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443・番外編・クオリナの休日08

第443話になります。

よろしくお願いします。

「あそこだ!」


 マール君の小さな指が、前方を示す。


 指の先では、村の柵が壊され、畑の野菜を集めて荒らしているゴブリンたちがいた。


 数は10体ぐらい。


 ゴブリンたちは、私とマール君に気づいても、逃げることはなかった。


 今までは、自分たちと遭遇した村人たちの方が逃げていたから、私たちも同じだと思ったのかもしれない。


 私とマール君は、近づいていく。


(ん?)


 そこで気づいた。


 ゴブリンの1体が、手に捻じれた木のような杖を持っている。


 あれは……っ!


 私の中の警戒心が、強く警鐘を鳴らしている。


「マール君、気をつけて。あれ、ゴブリンシャーマンだよ」

「え?」

「あの杖のゴブリンは、魔法を使うの」


 私の言葉に、マール君は驚いた顔をした。


 すぐに表情を戻して、


「わかった」


 と頷く。


 そして、マール君の右手は、鞘から『大地の剣』と呼ばれるタナトス魔法武具の片手剣を引き抜いた。


 シュラン


 美しい刃が陽光に煌めく。


『ゲヒャッ?』


 ここにいたって、ゴブリンたちもようやく私たちの意図に気づいたみたいだ。


 自分達に歯向かう敵。


 魔物たちは、そう私たちを認識して、牙を剥きだし、手にした棍棒や錆びた剣を振り上げた。


 私は言う。


「マール君は、先に、厄介なゴブリンシャーマンを倒して」


 彼の視線は、チラリと私に向く。


 ……どうやら、私のことを心配してくれているみたい。


 私は笑った。


「大丈夫。ゴブリンぐらいなら、この足でも倒せるよ」

「……うん」


 マール君は、ようやく頷いてくれた。


 同時に、


『ゲヒャヒャアッ!』


 醜い雄叫びをあげて、ゴブリンの群れは私たち2人に襲いかかってきた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 横に広がりながら、ゴブリンたちは迫ってくる。


 マール君は、その場で剣を構える。


 …………。


 無意識に、足の悪い私を1人にしないようにしてしまったのかもしれない。


 だから私は、


 ヒョコッ


 代わりに1人で前に出た。


 マール君が驚いた顔をする。


 その目の前で、私の両手は、左右の腰に差してあった2本の愛剣の柄を握り締め、それを左右に払うように振り抜いた。


 ヒュコン


 先頭を走っていた2体のゴブリンの首が宙に舞う。


(……ん)


 久しぶりだったので、昔より雑な剣になっちゃった。


 でも、仕方がない。


 踏ん張りの悪い右足を庇いながら、左足を軸にしてクルッと回転する。


 シュザン


 また2体、今後はゴブリンの腹部が斬り裂かれた


『ギヒャオ……!?』


 傷口から内臓が飛び出している。


 少し浅い。


 でも、充分に致命傷だ。


 他のゴブリンたちは、突然の仲間の死に足が止まってしまっていた。


 ついでに、マール君も驚いた顔で止まっていた。 


 私は、心の中で苦笑して、


「マール君、行って!」


 そう叱咤した。


 彼はハッとした顔で「うん!」と頷くと、群れの奥でただ1人だけ前に出なかったゴブリンシャーマンへと、すぐに走りだした。


『ギャヒッ!』


 ゴブリンシャーマンは、すぐに杖を構える。


 その正面に魔法文字が展開され、


 ドパパァン


 そこから、複数の『炎の矢』が発射された。


(マール君!)


 心配する私の目の前で、マール君は、小さく左右に身体を揺らした。


 その身体から数センチの距離を、その炎の雨のような魔法攻撃が通り抜けていく。


 うわ、凄い見切り。


 全盛期の私でも、同じことができたかどうか……。


 他のゴブリン2体が、ゴブリンシャーマンを庇うように立ち塞がるけれど、


 ヒュオン


 マール君の剣の一振りで、そのゴブリンたちの首が飛んだ。


『ギ、ギヒィッ!』


 ゴブリンシャーマンは焦った顔で、直径2メードはある巨大な『炎の矢』を生み出し、それを撃ち出した。


(!)


 かわせる距離じゃない。


 その迫る『炎の矢』に対して、マール君は顔色一つ変えずに、上段から剣を振り落とした。


「やっ!」


 シュパッ


 魔法の『炎の矢』が2つに切断された。 


(ほえ!?)


 マール君、魔法を斬っちゃったよ!?


 彼の左右を、魔法の炎は通り抜け、畑にぶつかり爆発する。


 シュトン


 同時に、マール君の突き出した剣先が、驚愕するゴブリンシャーマンの喉を貫いていた。


 その眼球に、恐ろしい少年の姿が映る。


 そして、そこから生命の輝きが消え、ゴブリンシャーマンの身体は崩れるように地面に倒れてしまった。


 残されたゴブリンたちは、呆然とした顔だ。


 私は、そんな動きの止まったゴブリンたちを、2本の剣で次々と倒していく。


『ヒギ……ッ!?』

『ギャヒイ……ッ!』 


 それを見て、生き残った3体のゴブリンが逃げ出した。


(あ、待て!)


