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468・いつまでも大切な

第468話になります。

よろしくお願いします。

『グギャアアオッ!』


 深い森の奥地で、雄叫びを上げた『人型の魔物』が5体、僕へと襲いかかってくる。


 魔物の体長は、2メード強。


 皆、筋骨隆々で、獣皮の防具を身にまとい、棍棒や動物の牙などで作られた剣や盾を装備している。


 彼らは、『森林鬼人フォレスト・オーク』という魔物だそうだ。


(――来い)


 対する僕は、右手に『妖精の剣』、左手に『大地の剣』を構えた。


 僕は、小柄だ。


 身体能力に優れた『魔血の民』ではなく、森林鬼人たちに比べたら、大人と子供の体格差である。


 正面からぶつかり合うのではなく、剣技で応戦しなければならない。


 左手の『大地の剣』を前に出す。


『グギャオッ!』


 迫る森林鬼人の1体が、僕へと巨大な棍棒を振り下ろしてきた。


 コィン


 そこに『大地の剣』の刃を当てる。


 押し込まれる勢いを利用して、僕は右足を軸にクルンと独楽のように回転しながら、棍棒をかわす――同時に右手の『妖精の剣』を真横へと振り抜いた。


 ヒュコン


 森林鬼人の胴体が、上下真っ二つに切断される。


(あと4体)


 すると、2体が同時に、左右から僕を挟み込むように迫ってきた。


 僕は、意識を集中する。


 ギュッ


 世界から色が消え、音がなくなった。


 そして、時間の流れの遅くなった視界で、僕の肉体を破壊しようと、巨大な牙を研いで作られた大剣が右から先に近づいてくるのがわかった。


 そちらに身体を押し込みながら、上半身を捻ってかわす。


 ピッ


 かすかに、僕の茶色い髪の先を、巨大な剣先がかすめる。


 そうして相手の懐へと踏み込んだ僕は、向こうの突進の勢いも利用して『妖精の剣』を太い首へと突き刺した。


 ゾプッ


 反対側まで刃が抜ける。


 遅れて、左側から迫ってきた森林鬼人の振るう棍棒が、僕の胴体を薙ぎ払うように近づいてきて、そのまま通り抜けた。


 右に踏み込んだ分、棍棒が届かなかったんだ。


 通り抜けたタイミングに合わせて、僕は、そちらへとステップを踏んだ。


 左手にある『大地の剣』を突き出す。


 ガシュッ


 獣皮の防具を突き抜け、魔物の心臓を正確に貫いた。


 柄を握った手に、剣先から脈動が伝わり、次の瞬間には、それが止まったことも伝わってきた。


 左右に2歩。


 僕が動いたその間に、2体の森林鬼人を倒すことに成功した。


 残りの2体は、仲間があっという間にやられたことに驚愕し、その接近する足が止まっていた。


(今だ)


 僕は容赦しない。


 そちらへと、2本の剣を下げたまま近づいていく。


『ガァア!』


 呼応するように1体が怒気をまとわせ、手にした牙の大剣を振り上げた。


 でも、もう1体は後ろに下がる。


 腰に巻き付けていた茨の鞭を装備して、そちらは中間距離の攻撃に切り替え、僕を接近させないようにするつもりみたいだ。


 頭がいいな、と思う。


 僕は小柄だから、距離を取られると戦い辛くなるんだ。


 それをわかっている。


 そんなことを考えている僕へと、牙の大剣が振り下ろされる。


 ビュオッ ヒュコン


 右手の『妖精の剣』を横に振り抜いて、牙の大剣を半ばから切断した。 


 魔物が驚きに目を見開く。


 同時に、僕は、左手の『大地の剣』の剣先を地面に軽く突き差した。


「――大地の破角(アースホーン)


