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412・思いを定めて

第412話になります。

よろしくお願いします。

 結局、イルティミナさんは、その場でミューグレイ遺跡に行くか、決断できなかった。


「急な話だったからな」


 とレオルクさん。


 そして、


「明日の朝、馬車が出る時間まで、この冒険者ギルド前で待っている。もし、その気になったら来てくれよな」


 と笑った。


 そうして、クオリナさん、3人の冒険者と別れて、僕らは自分たちの家へと帰ったんだ。


 夕食を食べ、楽しく話して夜を迎える。


 昼間の話は、特にしなかった。


「あぁ……マール!」


 夜の時間も、共に過ごして、それから就寝した。


 …………。


 夜中、ふと目が覚めた。


 同じベッドに寝ていたはずのイルティミナさんの姿がない。


「…………」


 僕は、ベッドから起きあがった。


 ペタペタ


 小さな足音を立てながら、廊下を歩く。


 やがて、大切な彼女の姿を見つけたのは、月明かりに照らされる庭でだった。


 シュッ フォン


 その手には『白翼の槍』があり、彼女は、それを振るっていた。


 美しい舞だ。


 まるで月の精霊が、この世界に顕現したかのような幻想的な風景だった。


 僕は、それを見守る。


 僕の気配に気づいているだろうに、彼女は、その槍の舞をやめなかった。


 何かを確かめるように。


 その心を見つめるように。


 ただ一心に槍を振るっている。


 ヒュオン


 やがて、その白い槍の動きが止まった。


「ふぅぅ」


 彼女は、夜空に向かって大きく息を吐いた。


 それから、僕の方を向いて、どこか申し訳なさそうに微笑んだ。


(……ううん)


 僕は笑って、


「お疲れ様」


 彼女に近づき、優しく抱きしめた。


 火照った身体。


 汗に濡れた髪を揺らして、彼女は、僕の肩に額を押しつけ、ゆっくりと体重を預けてくれたんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 2人で縁側に座って、春の夜風を浴びる。


 その中で、


「6年前の私は、まだ世間知らずの生意気な小娘でした」


 と、彼女は言った。


 17歳のイルティミナさん。


 当時の彼女は、『白印』になったばかりの冒険者で、いつもソロで討伐クエストをこなしていたそうだ。


 実力は高かった。


 ソロでもクエストを完遂し、たまに他のパーティーに助っ人として加わることもあるほどで。


 そして、


「レオルクやクオリナの冒険者パーティーに参加したのも、そうした助っ人として頼まれたからでした」


 とのことだ。


 実は、助っ人ではなく、パーティー加入の打診もされてたそうだ。


 当時からイルティミナさんは若く、実力もあって、将来性も高かったから、多くの冒険者パーティーの勧誘があったんだって。


 でも、彼女は首を縦に振らなかった。


「人間不信だったんです」


 イルティミナさんは、そう苦しそうに笑った。


 ……無理もない。


 彼女は、突然、見知らぬ人々に故郷の村を焼かれ、愛する両親を殺されたんだ。


 そして、異国の地に妹と2人きり。


 彼女が他人をなかなか信用できないのは、仕方のないことだと思えた。


 カシャン


 イルティミナさんは、その手の中にある美しい純白の槍を、天へと掲げる。


 月光に、槍が煌めく。


 ……白翼の槍。


 タナトス時代に造られた魔法の槍であり、イルティミナさんがずっと愛用している槍。


 真紅の瞳を細め、


「この槍を見つけたんです。その6年前に訪れた、ミューグレイ遺跡の奥で」


 その声は、歌うように響いた。

 

 …………。


 見つけたのは偶然で、けれど、その威力は本物で、この『白翼の槍』を手に入れたことで、彼女の人生は大きく前進したのだそうだ。


 槍の力もあって、彼女は高難度のクエストもこなすようになった。


 冒険者ギルドからも目をかけられ、一般的なギルドではトップとなる『銀印』のランクまで駆け上がってしまった。


 気持ちにも余裕が生まれた。


 持ち家を手に入れたのも、この時期だ。


 やがて、子が産めない身体と知ったことで、壊れそうだった心を支えたのも、この槍の存在があったからだった。


 タナトス魔法武具を手にしている誇り。


 それが、自らが『魔狩人』であるという自信と勇気を与えてくれた。


 イルティミナさんは、 


「私にとって、この槍は、もはや自身の一部になっているのです」


 そう静かに語ってくれた。


 彼女は、ジッと手にした純白の槍を見つめている。


 僕は、微笑んだ。


「明日の朝、一緒に冒険者ギルドに行ってみようか?」

「…………」


 彼女は目を閉じる。


 その白い槍を自分の肩に預けると、僕の手をギュッと握った。


「はい」


 そう静かに答えた。



 ◇◇◇◇◇◇◇

  


 翌朝は、少し雲のある空だった。


 僕とイルティミナさんは、手を繋いで、一緒に冒険者ギルド『月光の風』の前へとやって来る。


 白亜の建物。


 その門前に、3人の冒険者とクオリナさんが立っていた。


 僕らに気づき、その表情が輝く。


「来てくれたんだな!」


 レオルクさんが嬉しそうに笑った。


 ジャックさんは小さく頷き、クオリナさんとオルファナさんは「わ~い!」と両手を合わせて喜んだ。


 僕らも笑った。


「よろしくお願いします」

「6年ぶりですが、よろしく頼みます」


 そんな挨拶。


 そうして僕らは、合流する。


 その時、雲の切れ目から、ふと朝日が差し込んだ。


 その光は、イルティミナさんの手にある『白翼の槍』にも降り注ぎ、周囲に美しい輝きを散らしたんだ。

ご覧いただき、ありがとうございました。



マールたちの物語を読んで下さる皆さん、いつもありがとうございます。

これからも読んで面白かった、楽しかった、などなど感じてもらえたらと願いながら、一生懸命頑張っていきますので、どうぞよろしくお願いします。

挿絵(By みてみん)

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※次回更新は、3日後の月曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ 若き日のイルティミナ、やんちゃした挙げ句に『銀』へと昇格。 その後に家を買い、不妊が発覚してヤケを起こす。 まさに激動の17歳でしたね。 槍の存在は支えとなった…
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