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460・新時代への芽吹き

第460話になります。

よろしくお願いします。

「――おめでとう、マール君、ソルティスちゃん。2人は今日から『銀印の冒険者』よ」


 ムンパさんが、そう微笑んだ。


(……はい?)


 僕とソルティスは、目が点である。


 イルティミナさんに連れられて、冒険者ギルドのギルド長室を訪れた僕らは、真っ白な獣人さんから突然、そう告げられたんだ。


 え、どういうこと?


 困惑する僕とソルティスは、答えを求めてイルティミナさんを見る。


 イルティミナさんは微笑み、


「今回のクエストは、実は『金印』だけの選定ではなかったのですよ」


 と言った。


 それから、ムンパさんに説明された内容はこうだ。


 僕とソルティスは、現在、『白印の冒険者』だ。


 でも、最近の僕たちは、クエスト達成率やその内容などからも、かなり実力をつけてきたと判断されていて、『銀印』への昇格が検討されていたそうなんだ。


 昇格するためには、ギルドが独自に制定した『昇格クエスト』をクリアしなければいけない。


 そんな中、死毒竜ゲシュタルの討伐、あるいは撃退、そして『金印』の選定となるクエストが発生し、それに僕とソルティスも参加することになった。


 そこでムンパさんは思ったそうだ。


 このクエストの成果によって、2人を『銀印』するかを決めてしまおう、と。


 つまり、


「今回のクエストが、2人の『昇格クエスト』でもあったの」


 ムンパさんはニッコリだ。


 自分たちの知らないところで、そんなことが仕組まれていた僕とソルティスは、もう唖然とするしかなかった。


 お互いの顔を見る。


 ……何とも言えない顔だ。


 僕は、自分の奥さんに確認した。


「それじゃ、イルティミナさんは、リカンドラさんとレイさんだけじゃなくて、僕らのこともチェックしていたの?」

「はい」


 彼女は頷いた。


 ……なんてことだ。


 今回のクエストで、イルティミナさんは合計4人の実力判定をしながら、死毒竜ゲシュタルの討伐もしてたのか。


(全然、気づかなかったよ)


 そんな何でもできるお姉さんは、穏やかに微笑んだ。


「そして、貴方とソルティスは合格しました」

「…………」

「…………」

「クエスト中も充分に実力を発揮し、これまでの『金印の冒険者』が成せなかった死毒竜の討伐もしてしまいました。またマールの『究極神体モード』、ソルティスの『神術』、どちらも優れた能力です。――2人の『銀印』昇格に、文句のつけようもありません」


 ……なんだか大絶賛だ。


(本当に合格なの?)


 自分が『銀印』になるなんて、正直、信じられない。


 だって、3年前、僕が初めて出会った時のイルティミナさんと同じ立場になるんだよ?


 実感なんて、まるで沸かなかった。


 ソルティスも困惑した顔をしていた。


 そして彼女は、今まで黙っていた隣に座っている金髪の幼女を見て、


「ポーは?」


 と聞いた。


「ポーの実力は、私やマール以上だわ。それなら、ポーだって『銀印』になっていいんじゃないの?」


 確かに。


 さっきからの話だと、『銀印』になるのは僕とソルティスだけみたいだった。


 でも、単純な戦闘力を比較したら、『神狗』である僕より『神龍』であるポーちゃんの方が強いんだ。


 たまたま、僕には『神武具』があるけど。


 だけど、それだけの違いで、ポーちゃんにだって『銀印』に充分な実力が備わっていた。


 僕も、ムンパさんを見つめる。


「そうね、ポーちゃんのことも、最初は検討されていたの。だけど、ポーちゃんは未成年でしょ?」


(……あ)


 僕はハッとした。


 本来、『金印』は例外であって、『銀印』の称号は、冒険者ギルドのトップと同義なんだ。


 ポーちゃんは、まだ13歳。


 成人まで、2年もある。


「そんな未成年に重い責任を負わせるのは、さすがにギルドとしても容認できないと判断したの。それで今回は見送りさせてもらったわ」


 15歳になったら。


 その時に改めて、昇格を検討したい――そうムンパさんは考えを教えてくれた。


 なるほど。


 その考えには、僕だけでなく、ソルティスも納得したみたいだ。


「そういうことなら、わかったわ」

「…………」


 ポーちゃんの手を握りながら、ソルティスは頷いた。


 でも、当のポーちゃん自身は、あまり興味がないのか、無表情に隣の少女の横顔を見つめていた。


(……うん)


 コロンチュードさんも、あまりそういう立場に興味なさそうだもんね。


 あの義母ははにして、この義娘あり、かな?


