439・番外編・クオリナの休日04
第439話になります。
よろしくお願いします。
「だ、駄目だよ、マール君!」
私は思わず立ち上がって、マール君の決断を遮ろうとした。
わかってるの?
相手は、ゴブリン50匹規模だよ?
いくらマール君が『白印の魔狩人』だからって、たった1人で相手にするのは難しいはず。
しかも、これは正確な数値じゃない。
現地に行ってみたら、100匹、200匹もいた、なんて場合もあるのだ。
更に言うなら、こういうゴブリンの大規模な群れには、上位種のゴブリンシャーマン、ホブゴブリン、ゴブリンキングなどがいる可能性も高いの。
それは『白印』が3人以上いなければ、受注許可は出せない脅威度なんだよ?
私は、色々と説明した。
「だから、所属ギルドとして許可できないよ!」
そう強く言う。
タオリット君には悪いけれど、私はギルド職員として、所属冒険者の命を守る義務があるのだ。
だけど、
「僕はやる」
と、マール君は言い切った。
澄んだ綺麗な青い瞳が、私を見つめてくる。
「ギルドの依頼として受けるんじゃない。僕は友達になったタオリットの村へと遊びに行って、たまたまゴブリンを倒すことになるんだ。――それなら問題ないでしょ?」
そう笑う。
いやいやいや!
(問題ないけど、問題大ありだよ!)
タオリット君は、呆然と目の前にいる茶色い髪の少年を見上げている。
マール君の表情に迷いはない。
なんで?
「なんで、そこまでしようとするの?」
私は、思わず聞いていた。
マール君は、不思議そうに私を見つめ返してくる。
「困っている人を助けるのに、理由が必要なの?」
「…………」
私は何も言えなくなってしまった。
マール君は、小さく笑って、
「それにね。キルトさんが冒険者を引退する時に言っていたんだ。『これからは手の届かなかった人にも、この手を届けたい』って。だから僕も、手を伸ばしたいんだ」
そう言った。
およそ13年間、『金印の魔狩人』として王国の人々を守ってきた英雄キルト・アマンデス。
その最後の弟子が、私の目の前にいる少年だった。
(……あぁ、もう)
キルトさんの意思は、ちゃんと受け継がれてるよぅ、全くもう!
私は、ため息をこぼす。
そういえば、イルナさんが言っていたっけ。
『――ああ見えてマールは本当に頑固なんです。あの子がこうと決めたら、あのキルトもその意思を覆すことはできませんでしたよ』
そう苦笑しながら。
でも嬉しそうに。
私は、マール君の顔を見る。
その青い瞳には、自分の信じる道を貫こうとする強い光が満ちている。
……うん。
きっと私にも、マール君に思い直させることはできないだろう。
タオリット君は、信じられないものを見るように、マール君を見つめていた。
「いいのか……本当に……?」
「うん」
マール君は頷いた。
「タオリットも、ここまでよくがんばったね。もう大丈夫だよ」
「っっ」
向けられた笑顔に、タオリット君は息を呑む。
それから、腕で顔を覆った。
「う……ぐっ……うぅ」
声を殺して泣いた。
たった1人で村を出て、村の存亡の責任を一身に背負わされて、でも、ギルドでは誰にも相手にされなくて……。
…………。
私は喫茶店の天井を見上げて、そして、目を閉じる。
ここまで関わった以上、もう仕方がない。
「わかったよ。これ以上は、私ももう何も言わないよ」
「クオリナさん」
マール君は、嬉しそうに微笑んだ。
でも、
「でも、1つ条件があるから」
私は言った。
「条件?」と、マール君はキョトンとする。
タオリット君も戸惑った顔をしていた。
そんな2人の男の子を見つめて、
「マール君と一緒に、私もタオリット君の村まで行って、ゴブリン討伐を手伝うからね」
私はそう言い切ったのだ。
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