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382・希望と光の神槍

第382話になります。

よろしくお願いします。

「――どうかな?」


 説明を終えた僕は、3人の仲間の顔を見る。


 キルトさんは「ふむ」と考え込み、ソルティスは、そんな自分たちのリーダーの顔を見つめた。


 そして、


「私は、マールを信じます」


 イルティミナさんは迷いのない表情で、即、そう言い切ってくれた。


(イルティミナさん……)


 その信頼が、素直に嬉しい。


 キルトさんは苦笑し、それからすぐに表情を戻して、頷いた。


「わかった。やろう」


 そう決断してくれる。


 そんな2人の大人に、ソルティスはため息をこぼした。


「ま、そうするってわかっていたけど……。でも、失敗したら、私ら確実に死ぬわね~」


 ちょっと遠い目だ。


 その姉は、


「何もしなくても、私たちは皆、死にますよ。ならば、生きるために最後まで足掻くのも良いのではありませんか?」


 そう言った。


 僕ら4人は、視線をあげる。


 そこには、青い空に向かってそびえる『漆黒の大巨人』の姿があり、その強大無比な力によって『神々』と『悪魔』が滅ぼされていく光景があった。


 その破滅は、やがて世界全体へと広がるだろう。


 誰も生き残れない。


 残されるのは、全ての生命が死に絶えた暗黒の世界だ。


 …………。


 ソルティスは苦笑した。


「そうね」


 それから僕のことを見て、


「いいわ、やるだけやってみましょ? もしも死ぬ時は、どうせみんな一緒なんだもの」


 と笑った。


 僕も笑った。


「死なないよ。僕らは生き残るために、これから戦うんだ」


 そう言いながら、右手を前に伸ばす。


「はい」


 その僕の手の上に、イルティミナさんも右手を重ねた。


 キルトさん、ソルティスも顔を見合わせ、


「うむ」

「がんばりましょ」


 2人の手も重ねられた。


 お互いの顔を見て、僕ら4人は笑い合う。


 触れ合う手の温もりに、信頼と覚悟の心を重ねて、そうして僕らは『悪魔王』を倒すために動きだした。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「なんか、初めてマールにあった時を思い出すわねぇ」


 ソルティスはそう言いながら、大杖を構えた。


 その魔法石が、赤く輝く。


 それは空中に赤いタナトス魔法文字を描いていき、強い魔力が集束していくのが感じられた。


 これは魔力が枯渇しかかった彼女の、きっと最後の魔法。


 そして、


「燃え盛る太陽の神鳥よ。私たちに生命の祝福を」


 少女は歌う。


 その強固なイメージと意思によって、練り上げられた魔法が発動する。


「ラー・ヴァルフレア・ヴァードゥ」


 ボァアン


 空中にあったタナトス魔法文字が炎と化し、それは渦を巻いて集まり、全長10メードはある巨大な炎の鳥となった。


 太陽の力を秘めた魔法の鳥。


 ソルティスの知る、最大火力の大魔法でもある。


(…………)


 少し懐かしい。


 初めて彼女と出会ったアルドリア大森林で、僕らは『闇のオーラ』をまとった赤牙竜ガドと戦った。


 その時も、彼女は『太陽の力』をまとった魔法を使ったんだ。


 理由は、『闇のオーラ』が太陽光に弱いから。


 それに気づいたのは、僕。


 そして彼女は、それに応えてくれたんだ。


 それは、なんだか今の状況とよく似ていて、僕とソルティスは顔を見合わせて、小さく笑い合ってしまった。


 これから行う作戦は、単純だ。


 あの『悪魔王』の唯一の弱点である『闇の子の生首』を、遠距離から狙撃する――それだけだ。


 でも『悪魔王』の防御は強固だ。


 それは『神々』や『悪魔』たちの攻撃が通用しないことからもわかっている。


 原因は、その全身にまとう『闇のオーラ』。


 そのあまりに濃密な魔力の波動は、『神々』や『悪魔』の攻撃を無効化してしまうほど、強い力を秘めていた。


 だからこそ、


(まず『太陽の力』を宿した魔法で、それを消す)


