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453・見極めの戦闘

第453話になります。

よろしくお願いします。

 赤い土埃を巻き上げて、マーダーマンティスが突進してくる。


「ははっ、雑魚が!」


 それに呼応して、リカンドラさんが笑いながら、魔物の群れへと単身で飛び込んでいった。


 ヒュン


(速い!)


 その動きは、まるで黒い流星の如くで、一瞬で巨大なカマキリの懐へと飛び込んでしまっていた。


 笑いながら、左手の『紅の短剣』を振る。


 ガシュッ


 それは岩のような外骨格を易々と斬り裂いて、その瞬間、切り口から真っ赤な炎が吹き上がった。


(魔法武具の力だ!)


 そう気づく。


 切り傷自体は浅かったのに、マーダーマンティスは、その炎に焼かれて、より大きなダメージを負っていた。


 キシャアアッ!


 それでも、負傷した魔物は怒りの叫びと共に、巨大鎌を振り下ろして反撃する。


 フッ


 リカンドラさんは、半歩横に動くだけで、それを回避した。


 見事な見切りだ。


 あのキルトさんみたいな素晴らしい極限の近接距離での回避だった。


「ほう」


 イルティミナさんの口からも、思わず感心の声が漏れた。


 リカンドラさんの動きは、それだけでは終わらない。


 回避した動きそのままにクルッと回転しながら、今度は右手の『白の短剣』で、マーダーマンティスの脚部の関節を浅く斬った。


 ヒュオッ ガキィイン


 途端、今度は、その切り口を中心にその関節が真っ白な氷に包まれ、硬く凍りついた。


 関節が固定され、魔物の動きが鈍くなる。


 その隙をついて、今度は左手の『紅の短剣』が再び振るわれて、魔物胴体を斬り裂き、真っ赤な炎を噴き上げさせる。


 ボバァアン


 魔物が仰け反る。


 その隙をついて、また右手の『白の短剣』が脚部の1本を凍らせ、動きを止める。


 ガキィイン


 そして、また炎が噴き上がり、氷に凍りつき、マーダーマンティスは何もすることができずに徐々に追い込まれ、やがて10秒後には、全身を焼かれて死んでしまった。


 ……強い。


 氷で動きを鈍らせ、炎で焼き殺す。


 戦法としては単純だけれど、その動きはあまりに速すぎて、正確で、圧倒的だった。


(まさに、狩りだ)


 冷徹な攻撃で追い詰め、獲物を殺す。


 そんな狩猟だった。


 そして、リカンドラさんは、戦いの間中ずっと笑っていた。


 ……うん、根っからの戦うことが好きな人なんだね。


 それともう1つ、これは僕個人のことだけれど、初めて、本物の二刀流による戦いを目にすることができた。


 僕も二刀流を使ったことがある。


 今までは『妖精の剣』と『マールの牙』でやっていたけれど、それは我流だった。


 もっと正確に言うと、キルトさんに習った1本の剣で行う剣技を、それぞれ左右の手で独立してやっていたんだ。


 それでも充分に戦えていた。


 けれど、今、リカンドラさんの2つの短剣を使った戦い方を見て、それが実に未熟だったと思い知った。


 リカンドラさんの左右の剣は、連動していた。


 右の動きが左の動きの布石となり、その逆も成り立っていた。


 それによって、隙のない滑らかな連撃が可能になるんだ。


(なるほど、ああいう風に動くんだね)


 初めて見た高い次元で扱われる2つの剣の動きと、そのための身体操作、その連動性について、僕はしっかりと目に焼き付けさせてもらったよ。


 僕も、あの動きを真似てみよう。


 今の僕の理想は、この『大地の剣』と『妖精の剣』の二刀流による戦いなんだ。


 僕が目にしたのは、その実現への1歩となる。


(うん!)


