402・少女たちの強さ
第402話になります。
よろしくお願いします。
(ソルティス、ポーちゃん!)
2人は、自分たちだけで戦う覚悟を決めたようだ。
キルトさんは頷き、
「わかった。こちらを片付け、すぐに助けに向かう。それまで、必ず生き延びてみせよ!」
そう強く言った。
…………。
キルトさんがそう言うなら、僕も2人を信じよう。
イルティミナさんも、妹たちの思いを受けいれ、『白翼の槍』を構える手に力を込める。
ギチギチギチッ
僕も、自分へと襲いかかってくる魔物へと、
「やぁああっ!」
気合を込めて、『妖精の剣』を振るった。
少しでも早く。
(こいつらを倒し切って、ソルティスたちの加勢に向かおう!)
その時の僕は、そんな風に思っていた。
◇◇◇◇◇◇◇
ソルティスとポーちゃん、2人へと巨大な鋏を持った魔物の群れが近づいていく。
ゴクン
ソルティスは緊張からか、唾を飲む。
けれど、
「問題ない」
ポーちゃんは短く言うと、先頭にいたジャイアント・シザーズへと襲いかかった。
小さな身体が走り、巨体の懐に飛び込む。
次の瞬間、
ドゴンッ
神気に輝く右拳が、魔物の胸部に突き刺さった。
赤黒い甲殻は砕け、体液が噴き出す。
衝撃で、ジャイアント・シザーズの巨体は吹き飛ばされ、仰向けにひっくり返った。
ピクッ ピクピク……ッ
痙攣し、そして、絶命する。
(え……?)
その威力に、僕はギョッとなった。
ソルティスもポカンとなっている。
その間にも、残ったジャイアント・シザーズは、小さな幼女めがけて、大きな鋏を突きだした。
ヒュン ガチィイン
閉じる鋏。
けれど、ポーちゃんは素早く身を屈めて、それを回避すると、そこから低空のアッパーカットを放つ。
ゴギャン
鋏を持った腕が吹き飛ばされた。
続いて、渾身の左ストレートがジャイアント・シザーズの頭部をグシャンッと破壊する。
魔物はしばらく立っていたが、やがて、ズズンと倒れ、絶命した。
トトン
ステップを踏み、間合いを広げるポーちゃん。
光る両拳は、すぐに顔の両側に構えられる。
「ポー……」
そんな幼女の背中を、ソルティスは茫然と見つめた。
けれど、その表情にはすぐに喜色が浮かび、強い自信が満ちてくる。
「ポーだけには、やらせないわよ!」
そう元気に宣言した少女は、左手の大杖を掲げた。
その魔法石が赤く輝き、
「この群がる魔の生命たちを吹き飛ばしなさい! ――フラィム・バ・トフィン!」
生まれたタナトス魔法文字から、大量の『炎の蝶』が飛び出した。
それは魔物の群れに舞い降りて、
ドパパッ ドパパァアン
無数の爆発と炎を散らして、洞窟内を衝撃波が駆け巡った。
(う、わぁああ!?)
足場が揺れ、天井から小石がバラバラと落ちてくる。
魔物たちは吹き飛ばされ、同時に、発生した白い水蒸気が、ソルティスの正面の視界を塞いでいく。
と、
「!?」
そこから、全身の甲殻にヒビを走らせた1体のジャイアント・シザーズが飛び出してきた。
驚くソルティス。
そんな少女の首めがけて、巨大な鋏が繰り出される。
「くっ!」
ソルティスは、右手の短剣を振り上げ、
ギャリリィン
火花と共に、鋏が逸らされる。
そして、ガラ空きとなった魔物の胴体に向けて、左手の大杖を突きだした。
「貫け、光刃! ――エルダ・レイヴィン!」
ヴォオン
瞬間、大杖先端の魔法石から『光の剣』が発生し、それは、いとも容易くジャイアント・シザーズの腹部を貫通した。
ヒュン
横に動かせば、その巨体は真っ二つ。
ソルティスは、「ふひゅう……」と息を吐いた。
魔法剣士。
すでに彼女は、魔物に接近戦を挑まれても、返り討ちにできるほどの実力を身に着けていた。
ギチギチギチッ
そんな彼女へと、更に3体の魔物が迫っていく。
けれど、
「ポオオオッ!」
ズドドドン
ポーちゃんの放った掌底打が、横から3体の巨体を吹き飛ばし、壁へと激突させる。
2体は絶命し、1体は瀕死だ。
その1体の頭部を、ソルティスの『光の剣』が跳ね飛ばす。
「ふん」
雑魚を見下ろす余裕の表情だ。
それから、ポーちゃんを見る。
2人は見つめ合い、そして、ソルティスは笑って、ポーちゃんは無表情のまま、頷き合った。
そのまま2人で、残った魔物たちに向き直る。
(……強い)
僕とキルトさんとイルティミナさんが、こっちのジャイアント・シザーズを全滅させる前に、あの2人だけで新手を倒し切ってしまいそうだ。
剣を振りながら、僕は驚いてしまった。
いや、僕だけじゃない。
戦いながら、イルティミナさんも驚いているし、キルトさんも「ほう?」と感心した顔だった。
そして、
「たぁああ!」
「ポオッ!」
ソルティス、ポーちゃんは、見事なコンビネーションで魔物の群れを駆逐していく。
その時だった。
ギチチッ
洞窟の入り口方面から、更に1体のジャイアント・シザーズが姿を見せた。
(!)
