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【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


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421・番人との戦い

第421話になります。

よろしくお願いします。

 ギギィン


 侵入者を認識した『ゴーレム生命体』は、金属音を響かせ、動き始めた。


 暗闇の中、レンズの眼球が光る。


「な、なんだ、コイツは?」


 凄まじい威圧感のある奇妙な形態のゴーレムに、初めて見るレオルクさんは、戸惑った顔をしていた。


 普通ではない。


 それだけは、3人にも伝わっているみたいだった。


「下がりなさい、レオルク、ジャック」


 カシャン


 イルティミナさんが低い声で告げて、2人の間を抜けて前に出た。


「これは、貴方たちの手に負える相手ではありません。貴方たちは、牽制に努め、決してまともに戦わないように」


 そう言いながら『白翼の槍』を構える。


 2人は困惑していた。


 僕は、そんな2人の腕を引っ張る。


「下がって」

「……マール」

「あのゴーレムは、本当に強いんだ。イルティミナさんしか戦っちゃ駄目だよ」


 真剣な表情で伝える。


 そんな僕の顔を見つめて、レオルクさんは頷いた。


「わかった」


 彼は振り返り、


「すまん、イルティミナ。お前に任せる」

「はい」


 イルティミナさんは前を向いたまま、しっかりと頷いた。


 ズシン


 5メードの巨人が、前に動きだす。


 ズシン ズシン


 足音が響き、それに呼応するように、イルティミナさんは槍を構えながら前へと走った。


 その瞬間、ゴーレムの眼球のレンズが赤く光った。


 パォン


 赤い光線が走り抜ける。


 イルティミナさんは、素早くそれを横に避ける。


 けれど、ゴーレムは首を振って、赤い光線が彼女の動きを追いかけていく。


 ズビュウウウ


 光線の当たった床が、壁が、赤く焼けている。


「な、なんだ、あれは!?」


 レーザー兵器の脅威に、レオルクさんたちは驚愕する。


 追いすがる光線を、イルティミナさんは華麗に回避しながら間合いを詰め、跳躍して、ゴーレムの頭部に肉薄した。


 槍を振り被り、振り下ろす――直前、


 ガコン


 ゴーレムの顎が外れんばかりに開き、その奥から黒い砲身が見えた。


(まずい!)


 気づいたイルティミナさんは、空中で、すぐに身を捻った。


 ボヒュッ


 その横を砲弾が抜けていく。


 そして、それは通路の天井に直撃し、大爆発を起こした。


 ドパァアアン


「大砲だと!?」

「っっ」

「きゃあああっ!」


 爆発による天井の破片が飛んでくる。


 レオルクさんの盾とジャックさんの大盾が、それらを受け止め、弾いていく。


 ガンッ ゴッ ゴンッ


 鈍い音が響く。


 僕とオルファナさんは、2人の陰で、なんとか飛来する破片を回避した。 


 そして、『ゴーレム生命体』は、その巨大な4本の腕を振り回して、イルティミナさんに殴りかかっていく。


 ズガン ドゴォン


 壁が凹み、床が軋む。


 イルティミナさんは神速でそれを回避しながら、『白翼の槍』を振り抜いた。


「シィッ」


 ヒュコン


 生身の腕の1本が切断される。


「やったわ!」


 オルファナさんが歓声をあげた。


 けど、次の瞬間、その腕の切断面から白煙が噴き出し、斬られた部位が癒着して元通りに繋がってしまう。


「……はっ?」


 レオルクさんが呆けた。


 僕は舌打ちしたい気分で、


「あのゴーレムは、凄い回復能力があるんだよ。普通に斬っても駄目なんだ」


 と教えた。


 生身の部分は、超回復。


 金属部分には、刃が通らない。


 本当に厄介な相手なんだ。


(だって、タナトス王の王墓に配置されてたゴーレムだもんね)


 強くて当たり前だ。


 そして、『ゴーレム生命体』は繋がった腕をイルティミナさんへと伸ばした。


 ヒィン


 その手のひらの先に、タナトス文字が浮かぶ。


 それは、無数の氷の柱となって、凄まじい勢いでイルティミナさんへと襲いかかった。


「な……魔法も使えるのか!?」


 レオルクさんの驚愕の叫び。


 バキン ギャリンッ バリィン


 イルティミナさんは下がりながら槍を回転させ、迫る氷柱たちを砕いていく。


 オルファナさんが杖を握り締め、


「あ……あんな化け物、どうやって倒すんですか? いくらイルナさんでも、無理ですよぉ」


 震えた声を出す。


(確かに……)


 王墓で遭遇した時は、キルトさん、ダルディオス将軍、フレデリカさん、ラプト、レクトアリス、ソルティス、ポーちゃんもいたんだ。


 それに比べたら、戦力は大きく低下している。


(……せめて、レクトアリスがいれば)