 追いかけたかったけれど、私のこの足では追いつけない。


 と思ったら、私より離れた位置にいたマール君が、腰ベルトから『投げナイフ』を抜いて、それを投擲した。


 シュトトン


 3本のナイフが正確に、ゴブリンの頸部に突き刺さる。


 太い血管が切り裂かれ、大量の血液が噴水のように噴き出していく。


 ゴブリンたちは、そのまま走った。


 走りながら、身体が斜めになり、やがて、ゴロゴロと地面に転がっていった。


 逃げ切れたゴブリンは、1体もいない。


「ふぅ」


 マール君は、短く息を吐く。


 その横顔を、私は、思わず見つめてしまった。


(……強いねぇ)


 それが、率直な感想。


 やはり、現役の『白印の魔狩人』は、今の私なんか比べ物にならないぐらいに強かったよ。


 マール君は、こちらに戻ってくる。


「お疲れ様、クオリナさん」


 優しい笑顔。


 ゴブリンたちを討伐した直後だというのが信じられない、無垢な笑顔だ。


 そして彼は、


「クオリナさん、本当に強くてびっくりしたよ。おかげで凄く楽だった」


 その労いに、私は苦笑してしまった。


 私なんていなくても、マール君は、ゴブリンを全滅させていただろう。


 私は、少し手伝っただけ。


「ありがと。でも、昔はもっと強かったんだよ~?」


 そう思いながら、私は片目をパチッと閉じて、少しおどけながら返事をした。


 マール君は目を瞬く。


 すぐにおかしそうに笑った。


 そんなマール君の笑顔を見て、私もついおかしくなって、彼に笑い返したんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 それから私たちは、改めて、周囲に散乱するゴブリンの死体を見つめた。


 ……うん。


 私は、とある可能性に気づく。


「マール君、このゴブリンたちは、多分、斥候だよ」

「斥候?」


 彼は驚いた顔だ。


 私は頷いて、


「この村は、きっと遠くからゴブリンたちに見張られている。見慣れない人間、つまり私たちが来たから、様子を探りに来たんだよ」


 と伝えた。


 マール君は、もう一度、ゴブリンたちの死体を見ている。


(もしそうなら……少しまずいね)


 私はしゃがむ。


 そして、転がっていたゴブリンシャーマンの杖を拾い上げた。


「斥候の中に、ゴブリンシャーマンがいたよね」


 マール君は、私を見る。


「本来、ゴブリンシャーマンは群れを率いるぐらいの力を持っているの。でも、それが斥候に加わっている」

「…………」

「それはつまり、ゴブリンシャーマンよりも上の魔物が群れを率いているということ」

「上の魔物?」


 彼は、首をかしげる。


 私は言った。


「ゴブリンキング」


 その声は、少し低くなった。


 私は続ける。


「ホブゴブリン以上の筋力に、ゴブリンシャーマン以上の知能を持ったゴブリンの王様。極稀に、そういう凶悪なゴブリン種が誕生するんだよ」

「…………」


 マール君は、静かに私の話を聞いていた。


 その魔物の名前を、噛み締めているみたいだった。


 私は息を吐き、


「もしゴブリンキングの群れなら、数は50じゃ利かない。最低でも100、もしかしたら300はいるかもしれないね」


 そう話を締め括る。


(それが本当なら、この討伐クエストは大変な依頼だよ)


 こんな報酬じゃ受けられない。


 いや、そもそも、冒険者1人と元冒険者で対応できるレベルの難易度じゃないんだ。


 どうしよう……?


 私は、このクエストを破棄するべきかもしれないとも思っていた。


 村の人には申し訳ない。


 でも、マール君まで巻き込んで、死なせてしまうわけにはいかないもの。


 私は、マール君を見る。


 彼の青い瞳は、遠い森の方向を見ていた。


「今夜かな」


 え?


「斥候のゴブリンたちを殺したのは見られていたと思う。だから、奴らは今夜、必ず報復に来るよ。そんな気がするんだ」


 不吉な予言だった。


 でも、不思議とそれが当たるのだと、私には思えてしまった。


「マール君」


 私は彼を死なせたくなくて、声をかけた。


 でも、


「村に戻ろうか、クオリナさん」


 マール君は、穏やかに笑っていた。


「夜になったら大変だから、それまで、今のうちに休んでおかないとね」

「…………」


 まるで、何でもないことのように言う。


 私の視線に気づいて、


「大丈夫」


 マール君は、もう一度、そう微笑んだ。


 なぜだろう?


 その優しい笑顔を見ていたら、心の中にあった不安が消えていく感じだった。


「行こ?」


 キュッ


 立ち尽くしている私の手を、マール君の手が握る。


 その手に引かれるようにして、私は歩きだした。


(温かいなぁ)


 その手の温もりに、私は、気がついたら深い信頼を寄せてしまっていた。


 きっとマール君なら……。


 なぜか、そんな気持ちになってしまった。


 そうして私たちは村へと戻り、夜のゴブリン襲撃に備えるのだった。

ご覧いただき、ありがとうございました。


『番外編・クオリナの休日』もあと3話となりました。もしよかったら、どうか最後まで見届けて頂けましたら幸いです♪



※次回更新は、3日後の月曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ 斬鉄剣を振るう石川五右衛門の如く『火の矢』を真っ二つに切り裂くマール。 大道芸人としてやって行けるレベルですね(苦笑) [一言] マールの強さとスマイルで絆…
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