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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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50/825

050・解散、そして

第50話になります。

よろしくお願いします。

 ギルド長の部屋から、2階に戻ると、外はもう真っ暗だった。


 紅の月の位置から、多分、19時ぐらいかな?

 ムンパさんと1時間近く、話していた計算になる。


「遅くなってしまったの」

「うん」


 イルティミナさん、ちょっと待たせちゃったな。

 申し訳ない気持ちを抱えながら、僕は、キルトさんより先にレストランへと入っていく。

 

(まだ、テラス席にいるかな?)


 ガラス扉を開けて、テラスに出る。


 そこに、彼女たちはいた。

 僕がいなくなった時と同じ席に、あの美しい姉妹は座っていた。


 でも、僕が座っていた席には、知らない男の人が座っている。


(…………。誰?)


 思わず、立ち止まってしまった。


 まだ若い、15、16歳ぐらいの少年だ。

 青い髪に、茶色の瞳をして、顔立ちも整っている。

 年齢の割に、背も高い。


 動き易そうな金属鎧に、背中に長剣を装備しているので、冒険者だと思う。


 ……2人の知り合いかな?


 その少年は、彼女たちと親しそうに話している。


「イルナさんも今日、帰ってきてたんですね。俺たちも、さっき王都に着いたんですよ」

「偶然ですね、アスベル」

「アスベルたち、何の依頼だったの?」

「ガザン遺跡の探索だよ。――だけど今回は、ガーゴイルが多くて大変でした。俺、30体は壊しましたよ?」

「そんなにですか?」

「うへ~、そりゃ大変そう」


 ……なんか会話も弾んで、楽しそうだ。


(どうしよう?)


 ちょっと声をかけ辛い。


「どうした、マール? 早う行け」

「わ?」


 テラスの出入り口で止まった僕の背中を、キルトさんがポンッと押す。

 つんのめった僕に、3人は気づいた。


「マール!」


 イルティミナさんは、パッと花が咲くように表情を輝かせ、椅子から立ち上がる。

 アスベルさんは、「え?」と驚いたように、走りだした彼女を見る。


 ソルティスが頬杖をつきながら、僕らに笑う。


「遅かったじゃない。おかえり、キルト、マール」

「うむ」

「た、ただいま」


 答える僕の前に、イルティミナさんは膝をつき、その綺麗な白い手で頬に触れてくる。 


「おかえりなさい、マール」

「……うん。ただいま、イルティミナさん」


 その手の温もりで、強張っていた心が緩んでいく。


(イルティミナさんの手って、あったかいな……)


 なんだか安心してしまう。

 僕は、目を閉じて、大きく息を吐いた。

 

 でも、それを見たイルティミナさんは、ちょっと勘違いをしたようだ。


「どうしました、マール? もしかして、ムンパ様に、何か言われたのですか?」

「あ、ううん」


 僕は、慌てて首を振った。


「大丈夫。ちょっとお話しただけ。優しい人だったよ」

「そうですか」


 イルティミナさんは、安心したように頷いた。

 それから、労わるように僕の髪を、優しく撫でてくれる。


 えへへ、ちょっと気持ちいい。


 そんな僕らに、キルトさんとソルティスは、苦笑している。

 そして、アスベルさんが、少し慌てたように質問してきた。


「イ、イルナさん? その子供はなんですか?」

「マールです」

「……マール?」


 彼は、怪訝そうに僕を見る。

 僕も、彼を見る。


 目が合った。


(…………)


 互いの目の奥に、共通の感情を見つけた。


 ――あぁ、この人も、イルティミナさんのことが好きなんだね?


 そうわかった。

 きっと彼も、僕の感情に気づいたと思う。


 あんまりな説明だったので、キルトさんが、苦笑しながら補足する。


「このマールは、今回のクエストで、イルナの命を救った恩人での」

「……イルナさんの命を?」

「うむ。しかし、身寄りがないゆえ、こうして連れてきたのじゃ」

「そうでしたか」


 彼は、頷いた。


「なら、俺の知り合いの孤児院に連絡しますよ。すぐに引き取ってもらえると思います」

「いえ、結構です」


 イルティミナさん、僕を抱きしめながら、速攻で断った。


(ぐえ……っ)


 ち、ちょっと苦しい。

 アスベルさんは、驚いた顔だ。


 姉の姿に、妹のソルティスが肩を竦める。


「なんかさ~。イルナ姉ったら、このマールのこと、お気に入りなのよ」

「お気に入り……」


 彼は呟き、うつむく。

 それから顔を上げ、僕を見る目は、強い敵意の光が灯っていた。


「――でも、コイツ、『血なし者』ですよね?」


 空気がキンッと凍った。


(……血なし者?)


 もしかして、『魔血の民』じゃない……ってことかな?

