449・まさかの大役
第449話になります。
よろしくお願いします。
ソルティスも大量のデザートを胃袋に収めて、僕らの食事会も、そろそろ終わろうとしていた。
(ん?)
そんな僕らのテーブルへと1人のギルド職員のお姉さんが近づいてきた。
気づいて、僕らの視線が集まる。
スッ
職員のお姉さんは、丁寧に頭を下げて、
「失礼します。ギルド長ムンパ・ヴィーナが、イルティミナ様たちとの面会を求めています。申し訳ありませんが、ギルド長室までご足労願えますでしょうか?」
突然、そんなことを言われてしまった。
(ムンパさんが?)
驚く僕ら4人。
とはいえ、断るわけにもいかないので、イルティミナさんは「わかりました。すぐに参ります」と頷いた。
僕は、職員のお姉さんに確認した。
「たちってことは、僕ら全員、行った方がいいですか?」
「はい」
職員のお姉さんは頷く。
(そっか)
僕とソルティスは、顔を見合わせる。
「何かしら?」
ソルティスは、少し顔をしかめている。
僕は苦笑して、
「わからないけど、僕ら全員が揃うタイミングで呼ばれたみたいだね」
「…………」
「とりあえず、行ってみようよ?」
「……そうね」
彼女は、ため息をこぼす。
それから腰の重そうな少女が立ち上がるのを、ポ-ちゃんが手伝って、
「それでは参りましょう」
「うん」
「へ~い」
「…………(コクン)」
イルティミナさんの言葉を合図に、僕らは冒険者ギルドの食堂をあとにした。
◇◇◇◇◇◇◇
「――急に呼びだして、ごめんなさいね」
植物の茂った独特なギルド長室で、真っ白な美しい獣人さんが僕らを出迎えてくれた。
ギルド長のムンパさんだ。
イルティミナさんは「いえ」と答え、僕ら4人は促されて、応接用のソファーに腰を下ろした。
目の前のテーブルには、紅茶のカップが並んでいる。
ムンパさんは、それを一口すする。
それから、カップをソーサーに戻して、
「実はね、みんなを呼んだのは、1つお願いがあったからなの」
と微笑んだ。
(お願い?)
僕は首をかしげる。
ムンパさんは、イルティミナさんの美貌を見つめる。
そして、
「キルトちゃんが引退して3ヶ月、シュムリア王国は、次の『金印』の称号を与える冒険者を選定することにしました」
(!)
僕らの表情に驚きが走った。
新しい『金印』の選定。
シュムリア王国では昔から『金印の冒険者』は3人となっていて、現在は、キルトさんが引退して欠員が1名出ている。今回の話は、その新しい1名を選ぶということだ。
ムンパさんは言う。
「それでね。キルトちゃんが引退することを事前に伝えていてくれたおかげで、現在、候補はすでに2人までに絞られているの」
そうなんだ?
でも話はわかったけど、彼女の言う『お願い』とは何なんだろう?
疑問に思っていると、
「イルティミナちゃん」
ムンパさんの紅い瞳が、ジッと彼女を見つめた。
そして、
「最後の1人となる新しい『金印』は、イルティミナちゃん自身の目で確かめて、その上で貴方に選んで欲しいの」
と告げたんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
「私がですか?」
イルティミナさんは驚いた顔だ。
ムンパさんは「そう」と頷く。
「代々の『金印の冒険者』は、他2名の『金印の冒険者』に認められて、初めて称号を得られるの。イルティミナちゃんの時も、キルトちゃんとコロンちゃんが認めたから『金印の冒険者』になれたのよ」
「…………」
「だから、今度は、イルティミナちゃんが選ぶ番」
ムンパさんは穏やかな、でも、芯の通った声でそう伝える。
イルティミナさんは無言だった。
僕は、ふと思った。
「あの、それじゃあ、今回はコロンチュードさんも一緒に選ぶんですか?」
そう訊ねる。
ムンパさんは少し困ったように笑った。
「ううん」
え?
「コロンちゃんにも話は伝えられてるんだけどね、彼女は『面倒臭い』って」
「…………」
「…………」
「…………」
コ、コロンチュードさ~ん!?
「義母がすまない」
ポーちゃんが、どこか遠い目で謝罪する。
あはは……。
僕は、どんな顔をしていいのか、わからなかった。
ムンパさんも苦笑しながら、
「でもね、コロンちゃんは自分の『代理人』として、ポーちゃんを推薦してきたわ。だから、イルティミナちゃんの選定にポーちゃんもご一緒して欲しいの」
と付け加える。
僕らの視線は、自然と金髪幼女へと集まる。
ポーちゃんは、目を瞬いていた。
それから、
「義娘として、了承した」
と淡々と頷く。
……なんていうか、本来、コロンチュードさんの方が保護者の立場なんだけど、実質は、ポーちゃんがコロンチュードさんの面倒を見ているような……?
ソルティスも「……ポー」と、幼女を心配そうに見ている。
僕も、イルティミナさんを見た。
彼女は、少しだけ考えている様子だった。
それから、
「わかりました。私なりの判断で良いのなら、この目で、その2人の実力を確かめさせてもらいます」
と頷いた。
(……イルティミナさん)
彼女も心を決めたようだ。
と思ったら、そんなイルティミナさんの白い手が、ポフッと僕の頭の上に乗せられた。
(え?)
「ただし、マールも同行させてください」
「え?」
僕は心の中と実際の声を漏らして、唖然だ。
「この子の『人を見る目』は、私よりもずっと優れています。その意見も参考にさせてください」
「わかったわ」
ムンパさんは笑顔で、即、了解した。
まるで『そう言うとわかっていた』という感じだった。
…………。
もしかして、だから僕らまで呼んだのかな?
そうなると、ソルティス1人だけが仲間外れになるわけにもいかない。何より彼女は、ポーちゃんの相棒だ。
(これは、きっとソルティスも同行することになるんだね……)
うん、全て計算づくだ。
ムンパさんの笑顔から、それを悟った。
隣のソルティスも、それがわかったみたいで『……嘘でしょ?』という表情で、突然の大役に顔色を青くしていた。
シュムリア王国を代表する『金印』の選定。
本当に、責任重大だ。
僕もなんだか、頭から血の気が引いていくような感覚だよ。
「それじゃあ、4人ともよろしくね」
ムンパさんは、ニコリと笑顔だ。
イルティミナさんとポーちゃんはしっかりと、僕とソルティスは茫然と頷いた。
それからムンパさんは、
「明日、王城にてレクリア王女の立会いの下、その候補者2名と会うことになっているわ。詳しい話もそこでしてもらえるからね」
と付け加える。
はい、王家も関わってきました。
(……あぁ、胃が痛いよぅ)
それだけの重大ごとだとわかっていても、僕は夢を見ているような感じで、ギルド長室の綺麗な天井を見上げてしまうのだった。
ご覧いただき、ありがとうございました。
※次回更新は、3日後の月曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。