表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化&コミカライズ!】少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~  作者: 月ノ宮マクラ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

410/825

362・大神門防衛戦

第362話になります。

よろしくお願いします。

 僕らの上空で、白い光と漆黒の闇がぶつかり合っていた。


 神と悪魔。


 その大いなる存在同士の闘いは、まるで神話のような凄まじい戦いだった。


 炎の竜巻が荒れ狂い、氷の雨が降り注ぐ。


 強烈な風が大地を破壊し、炸裂する雷が世界を照らして、神の剣と悪魔の爪が激突し、猛烈な波動が大気を震わせ、破裂させていく。


 その場の人間たちは皆、その迫力に圧倒されていた。


「……な、なんなのよ……これは?」


 ソルティスが呆然と呟いた。


 少女は力が抜けたように、その場にペタンと座り込んでしまう。


 僕は答えた。


「……僕らが召喚した『神々』に対抗するために、『闇の子』も『悪魔』を召喚したんだ」


 単純な事実。


 でも、それは世界を滅ぼしかねない最悪の決断だ。


 しかも、『悪魔』は『闇の子』の味方であるとは限らない。


 ただの便利な道具。


 下手をすれば、アイツ自身も用済みとして殺される可能性があるんだ。


 それなのに、


(アイツは何を考えているんだ!?)


 僕には、アイツの狙いが何1つ、わからなかった。


 キルトさんも、イルティミナさんも、フレデリカさんも、ラプトも、レクトアリスも、ポーちゃんも、コロンチュードさんも、この場の誰もが、上空で行われている神話の世界の戦いを、ただ見つめ続けている。


 そんな中、


「やってくれましたわね」


 そんな可憐な声が聞こえた。


 見れば、上空の様子を見ながら、こちらへとやって来るレクリア王女の姿があった。


 吹き荒れる戦いの余波が、彼女の水色の髪を揺らしている。


「キュポロの盤上の戦いかと思いきや、まさか、盤外の指し手自身を殺しにくるような禁じ手を行うとは、さすが『闇の子』……わたくしもここまでは読めませんでしたわ」


 不満そうな呟き。


 それを口からこぼしながら、彼女は僕らの前に辿り着いた。


「王女様」


 僕らの視線が、彼女に集まった。


 彼女は、その金と蒼のオッドアイで、僕らを見つめ返す。


「皆様、見ての通り、形勢は逆転しましたわ。そして、ここが正念場。人類が生き残るか、滅びるか、この先のわたくしたちの行動によって、それが決まりますわ」


(……正念場)


 僕らは頷いた。


 レクリア王女は告げる。


「召喚された『悪魔』たちは今、『神々』が抑え込み、辛うじてこの世界の破滅を防いでくれています。もはや『悪魔』への対処は、『神々』に任せるしかありません」


 うん……。


 正直、僕らの力では、どうやっても太刀打ちできない。


 相手の力は、まさに天変地異そのものだ。


「しかし、敵はその『悪魔』だけではありませんわ」 


 そう言いながら、王女様の腕は、空に輝く漆黒の光――『魔界の大門』を示した。


 僕らも視線を送る。


(……あ)


 そこから『悪魔』とは違う、『異形の怪物』たちが現れていた。


(あれは……!)


 その中には、前に王都ムーリアの地下で見た物理攻撃が無効の『黒い巨人』の姿もあった。


 魔界生物。


 悪魔ではないけれど、魔界に生息している生命体だ。


 そして、その物理攻撃が無効の巨人が今、何十体も出現し、この荒野に確認できたんだ。


 いや、それだけではない。


 他にも、この世界の生命体とは明らかに違う、歪な形をした魔界の生命体たちが『魔界の大門』を通り抜け、無数にこちらの世界にやって来ていた。


(なんてことだ……!)


 その現実に、僕は茫然となった。


 けれど、『敵』は更にいた。


『漆黒の天空城』にいた『刺青の者』たちが、次々に魔物に変身して、こちらへと向かってくる姿があった。


 レクリア王女は、それらを鋭く睨む。


「『魔界生物』と『刺青の魔』たちの相手は、わたくしたち人間がしなければなりませんわ」 


(!)


 僕は息を飲む。


 レクリア王女のオッドアイは、ゆっくりと、そんな僕らの背後へと向けられる。


 そこにあるのは『神界の大門』。


 彼女は言う。


「この門を開き続けることによって、『神界』の『神気』がこの世界に流れ込み、『神々』の御力を支えておりますの」


 それは……、


(つまり、この『神界の大門』が破壊されてしまえば、『神々』は力を失い、やがて『悪魔』に滅ぼされてしまうということ?)


