を鼓舞するためでもあるのだ」


 と付け加えた。


 リカンドラさんは「……おい、レイ」と怖い表情で低い声を出していた。


 レイさんは気にした様子もない。


「いつかはエルに追いつけるように、いや、エルを越えた男になるよう、私が育ててみせよう。どうか、長い目で見てやってくれ」


 そう宣言した。


 かつては、金印の魔狩人エルドラド・ローグの仲間だったレイさん。


 今は、その弟であるリカンドラさんを支えることが、彼女の生きがいとなっているみたいだった。


 怒るリカンドラさん。


 聞き流し、冷静なレイさん。


(……ふ~ん?)


 僕らは、そんな2人のやり取りを見物して、それから、冒険者ギルド・黒鉄の指をあとにした。


 …………。


 その帰り道、


「僕はピンときたね」


 と、他の3人に言った。


 イルティミナさん、ソルティス、ポーちゃんが僕を見る。


 僕は、自信満々に笑う。


「ひょっとしたら、リカンドラさんとレイさんは、将来、結婚して、僕とイルティミナさんみたいに夫婦で冒険者をしているかもしれないよ」


 そう未来予想。


 だって、レイさん、リカンドラさんを『エルを越える冒険者・・・』ではなく、『エルを越える』に育てるって言ったんだよ?


 冒険者じゃなくて、男。


 ……うん、これは脈ありだと思うのだ。


 現在、リカンドラさんとレイさんは、それ以外に3人の仲間と一緒に冒険者パーティーを組んで活動しているそうだけど、2人の関係はちょっと特別そうだった。


(だから、将来、きっと付き合っちゃうよね?)


 そんな予感がしたんだ。


 そんな僕の未来予想を聞いた3人は、顔を見合わせる。


 ソルティスが、


「はぁぁ……」


 と、重そうにため息をついた。


 僕を半眼で見つめて、


「自分のことになると信じられないぐらい鈍感なのに、アンタのそういうところ、本当に何なのかしらね?」

「え?」

「はぁ~、ヤダヤダ」


 頭の後ろで両手を組んで、スタスタと先に行ってしまう。


(え? えぇええ?)


 何、その反応?


 僕、何か悪いことでもしたっけ?


 唖然となる僕の横を抜けて、ポーちゃんは、相棒となる少女を追いかけていく。


「…………」


 僕は、困惑して立ち止まってしまう。


 ポム


 そんな僕の肩を、イルティミナさんの手が優しく叩いて、


「さぁ、行きましょうか、マール」


 なぜか苦笑しながら、そう言った。


 う、うん。


 僕は釈然としない気持ちを抱えたまま、2人を追いかけ、イルティミナさんと一緒に人々の集まる王都の通りを歩いていった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 数日後、僕らはシュムリア王家が用意してくれた大型船に乗り込んで、王国南部の都市から大海原へと出航した。


 使節団は総勢20名ほど。


 そこに、僕、イルティミナさん、ソルティス、ポーちゃんの4人が加わる形だ。


 そして、旅の途中でアルン神皇国へと立ち寄り、かつての金印の魔狩人キルト・アマンデスを拾い上げていくという予定なんだ。


 ザザァアン


 周囲には、青く美しい水の世界が、どこまでも広がっている。


 潮の匂いは、なんだか懐かしい。


 海風に髪をなびかせながら、天候にも恵まれて、僕らの船旅は順調に進んだ。


 そして、1ヶ月後。


 僕らは針路を北に取り、遠くに青く霞んで見えていたアルン神皇国の大地へと近づいていった。


 港町が見えてくる。


 大きな街だ。


 遠目にも充実した港湾施設には、アルン神皇国の軍艦らしい姿が何隻も見受けられた。


 そんな港の中へ、シュムリア王国の大型船が入っていく。


 ゴゴォン


 錨が下ろされ、太い縄が桟橋の金属突起に巻きつけられて、固定される。


 僕ら4人は、甲板に立って、その光景を見ていた。


 ガタン ガタン


 桟橋の方から、金属製の長い階段が伸びてきて、船の側面に接続された。


 僕らは、すぐにそちらに向かった。


 カツン


 階段の上に立つと、眼下に見える桟橋上に、アルン軍人らしい何人かの姿が見えた。


 その中に、1人だけ。


 一番小柄であるのに、なぜか誰よりも存在感のある女性の姿があった。


(…………)


 海風に揺れ、なびく豊かな銀色の髪。


 整った顔立ち。


 そこに煌めく、黄金の瞳。


 黒いマントを体半分にかけるその背中には、身長よりも巨大な大剣が背負われていた。


 ソルティスが口元を両手で押さえた。


 ポーちゃんは無表情。


 イルティミナさんは、その真紅の瞳を懐かしそうに細めている。


 僕は、胸が熱くなった。


 笑いたいのに、泣きたいような、不思議な感覚。


 彼女は、そんな僕らに気づいて、


「よう、久しぶりじゃの」


 片手を軽く上げて、白い歯を輝かせながら笑顔を見せた。


 その声を聞いた途端、


 ダッ


 僕らは一斉に、階段を駆け出していた。


「――キルトさん!」


 大きな声で、その名を叫ぶ。


 煌めく太陽と青空の下、僕ら4人は、およそ1年ぶりに再会したキルトさんの胸へと、思いっきり飛び込んでいったのだった。

ご覧いただき、ありがとうございました。


実は、マールとは全く関係ない話で恐縮なのですが、新作を書きました。

本日(10月1日)の18~19時頃から投稿予定です。全35話、毎日投稿の予定ですので、もしよかったら、皆さん、読んでやって下さいね。

どうか、よろしくお願いします!


また『少年マールの転生冒険記』の方は、今まで通り、週3回更新していきますのでご安心下さい。

次回は、3日後の月曜日0時以降に更新予定です。こちらもどうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ 自分の事に関してのみ無自覚鈍感系主人公の能力を発揮するマール。 普段とは逆に他人に関しては敏感に反応出来るだけに、周りはモヤモヤしてそうですね(笑) [一言…
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