419・量産品
第419話になります。
よろしくお願いします。
地下5階は、これまでの階層とは、少し雰囲気が違った。
(……空気が冷たい)
通路の壁は、一面ガラス張りになっている。
中を覗くと、そこにはアームのついた魔導機械が並んでいて、まるで精密機器の工場みたいだった。
「こっちだ」
レオルクさんが僕らを呼ぶ。
6年前に彼らが通った道を、僕は、イルティミナさんと共に進んでいく。
コツン コツン
足音が、廊下に反響する。
やがて、通路の先に、大きな扉が見えてきた。
扉は歪んでいて、隙間が空いている。
そして、その手前の通路には、3メード近い『石の巨人』が仰向けに倒れていた。
(うわっ?)
ギョッとなる僕。
そんな僕に、イルティミナさんは小さく笑って、
「この扉の先を守っていた番人のゴーレムです。6年前に、私たちが倒しました」
と言った。
レオルクさんは苦笑して、
「ほとんど、イルナ1人で倒したようなもんだけどな」
と付け加える。
(なるほど)
よく見てみれば、硬そうな石の肉体には、何ヶ所も切断面があり、頭部と右腕、左足が砕けてしまっている。
破片は、周囲に散乱していた。
他にも、通路の壁や床には、戦闘時にできたらしい凹みが幾つもあった。
(……うん、6年前の激闘を感じさせるね)
ジャックさん、オルファナさんも、少し懐かしそうにゴーレムの亡骸を見ていた。
「さぁ、中に入るぞ」
レオルクさんが言う。
僕らは頷いて、ゴーレムの守っていた扉の向こう側へと入っていった。
◇◇◇◇◇◇◇
「わぁ……」
そこは、大きな広間になっていた。
体育館ぐらいの広さ。
ランタンと『光鳥』の輝きを光源にして、その中を歩いていく。
カツン
(ん?)
つま先が何かに当たった。
視線を落とすと、それは、細長い棒みたいだった。
でも、その棒に、僕は見覚えがあった。
「これ……『白翼の槍』の柄の部分と同じだ」
驚きながら、呟く。
イルティミナさんは「はい」と頷いた。
改めて周囲を見れば、広間の床には、たくさんの槍の『出来損ない』の部品が転がっていたんだ。
穂先。
翼飾り。
魔法石。
柄。
それらがバラバラに、あるいは中途半端に組み立てられた状態で散乱していた。
(……何これ?)
僕は呆然だ。
レオルクさんは、『翼飾り』の片翼を拾い上げながら、
「400年前、ここでは、その『白翼の槍』を量産していたんだろうな。ここにあるのは不良品か、あるいは試作品か」
(量産!?)
この凄まじい力を秘めた槍を……?
僕は震えた。
タナトス時代の魔法科学力は、今の時代からは想像もできない領域にあるみたいだ。
レオルクさんは、手にした『翼飾り』を放る。
カシャン
小さな音色を奏でて、床に落ちた。
同じような『残骸』が、床にはたくさん散らばっている。
ふと見れば、広間の壁には、十数本の『白翼の槍』の『出来損ない』が金具に固定されて、並んでいた。
その内の1つが、空白になっていた。
見ていると、
「あそこに、たった1本だけ、この完成状態の『白翼の槍』があったのですよ」
カシャッ
僕の目の前に、美しい純白の槍を差し出しながら、イルティミナさんが教えてくれた。
(あそこに……)
それも、たった1本だけ。
400年間、この遺跡で眠っていたこの『白翼の槍』は、そうして6年前、イルティミナさんたちの手によって見つかり、目覚めさせられたのだ。
(何だか凄いな)
思わず、目前にある槍を見つめてしまう。
そんな僕に、イルティミナさんは微笑んだ。
レオルクさん、ジャックさん、オルファナさんも優しく笑っている。
それから、
「よし、それじゃあ、封印された扉の所へ行こうぜ!」
レオルクさんは、そう元気な声を発した。
◇◇◇◇◇◇◇
広間を通り、また別の出入り口から通路に出た。
しばらく進むと、
(わ、瓦礫の山だ?)
僕らの灯りの中に、通路を塞いでいる大量の瓦礫が現れたんだ。
天井が崩れたのかな?
大小の瓦礫が積み上がり、通路を塞いでしまっている。
6年前は、これのせいで、これ以上先に進めなくなり、最下層には向かえなかったのだろう。
「こっちだ」
レオルクさんは、瓦礫で進めなくなったのとは別の通路を進む。
しばらく進むと、
(ん? 明かりだ)
前方の闇の中に、ぼんやりした小さな光を見つけた。
近づくと、そこには金属製の扉があり、その表面には、ぼんやりと赤い光を放つタナトス魔法文字の使われた魔法陣が描かれていた。
もしかして、
「これが、新しいルートの扉?」
「あぁ、そうだ」
僕の確認に、レオルクさんは頷いた。
「予想が正しければ、この扉の向こうの区画に、最下層への階段があるはずだ」
「…………」
「…………」
彼は扉を見つめる。
ジャックさん、オルファナさんも神妙な顔だった。
(……6年、か)
その時間の重さを感じさせる表情だった。
イルティミナさんが微笑み、
「さぁ、6年前にやり残したことを終わらせましょう」
と促した。
3人は、大きく頷いた。
「よし、オルファナ」
「うん、任せて」
名前を呼ばれて、オルファナさんが扉の前に立った。
魔法陣の輝きが、彼女の顔を赤く照らす。
「ふぅ」
オルファナさんは、一度、大きく深呼吸すると、意を決したように、手にした杖を扉の魔法陣へと向けたんだ。




