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444・番外編・クオリナの休日09

第444話になります。

よろしくお願いします。

 今夜、ゴブリンの大群による襲撃があるかもしれない――その可能性を村長に伝えて、村人には各家に避難してもらった。


『鍵と閂をかけ、一晩中、家から出てはいけない』


 そう村人全員に厳命する。


 村人たちは顔色を青くしていたけれど、私たちの真剣な訴えに気圧され、すぐに応じてくれた。


「だ、大丈夫なのか、マール?」


 タオリット君が家の前で、茶色い髪の少年に問いかけている。


 マール君は笑った。


「うん。心配ないから、タオリットは家でジッとしていて」

「……わかった」


 タオリット君は頷いた。


 ギュッと握った拳を前に突き出して、


「信じてるからな、マール」

「うん」


 コツッ


 マール君は驚いた顔をしたあと、すぐに笑って、自分の拳をタオリット君のそれと軽くぶつけた。


 2人は見つめ合う。


 そして、マール君は自らの手で扉を閉めた。


 パタン


 数秒間、マール君は目を閉じる。


 そしてまぶたを開けて、


「よし、行こう」


 扉に背を向けると、私に声をかけて歩きだした。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 夕闇が迫る中、村の周囲に松明を設置して、光源を確保する。


 火の粉が、赤い空に昇っていく。


 私とマール君は、ゴブリンたちの接近をすぐに発見できるように、村で一番大きな村長の家の屋根の上で待機をしていた。


 吹く風が冷たい。


 その冷たさが、もうすぐ夜が来ることを伝えていた。


 私とマール君は、屋根の大棟に並んで座っている。


「マール君」


 私は、彼に話しかけた。


「ゴブリンたちとどう戦うか、作戦はあるの?」

「うん」


 彼は頷いた。


「多分、正面からじゃ勝てない。だから、奇襲を仕掛けるつもり」


 奇襲?


 私の視線に、マール君は夕暮れの空を見上げて、


「前にキルトさんたちとテテト連合国に行った時、ジャイアントアントの群れと戦ったことがあるんだ。その時は、奇襲で女王アリを倒したんだ」

「それって……」

「うん。今回も、初手でゴブリンキングを倒すつもり」


 彼は、はっきりと言い切った。


(なるほど)


 悪い作戦じゃない。


 というか、2人しかいない私たちには、それしか方法がないんだと思う。


 だけど、


「その具体的な方法は?」


 それが一番、肝心だ。


 マール君は困ったように笑って、


「まだ内緒」


 と言った。


 ……マール君?


 ここまで来て、仲間の私にも隠すっていうのは、どういうことなのかな?


 軽く彼を睨む。


 マール君は、


「それは、僕にとっての奥の手なんだ。でも、クオリナさんだから、その方法を見せるんだよ?」

「…………」

「だから、クオリナさんも僕を信じて」


 その綺麗な青い瞳で、私のことを見つめてくる。


 …………。


 もう、しょうがないなぁ。


(……そんな目で見られたら、文句も言えなくなるよ)


 私は苦笑する。


「わかった、マール君を信じる」

「クオリナさん」


 嬉しそうなマール君。


 でも、私は続けた。


「だけど、1つだけ忠告させて。ゴブリンキングを狙うなら、必ず倒して」


 そう強い口調で。


 ゴブリンキングは、とても賢い魔物なんだ。


 だから、自分たちが不利なことを理解すると、即、逃げようとする。


 そして、もしもゴブリンの群れが全滅したとしても、生き残ったゴブリンキングは、再び短時間で新しい群れを形成して、また人の村を襲うのだ。


 つまり、もしゴブリンキングを逃したら、この『難民村』と同じような被害に遭う別の村が生まれることになる。


 もしくは、私たちが去ったあとのこの村が報復される。


「…………」


 私の説明を、マール君は神妙に聞いていた。


 そして、


「わかった、必ず倒すよ」


 そう約束してくれた。


 うん。


 その決意の表情を見つめて、私も大きく頷いた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 陽が沈み、世界に闇が広がった。


 空に輝くはずの紅白の月は、けれど今夜は、分厚い雲に隠されて、周囲は暗闇に覆われてしまっていた。


(……嫌な天気)


 襲撃にはもってこいの暗さだよ。


 その暗闇の中、村の中にある松明の炎だけが、周囲を照らす唯一の光となっていた。


 隣のマール君を見る。


 炎に赤く照らされる横顔は、落ち着いた表情だった。


「……ん」


 その顔が、不意に持ち上げられた。


(?)