 僕は歯噛みする。


 あの『ゴーレム生命体』を倒すためには、体内にある魔導機関を破壊する必要があるんだ。


 王墓では、レクトアリスの探査力で、その位置を見つけていた。


 でも今、ここに彼女はいない。


 体内のどこに、弱点となる魔導機関があるのかわからないんだ。


(でも)


 だからって、嘆いていても始まらない。


 みんなはいなくても、ここには、まだ金印の魔狩人イルティミナ・ウォンがいるんだ。


 目の前で、彼女は戦っている。


 なら、


(僕らは僕らにできることをして、少しでもイルティミナさんの援護をするんだ!)


 そう決めた僕は、『妖精の剣』を空中に走らせる。


 描かれるのは、赤いタナトス魔法文字。


 3人は驚いた顔をする。


「マール君、それは……っ!?」


 オルファナさんが気づいて、大きく息を呑んだ。


 僕は告げる。


「あの巨人の足を焼け! ――フラィム・バ・トフィン!」


 その叫びに呼応して、タナトス魔法文字が光り輝くと、そこから何百という『炎の蝶』が溢れ出した。


 それは、ゴーレムの足元に殺到する。


 ドパッ ドパパァン


 その『炎の蝶』が触れた場所で、爆発が起きていく。


 あの巨体には、大したダメージにはなっていないし、焼かれた肉もすぐに修復されていく。


 けど、足の動きが止まった。


 その一瞬の隙に、


 ザキュン


 イルティミナさんの繰り出した『白翼の槍』は、ゴーレムの金属装甲を貫通し、人間でいう心臓部分へと突き刺さった。


 ギギィ


 ゴーレムの動きが一瞬、鈍くなる。


(どうだ!?)


 けれど、すぐにゴーレムは動きだし、イルティミナさんを薙ぎ払うように太い腕を振るった。


 彼女は、それを後方に避ける。


(……外れ、か)


 弱点となる魔導機関は、心臓の位置にはなかったみたいだ。


 でも、気落ちしている場合じゃない。


「オルファナさん、一緒に魔法で攻撃しましょう! イルティミナさんが少しでも攻撃し易いように、援護するんだ!」

「あ……う、うん!」


 僕の言葉に、彼女はハッとして頷いた。


「レオルクさん、ジャックさんは、敵の魔法攻撃がこっちに向いたら防いでください」

「お、おう」

「わかった」


 2人も頷いた。


 僕は、ゴーレムを見据えながら、


「レーザー攻撃と大砲は、みんなで避けましょう。その攻撃の予兆があったら、教えてください」


 そう付け加える。


 3人は指示する僕を見つめ、それから、もう一度、頷いた。


 ガンッ ギギィン


 イルティミナさんの振るう『白翼の槍』と、『ゴーレム生命体』の金属の巨碗が火花を散らしながらぶつかり合う。


 それを見ながら、


「もう一度! ――フラィム・バ・トフィン!」


 僕は再び、魔法の詠唱を口にした。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 そこからの戦いは、長期戦となった。


 僕とオルファナさんの放つ『炎の蝶』や『光の矢』の魔法がゴーレムを足止めし、その隙をついて、イルティミナさんが攻撃を仕掛けることを繰り返した。


 キュボッ


 槍の美しい刃が、腹部を貫く。


 けれど、『ゴーレム生命体』は動きを止めない。


 また外れだ。


 身長5メードもの巨体だから、狙える箇所も多いんだ。


 そんな中、ゴーレムの腕が僕らに向いた。


「来るぞ!」

「!」


 放たれるのは、真空波の魔法だった。


 僕とオルファナさんの前に立ったレオルクさん、ジャックさんが、それぞれの盾と大盾で、その魔法攻撃を受け止める。


 ギギャガァアン


 激しい衝突音と火花が散った。


 真空波は粉々に砕け、その一部が、レオルクさんの肌を裂き、ジャックさんの全身鎧に傷をつけていく。


「レオルク!」


 オルファナさんが回復魔法を使う。


 レオルクさんは「すまん」と呟き、傷が癒されると、すぐに前線に立った。


 と、


「大砲だ!」


 寡黙なジャックさんが珍しく叫んだ。


(!)


 僕ら4人は、散開する。


 数秒後、


 ドパァアン


 僕ら4人のいた地点で、大きな爆発が起きた。


 瓦礫が弾け、床が大きく削れている。


(危なかったっ)


 舞い上がる粉塵の中で、僕らは身体を起こした。


 と、


「赤い光線が来る!」


 レオルクさんが再び警告する。


(うわっ)


 見れば、闇の中に立つゴーレムの巨体にある左眼のレンズが、赤く光を放っていた。


 まずい!


