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354・魔狩りの時間

第354話になります。

よろしくお願いします。

 そこからは、本格的な戦闘が始まった。


「鬼剣・雷光斬!」


 バヂィイン


 砦の内部を移動しながら、見つけた『刺青の者』を倒していくんだ。


 すでに情報は手に入れた。


 それを処分される心配がなくなった以上、こちらの存在を知られても問題がなくなったのだ。


 ズガン ゴガァン


 今も、通路で出くわした『刺青の男』を、キルトさんが倒してしまった。


 衝撃で、通路の壁や天井が崩れている。


「よし、次を狩るぞ」


 全力で戦えるからか、キルトさんの表情は生き生きとしている。


(凄いなぁ)


 あの手強い『刺青の者』たちを、彼女は、正面突破で簡単に倒していた。


 いや、簡単に見えるだけ。


 普通は『銀印』相当の戦力を相手に、こんな一方的には倒せない。


 鬼姫キルト・アマンデス。


 彼女だからこそ、簡単に見えるほどの勝利が納められるんだ。


 イルティミナさんは、


「前は、奴らともう少し拮抗していましたが……あれから、キルトも強くなっているのですね」


 そう驚嘆したように呟いていた。 


 そうして、僕らは砦内部を移動する。


「むっ」


 通路の先に、5人ほど集まった『刺青の男女』を発見した。


 向こうも、こちらに気づいた。


 キルトさんは最前線で『雷の大剣』を構える。


「イルティミナ、共に仕掛けるぞ。ソルは回復魔法に専念し、待機。マールは、ソルを守れ」


 そう指示が飛ぶ。


「うん」

「わかったわ」


 僕とソルティスは頷き、


「いいでしょう」


 ヒュン


 イルティミナさんは、白い槍を回転させながら前に出て、キルトさんの隣に並ぶように立った。


 向こうは、3人が前に出てくる。


 メキ……メキキッ

 

 その刺青が青く輝くと、3人は魔物へと変身した。


 白い岩のような肌の人型の魔物。


 ミノタウロスのような牛人間の魔物。


 尻尾が鎌みたいな刃になった、巨大なイタチの魔物。


(っっ)


 ビリビリとした『圧』が伝わる。


 ――強い。


 そう感じる。


 けれど、こちらの2人の『金印の魔狩人』は、落ち着いた表情で武器を構えた。


 ジリ ジリ


 間合いが少しずつ縮まる。


 そして唐突に、巨大イタチが尻尾の鎌を振り回しながら、突っ込んできた。


 ヒュッ


 応戦するようにイルティミナさんの白い槍が繰り出される。


 ガッ ギギィイン


 鎌と槍の刃がぶつかり合い、火花が散った。


 通路の壁や天井は、まるで豆腐みたいに斬り裂かれ、幾筋もの線が刻まれている。


 そして、


 ガギィン


 一際大きな音と共に、イタチの鎌が砕け散った。


 ドシュッ


 次の瞬間、その獣の頭部に『白翼の槍』が突き刺さり、大きな穴を空ける。


 巨大イタチは絶命し、通路に崩れ落ちた。


(うわ……)


 彼女も強い。


 ヒュン


 白い槍を回転させて付着した血液を飛ばし、イルティミナさんは何事もなかったように、また『白翼の槍』を構える。


「ほう?」


 キルトさんも感心した声を漏らした。


「イルナ、また腕をあげたの」

「どうも」


 先輩『金印』の賞賛に、イルティミナさんは澄まして応じる。


 逆に、2体の魔物は、張り詰めた雰囲気で、仲間の死体を見つめた。


 と、キルトさんが前に出た。


 タンッ


 大きく踏み込み、通路の壁を破壊しながら『雷の大剣』を横薙ぎに振るう。


『!』


 白い岩人間の魔物が、その頑丈な皮膚で受け止めた。


 ガギギィン


 青い放電と火花が散る。


 岩人間の足元は、衝撃で大きくひび割れが起こっていた。


 と、その岩の肌が蠢いて、


 ドパン


(!?)