 静かな文言。


 タナトス魔法武具の刀身に刻まれた3つの魔法文字が輝き、次の瞬間、茨の鞭を構えていた森林鬼人が、真下の地面から突き出した巨大な『角』に貫かれた。


 ドグシュッ


 その肉体がビクビクと痙攣する。


 自分の背後で起きた仲間の死に、すぐ目の前にいた森林鬼人は振り返った姿勢で呆然としていた。


 その動きの止まった頭部を、


 ヒュコン


 僕の右手にある『妖精の剣』が切断した。


 紫色の鮮血が噴き出す。


 魔物の頭部は、驚きの表情を保ったまま地面へと落ち、ゴロゴロと転がった。


「ふぅ……」


 5体の絶命を確認して、僕は息を吐く。


 内容は圧勝だ。


 とはいえ、何かが1つでもずれていれば、僕が殺されていてもおかしくはないのだけれど……。


(でも、勝った)


 そのことは自分で自分を誉めてあげたい。


 僕は、もう『銀印の魔狩人』なんだ。


 特別な存在である『金印』を除けば、冒険者ギルドのトップとなる冒険者ランクであり、それに相応しい実力を僕も見せなければならないんだ。


 5体の森林鬼人を、1人で倒した。


(うん)


 ちゃんとやれているよね?


 そう思っていると、


「――そちらは終わりましたか、マール?」


 そんな綺麗な声が聞こえた。


 振り返ると、そこには『白翼の槍』を手にした僕の奥さんである『金印の魔狩人イルティミナ・ウォン』が立っていた。


 その美貌は、優しい微笑みを湛えていた。


 でも、槍の穂先も、白い鎧も紫色の血液でべったりと汚れている。


 僕は身体を傾け、その奥へと視線を送る。


 …………。


 そこでは、大地に倒れ伏した森林鬼人たちの死体が、100体近く転がっていたんだ。


 彼女も、僕の後ろにある5体の魔物の死体を確認する。


 ニコッ


 穏やかに微笑んで、


「そちらも終わったようですね。これでクエストも完了です。さぁ、帰りましょうか」


 と何でもないように言った。


(…………)


 どうやら、僕もまだまだ、みたいだ……。


 少しだけ遠い目になってから、気を取り直した僕は「うん」と頷いて、彼女の方へと歩いていった。



 ◇◇◇◇◇◇◇ 



 今回のクエストは、レムリア穀倉地帯近くの森に出現した『森林鬼人フォレスト・オーク』の討伐だった。


 この魔物は、オークの一種なんだけど、森林にしか生息しないんだって。


 だから、人間の生活圏に出てくることも稀で、討伐対象となることは滅多にないそうなんだ。


 だけど、今回は出現した場所がまずかった。


 そこは穀倉地帯近くの森でもあり、周辺には人々の暮らす村が点在していたんだ。


 当然、その村の人たちは、生活のため、森の恵みを求めて、森の中へと入っていくこともある。


 そんな森に、その『森林鬼人』たちが集落を作ってしまったため、村の人たちは森に入ることができなくなり、生活にも困窮し始めてしまったんだ。


 そのため、『金印の魔狩人』であるイルティミナ・ウォンに討伐依頼が下されたのである。


 そして、森林鬼人およそ100体の集落を、僕らは壊滅させた。


(うん、これでクエスト達成だね)


 王都ムーリアへと向かう帰りの馬車の中で、僕は、大きく息を吐いた。


 ナデナデ


 そんな僕の髪を、隣に座っているイルティミナさんが優しく撫でてくれる。


「ふふっ、お疲れ様でしたね」


 そう微笑み、労ってくれる。


 僕も笑った。


「イルティミナさんも」


 僕が5体を討伐している間に、彼女は、100体近い森林鬼人を倒していた。


 …………。


 本当にイルティミナさんは凄い。


 でも、


「あのね、イルティミナさん?」

「はい?」

「その……もう少し、僕にも数を回してくれてもいいんだよ? 僕だって、ちゃんと戦えるんだから」


 そう言ってみた。


 すると、彼女は驚いた顔をする。


 それから、どこか申し訳なさそうに笑って、


「そうですね」


 と頷いた。


「ごめんなさい、マール。貴方を信用していないわけではないのです。ただ……どうしても、貴方を守りたい気持ちが抑え切れなくて」


 そのせいで、僕の近づこうとする魔物を先に倒してしまうのだそうだ。


(……う、う~ん)


 僕への過保護が、もう無意識のレベルになっているのかな?


