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363・光の増援

第363話になります。

よろしくお願いします。

「ヤーコウル様!」


 自分にとって母にも等しい神様の登場に、僕は歓喜の声をあげてしまった。


 ヤーコウル様は微笑む。


 けれど、その威光にあてられたのか、キルトさんやイルティミナさんたち、他の人間は、みんな驚き、慌てたようにその場に跪こうとする。


『――よい』


 ヤーコウル様は片手を上げ、短い一言でそれを止めた。


 そのまま、その手を横に振るう。


 ブン


 瞬間、真っ白な『神炎』が、女神ヤーコウルを中心に放射状に噴き出した。


「!?」


 みんながそれに飲み込まれ、驚愕する。


 けれど、僕らの身体は、何ともない。


 そして、僕らを通り抜けた真っ白な『神炎』は、こちらに迫って襲いかかってきていた『魔の存在』の一団までも飲み込んだ。


 ジュボオゥ


 その異形の生物たちは、真っ白な『神炎』によって焼かれ、一瞬で消滅していく。


 これによって、『魔の存在』の攻勢が一時的に消えた。


 そして、


『時間がない。手短に話す』


 ヤーコウル様は、僕らを美しい瞳で見据えて、そうおっしゃられた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



『はっきりと告げておく。このままでは、我らは負ける』


 まずヤーコウル様は、そう断言された。


 僕らは息を飲む。


『それを覆す方法は、ただ1つ。奴らの力の源である《魔界の大門》を閉ざすことだ』


(『魔界の大門』を……?)


 そうか。


『神界の大門』によって、『神々』は『神界の神気』の供給を受けて、力を発揮していらっしゃる。


 なら、同じように『悪魔』たちも『魔界の大門』から流れてくる『魔界の魔力』を受けることによって、その恐るべき力を発揮していたんだ。


 つまり、その門を閉じれば、


(この世界に来た『悪魔』たちは力を失う!)


 グッ


 その答えに、僕は拳を握り締めた。


 しかし、キルトさんは静かに半獣半人の女神様を見つめ返した。


「理屈はわかりました。ですが、その方法は?」


(あ……)


 そうだ。


 あの『魔界の大門』は、空に浮かぶ『漆黒の天空城』の正面に展開されている。


 あの天空城の中に、装置があるのだろうか?


 ヤーコウル様は、そんな僕の顔を見つめる。


『その方法は、マール、お前が天を翔け、あの《魔城》へと赴き、《闇の子》から聞きだすのだ』


(え……?)


 僕は呆けた。


 他のみんなも呆けた。


『あの《魔界の大門》は装置ではなく、《闇の子》の展開する魔法で生みだされているのだ。それを閉ざす方法も、奴しか知らぬ』


「…………」


 アイツにしか、閉じられない……。


 その門を閉じる方法を、アイツから聞き出す?


(そんなこと、できるの!?)


 自分の不利になるような情報を、アイツがわざわざ教えてくれるとは思えない。


 僕の不安を見抜いたのか、ヤーコウル様は続ける。


『奴は、お前に固執している。執着と言っても良い。だからこそ、お前ならば、それを聞きだせる可能性がある』


 はっきりした口調だ。


 その瞳には、僕を心配する光と同時に、強い覚悟の光が灯っていた。


 ――これしか方法がない。


 女神ヤーコウル様は、口にしないけれど、その必死の思いが伝わってくる。


 …………。


「わかりました」


 僕は頷いた。


 それしか方法がないのなら、やるしかない。


(力尽くででも、アイツから聞き出すんだ!)


 強い覚悟で頷いた。


 みんなは少し離れたまま、そんな『女神ヤーコウル』とその『神狗』のやり取りを見守っている。


 そして、女神様は、


 ギュッ


 僕を抱きしめた。


『……お前を死地に送る母を許せ』


 少し震えた声。


(……ヤーコウル様)


 僕はその腕の中で驚き、そして、その心が嬉しくて微笑んだ。


 その時だった。


 ズガァアアン


 アルン、シュムリア両軍の陣形の中で、大きな爆発が起こり、包囲陣が大きく崩れた。


 そこから大量の『魔の存在』が、こちらに押し寄せてくる。


(!)


 まずい。


 僕は慌てて、剣を構えようとする。


 キルトさん、イルティミナさんたちも、すぐに応戦するつもりで武器を構えた。


 だけど、凄い数だ。


(防ぎ切れるのか!?)


 そう不安を覚えるほどの数と勢いが迫ってくる。


 けれど、


『――案ずるな』


 ヤーコウル様は、静かに告げた。


 次の瞬間、僕らの頭上に開いていた『神界の大門』が、強い光を放った。


 パァン パパァン


 そこから、光り輝く子供たちが次々に舞い降りてくる。


(え……?)


