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432・森林竜の全滅

第432話になります。

よろしくお願いします。

「いた」


 あれから30分ほど、僕らはドルア大森林を歩いた。


 生臭い竜の臭いを辿りながら、やがて辿り着いたのは、森の木々が途切れた広い窪地だった。


 そこに『森林竜』たちが集まっている。


 数は、15体。


「竜の巣じゃな」


 キルトさんが低い声で呟いた。


 なるほど。


 窪地の底には、多くの枯れ木や枯草が敷き詰められ、確かに寝床みたいになっていた。また、その中には、丸い卵みたいな物も見受けられる。


 竜たちは、僕らに気づいていないようだ。


 でも、その接近はわかっているみたいで、酷く興奮した状態で、何体もの『森林竜』が巣の周辺を警戒するように歩いていた。


 ズシズシと足音が響いている。


 周辺の動物や魔物は、その気配に当てられて、皆、逃げてしまっているようだ。


 …………。


 僕らは倒木に隠れながら、その様子を観察していた。


(ん?)


 そして、気づいた。


 集まった興奮した竜たちの中で、1体だけ落ち着いた雰囲気の『森林竜』がいる。


 他の竜より、一回り大きい。


 頭部の下側には、まるであご髭のように細長い蔦や蔓が垂れ下がっていた。


 その竜は、巣の中心にいる。


 どうやら、周りの全ての竜の動きを見ているみたいだった。


「群れのボスだ」


 僕は呟いた。


 イルティミナさんも頷いて、「そのようですね」と答えてくれる。


 キルトさんは「ふむ」と唸った。


 それから、


「よし、まずはあの竜から狩るぞ。――マール、いけるか?」

「うん」


 彼女の確認に、僕は頷いた。

 

 ギュッ


 手にした『大地の剣』の柄を、強く握り締める。


 そうして僕らは、窪地に集まった『森林竜』の群れを狩るために動き始めた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「――大地の破角(アース・ホーン)


 ザシュッ


 僕は、神気を流し込んだ『大地の剣』の剣先を、足元の地面へと突き立てる。


 剣の魔力が大地の中を流れていく。


 それは、巣の中央に座している『森林竜』の真下まで到達し、そこで集束した。


 ピクッ


(あ)


 群れのボスらしき『森林竜』が何かに気づいた顔をした。


 その巨体を慌てて跳ね起こし、魔力が集束した地面から離れようとする――けれど、


 ドゴォオオン


 それは1歩、間に合わなかった。


 大地から突き出した鋭く捻じれた角は、その『森林竜』の脇腹から突き刺さり、背面まで抜けていく。


 大量の紫の血が溢れる。


 ドルア大森林の中に、盛大な竜の悲鳴が木霊した。


 けれど、その声は徐々に小さくなり、やがて、その『森林竜』の瞳から生命の輝きも消えてしまった。


 絶命。


 僕の放った魔法は、森林竜のボスを1撃で倒してしまっていた。


(……凄い)