 僕は、小さく苦笑してしまった。


 そんな僕の頭を、イルティミナさんの手が優しく撫でた。


「これで貴方も『銀印の魔狩人』ですね、マール」

「……うん」


 僕は頷いた。


 実感はないけど、そうして評価されたことは素直に嬉しかった。


(責任は重いけど……)


 でも、これまでと同じようにやっていけば、きっと大丈夫だろう。


 キルトさんやイルティミナさんの背中を追いかける。


 彼女たちの歩んだ道を、今度は僕が、自分の足で歩いていくんだ。


(よし!)


 ギュッ


 その責任を受け入れ、僕は両拳を握り締めた。


「どこまでできるかわからないけれど、僕なりに一生懸命がんばってみるよ」


 そう笑った。


 イルティミナさんとムンパさんは、どこか眩しそうに目を細めていた。


 ソルティスは嘆息し、


「マールは単純ね」


 と苦笑する。


 それから、


「いいわ。マールに先を越されるなんて、嫌だもの。私も『銀印』の称号を受けさせてもらうわ」


 そう力強く言った。


(うん)


 負けないよ、ソルティス。


 僕らは互いの顔を見つめて、笑顔を交わした。


 ムンパさんが純白の長い髪を、軽く手でかきあげながら、「ふふっ」と微笑みをこぼした。


「キルトちゃんがいなくなってしまったけれど、新しく力強い風たちは、またいつでも生まれてくるものなのね……」


 嬉しそうな、切なそうな声。


 そんなギルド長の言葉に、イルティミナさんも頷いていた。


 晩夏のとある日、そうしてマールとソルティス・ウォンは、冒険者ギルド・月光の風の新しい『銀印の魔狩人』となったんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 僕らが『銀印』となってから、1ヶ月が経った。


 1ヶ月前には、ギルド内で冒険者や職員が集められて、僕とソルティスの2人は、ムンパさん直々に紹介され、『銀印の魔狩人』となったことが発表されたりした。


(うひぃ……)


 小心な僕と人見知りなソルティスにとっては、地獄みたいな時間。


 でも、みんな祝福してくれた。


 拍手を送ってくれた。


 アスベルさんには「ずいぶんと差をつけられてしまったな」と苦笑され、でも、「必ず追いついてみせるぞ」と力強く宣言された。


 リュタさん、ガリオンさんにも祝福の言葉をもらった。


 僕の冒険者登録を担当してくれたギルド職員クオリナさんは、なんと泣いてしまった。


「うぅ、よかったよぅ」


 これには、僕も困ってしまった。


 でも、『銀印』になるというのはそれだけ凄いことで、一般的な冒険者の最終到達点として目指される立場なんだそうだ。


 僕は昔から、そばにキルトさん、イルティミナさんがいたから実感が少なかったけど……。


 だけど、それだけ重大なことなんだ。 


(うん、しっかりがんばろう)


 改めて、その決意をしたよ。


 そうして僕らの冒険者ギルドでは、そんな出来事があったけれど、世間ではもっと大きな出来事が話題となっていた。


 そう、リカンドラさんの『金印』就任だ。


 その一報は、新聞などによって王国中に広がり、各国にも公表された。


 王都でも、その話題で持ちきりだ。


 特に就任するのが、かつて王国を救って亡くなった金印の魔狩人エルドラド・ローグの実の弟だということも、人々にとっての注目を集める理由となった。


 そして今日、その就任式が大聖堂にて行われた。


 式典には、多くの観客が集まった。


 もしかしたら、イルティミナさんの就任式よりも人が集まったかもしれない。入場整理券を手に入れるのは、かなりの倍率で、高額だったそうだ。


(きっと、キルトさんがいなくなった反動かな?)