 まるで散弾銃のように細かい石片を飛ばしてきた。


「ぬっ!」


 キルトさんは大剣を盾にそれを防ぐ。


 イルティミナさんは、白い槍を回転させて、それらを弾いた。


 バチッ ガシュッ


 白い石片は、通路の岩壁に、簡単に穴を開けていく。


 結構な威力だ。


 そして、2人の魔狩人が防御に徹した瞬間、ミノタウロスが巨大な角を構えて突進してきた。


 ガツゥン


 盾となった大剣にぶつかり、キルトさんを押し込むようにして、背後の壁へと激突する。


 ドガァン


 壁が破壊され、ミノタウロスとキルトさんは、奥の部屋へと飛び込んでしまった。


「キルト!」


 イルティミナさんが声を出した瞬間、白い岩人間が殴りかかってくる。


 ドパン


 拳の先から、石片の散弾銃。


 イルティミナさんは床を蹴り、壁や天井を蹴って、それらを華麗に回避した。


 けれど、そうして生まれた通路の隙間を抜けて、魔物たちの背後に控えていた2人の『刺青の者』が、僕とソルティスめがけて走り込んできた。


「!」

「来たわ!」


 僕らは武器を構える。


「マール!」


 イルティミナさんの心配そうな声が聞こえる。


(大丈夫!)


 僕は心の中で応え、そして、体内にある神なる力の蛇口を開いた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「神気開放!」


 その叫びと共に、僕は『神狗』へと変身する。


 頭から獣耳を生やし、お尻から尻尾を生やして、更には『神武具』の翼を背中に広げた。


 手にした剣は、『妖精の剣』が神化した『虹色の鉈剣』だ。


(行くぞ!)


 加速した知覚の中で、僕は前へと踏み込み、2人の『刺青の者』を迎撃する。


 ガヒュッ ドシュッ


 僕の剣は、1人の手首を斬り飛ばし、もう1人の脇腹に深く刃を叩き込んだ。


「あぁああっ!」


 そのまま『神狗』のパワーで、壁へと叩きつける。


 ドガァアン


 壁が破壊され、脇腹に刺さった刃は突き抜けて、その『刺青の者』の胴体を真っ二つにしてしまった。


 その上半身には、驚いた顔が残っている。


 もう1人の『刺青の者』は、残っている方の手で、僕へと殴りかかってきた。


 ガギィイン


 背中の金属翼が回り込み、盾となって、それを防ぐ。


 でも、


(凄い衝撃だ……っ) 


 金属の翼が大きく歪んでしまっている。


 そして、僕を殴った『刺青の者』は、その全身の刺青を輝かせて、メキメキと音を立てながら魔物に変身した。


 額に2本の角が生えた、筋骨隆々の人型の魔物だ。


 鬼人オーク


 前世の知識から、その名前が思い浮かぶ。


 切断したはずの手首も、魔物への変身の際に再生している。


 そして、その両手が金属の翼を掴んだ。


 バキッ ベキィン


「!?」


 驚くほど簡単に引き千切られた。


 なんて握力。


 そして、なんて腕力だ。


 防御の盾となる翼を失った僕は、慌てて下がり、間合いを取ろうとした。


 けれど、


 ガクン


 足が何かに躓いた。


 いや、違う。


 見れば、僕の右足首に、上半身だけとなった『刺青の者』が抱き着いていたんだ。


 また生きていたのか!?