 本当に、なんて威力だ。


 ここから、あの群れのボスまでは、80メード以上ある。


 きっと、この『大地の剣』の射程距離は、100メードはあるのかもしれない。


 恐ろしいほどの高性能。


 そして、その力によって、突然、群れのボスを失った『森林竜』たちはパニックを起こしているみたいだった。


 ボスの死体に集まり、意味もなく巣の中を移動する。


 ガツッ ドスン


 巨体同士がぶつかり合う。


 その瞳にあるのは、激しい恐怖と混乱だった。


 そんな窪地に集まる竜の群れを見下ろして、丘の上にいるイルティミナさんが『白翼の槍』を高く掲げた。


「羽幻身・七灯の舞」


 ヒィン


 槍の魔法石が輝き、光の羽根が噴き出す。


 それは空中に7本の『光の槍』を創り出し、彼女は『白翼の槍』を鋭く前方に突き出した。


 ヒュッ


 それを合図に、7本の光の槍が『森林竜』の群れへと発射される。


 ドパァン ドパパァン


 集まった竜の巨体に着弾し、7回の爆発が起こった。


 血と肉片が弾ける。


 更には、ソルティスが手にした大杖を振るって、黄緑色に輝く『タナトス魔法文字』を描きだす。


 それを地面に叩きつけ、


「樹冠の王たちよ、あの竜たちを締め殺しなさい! ――ド・ルアードゥ・アルタ!」


 少女は叫ぶ。


 同時に、タナトス魔法文字たちが周囲の木々に吸い込まれた。


 ギッ ギギギ……ッ


 その木たちの表面に、人の顔が浮かび上がる。


 そうして生まれた人面樹たちは、その枝を触手のように伸ばして、四方八方から窪地に集まる『森林竜』たちを捕らえていく。


 メキッ ミシシッ ベキッ バキィン


 硬い外皮が砕け、その肉体が捻じれるように締め上げられていく。


 竜たちの悲鳴が響く。


 生き残った竜たちは逃げようとするも、人面樹たちに囲まれて、それも許されない。


 中には、戦意を失わない竜もいた。


 ガッ


 その竜は、頭部の角を地面に突き刺して、


 ドパァアン


 首を振るって、その大地を吹き飛ばし、その倒木や岩の破片などを、まるで散弾のように僕らめがけて放ってきた。


 けれど、


「ポオオオオオッ!」


 前に出た金髪幼女――ポーちゃんが咆哮する。 


 その前面に、半球状の衝撃波が生み出され、飛来した破片の全てが弾かれ、明後日の方向に吹き飛ばされていく。


 僕らには、小石1つ届かない。


 その間も、


「シィッ!」


 イルティミナさんの白い槍による砲撃が行われ、人面樹たちの触手が悪夢のように『森林竜』たちを仕留めていた。


 15体もいた『森林竜』も、残るは3体のみとなっていた。


 ドスッ ドスッ ドスッ


 その竜たちは、瞳に覚悟の光を灯して、僕らへと突進してくる。


 死をも厭わぬ特攻だ。


「マール」

「うん」


 キルトさんの声に応じて、僕は彼女と共に前に出る。


 迫る巨体。


 僕は、手にした『大地の剣』を正眼に構えた。


(……今っ!) 


 突進してくる巨体に合わせて、横に避けながらカウンター剣技を放った。


 ヒュコンッ


 丸太のように巨大な前足を切断する。


(ん)


 切れ味の鋭い刃だった。


 これまで使っていた『妖精の剣』ほどの軽さはないけれど、刀身の切断能力は引けを取らない。


 耐久力も高そうだ。


 これで、あの高威力の魔法攻撃もあるんだから、


(……本当に恐ろしい武器だよね、タナトス魔法武具って)


 改めて、そう思う。


 そして、前足を失った『森林竜』は、地面を削るようにしながら転倒した。


 ズズゥン


 土煙が舞う。


 僕は、手の中の『大地の剣』を回転させ、逆手に持ち替えると地面に突き刺す。


 ドゴォオン


 転倒した竜の頭部を、地面から生まれた捻じれた角が貫いた。


 竜が絶命する。


 そうして、僕が1体を倒している間に、


「鬼剣・雷光連斬!」


 歴戦の金印の魔狩人は、残った2体の『森林竜』を青い雷光の斬撃によって焼き殺していた。


 …………。


 動いている竜は、もういない。


 ドルア大森林で人々を脅かしていた『森林竜』の群れは、全滅したのだ。


「ふぅ」


 僕は、息を吐く。


 イルティミナさん、ポーちゃんも構えを解き、ソルティスは軽く肩を竦めて、


「余裕だったわね」


 と笑った。


(うん)


 僕も微笑む。


 みんな思った以上に強くて、予想以上の圧勝だった。


 20体近い竜種。


 それを相手にして、1つの危険もないままにクエスト達成できるなんて、正直、思っていなかったよ。


「マールの力ですね」


 ポン


 イルティミナさんが、『大地の剣』を持っている僕の肩を軽く叩いて笑う。


 僕は首を振った。


「みんなの力だよ」 


 そう笑った。


 ポーちゃんは、ソルティスの肩を労うように揉んでいて、少女は「あ~、効くわぁ」なんて声をこぼしている。


 それに僕ら夫婦も、また笑ってしまった。


「…………」


 そんな僕ら4人の様子を、キルトさんはジッと見つめていた。


 その黄金の瞳を伏せる。


 そして、


「そうじゃな……もう潮時であろうの」


 少し寂しそうに、そう呟いた。


(?)


 僕にしか聞こえなかったらしいその声は、ドルア大森林に吹く風に流され、遠く消えていった。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、明後日の水曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ < ポーちゃんは、ソルティスの肩を労うように揉んでいて、少女は「あ~、効くわぁ」なんて声をこぼしている。 やっぱり、この2人の遣り取りは癒しだなぁ^_^ …
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