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440・番外編・クオリナの休日05

第440話になります。

よろしくお願いします。

「……また手にすることになるとは、思わなかったなぁ」


 集合住宅の自室に戻った私は、そう呟いた。


 そんな私の手には、今、タンスから出したばかりの2本の長剣が握られていた。


 冒険者だった頃の装備品。


 4年前、引退を決めた日から、ずっとしまってきた愛剣たちだ。


 もう二度と手にすることはない……そう思ってきたけれど、


(今回ばかりは、仕方ないよね)


 頭の中には、揺るがない光を宿した青い瞳で、私を見つめるマール君の姿が思い出されていた。


 ……うん。


 私は覚悟を決める。


 それから剣だけでなく、かつての愛用の胸当てと手甲をタンスから引きずり出して、それを身に着けていく。


 ギュッ


 ん?


 なんか、ちょっときついような……?


 ま、まさか、ギルド職員になってから、あまり身体動かしてないから、太っちゃったとか……。


(いやいや、そんなことないよねっ)


 うん、久しぶりだからきつく感じるだけだよ。


 きっとそう!


 私は自分に言い聞かせ、ちょっと強引に装備を身に着けていった。


 よ、よし。


 ちょっと息苦しい気もするけど、なんとかなった。


 最後は、右足の膝関節に、バネのついた金属の補助具を装着する。


 グッ


 それを着けて立ち、軽く踏ん張ってみた。


(……うん)


 少しの間だけど、踏ん張れる。


 引退を決める前、冒険者を辞めたくなかった私は、色々と足掻いてみたんだよ。


 これは、その時に作った物。


 でも、それはやっぱり実戦では使えるものではなくて、私は負傷する前の戦い方を取り戻せなかったんだ。


(だけど、ないよりはマシ)


 これでも、ゴブリン相手なら多少は戦える。


 今回ばかりは、過去の矜持にこだわる余裕もなかった。


 弱くなっても。


 足が悪くても。


 少しでもマール君の助けにならなければいけない、そう思った。


 あの子の瞳の光を、消しちゃいけない。


 かつて冒険者を目指した者として、今も冒険者をサポートする立場の人間として、何より1人の年上の人間として。


「……よし!」


 装備を整え、私は大きく頷いた。


 4年ぶりの姿。


 私の中に眠っていた何かが、久しぶりに目を覚ましたような感覚だった。


 右足を軽く撫でる。


 そして、私は、マール君とタオリット君との待ち合わせ場所へと向かった。



 ◇◇◇◇◇◇◇

 


 冒険者ギルドには、有給届を出した。


 先輩にペコペコ頭を下げて、今度、1杯30リドもするバフェを奢る約束をして、仕事の日を代わってもらった。


(ふぅ)


 ヒョコ ヒョコ


 久しぶりなので、装備が重いね。


 右足を労わりながら、王都の中央区にある噴水公園にやって来た。


 ここが待ち合わせ場所だ。


 噴水前のベンチに、タオリット君とマール君が話している姿があった。


 マール君もフル装備だ。


 2本の剣と1本の短剣、右手の白い手甲、水色の胴当て、旅服、大きなリュック。


(……うん)


 幼い背中だけれど、そこには冒険者としての貫禄が滲んでいた。


 この子は、もっと強くなる。


 そして、きっと大勢の人を救うような冒険者になるだろう。


 ――絶対に、ここで死なせてはいけない。


 そう改めて、思ったよ。


 2人の男の子が、こちらに気づく。


「……クオリナさん」


 マール君は、冒険者の格好をした私に、驚いた顔だった。


 私は、微笑む。


 ヒョコッ


 動きの悪い右足を、補助具も利用して動かして、2人の方へ歩いていく。


 そんな私の動きを見て、マール君は、何かを言いたそうだった。


 でも、その前に、


「マール君、イルナさんへの書き置き、残せた?」


 と声をかけた。


 タオリット君の暮らす『難民村』までは、馬車で3日ほどかかるという。


 マール君は、自分の装備を取りに『イルナさんの家』へと帰った時に、イルナさんが心配しないよう、今回の事情をしたためた手紙を残してくると言っていたのだ。


「うん」


 と、マール君は頷いた。


(なら、よし)


 もし手紙を残さなかったら、あとで私はイルナさんに殺されてしまうかもしれないからね……。


「あの、クオリナさん」

「大丈夫だよ」


 私の右足を見つめるマール君に、私は笑いかけた。


 ポン ポン


 軽く右足を叩いて、


「これでも、ゴブリンぐらいは倒せるんだからね」

「…………」

「無理はしないよ。だから、少しだけでも、私にもマール君の手助けをさせてね」

「……はい」


 マール君は、それ以上は諦めたように息を吐いた。


(心配かけてごめんね?)


 でも、どうしても、マール君1人だけにやらせたくないって思っちゃったんだ。


 そんな私たち2人を、タオリット君が見つめていた。


 ギュッ


「頼む……どうか、村のみんなを助けてくれ」


 両手を握り締め、頭を下げる。


 うん。


 私たちは頷いた。


「必ず助けてみせるよ、タオリット」


 マール君は、強い覚悟のこもった声で、そう答えた。


 その青い瞳は、決意の光を灯して、とても綺麗だ。


 その輝きを見ている私の胸も、不思議と熱くなる。


「さぁ、行こう!」


 マール君は、力強く言う。


 そうして私たち3人は、王都発の馬車に乗り、タオリット君の『難民村』へと出発した。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、3日後の月曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ < ま、まさか、ギルド職員になってから、あまり身体動かしてないから、太っちゃったとか……。 装備を整える間の、一番の感情のブレ。 再び戦う事になった事への葛…
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