388・真相の手紙
第388話になります。
よろしくお願いします。
(どうして?)
僕は、思い人の思わぬ登場に困惑してしまった。
でも、それは向こうも同じだったみたいで、
「ど、どうして、マールがここに?」
イルティミナさんはその美貌に驚きと焦りを灯しながら、目を丸くして僕を見つめていた。
しばし、無言で見つめ合う。
(え、えっと……)
プロポーズのことを知られるわけにはいかない。
僕は必死に頭を回転させながら、
「ぼ、僕は、キルトさんとソルティスに紹介された人とここで会う約束だったんだけど……」
とだけ言った。
イルティミナさんは「え……?」と呟く。
「わ、私は、そのキルト本人とここで待ち合わせをしていて、彼女が来るのを待っていたのですが……」
「え?」
そうなの?
それには、こっちも驚いた。
(どういうこと?)
僕は、混乱してしまう。
いつも大人びたイルティミナさんも、今は珍しく、困惑した表情を浮かべて、瞳を左右に泳がせていた。
と、その時、ふと思い出した。
王都を出発する前に、
『マール。ポトルの町で案内人に会えたなら、この手紙を渡せ』
と、キルトさんに1通の手紙を渡されたんだ。
ガサゴソ
僕は、リュックの荷物を漁って、それを取り出す。
「それは?」
イルティミナさんも興味深そうに覗き込んでくる。
僕は、イルティミナさんの隣のベンチに腰を下ろすと、手紙の封を破って、一緒にその内容へと目を落としたんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
マールとイルティミナへ
この手紙が読まれているということは、2人とも無事に合流できたということじゃろう。
2人とも驚いておるかも知れぬな。
しかし、驚いたのは、こちらが先だったのじゃ。
実はな、マール、イルティミナ。
そなたらがわらわとソルティスにした相談は、今、そなたの目の前にいる相手も同じようにしてきていたのじゃ。
全く似た者同士じゃの。
そこまで気持ちが同じであるならば、もはや、気遣いは無用じゃ。
そなたら2人で『氷華洞窟』へと挑み、モアールの『氷の宝石』を共に手に入れてくるが良い。
場所は、イルナが知っておる。
サポート役も、わらわではなく、マールを頼るが良い。
自分たちの幸せを手に入れるための初めての共同作業じゃ。それを終え、2人が笑顔で戻ってくることを、ムーリアで待っておるぞ。
キルトより
イルナ姉、がんばってね!
マールは、イルナ姉の足を引っ張るんじゃないわよ? しっかりね!
ソルティスより
◇◇◇◇◇◇◇
「…………」
「…………」
読み終えても、僕らはその手紙を凝視してしまっていた。
長い沈黙。
それから、お互いの顔を見る。
イルティミナさんの顔は、真っ赤になっていた。きっと僕も同じだ。
だって、
(お、同じ相談って……つまり、お互いに『相手にプロポーズしたい』って相談したってことだよね?)
その事実が、甘く脳を痺れさせている。
ゴクッ
思わず、唾を飲み込んだ。
イルティミナさんが桜色の唇を震わせながら、ゆっくりと開いた。
「そ、その……そうなのですか、マール?」
と確かめてくる。
僕は「う、うん」と頷いた。
「イ、イルティミナさんも、そ、そういう相談をキルトさんとソルティスにしたの?」
「は、はい」
コクン
彼女は、なんと肯定してくれた。
(ふわぁぁ……)
天にも昇る気持ちとは、こういうことだろうか?
イルティミナさんは、恥ずかしそうに瞳を伏せて、膝の上で両手を組み合わせる。
そして、
「わ、私の方が年上ですし、その、マールをリードしなければいけないかと……。それにマールは魅力的な男の子ですから、早くしないと他の女の人に狙われてしまいそうで……その、それで」
と、どもりながらも教えてくれた。
それから、
「お、女から、け、結婚を求めるのは……は、はしたないと軽蔑しますか?」
上目遣いで、不安そうに聞いてくる。
僕は、ブンブンと首を横に振った。
「ううん!」
むしろ嬉しい!
「僕だって、そういう相手はイルティミナさんしか考えられないし、だから、凄く嬉しいよ!」
「……あ」
その白い手に自分の手を重ねながら力説すると、彼女は驚いた顔をする。
それから、安心したように微笑んだ。
「……マール」
こちらを見つめる真紅の瞳は、熱っぽく潤んでいく。
(う……)
その熱に当てられたのか、僕の頬も熱くなってきた。
ドキドキ
心臓の鼓動も早くなる。
そのまま僕らは見つめ合う。
そして、どちらからともなく顔を近づけると、お互いの唇を触れ合わせ、優しいキスを交わしたんだ。
「…………」
「…………」
顔が離れ、また見つめ合う。
お互いに真っ赤だ。
そんな自分たちがおかしくなって、僕とイルティミナさんは照れながら、ついつい吹き出すように笑い合った。
それから、その日は、ポトルの町の宿屋に2人で一泊した。
そして、翌日、
「それでは参りましょうか、マール」
「うん、イルティミナさん」
僕とイルティミナさんは笑顔を交わすと、目的地である『氷華洞窟』を目指して、ポトルの町を出発したんだ。