 その事実に、僕らは震えた。


 レクリア王女は、再び、静かに僕らを見つめる。


「皆様、この『神界の大門』は、絶対に死守しなければなりませんわ!」


 今までで一番強い口調。


 そして、レクリア王女様自身も、そのたおやかな手で腰の剣の柄を掴み、それを鞘から引き抜いた。


 シュラン


 そうして、迫りくる『魔界生物』と『刺青の魔物』たちを睨みつける。


 その覚悟が背中から伝わる。


(…………)


 僕も『妖精の剣』を鞘から抜いた。


 キルトさんも『雷の大剣』を、イルティミナさんも『白翼の槍』を構え、座り込んでいたソルティスも歯を食い縛って立ち上がった。


 他のみんなも、それぞれの武器を構える。


 上空では、今も『神々』と『悪魔』が熾烈な戦いを繰り広げている。


 その眼下の地上で、ダルディオス将軍やロベルト将軍、シュムリア竜騎隊隊長レイドルさん、神殿騎士団長アーゼさん、アザナッド皇帝陛下、シューベルト国王がそれぞれに指示を発し、アルン、シュムリア両軍が戦闘態勢に入った。


 そして、ついに『魔の存在』たちが接敵する。


 人々の剣と魔法が放たれ、それを受けても『魔の存在』たちは恐ろしい力で人類に襲いかかる。


 丘の上の僕らは、その全てを目撃した。


 世界滅亡を巡る最終戦争。


 今、僕らの目の前で行われているのは、後世にそう語られるそんな歴史上の1つの戦いなのかもしれないと、僕は、ふと思ったんだ――。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「鬼剣・雷光斬!」

「羽幻身・白の舞!」


 キルトさんとイルティミナさん、2人の『金印の魔狩人』がタナトス魔法武具の力を解放する。


 それは迫る魔物の肉体を斬り裂き、絶命させた。


 人類と『魔の存在』たちの戦いは熾烈を極めた。


 人類の方が、数では3倍ほど勝ってはいるものの、相手は個々の能力に置いて、人間を凌駕している。


 アルン、シュムリア両国の騎士たちは、『神界の大門』を中心に3重の陣を敷いていたものの、時々、その包囲網を抜けて、『刺青の者』が変身した魔物や『魔界生物』がここまで辿り着くことがあるんだ。


 特に、人類は地上にいる。


 空を飛べる『魔』に対しては、弓や魔法で迎撃しているものの、突破される確率は高くなっていた。


 ゴバァアン


 歪な人型の魔物が、口から炎を吐いた。


「やらせるかい!」


 ラプトが叫んで、『神武具の円形盾』を展開し、それを防ぐ。


 けれど、その間にも、他の魔物たちが次々と襲いかかってくる。


 遠距離から仕掛けてくる攻撃に対しては、ラプトの盾、レクトアリスの結界、ポーちゃんの雄叫びの障壁で防ぎ、イルティミナさんの槍、フレデリカさんの火球で応戦していく。


 僕とキルトさんは、接近戦を仕掛けてくる魔物と戦っていた。


「や!」


 ヒュコン


 ミイラみたいな魔物の5メードほどに伸びて迫ってきた腕を、僕の『妖精の剣』が切断する。


 魔物が痛みに悶える隙に、キルトさんは僕の横を駆け抜けて、「ぬん!」と魔物本体の胴体を『雷の大剣』で真っ二つにした。


「また来たわ!」


 ソルティスが叫ぶ。


 視線を送れば、手足の生えた蛇のような人型の魔物がこちらに走ってきていた。


(狙いはソルティスか?)


 僕は左腕を突きだして、


「精霊さん!」


 ジジッ ジガァアアッ


 そこに装着されていた『白銀の手甲』から、美しい白銀の精霊獣を召喚する。


 魔法石から飛び出した『白銀の狼』は、即座に蛇の魔物の喉元に噛みついて、一気に引き倒した。


 ズダァン


「大地の怒りに貫かれろ! ――アルアス・ラ・パイク!」


 すかさず、ソルティスが魔法を詠唱。


 蛇の魔物の下の地面から、鋭い岩の槍が何本も突き出してきて、魔物を串刺しにしてしまった。


 魔物はビクビクッと痙攣し、絶命する。


「ふぅ」と息を吐く少女。


 けれど、状況は止まらない。


「上! 物理攻撃無効の『魔界生物』です!」


 イルティミナさんが上空を見上げて、警戒の声を発した。


 ハッと視線を上げれば、背中に蝙蝠のような翼を生やした、黒い水で肉体ができているような黒い巨人の『魔界生物』が近づいてきていた。


 翼の有無はあれど、かつて王都の地下空間で見た『魔界生物』にそっくりだ。


(どうする!?)


 その手強さを思い出して、僕は顔をしかめた。


 けれど、『神界の大門』の近くに集まっていたコロンチュードさんを始めとする両国の『魔学者』たちが詠唱を始め、凄まじい魔法の雷でそれを迎え撃った。


 バヂヂヂィン


 世界が白く染まる。


 そして、その直撃を受けた『魔界生物』は、空中で散り散りに分解し、溶けるように消えてしまった。


「……よしよし」


 伝説の『金印の魔学者』は、満足そうに頷いている。


(凄いや)


 これほどの魔法の援護があるのは、実に心強い。


 こんな風に、ここまで攻め込まれることはあるけれど、頼もしい仲間たちのおかげで『神界の大門』は防衛することができていた。


 でも、


「いかんな」


 キルトさんが呟いた。


(え?)


