425・クエストの達成と報酬
第425話になります。
よろしくお願いします。
「次のクエスト期日ギリギリに戻ってきたと思えば、まさか『タナトス魔法武具』を手に入れてくるとはの……」
キルトさんは、どこか呆れたようにそう言った。
そこは、キルトさんの部屋。
僕とイルティミナさんがミューグレイ遺跡から帰還したその夜であり、次のクエストに向かう前日でもあった。
部屋には、僕とイルティミナさん、キルトさんの他に、ソルティス、ポーちゃんもいる。
明日のクエストは日の出前の出発予定だったので、今夜の内に、ここに集まったんだ。
キルトさんの視線が、僕のリュックに向く。
リュックの上には、手に入れたばかりの『タナトス魔法武具の剣』がロープで括りつけられていた。
彼女たちには、探索での経緯は話してあった。
ソルティスが頬杖をついて、
「結局、その剣は、マールの物になったの?」
「うん」
僕は頷いた。
剣の所有については、あのあと、レオルクさんたちと話し合いが行われた。
結論として、あの『タナトスの剣』は、イルティミナさんが相場価格で買い取ることになったんだ。
20万リド。
つまり、2000万円で。
そして、そこから僕ら2人分の報酬である8万リドを引いて、支払ったのは、12万リド。
レオルクさん、ジャックさん、オルファナさんは、1人当たり4万リドという大金を手にすることになった。
「ちょっと待って」
ソルティスが手を上げる。
(ん?)
「それって、イルナ姉だけが損してない?」
そう不機嫌そうに言う。
確かに、せっかく遺跡を探索したのに、実質、イルティミナさんだけは1200万円の損失だ。
だけど、
「相場の5分の3の金額で、マールのための『タナトス魔法武具』が手に入ったのです。私としては、悪くない買い物でしたよ」
と、当のイルティミナさん。
僕のお嫁さん曰く、タナトス魔法武具は、発見されても、その発見者が所有してしまうことも多いため、市場に出回ることは滅多にないんだって。
つまり、お金があるからと手に入る品でもないんだ。
遺跡を探索した労力と1200万円という金額を加味しても、彼女としては、夫である僕の剣を手に入れられたことの方が大いに価値があると思っているそうだ。
(……イルティミナさん)
その愛の深さに、僕は感動だ。
ソルティスは「ふ~ん」と、納得したような、してないような顔である。
と、キルトさんが、
「レオルクとやらは、それで納得したのか?」
と聞いた。
それだけ貴重な『タナトス魔法武具の剣』だ。1人の剣士として、レオルクさんがどう思ったのか、キルトさんも気になったのだろう。
僕は、
「レオルクさん、いい人だから」
と答えた。
イルティミナさんが買い取りを提案した時、僕も『いいのかな?』と思ったんだ。
でも、レオルクさんは、
「手合わせで負けてしまったしな。それに、イルティミナとマールの2人がいなければ、俺たちだけじゃどうやっても、その『タナトスの剣』は手に入らなかったろう。それを考えたら、12万リドの報酬がある分、俺たちは幸運さ」
と言ってくれたんだ。
それから、
「きっとその剣は、マールが手にする運命だったんだよ」
ポン
笑って、僕の頭を撫でてくれた。
ジャックさん、オルファナさんも、リーダーの決断に笑顔で頷いてくれた。
その話をすると、キルトさんは苦笑して、
「そうか。ずいぶんと人の良い人物じゃの」
と評した。
(うん、そうだね)
だからこそ、14歳の不愛想な少女だったイルティミナさんのことも心配して、ずっと気にかけてくれてたんだ。
そんな彼のことが、僕は、結構好きである。
イルティミナさんもどこか優しい表情で、僕らの会話を聞いていた。
◇◇◇◇◇◇◇
そうそう、そんなレオルクさんたちと王都に帰ったあと、僕らはすぐに冒険者ギルド『月光の風』に向かった。
6年前のメンバーだった、クオリナさんの所を訪れたんだ。
「みんな、おかえり!」
僕らの無事な姿に、クオリナさんはとても喜んでくれた。
それから、冒険の報告だ。
かつて6年前に訪れた遺跡の話を、彼女は、とても興味深そうに聞いてくれた。
瞳がキラキラしている。
……その輝きは、冒険に憧れる冒険者としての光で、そんなクオリナさんの表情を見るのは、僕は初めてだった。
キュッ
時折、彼女の手が、後遺症のある右足を強く握っていたのが印象的だった。
見つけた『タナトスの剣』についても話すと、
「そっか、マール君もついに『タナトス魔法武具』の使い手になるんだね。おめでとう!」
と祝福してくれた。
(うん、ありがと)
そんな彼女の気持ちに応えられるような立派な使い手になろう、と僕は思った。
そこで、レオルクさんたちとはお別れになった。
「それじゃあな」
「また」
「ありがとね、マール君、イルナさん」
僕らは、握手を交わす。
そうして、彼らは夕日に染まった道を去っていく。
見送る僕とイルティミナさん、クオリナさんは、3人の姿が見えなくなるまで、手を振っていた。
…………。
ちなみに、今回の探索は、実は王立魔法院から冒険者ギルド『栄光への鍵』に出された調査依頼でもあったんだ。
レオルクさんたちには、その成功報酬も入るんだって。
僕らの助っ人としての代金は、その報酬の中から、後日、改めて銀行口座に振り込んでくれるそうだ。
1人、だいたい50万円ぐらい。
イルティミナさんは『金印の魔狩人』なので、破格の安さだそうだ。
「まぁ、私も、あの遺跡のことは気になっていましたからね」
と、小さく笑う。
それから彼女は、そのミューグレイ遺跡から6年前に見つかった『白翼の槍』を見つめて、その紅い瞳を細めたんだ――。
◇◇◇◇◇◇◇
その夜は、キルトさんの部屋の客室で就寝した。
「…………」
ふと夜中に目が覚めた僕は、ベッドの上で寝返りを打つ。
すると、視線の先に、あの『タナトス魔法武具の剣』が括りつけられた自分のリュックがあった。
窓から差し込む、紅白の月光。
それに照らされて、美しい装飾が輝いて見える。
……ん。
なんとなく、僕は手を伸ばして、その『古代の魔法剣』の柄に触れた。
ギュッ
軽く握る。
(…………)
色々なことを思い出して、なんだか胸が熱くなった。
でも。
今日から僕は、この剣の使い手になるんだ――その事実を、しっかりと心に刻み込む。
(うん)
僕は小さく笑った。
柄から手を放すと、また反対側へと寝返りを打ち、そのまま目を閉じる。
短い息を吐く。
そうして僕の意識は、またゆっくりと眠りの温かな闇に落ちていった――。
ご覧いただき、ありがとうございました。
これにて『ミューグレイ遺跡編』も終了です。
次回更新は、少しお休みを頂きまして、6月14日月曜日を予定しています。2週間ほど間が空いてしまいますが、どうかお許し下さいね。
更新再開した時に、もしよかったら、またマールたちの物語を読んで頂けましたら幸いです♪
また、いつもブクマや評価、感想など、とても励みとなっております。皆さん、本当にありがとうございます~!