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434・キルトの決断2

第432話になります。

よろしくお願いします。

(わがまま?)


 ポカンとなる僕らに、キルトさんは苦笑する。


 それから、天井を見上げて、


「わらわが『金印』となって、およそ13年、これまでシュムリア王国の人々のために戦った。じゃが、そなたたちと各地を旅して来て、思ったのじゃ」

「…………」

「もっと多くの人々を守りたい、との」


 もっと多く……?


 キルトさんは、その黄金の瞳を細める。 


「この身は『金印の魔狩人』じゃ。それは大きな力となったが、同時に制約ともなった」


 その声には、静かな苛立ちがあった。


 彼女は語る。


 その『金印の魔狩人』という称号は、シュムリア王国のための活動を強制されるものだった、と。


 全ては王国のため。


 クエストの優先順位は、それによって定められ、その結果、彼女の手が届かず、亡くなっていった人々も多くあったのだという。


 それは仕方のないことだ。


 キルトさんは、神様じゃない。


 その身は1つしかなくて、助けられる対象は限定されてしまう。


 具体的に言えば、国政に大きな影響が出るクエストが優先され、そうでない辺境の町や村のクエストは受注できず、そうした人々は見捨てるしかなかった。


 例え、キルトさんがそちらの人々を助けたいと願っても、だ。


 …………。


 キルトさんは息を吐き、


「そろそろ王国のためではなく、自分のため、その人々のために剣を振るっても良いのではないかと思っての」


 と言った。


 彼女の視線は、イルティミナさんを見ている。


「頼もしい後継者もできた」

「…………」

「これまでのわらわの役割は、そなたに譲り、わらわは、わらわの心のままに人々を助けたいと思っておる。……駄目かの?」


 イルティミナさんは、困った顔をする。


「ずるい言い方ですね」

「そうじゃな」


 キルトさんは苦笑した。


 でも、イルティミナさんはそれ以上、彼女を責めるようなことは言わなかった。


 それが答えなんだろう。


 キルトさんは、自分の手を見つめて、


「これまで手の届かなかった人々へと、この手を届けたい……それがわらわの望みであり、引退の理由じゃ」


 ギュッ


 その手を握り締め、僕らへと顔を向けて、そう言った。


 …………。


 そんな風に言われたら、何も言えないじゃないか。


 ソルティスは、複雑そうな顔だった。


 でも、唇を噛み締めるだけで、キルトさんを引き止めるようなことを口にはしない。


 僕は、


「引退したら、具体的にどうするの?」


 と言った。


「旅に出ようと思っておる」


 とキルトさん。


 自由気ままに旅をしながら、困っている人々を見つけたら、その人たちを助けるために剣を振るのだと、そう夢見るように語った。


 そっか。


(……なんだか、キルトさんらしいかも)


 僕は、小さく笑った。


「最初は、ナルーダの村にでも行ってみるかの」


 キルトさんは、紅白の月の輝く窓の外を見ながら、アルン神皇国にある国境近くに暮らしている幼馴染の名前を口にした。


 僕は驚いた。


「アルンにも行くの?」

「うむ」


 頷くキルトさん。


「国王陛下や皇帝陛下には、すでに話をしてあっての。両国内での自由な活動を許可された」


 うえっ!?


 僕らは目を見開いた。


 それは国境関係なく、人々を救う活動を許されたということ。


(……ある意味、国に縛られる『金印』の称号よりも凄いことなんじゃないの?)


 英雄キルト・アマンデス。


 この世界に現れた『魔の勢力』との戦いで、大いなる活躍をした彼女への両国首脳からの最大限の敬意と感謝があってのことかもしれない。


 ……なんてことだ。


 冒険者を引退するのも当然かもしれない。 


 キルト・アマンデスという人物には、もう『冒険者』という肩書きだけでは狭すぎるのだ。


 イルティミナさんが苦笑した。


「貴方はさすがですね、キルト」


 とため息。


「いつか、貴方に追いつけるのではと思っていた自分が、とても無謀だったのだと思えますよ」

「ふむ?」


 よくわかっていないのか、キルトさんは首をかしげている。


 ソルティスは肩を竦めた。


「ま、キルトの好きにしなさいよ」

「ソル」

「……でも、どこを旅してもいいけれど、たまには、私たちの所へ顔を出しに帰って来なさいよね」


 最後はうつむき、唇を尖らせる。


 キルトさんは笑った。


「うむ、約束しよう」


 クシャクシャ


 大きく頷いて、少女の髪を、少し乱暴に撫で回した。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「わらわがいなくなったあとは、マールはイルナと、ソルはポーと組み、冒険者を続けるが良い」


 キルトさんは、そう解散後のことも語った。


 イルティミナさんとポーちゃん。


 2人の実力は、同じぐらいのレベルにあり、だからこそ、違うパーティーとして活動する必要があると説明された。


(なるほどね)


 そうなれば、自然と僕とソルティスが組む相手も決まる。


 イルティミナさんは、僕を見つめた。


「これからは、マールと2人きりですね」

「うん」


 僕は頷く。


 キュッ


 なんとなく、お互いの手を握り合っていた。


(……うん)


 人数は2人になってしまうけれど、イルティミナさんと一緒なら不安もないよ。


 僕らは、きっと大丈夫。


 でも、ソルティスたちは……?


 視線を、2人の方に向ける。


 ソルティスとポーちゃんも、お互いのことを見つめ合っていて、


「ポーなら安心ね」

「ソルは、必ずポーが守る、とポーは告げる」


 そう笑い合っていた。


 ……うん、向こうも大丈夫そうだ。


 2人は同居もしてるしね。


(これまでも2人とも息ピッタリだったし、これからも、きっと上手くやっていくと思うよ)


 僕も、つい笑ってしまった。


 キルトさんも満足そうに頷いている。


 そして、彼女は、こちらを振り返った。


「マール」


 ん?


 不意に名前を呼ばれて、ちょっと驚いた。


 見返すと、彼女は、少し真剣な眼差しを僕へと送っていた。


 …………。


 僕の意識も、自然と引き締まる。


 キルトさんは、ゆっくりと唇を開き、


「明日、そなたとは最後の実戦稽古を行う。これまで積み重ねてきたそなたの集大成を、わらわに見せてみよ」


 師匠の顔で、そう告げたんだ。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、3日後の月曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/  マール達が断れない状況で切り出す辺り、何処までも手回しの良い事で(苦笑) ともあれ、次回はキルトの弟子たるマールの卒業試験みたいなな感じですかね? […
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