043・ソルティスの魔法のために
第43話になります。
よろしくお願いします。
「人が……魔物に変わった?」
「ありえない……。あんなの、見たことも、聞いたこともないわ!」
呆然とする僕の横で、現実を認めたくないように、ソルティスは首を振る。
そんな僕らの前で、悪夢は続く。
『はぁぁ……さぁ、始めようぜ?』
悪夢の象徴たる人喰鬼は、黒い肌から煙を立ち昇らせ、醜悪な顔に笑みを浮かべて、発音の濁った人語を口にする。
キルトさんは、不愉快そうに眉をしかめた。
「なんなのじゃ、貴様は?」
『さぁて、いったい、なんだろ――な!』
フォン
『な』と同時に、オーガの巨体が、突然、消えた。
残された大地が陥没し、そして、キルトさんは、異常な速さで大剣を振り上げる。
ガギィイン
『お?』
上空から強襲したオーガは、驚いた顔をした。
その黒い巨体の下で、オーガの繰り出した巨大な拳を、キルトさんの大剣が盾となって防いでいる。衝撃で、刀身を覆っていた赤い布が弾けて、雷を宿した大剣が露になった。
「むん」
ブォン
大剣を振り抜き、上に乗っていた巨大なオーガが投げ飛ばされた。
怪物は、身軽に空中で回転し、土煙を上げて着地する。
『マジか……? お前、強えな?』
血のような眼球が、呆れたように開かれている。
キルトさんは、無言のまま、左足を1歩前に踏み出し、半身になった。
大剣を真横に構える。
「キルト」
「手出しは無用じゃ」
背後で、白い槍を構えるイルティミナさんに、振り向かずに答える。
「それよりも、そなたは竜車を守れ」
「え?」
(え?)
僕らは驚き、そして気づいた。
キルトさんがオーガと戦い始めた途端、残った野盗たちが、音もなく動き始めていたんだ。
「ちょ……まずっ!」
ソルティスが焦った声をあげる。
オーガの出現で、僕らの戦力は、2台目の馬車に集中していた。
2人の魔狩人だけじゃない。重傷を負ったクレイさんのために、彼の仲間も全員、彼のそばに集まってしまっている。
つまり、
(僕らと巡礼者さんの竜車は、完全に無防備!?)
だった。
「今の内だ!」
「全員、ぶっ殺してやれ!」
「うりゃぁああ!」
血気盛んな声をあげ、野盗たちは、3台の車両に突進する。
イルティミナさんは、一瞬、迷った。
守るべき対象は、3つ。
けれど、彼女は1人しかいない。
でも、彼女はすぐにこちらを見た。
「マール!」
こっちに駆け寄ろうとする姿を見て、僕は、慌てて叫ぶ。
「駄目!」
「!?」
「イルティミナさんは、巡礼者さんの竜車を守って! こっちには、ソルティスがいるから!」
そして、2台目の馬車近くには、クレイさんの仲間がいる。
(戦力としては、この分配が一番のはず!)
僕の言葉に、ソルティスは唖然とし、イルティミナさんは、驚きながらも躊躇の表情を見せる。
けれど、キルトさんが、視線でオーガを牽制しながら、
「よくわかっとるの、マール! ――あの小僧の言う通りじゃ、イルナ。奥の竜車に行け!」
イルティミナさんは、一瞬、唇を噛む。
こちらを見ている彼女に、僕は、大きく頷いた。
「はい、マール」
小さく答え、彼女は、身を翻す。
美しい髪をなびかせ、疾風となって、巡礼者さんたちの竜車へと向かった。
(よかった)
安心する僕の頭を、ポカッとソルティスが殴る。
い、痛い。
「勝手なこと、言ってくれちゃって……」
「ご、ごめん」
こっちの竜車を守ることになってしまった少女に、僕は謝る。
でも、これが最善だと思ったんだ。
ソルティスは、しばらく僕の顔を睨み、やがて、大きく息を吐く。
「ま、仕方ないわね。現状じゃ、それが一番いい形だもの」
そして、ソルティスは、竜車のドアノブに手をかけた。
責任を感じて、僕は、つい名を呼んだ。
「ソルティス」
「大丈夫だから。絶対に出てくるんじゃないわよ、ボロ雑巾? ――貴方たちも、ここでジッとしてて。いいわね?」
僕を睨み、そして、震えている御者さんたちにも警告する。
御者さんたちは、コクコクと頷いた。
そして、彼女は扉を開けて、竜車の外に出る。
僕は、すぐに窓に張りついた。
(3人も来てる!)