 鼻がヒクヒクと動いている。


 そして、


「来た」


 彼はそう言いながら、南東に広がる森の方を向いた。


 え?


 私も視線を向けるけれど、何も見えない。


 獣人だから、普通の人間よりも夜目が利くはずなのに、その私の目でも何も見つからなかった。


 だけど、マール君は確信があるみたいだ。


 シャン


 彼は『大地の剣』を抜くと、腕輪の魔法石を輝かせながら、剣先で空中にタナトス魔法文字を描く。


「闇を払え、光の鳥たちよ。――ライトゥム・ヴァードゥ!」


 ピィイン


 魔法文字から、光り輝く魔法の鳥たちが5羽、飛び出した。


(う、眩しい)


 思わず瞳を細める私の前で、その『光鳥』たちは小さな羽根を羽ばたかせ、南東の森へと飛翔する。  


 光が空を渡る。


 そして、森へと到達した。


(!)


 そこに、無数のゴブリンたちの姿があった。


 50体……100体……いや、もっとだ。


 木立の陰に隠れながら、村へと近づいていたその小型の魔物の群れは、魔法の光を反射して、その眼球をギラギラと輝かせていた。


(これは……まずいね)


 改めて見て、その群れの多さに息を呑む。


 木々を揺らしながら、ゴブリンたちが森からゾロゾロと出てくる。


 まるで、闇そのものが村に迫っているみたいだった。 


(あ)


 そんな群れの中央に、玉座のような神輿に座っている巨大なゴブリンがいた。


 体長は2メード半。


 そばには、ホブゴブリンとゴブリンシャーマンという上位種も控えている。


(あれだ!)


 間違いない、あれがゴブリンキングだ。


 節くれだった巨大な手が持ち上げられる――その指には、指輪が嵌められていて、そこに填まっている魔法石がピカッと光った。


 シュオン バシュッ


 そこから放たれた真空波が、『光鳥』の1羽を斬り裂き、消滅させた。


 魔法だ。


 そして、その周辺が再び闇に染まる。


 恐らく、ゴブリンキングは、自分の居場所を知られるのを嫌ったのだ。


 でも、


「――見つけたぞ」


 それは1歩、遅かった。


 マール君の嬉しそうな、そして、恐ろしい声が夜の闇の中に低く響いた。


 私は、彼を見る。


 彼は、片手に『大地の剣』を下げたまま、ゴブリンキングのいた場所を見つめていた。


「どうするの?」


 私は問う。


 マール君は、小さく笑った。


「クオリナさん。これから見せることは、どうか他の人には内緒にしてね」

「?」


 私は首をかしげた。


 途端、マール君の周囲で、虹色に輝く光の粒子がパアア……ッと、たくさん生まれた。


(え?)


 それは、彼を中心に渦を巻く。


 そして、その小さな背中に、虹色に輝く金属製の巨大な翼を形作った。


(…………)


 何、それ?


 私は呆けてしまった。


 2つの美しい翼。


 その虹色の煌めきは、とても神々しくて、視線が吸い寄せられてしまう。


 そんな私に、マール君は人差し指を口元に当てる仕草をする。


 それから、


「じゃあ、行ってきます」


 そう告げると、巨大な翼が広がり、光を強くしながら彼の身体が空中へと舞い上がった。


 ……私は、言葉もない。


 次の瞬間、


 バフンッ


 美しい金属翼が羽ばたく。


 同時に、マール君の姿は、美しい虹色の輝きを残しながら、夜空に飛び立っていってしまったんだ。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、明後日の水曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 久しぶりにマールのいにしえのチート(?)能力、おそらくこの世界に転生して最初に得た能力であろう、超嗅覚が出てきて嬉しいです。 しかも能力の新旧コラボ。後日談からこっちオーバーパワーすぎるし…
[良い点] 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ 野菜泥棒を倒したら、野菜泥棒の親玉が出張って来た! 落とし前をつけに来る辺りは律儀ですね(笑) [一言] マールの気持ちは解るけれど、どうせ見せる事は変わら…
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