418・見つけた槍を
第418話になります。
よろしくお願いします。
翌日、僕らは地下3階へと降り立った。
『グギャアア!』
移動を開始してほどなく、僕らは、5体のオークと遭遇する。
(やっぱりいたね)
そう思いながら、僕は武器を構えた。
迫る5体のオークの内、防御に徹したジャックさんが2体を受け持ち、1体をレオルクさんが受け持った。
残った2体が側面から、2人を狙う。
キュボッ ザシュン
その2体のオークたちは、イルティミナさんの槍によって、一瞬で倒されてしまった。
更に、ジャックさんと対峙する2体を、槍は貫く。
これで4体。
その間に、レオルクさんもオークの1体を倒して、魔物は全滅だ。
(僕の出番なしだね)
オルファナさんも、魔法を使う必要もなかった。
やっぱり、イルティミナさんの存在が大きいみたいだ。彼女がいることで、魔物の脅威が脅威じゃなくなっている。
(……ま、いいことなんだけど)
でも、何の役にも立てなくて、ちょっと寂しい僕だった。
そんなこんなで、通路を進む。
古い研究所みたいな空間だ。
時々、通路には6年前の戦いの痕跡なのか、巨大な虫の魔物の死骸が転がっていたりする。
(6年前……か)
その時には、僕じゃなくて、クオリナさんがパーティーにいた。
それ以外は、同じメンバーだ。
当時は、今より全員、実力が低くて、探索も大変だったのかな……なんて思った。
(…………)
目の前には、『白翼の槍』を持つイルティミナさんがいる。
それは、6年前の戦利品。
僕は、少し首を傾けて、
「見つけたタナトス魔法武具がイルティミナさんの物になったのは、やっぱり話し合いで決まったの?」
と口にした。
みんなが僕を見る。
タナトス魔法武具は、希少品だ。
そして、とても強力な力も秘めていて、冒険者なら誰でも欲しがると思ったんだ。
当時のメンバーは、5人。
見つけた1本の槍を、どうしてイルティミナさんが所持することになったのか、ちょっと気になったのだ。
だって、
(それを売って、全員で平等に報酬を分けることもできたよね?)
とも思うのだ。
そんなことを伝えると、レオルクさんは、少し遠くを見て、
「そうだな。その方法もあったかもしれない。でも、イルティミナがその槍を所持することに、誰も不満はなかったよ」
と言った。
寡黙なジャックさんも、頷く。
オルファナさんは、
「当時の探索で、イルナさんは凄い活躍でしたからね」
と笑った。
6年前も、遭遇した魔物の半数以上は、イルティミナさんの『鋼の槍』が倒したのだそうだ。
(ひぇぇ)
それは本当に凄いや。
やがて、5階層まで到達して、この『白翼の槍』を発見した。
もちろん、どうするかを話し合った。
けど、結論は思った以上に、簡単に出たそうで、それがイルティミナさんの物にするってことだったそうだ。
「見つけたのは、ちょうど槍だったしな」
ポン
レオルクさんは、イルティミナさんの肩を軽く叩く。
彼女は『槍使い』。
そして、当時の探索における最大の功労者だ。
彼女がいなければ、レオルクさんたちは地下5階まで来ることはできなかっただろうし、そうなれば、この『白翼の槍』を見つけることもできなかった。
槍使いがいるのに、槍を売却するのも勿体ない。
(なるほど)
それに、
「6年前の探索では、その『白翼の槍』以外にも、たくさんのタナトス時代の資料や遺物が見つかったからな」
とのこと。
その売却金額も、結構な数字だったんだって。
……具体的には、
「1人当たり、2万リドはいったな」
(おぉ……200万円)
その金額に、僕は驚いてしまった。
(う~ん、これが『真宝家』の求めるロマンと魅力なんだね?)
僕の表情に、『真宝家』の3人は楽しげに笑った。
イルティミナさんも微笑み、
「私自身は、この『白翼の槍』を頂くことで、そちらの報酬は頂きませんでしたね」
と、槍を撫でながら付け加えた。
ちなみに、タナトス魔法武具は最低でも10万リド――1000万円から取引されるというから、報酬抜きでも、イルティミナさん自身は、充分以上に得をしている。
それと、もう1つ。
レオルクさんは、同期の年下であるイルティミナさんを、妹みたいに心配していた。
そういう思い。
それも含めて、色々な条件が重なり合って、結果、イルティミナさんは『白翼の槍』を入手することになったんだ。
…………。
なんとなく、イルティミナさんと3人の間に、信頼の絆みたいのを感じるよ。
僕は笑って、
「本当によかったね、イルティミナさん」
「はい」
彼女ははにかみながら、頷いた。
◇◇◇◇◇◇◇
それからも、僕らは探索を続けた。
地下3階の空間では、あれから2度ほど、オークたちと戦闘になった。
(でも……)
ガシュッ ザキュン
僕は一度も剣を振るうことはなく、オークたちは倒されていった。
そして、倒されたオークの中には、他のオークたちよりも体格が大きくて、より豪華な装備をしたオークもいたんだ。
「群れのボスかもな」
とレオルクさん。
彼曰く、ボスを倒してしまえば、残されたオークたちは、巣となる遺跡を放棄して、別の場所に移動するだろうとのこと。
つまり、
(この遺跡でのオークの脅威は、ほぼ消えたってことだね)
もちろん、残党はいるかもしれない。
でも、積極的に僕らを襲うよりも、こちらの気配を感じたら、逃げていく可能性の方が高くなったそうだ。
オルファナさんは、
「こんな楽なオーク討伐は、オルファナは初めてですよ」
だって。
僕らの視線は、自然とイルティミナさんに集まってしまう。
遭遇したオークのほぼ8割は、彼女が倒したのだ。
ボスを倒したのも、イルティミナさん。
「…………」
イルティミナさん自身は、澄ました顔だ。
彼女にとっても、オーク討伐など楽な作業だったのかもしれない。その表情は、何だか退屈そうにも見えてしまう。
「さすが『金印』ってことだな」
(うん)
レオルクさんの言葉に、僕らは頷く。
そうして僕らは、地下3階を抜け、脅威のなくなった地下4階も踏破して、6年前の到達点である地下5階へと向かったんだ。
ご覧いただき、ありがとうございました。
※次回更新は、3日後の月曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。