曲刀を構えた屈強な大人たちが、3人、こちらに走ってきていた。
対するは、あんな小さな背中の少女が1人。
あの子の強さを信じてるし、大丈夫だと思う……でも、不安は、心から消えない。
(いや、大丈夫! ソルティスは、あのイルティミナさんの妹だよ?)
必死に言い聞かせる。
そして、白印の魔狩人の少女は、手にした大杖を動かして、空中に魔法文字を描いていく。
バスッ
「!」
飛んできた矢を、ソルティスは、魔法を中断して、慌てて回避する。
ソルティスの魔法詠唱を見た途端、3人の野盗の1人が、武器を弓に持ち替えていたんだ。
魔法が止まった彼女めがけて、残った野盗2人が肉薄する。
先に辿り着いた1人が、曲刀を振り下ろした。
「うりゃあ!」
「くっ」
ガキィ
辛うじて、大杖で受け止める。
でも、木製の大杖は、金属製の曲刀の刃を受けて、少し削られてしまった。
横から襲ってきたもう1人の攻撃を、ソルティスは、必死に身をひねって回避する。
「こんのっ!」
ドカァ
野盗の腹部を、蹴り飛ばす。
吹っ飛ばされた野盗の男は、もう1人の男と激突し、その隙に、ソルティスはまた魔法を発動しようとした。
バスッ バスッ
「くっ……しつっこいわね!」
矢が撃ち込まれ、ソルティスは、慌てて回避する。
また魔法が中断させられた。
その間に、倒れていた2人の野盗たちも体勢を立て直し、また美しい少女めがけて襲いかかる。
(ソ、ソルティス……?)
ここに至って、僕は、自分の浅はかさに気づいた。
――ソルティスは、『魔法使い』だった。
そして、魔法を使うには『タメ』が必要で、そのためには、その時間を稼ぐ誰かがいないといけなかったんだ。
いつもなら、それを2人の年上魔狩人たちがする。
いや、彼女1人ならば、あの跳躍力で一気に距離を取り、物陰に隠れて魔法を使うことはできたかもしれない。
だけど、ここには僕と御者さん2人がいた。
だから、ソルティスは、この竜車のそばから離れられない。
本来なら野盗3人なんて敵ではないのに、『守る』という役目に対して、『魔法使い』であるソルティスの特性は、非常に向いていないのだ。
(ど、どうしよう?)
僕は、血の気が引いた。
素人の僕から見ても、ソルティスの接近戦は、拙く、危うい。
野盗たちの2つの曲刀を、あの優れた身体能力と反射神経だけで、防いでいる感じだ。
(誰か、助けを……)
僕は、別の窓に張りつき、他の戦況を見た。
キルトさんは、オーガと戦っていた。
残像を残して襲いかかる巨体に対し、彼女は、足を止めたまま、全ての攻撃を弾き返している。
ギィン ガィン バチィイイン
両者の拳と大剣がぶつかり合うたびに、青い雷光が世界を染めている。
とても、こちらに来る余裕はない。
いや、むしろ彼女には、あの怪物を抑えていてもらわないと、戦局はもっと悪化するだろう。
(イルティミナさんは……?)