 およそ13年間、『金印』を務めた鬼姫キルト・アマンデス。


 彼女が引退したことは、王国の人々にとって潜在的な不安を覚えさせる出来事だったんだ。


 それを払拭するため。


 キルトさんの代わりとなる『金印の冒険者』には、大きな期待がかかったのかもしれない。


(…………)


 リカンドラさん、大丈夫かな?


 そんな重圧、僕にはとても耐えられそうにないもの……。 


 ちなみに式典では、現役の『金印』としてイルティミナさんも挨拶をすることになっていた。


 なので、彼女の身内として、僕、ソルティス、ポーちゃんは式典の関係者席に座らせてもらっている。


 ドキドキ


 式典が始まってからも、僕の鼓動は高鳴りっぱなしだ。


 レクリア王女や国王様も挨拶をしたりする中、イルティミナさんの出番となった。


(がんばれ~!)


 心の中で自分の奥さんに、精一杯の声援を送る。


 彼女はとても美しく、僕の心配をよそに落ち着いた様子で、短い挨拶を完璧にこなして、僕らとは別の遠く離れた自席へと戻った。


 パチパチパチ


 僕とソルティスは、目一杯の拍手。


 ポーちゃんも、僕らの真似をして、目一杯に拍手をしてくれた。


 やがて、リカンドラ・ローグ本人の登場だ。


 登場する時、関係者席だったから見えたんだけど、入場口では、あのレイさんもいて、リカンドラさんに二言、三言、声をかけ、リカンドラさんも頷いていた。


 そして、レイさんと別れ、リカンドラさんは1人で大観衆の前へ。


 凛とした表情だ。


 同性だけど、見惚れるぐらいに格好いい。


 人々の歓声と拍手が大聖堂の中を埋め尽くし、そして、国王様から正式な『金印』の称号が与えられた。


 パチパチパチ


 僕らは、またも目一杯の拍手。


 彼の右手の甲には黄金の輝きが灯り、そして、最後に彼の挨拶となった。


 その中で、彼はこう言った。


「――今の俺は、兄エルドラドの足元にも及ばない。だが、いつか必ず追いつき、追い越して、この国の人々を守るため、今は亡き兄の分も『金印』の力を使うと誓おう!」


 烈火のような熱い声。


 その熱に焼かれて、人々は静寂に落ちる。


 次の瞬間、爆発するような歓声と拍手が、大聖堂の中に広がった。


 ……僕も胸が熱くなった。


 立場が人を変えたのか、それはわからない。


 けれど、より強い魔物と戦うためにと言っていたリカンドラさんの中には、今、確かに『金印の冒険者』としての覚悟と責任感が生まれているみたいだった。


(うん……)


 がんばれ、リカンドラさん!


 きっと彼は、僕が出会った時よりも、ずっとずっと強くなっていくだろう。


 そんな予感があった。


 ソルティスも少し見直した顔で、ポーちゃんはいつもの無表情で拍手を送っている。


 遠く離れた席のイルティミナさんも、しっかりと拍手を送っていた。


 頼もしい後輩。


 その出現を喜び、安心しているみたいだった。


(あ……)


 ふと、遠い彼女と目が合った。


 お互いに笑い合う。


 大歓声と拍手の渦は、しばらく止むことはなく、大聖堂の外の王都にも響いていく。


 この日、シュムリア王国には新たな『金印』の称号を得た人物が生まれ、その黄金の輝きと力強い熱は、美しい青空を昇り、どこまでも世界に広がっていくようだった。

ご覧いただき、ありがとうございました。



次回更新につきましては、少しお休みを頂きまして、9月13日月曜日を予定しております。

理由としましては、ちょうど話の区切りでもあり、来週は2回目のワクチン接種の予定もありますので、副作用にも備えたいというものです。


マールたちの物語を楽しみにしている方には、しばらくお待たせしてしまいますが、お許し下さいね。

どうぞよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ やはりマール達の昇格でしたね。 以前にマールがキルトに対して、ソルティスは銀印に昇格しないのか? 的な事を尋ねた時に、未成年者に重責は負わせられない的な事を…
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