411・再会した3人の冒険者
第411話になります。
よろしくお願いします。
「知ってる人たち?」
僕は、自分の奥さんに問いかけた。
彼女は頷いて、
「はい。確か、クオリナ・ファッセの昔の冒険者仲間だったと思います。6年ほど前に1度、私も、共にクエストを受けた記憶がありますので」
と教えてくれた。
(そうなんだ?)
僕は改めて、クオリナさんと話している3人の冒険者を見る。
2人は男性。
1人は女性。
みんな20代ぐらいで、男の人は、剣士っぽい人と、大盾と戦槌を装備した重戦士っぽい人がいる。
女の人は、杖を持っていて、魔法使いみたいだ。
(見た感じ、剣士の人がリーダーかな?)
そんな印象だ。
剣士の人は、髪から獣耳が生えているので、獣人さんっぽかった。
でも、
(……初めて見る顔だなぁ)
僕も『月光の風』に所属して3年ぐらい経つけれど、これまでギルドで見た記憶のない人たちだった。
首をかしげていると、
「しかし、彼らは、クオリナの引退後、別ギルドに移籍したはずなのですが……どうして、ここにいるのでしょうね?」
とイルティミナさん。
(え? 移籍?)
「この『月光の風』は、『魔狩人』を専門とする冒険者が多いのです。ですが、彼らは『真宝家』を専門としていたので、『真宝家』が多く所属している冒険者ギルド『栄光への鍵』へと移籍していったのですよ」
へぇ、そうなんだ?
(そういう理由で移籍することもあるんだね)
そんな風にイルティミナさんと会話をしていると、ふと、クオリナさんと話していた剣士の人の視線が、僕らとぴったり合った。
あ……。
彼は驚いた顔をする。
それから、
「イルティミナじゃないか!」
喜色の表情で、イルティミナさんの名前を呼んだんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
その声で、クオリナさんと他2人の冒険者も、こちらに気づいた。
「あれ、イルナさんにマール君!?」
「……イルティミナ」
「イルナさん、久しぶりです!」
クオリナさんは驚き、重戦士の人は寡黙な感じに、魔法使いっぽい女の人は嬉しそうに声をかけてきた。
イルティミナさんも微笑む。
「こんにちは、久しぶりですね」
そう言いながら、4人の方へと近づいていく。
クオリナさんは笑って、
「2人とも来てたんだね、知らなかったよ。休暇中じゃなかったの?」
と訊ねてきた。
イルティミナさんは、「少しマールの買い物があったので、立ち寄りました」と答える。
剣士の人が、白い歯を見せて笑った。
「ちょうどよかった。実は今日は、イルティミナに会いたくて、俺たちは『月光の風』まで来たんだよ」
「私に?」
目を丸くするイルティミナさん。
彼は「あぁ」と頷いた。
そして、
「実はな……ん?」
と話を続けようとしたところで、彼女の隣にいる僕の存在に気づいた。
彼は不思議そうに、僕を見つめ、
「……その子は?」
「私の夫ですが」
あっさり答えるイルティミナさん。
……しばしの沈黙。
そして、
「お、夫ぉ!?」
「えぇええええっ!?」
「…………」
剣士の人と魔法使いっぽい女の人は驚愕し、寡黙な重戦士さんも目を見開いている。
3人の反応に、クオリナさんは苦笑した。
(…………)
何とも言えず、僕は困った。
そんな僕へと、イルティミナさんは優しく笑いかけてくれて、
「マール。こちらの3人は、右からレオルク、オルファナ、ジャックです」
と名前を教えてくれた。
僕は頷いて、
「皆さん、初めまして。僕は、マールです」
と挨拶をした。
剣士の人が、少し戸惑いつつも、
「レ、レオルクだ。よろしくな」
と右手を差しだした。
ギュッ
僕と握手をする。
(ん……)
手には硬いタコがあって、しっかりした剣士の手だった。
向こうも、僕の手にそれを感じたのか、「……ほぅ」という表情を浮かべていた。
「オルファナは、オルファナって言うの。よろしくね♪」
続いて、魔法使いの女の人。
ふんわり柔らかな笑顔だ。
でも、その瞳は興味深そうにキラキラ輝き、イルティミナさんと僕のことを交互に見比べている。
最後は、寡黙な重戦士さん。
「……ジャックだ」
ギュッ
大きな手のひらが、僕の手を握る。
うん、気は優しくて力持ち……って感じの人だね。
お互いの紹介をする僕と3人の様子に、イルティミナさんも満足そうに頷いている。
それから、
「それで、私に何か用事だったのですか?」
と問いかけた。
レオルクさんが頷いた。
「あぁ、そうなんだよ。実は、クオリナとも話していたんだけどな。お前にも伝えておいた方がいいかと思ってな」
(はて、どんな話だろう?)
