390・氷魔
3月19日の本日、ついに『少年マールの転生冒険記』の書籍2巻発売です!
皆さん、ぜひお手に取ってやって下さいね~!
それでは本日の更新、第390話です。
どうぞ、よろしくお願いします。
イルティミナさんの隣で、僕も『妖精の剣』を鞘から引き抜いた。
シュラン
半透明の青い刀身が、洞窟内で煌めきを放つ。
(集中しろ、マール)
足元は凍っていて、しかもスパイクを履いた状態での戦いだ。
いつもとは感覚が違う。
それも計算に入れて動かないといけない。
「…………」
表情を引き締める僕の横顔を、イルティミナさんはチラリと見つめ、それから頼もしそうに微笑んだ。
そして前を向く。
僕ら2人が戦闘態勢になって、およそ10秒後。
カッ カカッ カッ
洞窟の奥の闇の中から、白い魔物たちが十数体、足音を響かせながら姿を現した。
見た目は、白い毛皮の猿だ。
でも、その額からは氷柱のような角が生えている。
手足の先からは、曲がった鋭い爪が伸びていて、それがスパイクのように氷の地面を掴んで、滑ることなく動けているみたいだった。
それと空中にも、綿毛のような魔物が飛んでいた。
どうやら、巨大な羽虫みたいだ。
でも、全身が白い毛に丸く覆われていて、ちょっと可愛らしいユーモラスな見た目だった。
(いやいや)
見た目に惑わされちゃ駄目だぞ、マール。
相手は魔物だ。
油断なんてしちゃいけない。
そんな僕の気持ちを後押しするかのように、イルティミナさんが前を向いたまま、口を開いた。
「あの氷の魔物たちは、『氷結の吐息』を使います。直撃しないように注意してください」
氷結の吐息……?
その単語を頭に叩き込んで、僕は「うん、わかった」と頷いた。
カッ カッ
その間にも、たくさんの『氷魔』たちが近づいてくる。
「さぁ、行きますよ」
「うん!」
イルティミナさんの言葉に頷き、僕ら2人は、白い魔物の群れに向かって、それぞれの武器を振り被った。
◇◇◇◇◇◇◇
「やっ!」
「はぁっ!」
僕らの武器が振るわれるたび、魔物たちは数を減らしていく。
(うん、いけるぞ)
僕は、飛びかかってくる魔物にカウンター剣技を合わせて、その胴体を切断しながら、自信を深めていた。
この『氷魔』たちは動きが速い。
それは、足元が氷の地面とは思えないほどだ。
でも、
(充分、対応できる速さだ)
これまで、もっと速く動く相手とも戦ってきたから、落ち着いて対応ができる。
スパイクも、よく効いている。
足元を滑らせることもなく、剣技を繰り出せて、戦いの問題になることもなかった。
ヒュコッ スパン
強い相手じゃない、正直、そう感じられた。
しかも、僕のそばにはイルティミナさんもいる。
彼女は、僕以上に落ち着いていて、その白い槍が振り抜かれるたびに、氷の世界の魔物たちは1体、また1体と絶命していったんだ。
(……本当に頼もしいな)
ついつい、笑みがこぼれてしまう。
でも、濃い魔素の影響で興奮しているのか、『氷魔』たちは一向に引かなかった。
(全滅するまで戦う気?)
そんな感じだ。
でも、それならそれで構わない。僕らには充分、それができるだけの力がありそうだから。
また白い猿が飛びかかってくる。
キンッ
その突き出された氷の角を叩き折り、振り戻した剣でその首を切断する。
氷の地面に頭部が転がり、首無しの胴体は倒れた。
(よし!)
僕は、心の中で拳を握り締める。
と、その時、空中に浮かんでいた白くて丸い羽虫のような魔物が近づいてきた。
その尖った口が、こちらに向いている。
「!」
嫌な予感がして、僕はスパイクの靴で地面を蹴った。
ボパァン
魔物の口から、白い煙のようなものが放射状に吐き出された。
キラキラと空気が光る。
僕は、辛うじてそれをかわしたけれど、防寒ローブの裾だけがその煙に巻き込まれてしまった。
(あ)
ガキン
煙が触れた防寒ローブが、凍っていた。
布地を包む、白い氷の結晶ができている。
(氷結の吐息!)
その威力を知って、勝利が近いと浮かれていた僕は、ゾッとなってしまった。
直撃したら、本当にまずい。
フヨフヨ フヨフヨ
白くて丸い羽虫たちは、何匹もこっちに集まってくる。
でも、その位置は、こちらの剣が届く範囲の外だ。
いや、
(届かないなら、届く距離まで近づく!)