 それは『神の子』たちだった。


 その手には、剣や槍、盾などの『神武具』の装備が握られている。


 ガシュッ ザシュッ ズガァアン


 空から降りてきた光の子らは、迫りくる『魔の存在』たちを、次々に倒していく。


(つ、強い!)


 その凄さに、僕は目を見開いた。


 そして、湧きあがる懐かしさに胸がいっぱいになっていた。


「アイツら!」

「来てくれたのね!」


 ラプトとレクトアリスが『神界の同胞』たちを見て歓喜の声をあげる。


 ポーちゃんも、瞳を潤ませていた。


 そんな僕らに気づいて、『神の子』の1人が振り返り、そして笑った。


 ――ここは任せて。


 その強く優しい心が伝わってくる。


 そして『神の子』たちは、かつて自分たちを裏切った人類を助けるために、今、人類軍の中に飛び込んで、共に『魔の存在』たちと戦い始めてくれた。


(あぁ……)


 その光景に、アークインの魂が震えている。


 ここにきて、『神の子』らは、ようやく許してくれたのだ。


 ……300年前に人類の犯した罪を。


 キルトさん、イルティミナさん、フレデリカさんたち、ここにいる人間たちも皆、呆然としている。


 共に戦い始めた『神の子』に、アルン、シュムリアの両騎士たちも驚いていたけれど、すぐに頼もしそうに笑って、一緒に剣を振るい始めた。


 ヤーコウル様が言う。


『あの子らが望んだのだ。お前たちの姿を見て、再び人と共に戦うことを』


「……はい」


 僕は涙ぐみながら、頷いた。


 クシャッ


 そんな僕の頭を、ヤーコウル様は優しく撫でてくれた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 そんなヤーコウル様に、


「ヤーコウル様。マールだけを『闇の子』の元に行かせるわけには参りません。私も共に参ります」


 イルティミナさんが、突然そう言った。


 みんな、驚く。


 半獣半人の女神様は、かつて自分に仕えた信徒たちの子孫である美女を見つめる。


 そして、頷いた。


『わかった』


 それを聞いた途端、キルトさんも、


「ならば、わらわも参りましょうぞ」


 と強い口調で宣言した。


 ソルティスも慌てたように、「わ、私も!」と挙手をする。


(3人とも……)


 僕は目を丸くしてしまった。


 ヤーコウル様は、また頷いて、


『わかった。《神狗の母》として、お前たちの心、嬉しく思うぞ。どうか我が子を守っておくれ』


 そう3人に伝えた。


 3人とも「はい」と大きく頷く。


 フレデリカさん、ラプト、レクトアリスも『自分たちも』と言ってくれたけれど、これ以上、ここの守りを薄くするわけにはいかなかった。


 というか、


(僕ら4人が抜けた分、戦力が落ちるけど大丈夫なのかな?)


 そう不安になった。


『神の子』らが参戦したとはいえ、『魔の存在』は強力だ。


 ここで『神界の大門』の防衛から『金印の魔狩人』2人が抜けるのは、かなり痛手に感じるんだ。


 けれど、


「大丈夫だよ」


 そんな声が聞こえた。


(え?)


 振り向いた先にいたのは、こちらに近づいてくる10人ほどの冒険者の一団だった。


 2つの長刀を持った女剣士。


 巨大なハンマーを手にする巨漢の男。


 十指に魔法石のついた指輪をしたローブ姿の老婦人。


 などなど、色んな人たちがいる。


 皆、強い『圧』があった。


 そして、その先頭には、かつて『万竜の山』へと向かった時に、共に戦ったゲルフォンベルクさんとガルンさんがいた。


 そう、彼らは、アルン神皇国の誇る『金印の冒険者』たちだ。


 フレデリカさんも、


「貴殿ら……」


 と驚いている。


 ここまで戦闘をしてきたのだろう、アルンの『金印の冒険者』たちも全員、傷だらけだ。


 それでも、ゲルフォンベルクさんは笑って、


「話は聞こえていたよ。マール君たちに代わって、ここの防衛は僕らが請け負う」


 そう言ってくれた。


 ガルンさんも頷いて、


「シュムリアのレクリア王女が、某たちは、ここに向かえと言って来てござってな。なるほど、実に先見の明のある御方でござる」


 そう教えてくれた。


(……レクリア王女)


 女神シュリアン様からの神託を『シュリアンの瞳』で見て、動いてくれたのかもしれない。


 何にしても、頼もしい増援だ。


 キルトさんは頷いた。


「ガルン、ゲルフォンベルク、頼む。ここは、そなたらに任せるぞ」

「あぁ」

「任せるでござる」


 2人は頷き、他の『金印の冒険者』たちも頷いた。


 そうこうしている間にも、再び『魔の存在』たちが陣形を抜けて、こちらに迫ってきた。


「……やらせないよ」


 コロンチュードさんが呟き、その手の玩具みたいな魔法杖を振るう。


 ピカッ


 その魔法石が輝き、周囲に散らばっていた魔物の死体を照らした。


 次の瞬間、


 メキッ メキャキャ


 その死体の肉から骨だけが抜け出し、それが空中に集合していく。


(!?)