「今は防げているが、少しずつ押し込まれておる。このままでは、いつか包囲陣が崩壊して、一気に雪崩込まれるぞ」


 その視線は、丘の下へ。


 丘の周囲に展開された両軍は、けれど、かなり陣形が乱されていた。


 ダルディオス将軍やロベルト将軍、皇帝陛下や国王様、レクリア王女、みんなが必死に指揮をして、なんとか戦えてはいるけれど、陣形の立て直しは遅れ始め、その乱れは少しずつ大きくなっていた。


 ゴバァアン


 空を飛ぶシュムリア竜騎隊も、炎を吐いて必死に援護している。


 神殿騎士団も、アーゼさんの指揮の元、凄まじい技量で魔物たちを討ち滅ぼしている。


 けれど、それでも……。


(まずいよ)


 こちらの戦力が足りていないんだ。


 対『闇の子』用の戦力は用意していたけれど、『魔界生物』の存在は想定外だった。


 その分だけ、戦局が押されている。


(どうしたら……?)


 僕は迷った。


「僕らもあっちに行った方がいい?」


 そうキルトさんに聞く。


 キルトさんは、難しい表情で答えた。


「いや、ここも、それだけの余裕はない。何より、ここが防衛の要じゃ。ここの戦力を減らした結果、万が一、この『神界の大門』が破壊されては意味がない」


 ……そっか。


 会話をしている間にも、新手の『魔の存在』たちが迫ってくる。


「シィ!」


 イルティミナさんの『白翼の槍』による砲撃が、その新手の魔物を吹き飛ばした。


 フレデリカさんも『烈火の剣』から火球を生み出し、追撃として叩き込む。


 迫ってきた魔物は全滅した。


 でも、陣形の乱れた箇所から、更に別の『魔の存在』たちがこちらに向かって来ていた。


「ぬぅ」


 キルトさんが唸る。


 ここまで到達する『魔の存在』たちも増えている。


 このまま静観していたら、やがて、ここも防衛し切れないほどの状況になってしまうかもしれない。


 決断をしなければ……。


(でも、どんな決断を?)


 動くべきか、動かざるべきか?


 いや、動いたとしても、それでどうにかなるのかもわからない。


 そもそも、この追い込まれた状況を覆すための方法を、僕らは見つけられていなかったんだ。


 空では、いまだ『神々』と『悪魔』の戦いが続いている。


 どちらも互角。


 そこでは凄まじい力の応酬が繰り広げられ、少しずつ倒されていく『神々』と『悪魔』の姿も出始めていた。


 僕ら人類に手を貸せる余裕は、全くなさそうだった。


「…………」


 地上に関しては、僕ら人類だけで何とかするしかない。


 でも、その道筋がわからない。


 見えてこない。


(……負ける?)


 ふと、その可能性が頭をよぎった。


(いや、まだだ!)


 ブンブン


 僕は強く頭を振って、その弱気な心を振り払う。


 その時だった。


『――まだ、我らの勝利の道はあるぞ、マール』


 力強く、優しい声が耳朶を打った。


(!)


 慌てて振り返る。


 その先にあったのは、神々しい光。


 全身から神気の輝きを放つ、身長3メードほどの半獣半人の女性――神狗アークインの母神でもある『狩猟の女神ヤーコウル』様が、青い空から、僕らのすぐ目の前の地上へと降臨なされていたんだ。

ご覧いただき、ありがとうございました。



書籍マールの1巻、現在、好評発売中です♪

挿絵(By みてみん)

お買い上げ下さった皆さん、本当にありがとうございます!

おかげ様で、来年に2巻発売予定です♪


まだ購入されていない方は、本屋さん以外にもネット通販、電子書籍などもありますので、もしよかったらご購入の検討をして頂けましたら幸いです♪

書籍版のみの見所、まっちょこ様の美麗なイラストや書き下ろしパートなどもありますので、ぜひぜひ~!



※次回更新は、明後日の金曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コミックファイア様よりコミック1~2巻が発売中です!
i000000

i000000

ご購入して下さった皆さんは、本当にありがとうございます♪

もし興味を持たれた方がいらっしゃいましたら、ぜひご検討をよろしくお願いします。どうかその手に取って楽しんで下さいね♪

HJノベルス様より小説の書籍1~3巻、発売中です!
i000000

i000000

i000000

こちらも楽しんで頂けたら幸いです♪

『小説家になろう 勝手にランキング』に参加しています。もしよかったら、クリックして下さいね~。
『小説家になろう 勝手にランキング』
― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ 真打ちは遅れてやって来る。 『狩猟の女神ヤーコウル』の登場が、どの様な効果をもたらすのか? ……ついでに、婚約の為の挨拶は済ませているとは謂えど、婚前交渉を済…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