374・合流する仲間たち
第374話になります。
よろしくお願いします。
「――羽幻身・白の舞」
イルティミナさんの詠唱と共に、タナトス魔法武具である『白翼の槍』の紅い魔法石が輝いた。
そこから、大量の光の羽根が溢れ出す。
それはイルティミナさんによく似た3人の『光の女』へと集束して、手にした『光の槍』を構えると、前方15メードの位置にいる『黒狼獣』に飛翔しながら襲いかかる。
『ゴガァアア!』
迫る3人の『光る女』を睨み、『黒狼獣』は吠えた。
その背に生えた巨大な黒い翼が、タナトス魔法文字を輝かせながら、バサッと大きく前方へと羽ばたく。
ドヒュウウッ
生み出される無数の真空波。
それは飛翔してきた『光の女』の2体を切断する。
そして、残された1体の『光の女』には、自ら飛びかかり、額に生えた白い角であっさりと斬り裂いた。
パァアアン
倒された『光の女』たちは、大量の『光の羽根』となり、空中に散っていく。
その羽根を吹き飛ばし、
「シィッ!」
タンッ
跳躍してきたイルティミナさんが、その光の目くらましの向こうから、黒いキメラの眼前へと飛び出した。
驚愕する『黒狼獣』。
そこに一閃された白い槍の美しい刃は、上から下へと黒い顔面を斬り裂き、そこにあった左眼も破壊する。
『グギャッ!?』
慌てて、後ろに跳躍する『黒狼獣』。
(おしい……っ)
凄まじい反応速度で、辛うじて、頭蓋と脳まで斬られることは避けたみたいだ。
「……ちっ」
舌打ちしたイルティミナさんは、すぐに追撃を加えようとする。
けれど、その時には『黒狼獣』も体勢を立て直し、いつでも迎え撃てるように姿勢を低く構えていた。
左眼の負傷も、驚異的な再生力によって、白煙をあげながら修復されていく。
――その時だった。
「今よ、大地の精霊!」
ソルティスの叫びが響き、同時に、イルティミナさんに集中していた『黒狼獣』の後方から、『白銀の精霊獣』が襲いかかったのだ。
ガブゥッ
黒い後ろ足の太ももに、鉱石でできた牙が深く突き立てられる。
『ギッ!?』
激痛と驚愕。
その2つに合わせて、精霊さんの強靭な力で、黒いキメラの動きが封じられる。
ほんの一瞬。
けれど、シュムリアの誇る『金印の魔狩人』には、それだけの時間で充分だった。
「シッ!」
ヒュォオン
白い閃光が『黒狼獣』の肉体を駆け巡った。
その首が。
その前足が。
その翼が。
その角が。
恐ろしいほど滑らかな切断面を残して、バラバラになっていく。
ドサン ドササッ
それらが黒い床に散らばる。
その中心で、イルティミナさんは『白翼の槍』を振り抜いた体勢で止まっていた。
なびいていた美しい深緑色の髪が、ゆっくりと背中に戻る。
その姿を、生首となった『黒狼獣』の眼球が見つめる。
そこから、生命の光がフ……ッと消えた。
(……やった!)
それを見届けて、イルティミナさんはようやく構えを解いた。
「イルナ姉!」
そんな姉に向かって、ソルティスが駆けていく。
「ソル」
イルティミナさんは、抱き着いてくる妹を受け止め、それから微笑んだ。
「助かりました。……私よりも先に魔獣を倒してしまうとは、ソルは、本当に強くなりましたね」
そう言って、髪を撫でる。
ソルティスは「ううん」と首を振って笑う。
その腹部には、皮鎧に空いた大穴があり、周辺は大量の血液で濡れている。傷は塞がっていても、彼女の制した激戦を物語っていた。
イルティミナさんは、真紅の瞳を細めて、そんな妹を見つめた。
そして顔を上げる。
そこには、イルティミナさんに加勢してくれた『白銀の精霊獣』が、こちらに近づいてくる姿があった。
ジジ……ッ
凛とした音色が響く。
イルティミナさんは、小さく頷きを返した。
そして彼女は、妹から身体を離して、
「さぁ、キルトの加勢に向かいますよ」
「えぇ!」
美しい姉妹は頷き合い、すぐに表情を引き締めると、今も戦っている仲間の元へと向かった。
◇◇◇◇◇◇◇
キルト・アマンデスと『タナトス王』の凄まじい剣戟は、今も続いていた。
ガッ ギン ガギィン
激しい火花が散っている。
そんな中、
「ぬん!」
ガギギィン
キルトさんの下段から放った強引な一撃が、2つの剣を交差して受け止めた『タナトス王』を吹き飛ばした。
10メードほど離れた地点に、『タナトス王』はストンと着地する。
キルトさんは追撃しない。
そして、そんな彼女の左右に、駆け寄ってきたイルティミナさん、ソルティス、精霊さんの2人と1体が並んだ。
キルトさんの視線が、そちらを見る。
「来たか」
そう言って、頼もしそうに笑った。
イルティミナさん、ソルティスも笑みをこぼし、精霊さんもジジジ……ッと低い音色を響かせる。
そして、3人はすぐに表情を引き締めた。
「…………」
「…………」
「…………」
全員がそれぞれの武器を構える。
それが向けられる先に立つのは、骸骨騎士の姿をした『古代の魔法王』――その骸骨の兜にある紫の眼球が、小さく光を揺らした。
『…………』
周囲には、絶命した黒い魔獣の死骸が2つ、転がっている。
タナトス王は、大きく息を吐いた。
『そうか……《王の獣魔兵》を倒したか。お前たちは、あくまで《王》である俺に反逆するのだな?」
その声には、静かな怒りがある。
同時に、哀れみも。
キルトさんは答えた。
「当然であろう」
カツン
そして、1歩前に出る。
「そなたは『破滅の王』じゃ。それが招く災厄を、我らは座して受け入れることはない」
強い鉄のような声だ。
左右にいる姉妹も、同じ決意に満ちた表情だった。
『……愚民め』
古代の王は、そうこぼした。
『このままであれば、例え平穏な時代を過ごそうと、やがて人類は行き詰まる。その先にあるのは、緩やかな滅亡だ。傷つき、滅びの危機に陥ろうと前に進まねば、《人類の未来》は掴めないのだぞ!』
ヒュゴッ
興奮を宿した剣が、鋭く横へと振られる。
けれど、3人の表情は変わらない。
キルトさんは、強い意思を宿した静かな眼差しで、『タナトス王』を見つめた。
「先の時代の人類のために、今ある人類を無下にすることは、この時代に生きる者として受け入れることはできぬ。それがわからぬからこそ、そなたは愚王なのじゃ」
揺るがない。
そのキルトさんの覚悟は、『タナトス王』にも伝わったろう。
(…………)
僕は思う。
これは、人類の『現在』と『過去と未来』の戦いなのだと。
それぞれが譲れぬ思いを抱えて。
そして、守るべきもののために、相手を滅ぼそうとしている。
どちらも生き残れはしない。
『…………』
カシャン
それ以上は語ることなく、『タナトス王』は2本の長剣を構えた。
キルトさんは息を吸い、吐く。
そして、
「――行くぞ」
大切な仲間に声をかけ、前へと走りだした。
イルティミナさん、ソルティス、精霊さんも頷き、銀髪をなびかせる美女の背中に続く。
――彼女たちと『古代の魔法王』との戦いは、終局へと向かおうとしていた。
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