 少しずつ、何かを形作っていく


 やがて完成したのは、体長20メードもある『骨の竜』だった。


 アルンの『金印の冒険者』たちも『おぉ』と驚いた顔だ。


 グォオオン


 シュムリアの誇る『金印の魔学者』の魔法によって生み出された『骨の竜』は、声なき咆哮を響かせると、『魔の存在』たちへと真っ先に突っ込んでいく。


「……ここは、大丈夫」


 コロンチュードさんは、僕を見て言った。


 ポーちゃんも頷く。


「守りは任せろ、とポーは告げる」


 ガチンッ


 神気に光る両拳を胸の前で打ち合わせて、そう言ってくれる。


 ラプトが笑った。


「心配いらんで」

「この『神界の大門』は、私たちが必ず守るわ」


 レクトアリスも微笑み、そう言ってくれる。


 ガルンさん、ゲルフォンベルクさんを始めアルンの『金印の冒険者』たちも頷いてくれた。


 そして、


「さぁ、行け、マール殿。私たちを信じ、マール殿はその使命を果たしてくれ」


 ガシャン


 フレデリカさんが『烈火の剣』を胸にかざし、そう微笑んだ。


(フレデリカさん……)


 そして、彼女たちはこちらに背を向け、『骨の竜』が戦っている戦場の方を向く。


 そして、フレデリカさんは剣を高く掲げると、


「あの竜に続けぇ!」


 それを鋭く振り下ろした。


 その雄叫びに応じて、僕らを除いた全員が、迫る『魔の存在』へと恐れることなく挑みかかっていったんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



(みんな……)


 その背中を見送って、僕の胸は熱くなっていた。


 すると、


『マール』


 そんな僕のことを、ヤーコウル様が呼んだ。


 振り返ると、ヤーコウル様は、僕へと近づいて、その腕を伸ばし、僕の胸に手を当てられた。


 ドクン


 心臓の鼓動が高鳴った。


 触れられている部分が、とても熱く感じる。


 そして、


皆の思い(・・・・)は、お前と共にある。それを忘れるな』


 そう告げた。


 その言葉と共に、熱い『何か』が僕の身体の中へと流れ込んでくる感覚があった。


(これは……?)


『こたびは《祝福》を授けられるほどの余裕はない。だが、この《力》がお前を守ることだろう』


「…………」


 意味はわからない。


 でも、何か『大切なもの』が与えられたように感じる。


 だから、僕は頷いた。


 ヤーコウル様も頷きを返してくれる。


 それから『狩猟の女神』様は、ゆっくりとイルティミナさん、キルトさん、ソルティスを見る。


『――我が愛し子を頼む』


 偉大なる女神様は、その時だけ母の顔で、そう願った。


 3人は、真面目な表情で頷いた。


 それを見届けて、ヤーコウル様も大きく頷き、そして微笑まれた。


 それから頭上を見上げ、獣の足が地面を蹴る。


 タンッ タタン


 神々しい光をなびかせながら、空中を蹴り、『神々』と『悪魔』が争う戦場へと帰っていく。


 僕らは、その姿を見送った。


「…………」


 胸の奥には、まだ熱い『何か』が残っている。


 無意識に、そこに手で触れてしまう。


 と、


「マール」


 イルティミナさんが僕を呼んだ。


 顔をあげれば、そこには、イルティミナさん、キルトさん、ソルティスの3人がいて、真っ直ぐに僕を見つめていた。


 しばらく見つめ合った。


 これまで、ずっと一緒だったいつもの4人だ。


 とても安心感がある。


 だから、僕は笑った。


 それを見て、3人も笑ってくれた。


(……うん)


 みんなと一緒なら、きっと大丈夫だ。


 僕はそう思いながら、自分の背中に『神武具』による『虹色の金属翼』を生み出し、それを大きく広げる。


 バフッ


 虹色の粒子が、周囲に煌めく。


 それらが舞い散る光の中心で、


「さぁ、行こう」


 僕は告げた。


 3人は、そんな僕を瞳を細めて見つめながら、しっかりと頷いてくれた。


 そして、僕ら4人は空を見る。


 そこに浮かぶのは、『漆黒の天空城』――世界を滅亡から救うため、そして『悪魔』たちを倒すために、これから僕らは、そこにいる『闇の子』に会いに行くんだ。

ご覧いただき、ありがとうございました。



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挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ 『闇の子』を説得に向かうマール。 彼の執着振りを鑑みるにワンチャン有りか? ……一方で、『闇の子』のマールに対する執着振りに、イルティミナは警戒心を顕に立ち向か…
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