396・エルフの来客
書籍マール2巻発売記念の毎日更新、本日は7日目です。
第396話になります。
よろしくお願いします。
僕ら4人は、冒険者ギルドの最上階にあるギルド長室に向かった。
室前では、受付秘書さんが待機している。
秘書さんは一礼し、僕らの来訪はすぐに伝えられて、ギルド長室への入室が許可された。
扉を開け、中へ入る。
(この部屋も久しぶりだなぁ)
室内を見て、そう思った。
そこは建物の中なのに、植物が茂った庭園みたいになっているんだ。
中には川も流れ、その中央に、真っ白な円形の人工島がある。
その島には、執務机や来客用のソファーなどが置かれていて、そこに、僕らの所属する『月光の風』のギルド長――真っ白い獣人のムンパ・ヴィーナさんがいた。
「いらっしゃい、みんな」
彼女は立ち上がり、柔らかな微笑みで僕らを出迎えてくれる。
僕も笑った。
「おはようございます、ムンパさん」
彼女は、笑みを深くする。
イルティミナさん、ソルティスも挨拶をして、
「それで、何用じゃ?」
最後に、ムンパさんと幼馴染であるキルトさんが問いかけた。
ムンパさんは頷いて、
「朝早くからごめんなさいね。まずは、みんな、こっちへ来てくれる?」
と、僕らを招いた。
言われた通り、僕ら4人は、真っ白な人工島へと繋がる橋を渡って、ムンパさんのいる方へと向かった。
(おや?)
途中で気づいた。
来客用のソファーに、誰かが座っている。
僕らよりも、先客がいたみたいだ。
その人物は立ち上がる。
「皆さん、お久しぶりですね」
そう告げた人物は、金髪に蒼い瞳をしたエルフの男の人だった。
あ。
「フォルスさん」
僕は、その名前を呼んだ。
彼は、その端正な美貌に穏やかな微笑みを浮かべて、ゆっくりと頷いた。
彼の名前は、フォルス・ピート。
ムンパさんと同じように、エルフが大勢所属している冒険者ギルド『草原の歌う耳』のギルド長を務めるエルフさんだった。
思わぬ人物の出現に、僕らは驚いてしまった。
◇◇◇◇◇◇◇
それから、僕ら4人は、2人のギルド長の対面のソファーに腰を下ろした。
秘書さんが、飲み物をテーブルに置き、一礼して去っていく。
パタン
部屋の扉が閉まって、僕らだけになる。
一呼吸の間。
それを見計らってから、ムンパさんは、僕らを見つめて微笑んだ。
そして、
「実は、今日、キルトちゃんたちを呼んだのは、他でもない、このフォルスさんから相談を受けたからなの」
と教えてくれた。
(フォルスさんから相談?)
僕は、心の中で首をかしげる。
僕らの視線が集まって、その美しいエルフさんは、かすかに憂いを覗かせる微笑を浮かべた。
キルトさんは腕組みして、
「その内容は?」
と問いかけた。
フォルスさんは、短く息を吐き、
「皆さんにご相談したい内容は、当ギルドに所属しているポー・レスタのことについてです」
(ポー・レスタって……ポーちゃん?)
僕らは驚いた。
ポー・レスタとは、『金印の魔学者』コロンチュード・レスタの養子となった『神龍』の幼女だ。
コロンチュードさんの義娘になったことで、レスタ姓になったんだ。
「ポーが、どうかしたの?」
ソルティスが珍しく、身を乗り出している。
世話好きなポーちゃんとソルティスは、実は、意外と仲良しなんだ。
これまでの冒険でも、一緒にいる機会が多かった。
普段は人見知りな少女の発言に、フォルスさんは穏やかに微笑みながら、落ち着かせるように片手を上げた。
「悪い類の報せや相談ではありません」
そう前置きして、
「実は、ポー・レスタの所属ギルドを『草原の歌う耳』から、こちらの『月光の風』に変更できないか……つまり、移籍の相談に参ったのです」
と言ったんだ。