 砲撃を避けた直後で、僕らの態勢は、まだ整っていない。


 と、次の瞬間、


「やらせません」


 ガチィン


 神速で、巨人の懐に飛び込んだイルティミナさんが、槍の石突部分で巨大な頭部を殴りつけた。


 パォオオン


 赤いレーザー光線は、狙いを逸れて、僕ら4人の横の床に赤く焼けた線を残して、走り抜けていく。


(イルティミナさん!)


 僕は、感謝の視線を送る。


 彼女は、そんな僕へと小さく微笑み、殴りかかってくるゴーレムの拳を華麗にかわして、戦いに戻っていった。


 僕ら4人は、体勢を立て直す。


 そして、また今までと同じような戦法で、戦いを繰り返していった。


 …………。


 戦闘開始から、30分は経っただろうか?


(そろそろだ)


 今まで魔導機関の位置を外し続けているけれど、残された部位も少なくなった。


 もう少し。


 そう思っていた時、


「……ぅ」


 ガクッ


 オルファナさんが突然、床に膝をついた。


(え?)


 見れば、顔色が青さを通り越して、真っ白だった。


 魔力切れだ!


 ゴーレムを倒すよりも先に、オルファナさんの魔力の方が底をついてしまったんだ。


 いや、彼女だけじゃない。


 レオルクさん、ジャックさんも肩で息をしている。


 体力の限界が近いんだ。


 僕は、まだいける。


 でも、3人が動けなくなってしまったら、僕は3人を守ることに専念しなければいけない。


 そうなったら、イルティミナさんの援護はできなくなる。


(……それは厳しいよ)


 さすがのイルティミナさんでも、隙のないゴーレムに攻撃を当てるのは、リスクが高すぎると思えた。


 あと少し。


 あと少しなのに……。


 僕は唇を噛み締め、


「イルティミナさん!」 


 そう叫んだ。


 彼女もこちらを見て、状況に気づく。


(……次に弱点を破壊できないと、厳しいかもしれない)


 僕は、視線にそう思いを込めた。


 彼女は頷いた。


 僕の言いたかったことが伝わったみたいに、表情を厳しくして頷いたんだ。


 イルティミナさん……。


 僕は深呼吸する。


 そして、


「行け! ――フラィム・バ・トフィン!」


 タナトス魔法を詠唱し、赤く輝く何百羽もの『炎の蝶』たちを呼びだした。


 ゴーレムの足元に殺到する。


 ドパッドパパァン ドパァアン 


 少しでも多く隙を作るために、今まで以上に多くの『炎の蝶』を生み出して、攻撃していく。


 と、


「羽幻身・七灯の舞!」


 イルティミナさんが叫びながら、『白翼の槍』を掲げた。


 その魔法石が輝く。


 次の瞬間、そこから光の羽根が噴き出して、集束し、彼女の頭上に7本の『光の槍』を生み出したんだ。


「おぉ……」

「…………」

「…………」


 その輝きに、3人の仲間の顔が照らされる。


 6年前に自分たちの見つけた『タナトス魔法武具』の力の発動、それを目の当たりにして、その瞳はキラキラと輝いていた。 


「ハッ!」


 イルティミナさんが槍を振り下ろす。


 それに合わせて、空中にあった7本の『光の槍』は、僕の魔法で動きの止まった巨人へと殺到した。


 ドパパパァアン


 直撃、そして、7つの爆発が起きた。


 爆発の煙が、ゆっくりと消える。


(あ……)


 巨人の肉体には、7つの大穴が開いていた。


 その1つの奥に、魔導機関の一部が見えた。


 爆発によって、大きく損傷している。


 そう気づいた次の瞬間、その巨体は、膝から崩れ、そのままうつ伏せに倒れた。


 ズズゥウン


 地響きが響く。


 損傷した部位が回復していくこともない。


「やった……っ!」


 その事実に、僕は拳を握った。


 レオルクさんは、ふらつくオルファナさんを支えながら、信じられないものを見た顔をしていた。


 寡黙なジャックさんも目を見開いている。


 そして、強敵である『ゴーレム生命体』を倒した金印の魔狩人イルティミナ・ウォンは、


「ふぅ……」


 と、大きく息を吐いた。


 構えていた白い槍を下ろして、美しい髪を揺らしながら、僕らを振り返る。


 そして、


「さぁ、これで先へと進めますね」


 そう、いつものように微笑んだんだ。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、3日後の月曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ なんとか『ゴーレム生命体』の撃破に成功! ……レオルク達だけで『ミューグレイ遺跡』に踏み入っていたら生きては帰れなかった事でしょう。 イルティミナを誘った事が彼…
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