433・キルトの決断1
第433話になります。
よろしくお願いします。
ドルア大森林でのクエストを終え、翌日、僕らは王都ムーリアに帰還した。
たったの2日。
本来なら片道1ヶ月、往復2ヶ月という王国南西部でのクエストを、たったの2日で終わらせてしまったのだ。
「転移魔法陣のおかげね!」
魔法使いのソルティスは、得意げにそう言った。
うん、その通りだ。
現代に蘇った古代の魔法は、本当に大きな可能性を秘めているんだと、僕らは改めて思い知らされた。
クエスト達成報告をした時のギルド長のムンパさんも、
「あらあら、これは大きな成果ね。転移魔法の実用化に向けて、大きく前進したかもしれないわ」
と微笑んでいた。
それから僕ら5人は、その夜も、キルトさんの部屋に泊まることになった。
クエスト達成の祝勝会だ。
ギルドに用意してもらった豪華な料理の並んだテーブルを前にして、
「皆、お疲れ様であったの」
お酒のグラスを片手に、キルトさんはそう労いの言葉を口にした。
僕は笑う。
「キルトさんもお疲れ様」
「うむ」
キルトさんも笑った。
みんなも笑顔になって、それぞれ手にしたグラスを持ち上げて乾杯をする。
チン チィン
グラスの澄んだ音色が響く。
そうして僕らは、思い思いに料理を食べたり、飲み物を片手にクエストでの話をしたりしながら、楽しい時間を過ごしたんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
紅白の月が、夜の空高くに昇っている。
それを見て、
(そろそろ寝る時間かな?)
僕は、そんな風に思った。
その時、キルトさんが大好きなお酒のグラスをテーブルに置いて、
「皆、聞いてくれ」
と静かに言った。
(?)
なんだろう?
何気ない声なのに、その声に、いつもとは違った何かを感じた。
僕らの視線が集まる。
キルトさんの黄金の瞳には、酔いの色は見られずに、落ち着いた輝きだけが灯っていた。
そして、
「今夜は、そなたたちに伝えたいことがある」
と言った。
(伝えたいこと?)
僕は、首をかしげる。
イルティミナさん、ソルティスも不思議そうな顔で、ポーちゃんだけが無表情だった。
キルトさんは瞳を伏せる。
それから、
「今回のクエストを持って、このキルト・アマンデスは冒険者を引退することにした」
……え?
意味がわからず、僕は、銀髪の美女を見つめた。
イルティミナさん、ソルティスも呆然だ。
彼女の瞳が開く。
その黄金の輝きは、僕ら4人のことを真っ直ぐに見つめて、
「それに伴い、このパーティーを解散する」
そう淡々と告げたんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
「それって……どういうことよ?」
呆然自失となりながら、ソルティスが絞り出すように問い質した。
キルトさんは微笑む。
「言葉通りじゃ。わらわは冒険者を引退し、このパーティーは解散となる」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
僕らは言葉もない。
そんな僕らの反応に苦笑して、キルトさんは話を続けた。
「実はの、これは前から考えていたことなのじゃ」
(……前から?)
「今回のクエストでも明らかになったことじゃが、このパーティーには戦力が集まりすぎている」
静かな落ち着いた声。
キルトさんの視線は、イルティミナさんとポーちゃんを見た。
「金印の魔狩人が2人、それに比する実力者が1人」
「…………」
「…………」
「マールとソルも、実力だけを見れば、もはや銀印の魔狩人とも言えよう。そして、それは1つのパーティーに集束すべき戦力ではない」
それは……。
確かに、それは僕もちょっと思ったことがある。
みんな、強くなった。
イルティミナさんはキルトさん並みに、ソルティスだって魔法だけでなく剣士としての実力も身に着けて、僕は『タナトス魔法武具』を手に入れた。
そこに、キルトさんに勝利したこともある『神龍』のポーちゃんも加わっている。
明らかな戦力過剰だ。
これまでは『闇の子』に対抗するために、身を守るために、それでも良かった。
だけど今は、もう『闇の子』はいない。
世界は平和になって、その中でこれだけの戦力を集中させるのは、単純に、世の中の高難度のクエスト消化率を落とす結果になってしまうのだ。
キルトさんは、寂しそうに笑った。
「皆、成長した。新しい段階に進む時が来たのじゃ」
(キルトさん……)
パーティーの責任者として、キルトさんもそのことをずっと考えていたのだろう。
みんなと一緒にいたい。
それはキルトさんも同じだろう。
だけど、それが許される状況では、もうなくなったのだ。
イルティミナさん、ソルティスも思うところがあったのか、キルトさんの言葉に反論したくても、上手く言葉が出ないようだった。
ポーちゃんは、静かに状況を見守っている。
僕は息を吸い、
「話はわかったけど、でも、キルトさんが冒険者を引退するのは、なんで?」
と聞いた。
戦力を分散したい、だから解散する。
それは理解できたけど、そこにキルトさんが冒険者を引退する理由が見つけられなかった。
ウォン姉妹も、銀髪の美女を見つめる。
キルトさんは、
「それは、わらわのわがままじゃ」
と答えた。
ご覧いただき、ありがとうございました。
※次回更新は、明後日の金曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。