表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

471/825

423・所有権

第423話になります。

よろしくお願いします。

「マールは、本当に凄いですね」


 僕を見つめたイルティミナさんは、そう困ったように笑った。


 オルファナさんは、


「マール君……」


 と感動したように瞳を潤ませている。


 レオルクさんは、


「ビギナーズラック、というべきか、信じられない強運だな……。いや、もしかしたら、マールには『真宝家』の才能があるかもしれないぞ」


 と言う。


 寡黙なジャックさんは、大きく頷いていた。


(あはは……)


 何にしても、無駄足にならなくてよかった。


 タナトス魔法文字の刻印された、美しい古代の片手剣は、僕らの目の前で輝いている。


 ……綺麗だな。


 しばし見つめ、それを鞘に戻した。


 リィン


 小さな音色が響き、僕は、大きく息を吐く。


 それからレオルクさんたちは、この室内をくまなく調べたけれど、隠し扉があったのは、僕が見つけた一箇所だけだった。


「きっと日頃の行いですね」


 イルティミナさんは、『うんうん』と頷いている。


 僕は、小さく笑ってしまう。


 とにもかくにも、こうして6年ぶりのレオルクさんたちの探索は終わったんだ。


 戦利品は、『タナトス魔法武具』が1つ。


 うん、充分なお宝だ。


 レオルクさんたちも、満更でもなさそうな顔をしていた。


 そうして僕らは、地下6階から今まで通って来た道を戻り、ミューグレイ遺跡をあとにしたんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 遺跡を出ると、もう夕暮れだった。


 夜の森は危険だ。


 なので、今夜は、ミューグレイ遺跡1階の礼拝所で野営をすることになった。


 紅白の月が、夜空に昇る。


「かんぱ~い!」


 それを壊れた天井の隙間から見上げながら、僕らは焚き火を囲んで、木製のカップをぶつけ合った。


 ちなみに、中身はお茶です。


 さすがに冒険には、お酒は持ってきてなかったんだよね。


 でも、美味しかった。


 みんなも、お酒じゃなくても凄く陽気だったし、クエスト成功の達成感を楽しんでいるみたいだった。


(僕も嬉しいよ)


 レオルクさんは、


「今回の冒険は、イルティミナ、マール、お前たち2人がいてくれたから成功できたんだ。一緒に来てくれて、本当にありがとうな」


 そう笑った。


 お役に立てたのなら、何よりだよ。


 そう伝えると、


「何よりどころじゃないよ~」


 とオルファナさん。


「マール君、大活躍だったよ~。魔法をいっぱい使ってくれたし、ゴーレム相手にもがんばったし、何より、あの『タナトス魔法武具』を見つけてくれたんだよ~?」


 ペチペチ


 オルファナさんの手で、僕の背中が何度も叩かれる。


 ジャックさんも大きく頷いて、


「イルナ、凄かった。でも、マールも凄かった」


 と言ってくれた。


 ジャックさん、いつも寡黙だから、言葉にして褒められると凄く嬉しいな。


 イルティミナさんも、僕の髪を愛しそうに撫でる。


「さすが、私のマールです。妻として、本当に鼻が高いですよ?」


 チュッ


 そうして、おでこにキスされる。


(わ?)


 レオルクさんはヒュ~ッと口笛を吹き、オルファナさんは「きゃあ♪」と口元を手で押さえながら、嬉しそうな悲鳴をあげた。


 えへへ……。


 ちょっと恥ずかしかったけど、でも幸せ。


 自分としては隠し扉を見つけた以外、何もしていないような感覚だけど、みんなが褒めてくれるから嬉しかった。


 お酒も入っていないのに、なんだかフワフワした気持ちになってしまう。


 そんな中、


「ところでレオルク?」

「ん?」


 イルティミナさんが声をかけ、レオルクさんは木製カップを口につけたまま、彼女を見返した。


 イルティミナさんは、美しい髪を揺らして首をかしげ、


「あの見つけた『タナトス魔法武具』の剣は、誰に所有権があるのでしょう?」


 と問いかけた。


 …………。


 途端、温かかった空気が、少し変わった気がした。


(え?)


 みんながお茶を飲むのをやめ、レオルクさんとイルティミナさんを見た。


 彼女は言う。


「見つけたのは、マールです。ですが、ミューグレイ遺跡探索を提案し、実行に移したのは貴方がたです。あの剣をどうするつもりなのか、お聞かせ願えますか?」


 それは、とても静かな声だった。


 …………。


 僕の視線は、僕のリュックに括りつけられている美しい『古代の片手剣』へと向いた。


 お宝の分配。


 それはとてもデリケートな問題だ。


 これが財宝なら、5人で平等に分配できる。


 でも、見つかったのは、剣1本。


 それは、誰か1人しか所有できない。


 もっと言うと、レオルクさんたち3人の所有になるか、僕とイルティミナさん2人の所有になるか、といった話になってしまうのだ。


(剣を売ってお金にすれば、平等に分配できるけど……)


 でも、6年前はそうしなかった。


 それなら、今は、どうするつもりなんだろう?


 ジャックさん、オルファナさんも固唾を飲んで、リーダーの決断を待っている。


 パチッ パチチッ


 焚火の爆ぜる音だけが響く。


 火の粉が舞い上がり、揺れる炎が、僕ら5人の顔を照らしている。


「……そうだな」


 長い沈黙の果て、レオルクさんは、ゆっくりと口を開いた。


「俺とマールは剣士だし、それなのに、せっかく見つけた魔法の剣を売るのは勿体ないだろう。なら、俺たちどちらかの所有にするべきだ」


 そうはっきりと言った。


(僕とレオルクさんの……どちらか)


 レオルクさんは、イルティミナさんの顔を見つめた。


 彼女は視線を逸らさない。


 彼は、小さく笑った。


 それから、大きく息を吐くと、僕の方を見て、


「今から俺とマールで戦い、その勝者が所有者になる……というのはどうだ?」


 と言ったんだ。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、明後日の金曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コミックファイア様よりコミック1~2巻が発売中です!
i000000

i000000

ご購入して下さった皆さんは、本当にありがとうございます♪

もし興味を持たれた方がいらっしゃいましたら、ぜひご検討をよろしくお願いします。どうかその手に取って楽しんで下さいね♪

HJノベルス様より小説の書籍1~3巻、発売中です!
i000000

i000000

i000000

こちらも楽しんで頂けたら幸いです♪

『小説家になろう 勝手にランキング』に参加しています。もしよかったら、クリックして下さいね~。
『小説家になろう 勝手にランキング』
― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ レオルク達の前でご褒美のキス(おでこ)。 レオルクとジャックは兎も角、オルファナには刺激が強くないですか? ………ワタシ? 爆発しろ!……としか思いませんが何か…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