 それが作戦の1つ目だ。 


 完全に打ち消せるかはわからないけれど、弱化させることは、間違いなくできるはずだ。


 そして、そこに攻撃を撃ち込む。


 ピンポイントの精密射撃。


 それが可能なのは、イルティミナさんの『白翼の槍』による攻撃だけだ。


 でも、威力が足りない。


(だから……)


 僕は大きく息を吸い、吐く。


 アークインが消え、不純物である僕が戻ったことで、マールの肉体には、また3分間の『神体モード』の時間制限ができてしまった。


 でも、少しの時間で充分だ。


「――神気開放、究極神体モード」


 僕は告げる。


 それに応えて『神武具』の光の粒子が僕の全身にまとわり、そして、美しい『虹色の外骨格』を形成する。


 人型の狗。


 その手に、けれど、武器はない。


「マール」


 そんな僕に、イルティミナさんが『白翼の槍』を渡してくれた。


 コクッ


 僕は頷いた。


 ヴォオオン


 僕の意思に従って、光の粒子は白い槍にも集まり、そして、全長7メードの『虹色の巨槍』が生みだされた。


 3メードほどの虹色の刃。


 8枚の翼飾り。


 螺旋模様を描く補強が施された4メードの柄。


 ズシン


 その超重量を、僕はしっかりと支え、構えようとする。


 そんな僕の後ろにイルティミナさんが立ち、『虹色の巨槍』に手を添えて、より精密な投擲ができるように、その動作を補佐してくれた。


 これが、僕らの希望を託す武器。


 かつて、アルン神皇国に現れた『第3の闇の子』を葬った時と同じ、遠距離における、僕らが知る最強の武器だ。


 そんな僕らを見つめ、


「うむ」


 キルトさんは頷き、そして自らは『雷の大剣』を大上段に構えた。


 バチチッ


 黒い宝石のような刀身の中で、青い雷が激しく散る。それは刀身の前へと集まり、やがて青白い1つの光点となった。


 投擲を邪魔するものは、全て斬り落とす。


 青白い輝きから、その強い意思が伝わってくる。


 …………。


 僕ら4人の準備は、整った。


 全員で目を閉じて、静かな呼吸を繰り返す。


(…………)


 不思議と見えない何かで、お互いが繋がっているのが感じられた。


 それを確信して、僕らは同時に目を開いた。


(――さぁ、やろう)


 僕がそう思ったのと同じタイミングで、ソルティスは、魔法石の輝く大杖を前方へと振り下ろした。


 合わせて、巨大な『炎の神鳥』が空へとはばたく。


 僕とイルティミナさんは、まるで2人で1つの身体であるかのように、全く無理のない動きで『虹色の巨槍』を振り被った。


 その繋がりが、なんだか心地好い。


(イルティミナさん……)


 心の中で呼びかける。


 彼女も微笑みながら、心の中で僕の名前を呼んでくれているのが、不思議と伝わってきた。


 そしてキルトさんは、


「――鬼神剣・日輪斬」


 静かな声で告げ、『雷の大剣』を振り下ろす。


 リィン


 刃の正面にあった青白い光点が広がり、直径3メードほどの円筒となって、空へと撃ち出される。


 初めて見る剣技。


 恐らく、キルトさんが到達した新たな高みにある究極剣技。


 でも、不安はない。


 だから僕は、そしてイルティミナさんは、何の躊躇もなく、ただただ安心して『虹色の巨槍』を全力で投げた。


 ヒュボッ


 それは、もはや光の線としか視認できない砲撃。


 ――そうして、僕らのなすべき攻撃は、全て終わった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 巨大な『悪魔王』は、自分にとって脅威となるのは『神々』と『悪魔』だけだと思っていた。


