429・ドルア大森林
第429話になります。
よろしくお願いします。
(もう、実用化されてたんだ?)
目の前の『転移魔法陣』を見つめて、僕は驚いていた。
空間を渡るこの魔法は、コロンチュードさんが現代に復活させたばかりの古代魔法だ。
その有用性は計り知れない。
でも、同時に危険性も大きいので、シュムリア王国ではまだ未公表なんだ。
「今は、お試しといった段階じゃの」
とキルトさん。
王国としては、物流に革命を起こすこの転移魔法を、いつか大々的に運用したいのだそうだ。
今は、その段階を踏んでいる感じなんだって。
「王国の各地では、秘密裏に『転移魔法陣』が作られ、その実用性を確認するために試験的な運用が行われておるのじゃ。今回も、その1つと思え」
とのことだ。
将来的には、5~10年後を目安に、レクリア王女たちは公表を考えているそうなんだ。
その話を聞いて、ソルティスなんかは、
「凄いわ!」
と、目をキラキラ輝かせている。
僕とイルティミナさん、ポーちゃんの3人は、顔を見合わせていた。
……もしかしたら、
(僕らは、時代が変革しようとする時期を、目の当たりにしているのかもしれないね)
そんな風に思った。
「よし、では行くぞ」
キルトさんは力強く言って、魔法陣の中へと入っていく。
うん。
僕らも頷き、あとに続いた。
部屋の四隅の台座に、ソルティスが魔力を注ぎ、魔法球を光らせる。
ヒィィイン
魔法陣全体が輝き、視界が白く染まった。
そして次の瞬間、僕ら5人は、その偉大なる『転移魔法』によってシュムリア王国南西部への転移を果たしたんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
転移した先にあったのは、丸太で作られた大きな建物内部の景色だった。
足元には、対となる魔法陣が描かれている。
(……さっきより、空気が暖かいな)
きっと赤道に近い南部に転移したからかもしれない。
建物の外に出ると、そこには、丸太で作られた簡易的な木造小屋の建ち並ぶ村のような空間が広がっていた。
村の周囲には木造の塀があり、その奥では背の高い木々が茂っている。
恐らく、ここは開拓村だ。
ドルア大森林を開拓する人々が生活するために、森の中に造られた村なんだろう。
伐採された丸太たちが、塀の近くにたくさん積まれている。
村の中には、大勢の作業員らしい人たちと、王国の兵士らしい人たちの姿が見受けられた。
キルトさんは、周囲を見回して、
「ふむ、無事についたようじゃな」
と頷いた。
それから近くの人に声をかけ、ここの責任者だという人のいる場所へと案内してもらった。
そこも丸太小屋だった。
でも、玄関近くに、シュムリア王国の国旗が掲げられている。
「よく来てくれた」
中に入ると、50代ぐらいの男の人が、僕らを歓迎してくれた。
この人が責任者。
名前は、トルガントンさん。
挨拶を済ませた僕らは、すぐに現在の状況や『森林竜』についての話を聞いた。
「今は、開拓は中止している」
トルガントンさんは、そう言った。
開拓地が『森林竜』の生息域に踏み込んでしまい、竜たちと交戦したのが20日ぐらい前で、それ以降の作業は行われていないそうだ。
というか、
「作業を始めると、竜が襲ってくる」
のだそうだ。
それも開拓作業をするのが『森林竜』たちの生息域の外であってもだ。
キルトさんは、
「どうやら『森林竜』たちに、完全に『敵』として認識されてしまったようじゃの」
と推測した。
幸いにして、開拓村まで襲われてはいないようだけれど、それも時間の問題かもしれない、とキルトさんは呟いた。
竜は、知能も高い。
今は人間を警戒して、開拓村を襲っていないだけ。
けれど、こちらに抵抗できる戦力がないと見定めたら、一気に襲撃してくるだろうとのことだ。
(そんなの駄目だ)
そんなことになったら、どれだけ人命に被害が出るかわからない。
トルガントンさんも、キルトさんの説明を聞いて、青い顔になっていた。
でも、そうなる前に、僕らはやって来れた。
「運が良かったの」
キルトさんは笑った。
それから、仲間である僕ら4人を見回して、
「最悪の状況は免れた。しかし、それがいつまで持つかもわからぬ。その前に、わらわたちで『森林竜』を全て狩り殺すぞ」
そう鉄のような声で告げたんだ。
ご覧いただき、ありがとうございました。
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