「神武具!」
僕の叫びに応えて、ポケットに入っていた虹色の球体が光の粒子に砕けた。
それは僕の背中に、大きな虹色の金属翼を形成する。
「行くぞ!」
バヒュッ
その翼をはためかせ、僕は空中へと飛翔した。
まさか、空を飛べると思っていなかったのか、白くて丸い羽虫たちは、驚いたように動きを止めてしまっていた。
ヒュオッ ヒュオン
そんな魔物たちに、『妖精の剣』を振る。
そのまま僕が通り抜けたあとには、バラバラになって地面に落ちていく、白くて丸い羽虫の残骸だけが残されていた。
(よし)
空中の羽虫は、これで全滅だ。
地上を見る。
そこでは、イルティミナさんが白い槍を掲げて、
「羽幻身・白の舞」
静かに魔法の言葉を口にしていた。
槍の魔法石から光の羽根が噴き出し、3人の『槍を持った光の女』たちへと集束する。
ギャギャオッ
白い猿みたいな魔物たちは吠えた。
尖った爪の生えた手足で、地面や壁を蹴り、イルティミナさんたちへと襲いかかっていく。
その魔物たちへと、イルティミナさんと3人の『光の女』たちは、手にした槍を構えて、ゆっくりと待ち構える。
…………。
そして、5分後。
洞窟内には、魔物たちの血液が湯気をあげながら立ち昇り、僕とイルティミナさん以外の動く姿は、誰もいなくなっていた。
◇◇◇◇◇◇◇
戦いに勝利した僕らは、それからも洞窟の中を進んだ。
進んでいく途中で、何度か『氷魔』たちの襲撃に遭ったけれど、僕らは傷1つ負うことなく魔物たちを撃退することができていた。
戦いのあと、
「マールも強くなりましたね」
イルティミナさんは、そう笑って褒めてくれた。
えへへ……。
ちょっと照れるけれど、嬉しいな。
それと僕自身、イルティミナさんが本当に強い魔狩人なんだなって実感したよ。『氷魔』が何百匹いたって、敵じゃない感じだった。
さすが『金印の魔狩人』。
(しかも、そんな人が僕の恋人だなんて……)
僕って、本当に幸せ者だぁ。
つくづく、そう思っていると、
「そろそろ、モアールの花が咲いている場所ですね」
イルティミナさんが歩きながら、そう口にした。
(あ、そうなんだ?)
この『氷華洞窟』に入って数時間、そろそろ目的地という地点まで、僕らは洞窟を進んでいたみたいだ。
ちなみに『モアール』という花の名前。
これは、実は『愛の女神モア』様からとった名前なんだって。
誰にも溶かせない愛の証、それがモアールの『氷の宝石』。
(……うん)
絶対に手に入れたい。
そして、それがもうすぐ本当に叶うんだ。
僕は気合を入れ直して、大切なイルティミナさんと共に『氷華洞窟』の中を歩いていく。
コツッ コツッ
長い下り坂を下っていく。
その先は、不思議と淡い光を放っていて、とても広い空間になっているみたいだった。
ズズン
そこから、重い音がした。
「…………」
「…………」
僕らの足が止まった。
顔を見合わせると、息を殺しながら、2人で壁の陰に隠れて先の様子を伺った。
ズズゥン
そこに、美しい純白の生き物がいた。
ドーム型になった広い空間、その中央に、まるで氷の彫像が動いているような巨大な竜の姿があったんだ。
僕らの目が丸くなる。
そして、
「――氷雪竜」
イルティミナさんが、最後に僕らの前に立ち塞がった強大な魔物の名前を口にした。
ご覧いただき、ありがとうございました。
ついに書籍マール2巻の発売となりました。
まっちょこ様の素敵なイラスト、巻末の書き下ろしなど書籍ならではの楽しみがありますので、もしよかったら、皆さん、どうかご購入の検討をしてやって下さいね♪
こちら2巻の書影です。
どうか、本屋さんでお探し下さいね♪
そして、皆さんへの感謝を込めて、今回もやります!
『1週間、毎日更新!』(ど~ん)
来週の26日金曜日まで、『少年マールの転生冒険記』は毎日更新いたします。もしよかったら、皆さん、どうか読みに来てやって下さいね~!
そして最後に、いつもマールたちの物語を読んで下さる皆さん、本当にありがとうございます!
これからも皆さんに楽しんでもらえるよう、また自分自身も楽しめるよう、自分なりの精一杯で頑張っていきたいと思っています。
どうかマールたちへの応援、これからもよろしくお願いいたします!