413・昔話
第413話になります。
よろしくお願いします。
レオルクさんたちのチャーターした馬車に乗って、僕らは王都を出発する。
目指すのは、ミューグレイ遺跡。
遺跡までは、片道2週間ぐらいで、およそ1ヶ月のクエスト期間だ。
(次のクエストには、間に合うよね)
キルトさんには、クオリナさんに言伝を頼んである。
僕らに予約されている次の討伐クエストは、来月の予定で、それまでは休暇となっているから日程的には大丈夫なはずだ。
(探索で、何も問題なければ……だけど)
そんなことを思いながら、馬車は進む。
その車内で、僕らは、一緒にクエストをする3人の詳しい話を聞くことになった。
まずは、レオルクさん。
本名は、レオルク・バーゲンボルクさん。
年齢は26歳。
実は、ギルド職員のクオリナさんとは同郷の村出身で、子供の頃からの知り合いだったんだって。
クオリナさんとは、その縁でパーティーを組んだそうだ。
次は、ジャックさん。
本名は、ジャック・ホラントさん。
年齢は28歳。
ジャックさんは、冒険者ギルドに入ったのがレオルクさんと同時期で、言わば同期の友人なんだそうだ。
なので、レオルクさんとは、ずっと同じパーティーで冒険者をしているんだって。
最後は、オルファナさん。
本名は、オルファナ・ユースさん。
年齢は20歳。
彼女は、冒険者として活動する中で、同い年で同性の冒険者であったクオリナさんと友人になったのだそうだ。
その縁で、レオルクさんたちのパーティーに加入したんだって。
(へ~、そうなんだ)
3人の話を、僕は、興味深く聞いていた。
冒険者のパーティーを組む理由にも、色々とあるんだなぁ……なんて思ったり。
すると、そんな僕に、
「そこにいるイルティミナも、実は、俺やジャックと同期なんだぜ」
と、レオルクさんが教えてくれた。
(え!?)
そうなの?
僕は驚いて、隣に座る自分の奥さんを見る。
彼女は澄まして、
「そうでしたね」
と頷いた。
レオルクさんは苦笑した。
「ほら、これだ。昔からコイツは素っ気ない奴でな。話しかけても、はい、いいえ、そうですか、としか返事しないんだよ」
と、悲しげなため息。
(……あはは)
9年前、冒険者になったばかりの頃、レオルクさんは同期では最年少であり、14歳とまだ未成年だったイルティミナさんを色々と気にかけていたそうだ。
色々と話しかけたり。
パーティーに誘ったり。
でも、その少女だったイルティミナさんは、冷たい反応ばかりだったそうだ。
(う~ん)
その頃の彼女は、人間不信だったんだもんね。
その冷たい反応は、レオルクさんだけでなく、当時、彼女の周囲にいる全ての人たちに向けられていたものだろう。
おかげで、彼女はギルド内でも孤立して。
そんなイルティミナさんを、レオルクさんは、ずっと心配していたのだそうだ。
(優しい人なんだね)
なんとなく、レオルクさんには、イルティミナさんの親戚のお兄さんみたいな印象を感じてしまう僕だった。
現在のイルティミナさんは、そんなレオルクさんの昔話に、苦笑を浮かべてしまっている。
「でも、まぁいいさ」
レオルクさんは笑う。
「今は元気にやってるみたいだし、こうして若い旦那も手に入れたみたいだしな」
と僕を見て、片目を閉じる。
僕とイルティミナさんは、思わず顔を見合わせてしまった。
お互い、ちょっと赤くなる。
そんな僕ら2人に、レオルクさんとオルファナさんは楽しそうに笑い、寡黙なジャックさんは静かに微笑みながら頷いたんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
「俺たちとパーティーを組んだ頃は、イルティミナは『鋼の槍』を使っててな」
と、レオルクさん。
馬車の中での昔話は続く。