彼女も、奮戦していた。
巡礼者さんたちの竜車には、一番多くの野盗たちが群がっていたんだ。他の2台より大きな竜車だから、余計に狙われてるのかもしれない。
彼女の白い槍は、野盗の数を少しずつ減らしている。
でも、野盗たちが全滅するよりも先に、ソルティスがやられてしまいそうだった。
クレイさんの仲間たちは、もっと頼れなかった。
右腕を失ったクレイさんに、ローブ姿の老人が、必死に回復魔法をかけ続けている。傷口からの出血を抑えているみたいだ。
でも、そのために動けない。
他の残った3人で、この2人と馬車を守るのは、とても大変そうだった。
シャクラさんも腰のレイピアを抜き、返り血を浴びながら、必死に野盗たちを斬りつけていた。
(駄目だ……!)
誰も、助けてくれそうな人はいない。
焦る僕の耳に、
「きゃうっ!」
ソルティスの小さな悲鳴が聞こえた。
(ソルティス!?)
慌てて、最初の窓に張りつく。
そして僕は、硬直した。
大杖を握るソルティスの白い腕から、鮮血が滴っていた。目の前の野盗の曲刀に、何か赤いモノがついている。
「はんっ……なかなか、やるじゃないの、アンタら?」
負け惜しみのように、ソルティスが笑う。
でも、痛みで呼吸が乱れ、小さな肩が、大きく上下に揺れている。
野盗の男たちは、下卑た笑いを浮かべていた。
恐ろしい曲刀を見せびらかすようにして、ゆっくりと、傷ついた美しい少女に近づいていく。
(アイツら、楽しんでる……)
ソルティスを傷つけて、笑っていた。
必死に強がるあの子を、嘲笑ってみせた。
そして、更に傷つけるのだと、彼女に恐怖を与えるために、わざとゆっくり近づいていた。
「――――」
僕の中で、何かが切れた。
「お、おい、坊主?」
「…………」
若い御者さんの声を無視して、僕は、竜車のドアノブを回す。
そして、外に出た。
タタタタッ
出たと同時に走りだし、腰ベルトの後ろから片刃の短剣――『マールの牙』を抜き放つ。
ソルティスに近づく悪意の1つに、背後から肉薄し、
「おい、後ろだ!」
弓を持った野盗が、仲間に警告する。
でも、遅い。
振り返ろうとした野盗の男の脇腹に、僕は、体当たりをするようにして『マールの牙』を突き立てた。
ドスッ
「がぁっ!?」
肉を裂く感触が、柄から手のひらに伝わる。
僕の乱入に、ソルティスが「ボロ雑巾っ!?」と驚いた顔をした。
「なんだ、てめぇは!?」
ドカァ
横にいたもう1人の野盗が、僕を蹴り飛ばす。
軽い僕の身体は、簡単に宙を舞い、地面に落ちてゴロゴロと転がる。
でも、痛みは少なかった。
(イルティミナさんの買ってくれた旅服のおかげだ)
この服には、緩衝材が縫い込まれている。
もちろん衝撃は感じる。
でも、ダメージはなかった。
「はぁ、はぁ」
僕は、血に濡れた『マールの牙』を構えて、立ち上がった。
「いてぇ……この、糞ガキがぁああ!」
刺された男は、脇腹を押さえながら、憤怒の形相で近づいてくる。
人じゃない、と思った。
その顔は、魔物と同じに見えた。
『殺してやる』――野盗の男から、強い悪意を感じる。
だから僕の中に、彼を刺した罪悪感は、なかった。
倫理観なんて、自分を助けてくれない感情は、どこかに消え去っている。もはや、人を殺す禁忌さえも、感じない。
だから僕は、低い体勢から、まるで獣のように彼に襲いかかった。
「うぁあああああっ!」
咆哮をあげて、接近する。
そんな僕めがけて、彼は、曲刀を振り下ろした。
ガギィン
『マールの牙』で受け止めて、突進の勢いのまま、全身で押し返す。火花を散らした片刃の短剣を、彼の太ももに突き立て、頭からぶつかった。
「がぁっ!?」
もんどりうって、一緒に地面に転がる。
一足先に起き上がった僕は、彼に馬乗りになって、滅茶苦茶に『マールの牙』を振り下ろした。
ガッ ザシュッ ガッガッ ザクッ
黒い皮鎧がいくつかの斬撃を防ぎ、けれど、いくつかの斬撃は、彼の肉体に突き刺さった。
その目の奥に、恐怖が見えた。
このまま殺せる――そう思った。
バスッ
「が……っ!?」
突然、背中に衝撃が走った。
熱い。
いや、痛い……!?