 彼の声には、刺すような嫌悪がある。


 イルティミナさんが、僕を守るように抱いたまま、静かな怒りを込めて、口を開いた。


「それが何か?」

「……あ」


 アスベルさんは、ハッとする。

 キルトさんが苦笑し、理解ある瞳で彼を見た。


「マールは、マールじゃ。それ以上でも、以下でもない。同じように差別を受けてきた『魔血の民』ならば、そなたもわかるであろ、アスベル?」

「…………」


 彼は、悔しそうに唇を噛みしめる。

 やがて、大きく息を吐いた。


「すみません……少し、頭を冷やしてきます」


 そう言って、その場を去ろうとする。

 横を通る時、彼は僕を見た。


「悪かったな」

「…………。ううん」


 そして、彼はテラスから出ていった。


(……悪い人じゃないよね?) 


 そう思った。

 イルティミナさんが、申し訳なさそうに謝る。


「ごめんなさい、嫌な思いをさせましたね」

「ううん、大丈夫」


 僕は首を振る。


「アスベルさんだっけ? 今度、ゆっくり話してみたいな、僕」


 彼の消えた方を見ながら、正直に言う。

 3人は驚いた顔をした。


「マールは、凄いですね」

「お人好し」

「ふむ。そなたは、わらわたちが思ったよりも、ずっと強い子じゃの?」


 そう言って、3人とも嬉しそうに笑った。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 そうして僕ら4人は、改めて、テラスの椅子に座り直す。


(ん……いい風だ)


 夜の湖を渡ってきた風は、冷たくて気持ちいい。


 それに誘われるように、視線をあげる。


 テラスから見える王都ムーリアの夜景は、とても綺麗だった。家々の灯りが、どこまでも広がって、夜空の星々も霞んでいる。

 特に、神聖シュムリア王城は、ライトアップもされて、まさに巨大な光の城だった。 


(異世界なんだなぁ……ここ)


 ちょっと感慨深かった。


 1人だけ食事をしていなかったキルトさんは、店員に注文をしてから、僕らを見る。


「さて、皆、ご苦労じゃったな。無事、報告も終わった。今回のクエストも、これで終了じゃ」

「はい」

「そうね」


 そっか。

 赤牙竜ガドの討伐は、これで、本当の意味で終わったんだ。


 キルトさんは、赤いカードみたいな物を、2人に渡す。

 なんだろう?

 覗き込む僕に気づいて、イルティミナさんが優しく笑って、教えてくれる。


「これは、報酬の引換券です。窓口で渡せば、登録されたリド硬貨をもらえるのですよ」

「へ~?」


 クエスト報酬って、こういう感じなんだ。


 キルトさんが笑いながら、隣にいる紫髪の少女を指差して、


「前に、コイツは引換券をなくしての。あの時は、大変じゃったの」

「だぁ~っ! んなの、昔の話でしょ~がっ!!」


 ソルティス、真っ赤だ。

 年上の2人は、楽しそうに笑っている。


(あはは……小さいカードだもんね。やっぱり、なくすこともあるんだ?)


 僕もつい笑って、ソルティスに睨まれる。

 おっとっと。


 慌てて、笑いを引っ込める。

 そして、僕は気になったことを、聞いた。


「それで、このあと、みんな、どうするの?」

「ふむ。とりあえず、パーティーは一時解散じゃな」

「解散?」


 キルトさんは、「うむ」と頷く。


「今回のクエストは、予想外に時間がかかったからの。それぞれに7日ほど休暇を取り、8日目にギルドに集合じゃな」

「ふぅん」

「そなたらも、それで良いかの?」

「はい。問題ありません」

「いいわよ」


 姉妹は、自分たちのパーティーリーダーに頷いた。 


(8日後か……)


 その間、僕は、どうしようかな?

 やりたいことは、幾つかあるんだけど……。


 と、キルトさんがこちらを見る。


「さて、わらわたちはそれで良いとして、マール、そなたはどうする?」

「ん?」

「そなたの望む王都まで、こうして辿り着いた。今後は、どうするつもりじゃ?」


 僕は少し考えて、答えた。


「とりあえず、ムンパさんに頼んだことの報告待ちかな」

「ふむ?」

「他にも、考えてることは、幾つかあるんだ。報告を待ちながら、まずは、それをがんばってみるよ」

「そうか」


 キルトさんは、大きく頷いた。


「ならば、しばらくギルドの宿に泊まれるよう、ムンパに頼んでおこう」

「本当?」


 それは助かる。

 実は、久しぶりの葉っぱ布団も考えてたんだ。


 でも、イルティミナさんが首を振った。


「いえ、その必要はありません」

「え?」

「マール、私は約束したでしょう? 貴方を決して1人にはしないと」


 それは、熱い視線だった。

 僕とキルトさんは驚き、ソルティスは、数秒の間を置いて青ざめる。


「ちょ……イルナ姉、まさか?」


 妹を無視して、イルティミナさんの白い両手は、僕の両手を包み込むようにしっかりと握る。

 その美貌を近づけて、


「これからマールには、私の自宅で、一緒に暮らしてもらいます」


 きっぱりと言った。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、明後日の水曜日0時以降になります。よろしくお願いします。

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