 イルティミナさんと出会ってから、だいぶ経つ。


 でも、彼女の中では、僕はまだまだ幼い子供のイメージで、もしかしたらそれは一生消えないのかもしれないね……。


 だけどなぁ。


「僕、これでも『銀印』なんだよ?」


 困ったように呟いた。


 イルティミナさんは「はい」と頷いた。


 そして、


「ですが、私にとっては、マールはいつまでも、私の可愛いマールです。ずっと守ると誓った、大切なマールですから」

「…………」


 なんだか熱い瞳で見つめられてしまった。


 ……もう、


(しょうがないなぁ、イルティミナさんは)


 でも、そこまで思ってもらえることは、やっぱり嬉しい。


 そう思いながら、小さな笑顔を返す。


 イルティミナさんは、そんな僕の顔をしばらく見つめて、


 ギュッ


 何かを我慢できなくなったかのように抱きついてきた。


(わっ?)


 深緑色の美しく長い髪が、僕の首筋を柔らかくくすぐった。


 甘やかな匂いがする。


 驚く僕に、イルティミナさんは「んん……マール、マール」と甘えた声でスリスリしてくる。


 あはは。


(まったくもう)


 僕は照れたように笑いながら、彼女を抱きしめ返して、その綺麗な髪をゆっくりと撫でてあげた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 数日かけて、王都ムーリアへと帰還する。


 馬車を降りたその足で、僕とイルティミナさんは所属する『冒険者ギルド・月光の風』へと向かった。


「おかえりなさい!」


 ちょうど受付だったクオリナさんが、元気な声で出迎えてくれる。


 僕らも笑った。


「ただいま」

「ただいま帰りました」


『金印』と『銀印』の魔狩人であり、夫婦でもある僕ら2人の帰還に、ギルド内にいた冒険者たちの視線が集まってくる。


(…………)


 今までは、金印であるイルティミナさんにばかり視線があった。


 でも、銀印になってからは、僕へも似たような視線が送られてくるようになったんだ。


 銀印の重さ。


 その称号が持つ輝きと重責を嫌でも感じさせる。


 正直、それらの視線には、まだ慣れない……。


(ソルティスも同じ視線を向けられているのかなぁ?)


 同じ銀印となった少女にも、ふと思いを巡らせてしまう。


 そうしている間にも、イルティミナさんは、多くの視線を無視して、受付でクエスト完了の手続きを行っていた。


 書類への記入。


 魔法石への音声入力と照合、などなど。


 そして、


「はい、手続き完了です。イルティミナさん、マール君、2人ともお疲れ様でした!」


 赤毛の獣人さんの笑顔が弾ける。


(よし)


 クエストは、これで本当の意味で終わりとなるんだ。


 この瞬間だけは、いつも肩にあった重荷を下ろしたような気分になる。


 イルティミナさんも似たような顔だ。


 と、そんな僕の視線に、彼女も気づく。


「…………」

「…………」


 お互いに見つめ合い、そして笑い合った。


 そんな僕らを見て、クオリナさんもニコニコしている――と思ったら、その笑顔が「あっ」と何かを思い出したように変化した。


(ん?)


 キョトンとする僕の前で、


「そうだった」


 と両手を合わせるクオリナさん。


 僕らを見て、


「イルティミナさん、マール君。実は今回のクエストから帰ったら、すぐにギルド長室に来て欲しいって、ムンパ様から伝言があったの」


 ムンパさんが……?


(なんだろう?)


 僕とイルティミナさんは、またも顔を見合わせる。


 それからクオリナさんに了承の返事をすると、僕ら2人は帰還したその足で、すぐにギルド長室へと向かったんだ。

ご覧いただき、ありがとうございました。


次回は、久しぶりにあの『銀髪のお姉さん』が登場します♪ もしよかったら、皆さん、どうかまた読んでやって下さいね~。



※次回更新は、明後日の金曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ 初心貫徹でマールを守護するイルティミナ。 悪い事ではないのですが、それでも過保護ですよね(苦笑) [一言] ムンパからの呼び出し? アレですか。 風紀の乱れ…
[良い点] 純粋にタイトル通りの2人の関係性が見られて嬉しいです。というかマールも強くなってるのに初期の頃のような過保護を全面に押し出されると尊いよりもちょっと怖いですよね。最高ですね。 [気になる点…
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