振り返った視線の先、10メートルほど離れた場所に、弓を構えた野盗の男が立っていた。
(もしかして、これ、僕に矢が刺さってる?)
背中で見えない。
でも、刺された場所が熱くて、痛い。
痛い、痛い、痛い……!
「マールっ!」
ソルティスの悲鳴が聞こえて、ハッと我に返った。
(そうだ、僕がやるべきことは……)
役目を思い出した僕は、斬りまくった男を捨て置いて、立ち上がる。
ソルティスの前には、もう1人の野盗がいる。でも彼女なら、1対1なら何とかできるはずだ。
そう信じて、僕は、弓の野盗へと狙いを定め、襲いかかる。
「舐めるな、ガキがっ!!」
接近する僕に、野盗の男は弓を捨て、腰から曲刀を引き抜いた。
「うらぁ!」
避けようもない一撃。
でも、僕も避ける気はなかった。
左腕を盾のよう振るって、それを受ける。曲刀の刃は、肉を裂き、骨に当たって止まった。
痛みを感じる前に、僕は、そのまま体当たり。
ドゴン
(っっ)
そのまま引き倒すつもりだった。
でも、屈強な大人の肉体は、軽い僕の突進を、易々と受け止める。その背中に、曲刀の柄が振り下ろされた。
ガツッ
「いぎっ!?」
矢傷と合わさって、痛みに視界がチカチカする。
でも、手は離さない。
「なんだ、てめえ!? 離れろ! 離れろ! 離れろ!」
ガッ ガツッ ガッ ガッ ガッ
連続する激痛に、頭の中を焼かれながら、僕は『マールの牙』を逆手に持ち替えた。
それを鎧の隙間から、必死に突き入れる。
ズブゥ
「がぁっ!?」
瞬間、凄まじい膝蹴りが腹を貫き、僕の両足が地面から浮いた。
内臓が捻じれたのを感じる。
堪らず僕は、手を離し、嘔吐しながら地面を転がった。
吐いた液体には、赤い血も交じっている。
「もう許さねぇ! 生きたまま手足千切って、殺してやるぞ、糞ガキがぁああ!」
背中を押さえながら、野盗の男は、怒声を上げる。
僕に斬られて、地面に倒れていた男も、曲刀を手にして起き上がっていた。
『絶対に殺す』――2人の表情が、雄弁に語っていた。
(やっぱり弱いな、僕は……)
子供の筋力では、屈強な彼らに、致命傷は与えられなかった。
でも、役目は果たせたと思う。
ドカッ ズザザァ
そんな地面に倒れる僕と、2人の野盗の間に、もう1人の野盗が転がってきた。その顔面には、はっきりとした靴跡が残っていて、そこでようやく2人の野盗たちは、自分たちが犯した失態に気づいた。
慌てて振り返った2人の視線の先には、大杖を構える美しい魔狩人の少女がいる。
「よくやったわ、マール」
大杖の魔法石は、青く輝いていた。
彼らの表情が、蒼白に変わる。
ソルティスの声が、歌うように告げた。
「水将の蛇よ、あの愚かで汚らわしい連中を、呑み殺して。――ウロ・ボゥルーズ」
魔法石の青い光が、魔法の文字を描き出す。
魔法文字は回転しながら凝縮し、水でできた球体に変化した。
『なんだ、あれ?』
僕も含めて、その場の男たち全員が思った。
次の瞬間、空中に浮かんだ水の球体は、長く尾を残して野盗たちに襲いかかった。
反射的に、曲刀が振るわれる。
けれど、相手は水だ。
刃は水を素通りし、野盗の男たちが2人、水の中に――いや、水でできた巨大な蛇の中に、丸呑みにされてしまう。
「~~~~」
「~~~~」
息ができず、激しく悶える。
けれど、巨大な水蛇の中から出ることはできず、その口と鼻から、大量の気泡がボコボコと漏れていく。
やがて、手足の動きが緩慢になる。
その目から、生気が消えた。
(…………)
巨大な水でできた蛇の青い腹の下で、僕は、その全てを見ていた。
水死した彼らの顔は、酷い苦しみに満ちている。
「ひぃぃぃ!?」
ただ1人、生き残った野盗の男は、曲刀を捨てて逃げ出した。
ソルティスの大杖の先が、その背中を示す。
「喰え、水将の蛇」
短い一言。
その命令に応えて、水の大蛇は青い巨体をくねらせて、凄まじい速度で、逃げた野盗の男に追いつき、頭から丸呑みにする。水の中で、必死に暴れるその表情は、絶望に歪んでいた。
反射的に、目を逸らす。
でも、すぐに顔を戻した。
(見届けなきゃ……)
僕は、彼らを殺そうとした。
だから、その『死』から、逃げちゃいけないと思った。その意味を、痛くても、心に刻まなきゃいけないと思ったんだ。
ゴツン
(痛っ!?)