 凄く貴重なものを見せてもらったよ。


 迫りくる次のマーダーマンティスを、2つの短剣で舞を舞うようにしながら惨殺していく彼の姿を、僕の視線は吸い寄せられるようにして、ずっと見つめていた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 リカンドラさんの戦いの一方で、レイさんの戦闘も目に入っていた。


 リカンドラさんの戦い方が『動』とするならば、レイさんの戦い方は『静』であった。


 ガンッ ゴィイン


 彼女に手にした巨大盾が、2体のマーダーマンティスの鎌による攻撃を弾いている。


 激しい火花。


 そして、鈍く大きな衝突音が鳴り響く。


 自分より体格の大きな魔物たちの集中砲火を浴びながら、けれど、レイさんは1歩も下がることなく、その全ての攻撃を防いでいた。


(……1歩も?)


 それに気づいて、僕は驚愕した。


 あの巨大なカマキリの攻撃は、生半可な威力ではない。


 それは、離れたここまで風圧が届き、外れた鎌が易々と赤い大地を削り、吹き飛ばしていることからも明白だ。


 その集中砲火。


 それがどれほどの圧力となるのかは、想像に難くない。


 なのに、1歩も下がらない。


 押されない。


 つまり、それだけの圧力に抗えるだけの筋力があるのだ――その巨大盾を構える左腕1本だけで。


(なんて膂力なのっ?)


 その攻撃を受け止めるレイさんは、冷静で涼しい顔だ。


 あの『雷の大剣』を振るうキルトさんも、竜と力比べをしたり、オーガを吹き飛ばしたり、とんでもない力を持っていた。


 でも、レイさんは、それ以上かもしれない。


 あのキルト・アマンデスを上回るほどの筋力、体力、持久力などを持ち合わせている。


(正直、信じられない……)


 でも、現実だ。


 そして、レイさんは、その攻撃を受け止めながら、なんと前に動いた。


 隙間のタイミングを計ったとかではなく、その集中砲火の衝撃を真正面から押し返しながら、前に出たのだ。


 なんて剛力!


 そうして間合いを詰めた瞬間、右手のショーテルが振り抜かれた。


 ガシュッ


 魔物の首が飛ぶ。


 ショーテルは、弧を描いた剣だ。


 その弧の部分が自身の巨大な盾を避けることによって、その向こう側の魔物を攻撃可能にしていた。


 単純明快な力押し戦法だ。


 盾で受け、近づき、剣で斬る。


 難しいものは何もなく、けれど、だからこそ実行するには、それに見合うだけの実力がなければ不可能な戦法だ。


 レイ・サルモン。


 彼女は、それができる実力者だった。


 イルティミナさんは、そんなレイさんの姿に真紅の瞳を細めて、


「大したものですね」


 と呟いた。


 剣技などの技量なら、リカンドラさんの方が上かもしれない。


 けれど、その圧倒的な身体能力から生み出される、単純だからこそ攻略も難しい戦法は、リカンドラさんに劣るとは思えない強さだった。


 …………。


 いや、もしかしたら……?


 かつて、彼女は後遺症を残すほどの状態から回復したというけれど、それは完全ではないのかもしれない。


 繊細な技術が使えない。


 つまり、剣技が使えない。


 だからこそ、単純な力技を磨き、鍛え、その極致となる領域まで辿り着いたのかもしれない。


(…………)


 その執念と意思の強さは、賞賛に値すると思った。


 意思の強さだけなら、レイさんは、もしかしたらもう『金印』クラスではないのかな……僕は、そう思いながら、彼女を見つめた。


 ガガンッ ザシュッ


 攻撃を跳ね返し、彼女は、もう1体のマーダーマンティスの首も跳ね飛ばす。


 これで、残るは1体。


 リカンドラさんとレイさん、2人は同時に、残されたマーダーマンティスへと向き直った。


 と、


「マール、とどめを」


 イルティミナさんが、そう指示した。


(え?)