6年前のイルティミナさんは、すでに『槍使い』として、自分の戦い方を確立していたそうだ。
彼女曰く、
「私はソロで活動していましたからね。とにかく怪我を避けるため、遠い間合いで戦える武器を……となり、槍を使うようになったんです」
とのことだ。
といっても、その頃に使っていたのは、量産品の『鋼の槍』だ。
それでも彼女の戦闘力は、当時から高かったそうで、
「出会った魔物は、どんどん倒してくれてなぁ。助かるんだが、連携する気がまるでないみたいで、全部、1人で倒そうとするから、こっちとしては少し困ったよ」
と、レオルクさんは苦笑する。
イルティミナさんは、
「当時の私は、ソロの戦い方しか知りませんでしたからね」
と瞳を伏せて、説明する。
(なるほどね~)
僕の知らないイルティミナさんの話は、とても新鮮で興味深いものばかりだ。
ちなみに、現在は、レオルクさんたちは全員『白印』の冒険者だけれど、当時は、イルティミナさん以外は『青印』だったんだって。
オルファナさんは、両手を胸の前で組み合わせて、
「でも、本当に強かったんですよ、イルナさん。その姿を見て、女性なのにこんなに強くなれるんだって、オルファナは強く憧れたんです」
と瞳をキラキラさせる。
寡黙なジャックさんも、大きく頷いた。
レオルクさんも、
「確かに、あの頃からイルティミナには、俺たちにはない光るものを感じたよ」
と言った。
光るもの……かぁ。
僕も、イルティミナさんを見る。
レオルクさんも眩しそうに彼女を見て、
「あの無愛想な少女が、今や『金印』だもんなぁ。あの時に感じた感覚は、やっぱり間違いじゃなかったんだろうな」
と呟いた。
その声は、どこか嬉しそうにも、寂しそうにも聞こえる。
オルファナさんは屈託なく笑った。
「将来の『金印の魔狩人』と1回でもパーティーを組めたこと、今じゃ、オルファナたちの誇りですよ♪」
「だな」
「……あぁ」
レオルクさん、ジャックさんは頷いた。
イルティミナさんは、静かに瞳を伏せて、
「そうですか」
とだけ呟いた。
それから、レオルクさんがふと思い出したように、
「そういや、クオリナも光るものがあったんだよなぁ」
と、懐かしそうに言った。
(クオリナさん?)
僕の視線に気づいて、
「アイツは、二刀流の剣士でな。同じ村の出身だった俺と同じギルドに入って、パーティー組んで、当時は、剣の扱いを教えたもんさ。けど、あっという間に上達して、俺より強くなってな。……あの足の負傷は、本当に残念だったよ」
「…………」
「…………」
ジャックさん、オルファナさんも切なそうな顔だ。
イルティミナさんは頷いた。
「私から見ても、当時のあの子は強かったです。将来が楽しみな、本当に才能のある娘でした」
……そっか。
(クオリナさんは、そんなに凄い冒険者だったんだね)
僕は、ギルド職員の彼女しか知らないけれど、当時の冒険者としての彼女にも会ってみたいなと思ってしまった。
…………。
でも、それはもう叶わない。
冒険者の世界は、本当に過酷で何があるかわからないんだ。
(気をつけよう、僕も)
そう心に刻み込む。
それから、今朝、僕らを見送ってくれたクオリナさんの笑顔を思い出した。
(…………。うん)
僕は、黙ってしまった4人を見て、
「冒険者の道ではないけれど、でも、今のクオリナさんは前を向いて、もう新しい道を歩いているんだね」
と笑った。
4人は驚いた顔をする。
イルティミナさんは、白い手を伸ばして、僕の髪を優しく撫でる。
そして、
「そうですね、その通りです」
と微笑んだ。
レオルクさんも頷いて、
「あぁ、そうだな」
「ん」
「うん、そうね」
ジャックさん、オルファナさんも大きく頷き、3人は穏やかに笑ったんだ。
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