突然、後頭部に痛みが走った。
「馬鹿マール、やめなさいよ」
振り返ると、緑に光る大杖で、ソルティスが僕を殴っていた。
唇を尖らせ、彼女は言う。
「他人の痛みを、何もかも自分の痛みにしていると、その内、心が壊れるわ。共感ってのは大事だけど、でも、ちゃんと区切りはつけて」
「……うん」
表情はまるで違うのに、今のソルティスは、なぜかイルティミナさんみたいに見えた。
だからなのか、僕は、素直に頷いてしまう。
そして、ふと気づく。
(あれ……身体の痛みが?)
消えていた。
背中に刺さっていた矢も、いつの間にか、後ろの地面に落ちている。
顔を上げると、彼女の大杖にある魔法石が、緑色に光っているのに気づいた。
今までに2度、あの輝きに僕は、癒やされている。
(でも、殴って治すのは、やめて欲しいな)
ちょっと苦笑い。
「ありがと、ソルティス」
「ふん」
紫色の柔らかそうな髪を揺らして、回復魔法を使ってくれた少女は、そっぽを向く。
でも、真紅の瞳だけをこちらに向けて、
「アンタも、よくやったわ。褒めてあげるわよ、マール」
「あはは」
偉そうな物言いは、ソルティスらしい。
けれど、彼女は、幼い美貌をしかめて、言う。
「でも、あんな無茶、2度としないで。もし死んだら、どうするの?」
「大丈夫だよ」
僕はポンポンと、自分の胸元を叩いた。
「もう1回なら、僕は死んでも平気なんだから」
うん、当たり前だけど、『命の輝石』がなかったら、僕もこんな無茶はしない。
というか、できない。
「アンタねぇ」
「それに、ソルティスが死ぬより、ずっといいよ。僕は、君のことが嫌いじゃないんだ」
「…………」
ソルティス、急に固まった。
(?)
やがて、何かの熱を抜くように、大きく息を吐く。
「こうやって、イルナ姉をたらしこんだのね……」
「なんのこと?」
「いいの、なんでもないわ。気にしないで。平気。私はわかってるから、大丈夫なの」
???
キョトンとする僕から、彼女は、逃げるように視線を外し、
「まだ終わってないわ。他のみんなも、まだ戦ってるし、手伝わなきゃ。――動ける?」
「あ、うん」
頷く僕に、彼女は、白い手を差し出した。
一瞬、それを見つめ、
ギュッ
僕は、その手を握る。
小さく幼い手は、けれど、驚くほど力強く僕を引き起こす。すぐに彼女は、手を離した。
「行くわよ、ボロ雑巾」
「うん」
ソルティスは、大杖を担いで走りだし、僕もあとに続く。
茜色に染まった戦場は、いまだ戦いの音色を響かせて、まだまだ終息を迎えない――。
ご覧いただき、ありがとうございました。
※次回更新は、3日後の月曜日0時以降になります。よろしくお願いします。