 驚愕する僕の耳に、


「マール、前!」


 ソルティスの悲痛な叫びが聞こえた。


 跳ね上げた視線の先では、あの恐ろしい鬼人の両手が、僕へと向かって伸ばされ、掴みかかろうとしていた。


 ――あれに掴まれたら、終わりだ。


 そう悟った瞬間、僕は覚悟を決め、奥の手を使う。


神武具コロ!」


 叫びと共に『虹色の粒子』が、僕の全身に絡みつく。


 それは『虹色の外骨格』となり、僕は、虹色に輝く人型の『狗』の姿となった。


 究極神体モード。


 更なる変身をした僕は、その虹色の手1つで、『鬼人の両手』を受け止めた。


 ガシッ


 恐るべき握力の鬼人。


 けれど、虹色の外骨格が、まるで金属の筋肉が収縮するようにキリリン、ギリンと音を響かせると、


 ベキベキ バギィン


 逆に僕の手は、『鬼人の両手』を握り潰してしまった。


『ぐぎ、ぎゃああ!?』


 鬼人は驚愕し、苦悶の叫びを響かせる。


 その頭部めがけて、僕のもう一方の手は、『虹色の鉈剣』を振り下ろした。


 ガヒュッ


 鬼人の頭部が潰れ、弾け飛ぶ。


 散った肉片と血液が、『狗』の形をした兜にも降りかかった。


 鬼人の身体は、力なく膝から崩れ落ち、床へと倒れた。


 ドクドク


 大量の血液が床に広がり、僕の足元も濡らしていく。


「…………」


 僕は剣を逆手に持ち替え、今だ自分の右足に抱きついていた『刺青の者』の上半身へと刃を落とした。


 ドシュッ


 刃は心臓を抜け、床まで貫く。 


 剣の刺さった上半身はビクンと跳ねて、そのまま動かなくなった。 


(ふぅ……)


 僕は息を吐き、『究極神体モード』を解除する。


 虹色の外骨格は砕けて、虹色の粒子に変わり、それは小さな球体となって僕のポケットの中に納まった。


(ありがと、コロ)


 心の中で感謝を告げる。


 でも、少しだけ残念だった。


 本当は、今日、僕は『究極神体モード』を使うつもりはなかったんだ。


(また、この力に頼っちゃったよ……)


 できるなら、この大きな力を使わずに、自分自身の技量を鍛えたかった。


『闇の子』と『タナトス王』、この2人に対抗するためには、僕自身がもっと強くならなければいけないと痛感していたからだ。


 だけど、今回は無理だった。


 さすがに使わなければ、殺されていた状況だったもの。


(……まだ、僕は死ぬわけにはいかない)


 そう自分に言い聞かせる。

 

 ポンッ


 そんな僕の背中を、ソルティスが叩いた。


「やったわね、マール」


 明るい笑顔だ。


 それに心が軽くなって、僕も「うん」と笑った。


 ガシュン


 気づけば、イルティミナさんも白い岩人間の魔物を『白翼の槍』で穴だらけにして、勝利を収めていた。


 絶命を確認し、槍を引く。


 すぐにこちらへと駆け寄って来てくれて、


「大丈夫でしたか、マール」


 と心配してくれた。


 僕は笑った。


「大丈夫」

「そうですか。……強くなりましたね」


 床にある2体の『刺青の者』の死体を見つめて、彼女は、そうしみじみと呟いた。


 それから、僕の髪を撫でてくれる。


 気持ちいい。


(あ……)


 そうだ、キルトさんは!?


 僕は慌てて、通路の壁に空いた穴を見た。


 すると、


「ふむ、こちらも終わったか」


 ちょうど、その穴からキルトさんが戻ってきた。


 その手には、血まみれの巨大な牛の頭部がある。


 おぉ……。


 どうやら、無事に勝利を収めていたらしい。


 彼女は、そのミノタウロスの生首を、通ってきた穴の奥へと放り投げた。


(さすが、キルトさんだ)


 彼女は、全ての敵を倒した状況を確認し、頷いた。


「よし、では次の獲物を探すぞ」

「うん」

「はい」

「えぇ」


 キルトさんの言葉に頷いて、僕ら4人は、また『刺青の者』を探して通路を歩きだした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ 何だかんだで、皆強くなってますね。 ……只、相手が強すぎるだけで……(苦笑) [気になる点] 気になったので 鬼人オーク⇒鬼人オーガ だと思うのですが、私の間…
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