 あ、うん。


 突然で驚いたけれど、僕はすぐに頷いて、手にした『大地の剣』を逆手に持ち換えると、その剣先を地面に突き刺した。


 神気を魔力代わりに、剣に注ぐ。


 魔法石が光る。


 刀身にあった3つのタナトス魔法文字、全てが輝きを放った。


 同時に、


大地の破角(アース・ホーン)


 僕は告げ、『大地の剣』の力を解き放った。


 ドゴォオン


 赤土の地面から生えた鋭い角のような柱が、『殺戮の岩蟷螂(マーダーマンティス)』の腹部を下から貫き、その外骨格を砕きながら、頭部まで破壊した。


 鮮血と肉片が散る。


 それは赤土の大地へと広がり、魔物は絶命した。


「…………」

「…………」


 リカンドラさんとレイさん、2人は驚いた顔だった。


 その視線が僕へと向く。


 そこにあったのは驚愕と感嘆、そして好奇の感情だった。


 そんな中、


「お見事です」


 イルティミナさんだけは、納得した顔で頷いた。


「リカンドラ、レイ、2人もご苦労様でした。その実力はしっかりと見させてもらいました。そして貴方たちも、自分たちの仲間の実力を理解できたでしょう?」

「あぁ」

「はい」


 不敵に笑うリカンドラさんと、生真面目に頷くレイさん。


(……そっか)


 僕らが2人の実力を知らなかったように、向こうも僕らの実力を知らなかったのだ。


 特に、僕ら3人は外見が幼い。


 悔しいけど、僕はまだ未成年と間違われるような見た目だった。


 ……チ、チビのせいじゃないぞ?


 コホン


 ま、まぁ、そんな僕らだから、イルティミナさんも『ただの子供じゃないぞ』と示しておきたかったのかもしれない。


 要は、私の仲間をなめるなよ? と警告したのだ。


(それで僕に、最後の1体のとどめを刺させたんだね)


 こういうことまで気を遣わなければいけないなんて、イルティミナさんも本当に大変だなぁ……。


 僕は、奥さんを見る。


 視線に気づいて、彼女はニコリと微笑んだ。


『よくやってくれました』


 そう褒めてくれたみたいだった。


 うん。


(少しでも役に立てたのなら嬉しいな)


 ちなみに、ソルティス、ポーちゃんは、いつも通りの僕だったので、特に驚いたりする様子もなかった。


 そんな僕らを、金印候補の2人は見つめる。


「なるほどな。なかなか、楽しそうな仲間じゃねえか?」

「…………」


 リカンドラさんは、白い犬歯を見せて笑う。


 一方のレイさんは、無言だった。


 イルティミナさんは、魔物たちの死体を見つめて、


「マーダーマンティスは、本来、もっと荒野の奥地で生息する魔物です。それが、このような場所でも現れたということは……やはり『死毒竜ゲシュタル』は南下を始めているようですね」


 と呟いた。


 えっと……。


(それってつまり、死毒竜ゲシュタルを恐れて、魔物たちがこっちに逃げてきたってこと?)


「その通りです」


 イルティミナさんは頷いた。


 うわぁ……。


 他の魔物の生態系にまで影響を与えるなんて、よっぽどのことだ。


 死毒竜ゲシュタル。


 本当に、危険な魔物なんだね。


 その事実を再認識だ。


 イルティミナさんは僕らを見回して、


「本日は、ここで野営を行います。ゲシュタルと戦うまでは、皆、しっかりと体力を温存しておいてくださいね」

「うん」

「わかってるわ」

「…………(コクッ)」

「あいよ」

「はい」


 僕らは、それぞれに頷いた。


 そしてその日は、マーダーマンティスたちの死体から少し離れた場所で野営を行い、休息を取ったんだ。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、明後日の水曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 501話の内容じゃないですが、金印候補とも言われる冒険者が闇の子との闘いに参加してない(マールと面識がない)理由をどうするのかなと思っていたので、すごくしっくりくる理由付けになってたのがと…
[良い点] 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ リカンドラの戦い方は妥当かと思いましたが、レイの戦い方は予想外でした。 体にハンデを抱える人の戦い方としては破格の強さですね。 血の滲むような努力の賜なので…
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