423・所有権
第423話になります。
よろしくお願いします。
「マールは、本当に凄いですね」
僕を見つめたイルティミナさんは、そう困ったように笑った。
オルファナさんは、
「マール君……」
と感動したように瞳を潤ませている。
レオルクさんは、
「ビギナーズラック、というべきか、信じられない強運だな……。いや、もしかしたら、マールには『真宝家』の才能があるかもしれないぞ」
と言う。
寡黙なジャックさんは、大きく頷いていた。
(あはは……)
何にしても、無駄足にならなくてよかった。
タナトス魔法文字の刻印された、美しい古代の片手剣は、僕らの目の前で輝いている。
……綺麗だな。
しばし見つめ、それを鞘に戻した。
リィン
小さな音色が響き、僕は、大きく息を吐く。
それからレオルクさんたちは、この室内をくまなく調べたけれど、隠し扉があったのは、僕が見つけた一箇所だけだった。
「きっと日頃の行いですね」
イルティミナさんは、『うんうん』と頷いている。
僕は、小さく笑ってしまう。
とにもかくにも、こうして6年ぶりのレオルクさんたちの探索は終わったんだ。
戦利品は、『タナトス魔法武具』が1つ。
うん、充分なお宝だ。
レオルクさんたちも、満更でもなさそうな顔をしていた。
そうして僕らは、地下6階から今まで通って来た道を戻り、ミューグレイ遺跡をあとにしたんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
遺跡を出ると、もう夕暮れだった。
夜の森は危険だ。
なので、今夜は、ミューグレイ遺跡1階の礼拝所で野営をすることになった。
紅白の月が、夜空に昇る。
「かんぱ~い!」
それを壊れた天井の隙間から見上げながら、僕らは焚き火を囲んで、木製のカップをぶつけ合った。
ちなみに、中身はお茶です。
さすがに冒険には、お酒は持ってきてなかったんだよね。
でも、美味しかった。
みんなも、お酒じゃなくても凄く陽気だったし、クエスト成功の達成感を楽しんでいるみたいだった。
(僕も嬉しいよ)
レオルクさんは、
「今回の冒険は、イルティミナ、マール、お前たち2人がいてくれたから成功できたんだ。一緒に来てくれて、本当にありがとうな」
そう笑った。
お役に立てたのなら、何よりだよ。
そう伝えると、
「何よりどころじゃないよ~」
とオルファナさん。
「マール君、大活躍だったよ~。魔法をいっぱい使ってくれたし、ゴーレム相手にもがんばったし、何より、あの『タナトス魔法武具』を見つけてくれたんだよ~?」
ペチペチ
オルファナさんの手で、僕の背中が何度も叩かれる。
ジャックさんも大きく頷いて、
「イルナ、凄かった。でも、マールも凄かった」
と言ってくれた。
ジャックさん、いつも寡黙だから、言葉にして褒められると凄く嬉しいな。
イルティミナさんも、僕の髪を愛しそうに撫でる。
「さすが、私のマールです。妻として、本当に鼻が高いですよ?」
チュッ
そうして、おでこにキスされる。
(わ?)
レオルクさんはヒュ~ッと口笛を吹き、オルファナさんは「きゃあ♪」と口元を手で押さえながら、嬉しそうな悲鳴をあげた。
えへへ……。
ちょっと恥ずかしかったけど、でも幸せ。
自分としては隠し扉を見つけた以外、何もしていないような感覚だけど、みんなが褒めてくれるから嬉しかった。
お酒も入っていないのに、なんだかフワフワした気持ちになってしまう。
そんな中、
「ところでレオルク?」
「ん?」
イルティミナさんが声をかけ、レオルクさんは木製カップを口につけたまま、彼女を見返した。
イルティミナさんは、美しい髪を揺らして首をかしげ、
「あの見つけた『タナトス魔法武具』の剣は、誰に所有権があるのでしょう?」
と問いかけた。
…………。
途端、温かかった空気が、少し変わった気がした。
(え?)
みんながお茶を飲むのをやめ、レオルクさんとイルティミナさんを見た。
彼女は言う。
「見つけたのは、マールです。ですが、ミューグレイ遺跡探索を提案し、実行に移したのは貴方がたです。あの剣をどうするつもりなのか、お聞かせ願えますか?」
それは、とても静かな声だった。
…………。
僕の視線は、僕のリュックに括りつけられている美しい『古代の片手剣』へと向いた。
お宝の分配。
それはとてもデリケートな問題だ。
これが財宝なら、5人で平等に分配できる。
でも、見つかったのは、剣1本。
それは、誰か1人しか所有できない。
もっと言うと、レオルクさんたち3人の所有になるか、僕とイルティミナさん2人の所有になるか、といった話になってしまうのだ。
(剣を売ってお金にすれば、平等に分配できるけど……)
でも、6年前はそうしなかった。
それなら、今は、どうするつもりなんだろう?
ジャックさん、オルファナさんも固唾を飲んで、リーダーの決断を待っている。
パチッ パチチッ
焚火の爆ぜる音だけが響く。
火の粉が舞い上がり、揺れる炎が、僕ら5人の顔を照らしている。
「……そうだな」
長い沈黙の果て、レオルクさんは、ゆっくりと口を開いた。
「俺とマールは剣士だし、それなのに、せっかく見つけた魔法の剣を売るのは勿体ないだろう。なら、俺たちどちらかの所有にするべきだ」
そうはっきりと言った。
(僕とレオルクさんの……どちらか)
レオルクさんは、イルティミナさんの顔を見つめた。
彼女は視線を逸らさない。
彼は、小さく笑った。
それから、大きく息を吐くと、僕の方を見て、
「今から俺とマールで戦い、その勝者が所有者になる……というのはどうだ?」
と言ったんだ。
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※次回更新は、明後日の金曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。