僕は首をかしげた。
レオルクさんは、他の2人とクオリナさんを見る。
それから、イルティミナさんに向き直って、
「6年前に潜った遺跡のな、別ルートを見つけたんだ。当時は行けなかった最奥まで、行ける可能性が出てきたんだよ」
と強い口調で告げた。
イルティミナさんは、少し驚いた顔をした。
「あの遺跡の……ですか?」
「あぁ!」
レオルクさん、オルファナさん、ジャックさんは大きく頷く。
クオリナさんが微笑んだ。
「レオルクたちね、また、あの遺跡に潜るつもりなんだって。でも、当時、あの遺跡を探索したメンバーだからって、私とイルナさんにも声をかけてくれたんだよ」
冒険者の仁義……かな?
レオルクさんは頷いた。
「お前が同行してくれるなら、俺たちも心強い。どうだ、イルティミナ!?」
「…………」
イルティミナさんはすぐに答えられなかった。
クオリナさんは、瞳を伏せる。
自分の右足を触って、
「……私はこの足だから、もう一緒に行けないけれど、でも、もしよかったら、イルナさんはあの遺跡の奥がどうなっているか、見てきてくれないかな?」
と、僕の奥さんを見つめた。
「……クー」
イルティミナさんは驚いた顔だ。
少し迷っている感じ。
黙ってみていると、そんな僕の肩を、クオリナさんはポンと叩いた。
「なんなら、私の代わりにマール君も連れて行って、ね?」
え? 僕も?
僕は驚いた。
昔、仲間だった3人も驚いている。
「その子供もか?」
「だ、大丈夫なの?」
「…………」
「失礼だな。マール君、こう見えても、もう『白印』だし、次の『銀印』候補でもあるんだよ?」
「はっ?」
「銀印っ!?」
ジャックさん以外の2人が、驚きの叫びをあげる。
いや、僕も初耳。
レオルクさん、オルファナさんの僕を見る目が、少し変わった気がする。
ジャックさんはあまり変わらない感じだけど……。
クオリナさんは「ふふん」と得意げだ。
「伊達に、イルティミナさんの旦那様じゃないんだよぉ?」
「…………」
「…………」
「…………」
3人の視線が向けられる。
(あはは……)
僕は、曖昧に笑うしかなかった。
イルティミナさんは、そんな僕らのやり取りを静かに見守っている。
そして、
「マールも行ってみたいですか?」
と聞かれた。
いや、正直、どっちでもいいけど……。
というか、
「そもそも、その遺跡って、どういうところなの?」
と聞き返した。
イルティミナさんは「あ」と呟き、
「失礼しました。そうでしたね」
と苦笑する。
それから、
「それは、王都から2週間ほどの位置にある地下遺跡、名前は、ミューグレイ遺跡。6年前、私たちが依頼を受けて探索した場所であり、けれど、崩落した区画があって、最下層までは進めなかった遺跡です」
と教えてくれた。
そして、イルティミナさんの白い指が、僕の手を握る。
キュッ
少しだけ間があって、
「そして当時17歳であった私が、あの『白翼の槍』を手に入れた場所でもあるんですよ」
そう言ったんだ。