 だからこそ、他の生命には意識を向けていなかった。


 それが致命となった。


 最初に気づいたのは、自分の頭部に迫る小さな『炎の鳥』だった。


 あまりに矮小な力。


 だからこそ、『悪魔王』はそれを無視して、受け止めることにした。


 ジュボオウ


 それは思った通り、大した威力はなくて、自身を包み込む『闇のオーラ』の魔力によって打ち消されてしまった。


 ただ、その際に、その部分の『闇のオーラ』も相殺されるように消えてしまった。


 無論、すぐに魔力の波動はそこに集まる。


 それで元通り。


 全ては何事もない、無為の出来事となる――はずだった。


 けれど寸前、そこに飛来物があった。


 まるで『炎の鳥』の影に隠れるようにして、こちらがかわせぬ完璧なタイミングで追撃された『虹色の槍』だった。


 そこで悟る。


 それは『悪魔王』にとって唯一の弱点となる『魔核』に直撃するコースだった。


 ヒュバッ


 かわすのは間に合わない。


 ならば、弾き飛ばすまでと『悪魔王』は、皮膚の表面に生えている無数の触手で、それを撃ち落とそうと振るった。


 だが、その槍の周囲は、青白い光の円筒が覆っていた。


 サキュッ バヂィン


 槍を落とそうと振るわれた触手は切断され、青い雷光によって焼かれ、防がれる。


 触手の攻撃で、青白い光の円筒は粉々になり、消えた。


 他の触手が、『虹色の槍』に迫る。


 けれど、それらは間一髪で間に合わなかった。


 間に合ったはずの触手は全て、あの光の円筒によって、弾かれてしまっていたのだから。


『……ぁ』


 小さな声が『悪魔王』の口から漏れた。


 か弱い『虹色の槍』は、魔力の防御がなくなった『魔核』を――微笑み、眠ったような表情を見せる黒髪の少年の頭部を、正確に撃ち抜いた。


 パンッ


 頭部が弾けた。


 その瞬間、『魔核』を失った『悪魔王』の肉体は、硬直し、その末端からボロボロと崩れ始めた。


 すぐに、もがくように暴れ、その苦悶の叫びのように魔力が放出される。


 それは雲を吹き飛ばし、地平の果ての大地まで破壊した。


 けれど、その断末魔のような破壊は、やがて『悪魔王』の肉体の崩壊と共に弱まっていく。


 濃密だった魔力は、黒い煙となり、この世界の大気に溶けていく。 


 その怨念も、情念も、全てが霧散する。


 全てが崩壊するまで、5分もかからなかった。


 そこに存在していたはずの世界を破滅させる『漆黒の大巨人』は、まるで最初から幻であったかのように、この世界から消えていた。


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 僕、イルティミナさん、キルトさん、ソルティスの4人は、その全てを見届けた。


 全て……。


 この『神武具』の共感力によって伝わる様々なものまで含めて、全てを僕は感じていた。


 目を閉じる。


 世界を破滅させようとした、1人の少年がいた。


 彼は孤独で、自らの生まれてきた運命を呪い、それに抗おうとして、間違った道であっても必死に生きていた。


 この世界を嫌い、呪っていた。


 この世界を壊そうとした。


(でも……)


 最後の最後に、この世界に生みだされた絶望と破滅から、この世界を守ったのは、その少年の存在そのものだったんだ。  


 なんという皮肉なことか。


「…………」


 ガシュッ


 僕は『虹色の外骨格』の頭部装甲だけを外した。


 吹く風は冷たく、茶色い髪をなびかせる。


 目を開いた。


 ふと大切な仲間である3人と目が合い、小さく微笑み合った。


 ギュッ


 一番愛おしい人が、僕の身体を強く抱きしめてくる。


 その背中に、ソッと手を回した。


 その腕の中で、ふと頭上を見上げる。


 美しい青空が、そこには広がっていた。


 どこまでも高く、遠く……。


 僕は青い瞳を細め、そして、その空に向かって、長く、長く息を吐きだした。


 ――こうして多くの希望と絶望が生まれた壮絶な戦いは終わりを告げて、あとにはただただ美しく、生命の光に満ちた世界だけが残されたんだ。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、明後日の水曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ 思いの外あっさりと『悪魔王』が滅びましたね。 まぁ、相手がデカすぎて普通に戦うのは無理っぽいし、この戦い方がベストなのでしょう。 ……マールが巨大化できれば違う…
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