でも、そのサイズが普通じゃない。
他のジャイアント・シザーズの2~3倍、体長が7メード近くもあったんだ。
キルトさんが気づく。
「群れのボスじゃ、気をつけよ!」
そう叫ぶ。
近づく巨体に、ソルティスは少し緊張した顔をする。
けれど、ポーちゃんは、他のジャイアント・シザーズと戦った時と同じように、直線的にその懐に飛び込もうと跳躍した。
魔物の黒い眼球が光る。
キュボッ
「!」
霞むような速さで、巨大な鋏が振るわれ、その先端がポーちゃんに激突した。
弾かれる小さな身体。
クルッ ダンッ
けれど、ポーちゃんは空中で回転し、足から壁面に着地をすると、そのまま地面に降りた。
衝撃で口内を切ったのか、その唇の端から、少量の血がこぼれる。
それを見て、
「ポー、平気!?」
ソルティスは焦ったように問いかけた。
ポーちゃんは、親指で血を拭き取り、
「問題ない」
淡々と答えた。
ギチギチギチッ
ジャイアント・シザーズの群れのボスは、そんなポーちゃんめがけて肉薄し、更に巨大な2つの鋏を叩きつけようとする。
その瞬間、
「ポオオオオオオッ!」
ポーちゃんが吠えた。
同時に、彼女を中心に球状の衝撃波が発生して、2つの鋏を受け止める。
メキッ ミシシ……バキィン
逆に、2つの巨大な鋏は根元から折れ、吹き飛んだ。
体液が散り、魔物は大きく仰け反る。
その腹部へと、
「ポオオッ!」
ドゴン
ポーちゃんの光る拳がめり込んだ。
甲殻がひび割れ、7メードもある巨体は、洞窟の壁面にぶつかり、火花を散らしながら転がっていく。
なんて威力!
(これが……ポーちゃんの実力!)
魔物のボスであっても関係ない。
この小さな幼女は、まるで、あのキルト・アマンデスみたいに相手を圧倒し、追い詰めている。
ギチチ……ッ
巨大なジャイアント・シザーズはまだ生きていた。
そして、近づくポーちゃんに気づくと、グルンと踵を返して、そのまま洞窟の外へと走りだした。
(へ?)
唖然となる僕。
キルトさんが叫んだ。
「いかん! このまま逃せば、奴は、また群れを形成する可能性がある。ここで、必ず仕留めよ!」
(え、そうなの!?)
ソルティス、ポーちゃんは頷き合った。
そして、2人で逃げたジャイアント・シザーズの群れのボスを追いかけていく。
「マール!」
イルティミナさんが僕を呼んだ。
「ここは私たちが食い止めます。貴方も、2人を追ってください!」
(う、うん!)
僕は頷いた。
洞窟内に残っている魔物の数も減っている。
この場は『金印の魔狩人』の2人に任せ、僕も身を翻して、ソルティス、ポーちゃんを追って走りだした。
ギチチッ
背中から襲ってくるジャイアント・シザーズの攻撃は、
「させません!」
ギャリィィン
僕の奥さんが、しっかりと白い槍で弾き飛ばして、守ってくれた。
(ありがと!)
感謝を胸に、僕は、洞窟内を必死に走っていった。