345・初めての夜
第345話になります。
よろしくお願いします。
帰宅したのは、夜の9時頃だった。
「…………」
僕らは一言も交わすことなく、イルティミナさんの部屋を訪れる。
それからお風呂を沸かした。
先に僕が入らせてもらった。
夢なのか現実なのか、わからないまま湯船を出て、今は交代でイルティミナさんが入っている。
ドクン ドクン
鼓動は強く、速いままだ。
イルティミナさんのベッドに腰かけたまま、僕は彼女の帰りを待っている。
…………。
ふと廊下に気配を感じた。
扉が開いて、イルティミナさんが入ってくる。
「…………」
彼女は、バスローブを1枚羽織っただけの姿だった。
石鹸の香りがする。
少し赤らんだ顔で、
「……灯りを……消してください」
恥ずかしそうに言った。
僕は慌てて、照明器具の光を消した。
室内は暗くなる。
けれど、窓から差し込む紅白の月明かりが、淡く室内を照らしてくれていた。
シュルリ
衣擦れの音がして、バスローブが床に落ちる。
僕は息を呑んだ。
そこに、生まれたままの姿のイルティミナさんが立っていた。
綺麗だった。
今まで一緒にお風呂に入った時に、目にしてしまったことはある。
けれど、こうして正面からしっかりと、何も隠されることなく見たのは初めてだった。
「……綺麗」
思わず呟いた。
イルティミナさんの身体が、一瞬、ブルっと震えた。
薄闇の中でもわかるほど、その頬は赤くなり、なんだか泣いてしまいそうな表情だった。
彼女はそのまま近づいて、僕の隣に座った。
ギシッ
ベッドが軋む。
そのまま彼女の手が伸びて、僕の服を脱がしていった。
恥ずかしかったけど、抵抗はしない。
(……あ)
その時、彼女の手が震えていることに気づいた。
怖いのか。
恥ずかしいのか。
やがて僕らはお互いに、生まれたままの姿になった。
月明かりの中、見つめ合う。
「……本当に……私でよろしいのですか?」
まるですがるように、イルティミナさんが確認してきた。
言外に伝わる。
『自分は子供が産めない。それでもいいのか?』――と。
僕は頷いた。
それを聞いてから今までも、ずっと僕の気持ちは変わらない。
彼女を真っ直ぐ見つめた。
「――僕は、貴方が好きです」
そう伝える。
真紅の瞳に、薄く涙が滲んだ。
そして、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
とても美しいと思った。
そして、
「私も、マールのことを愛しています」
そう言ってくれた。
嬉しかった。
安心した。
ただただ、彼女が愛おしかった。
僕も微笑む。
彼女の白い手が、僕の頬に触れる。
ゆっくりと顔が近づいて、唇を重ねた。
舌を絡める長いキス。
そうしてキスをしながら、イルティミナさんは、ゆっくりと体重を預けてきた。
トサッ
2人でもつれるように、ベッドに倒れ込む。
そのまま僕とイルティミナさんは、月の光が満ちる部屋の中で、懸命に愛し合い、そして、初めて1つになったんだ――。
◇◇◇◇◇◇◇
気がついたら、日付が変わっていた。
…………。
なんか……凄かったです……。
そして、僕とイルティミナさんは今、裸のまま、一緒にベッドの上で休んでいた。
ちなみに僕のことを、イルティミナさんが腕枕してくれている。
いつもなら男の子の意地があるけど、
(今は、それどころじゃないや……)
ちょっと放心状態で、抵抗もなく、大人しくされるがままだった。
「ふふっ」
そんな僕の髪を、イルティミナさんの指が梳いてくれる。
幸せそうな笑顔だ。
それに僕も嬉しくなって、微笑んだ。
とにかく気持ちよかった。
ぶっちゃけると、あまりにイルティミナさんが凄すぎて、最初は暴発しちゃったんだ。
うぅ……。
(だって、前世も含めて初めての経験だし……)
正直、泣きたかった。
だけど、イルティミナさんが優しく慰めてくれて、色々としてくれて、それがあまりに魅力的で、僕はすぐに元気になってしまった。
それからは無我夢中。
イルティミナさんを気遣うつもりだったけど、そんな余裕もなかった。
何度も、何度も。
「あぁ……私のことは気にせずに……。この身体は、いくらでも中に出してくれて、大丈夫なのですから……」
彼女に抱きしめられながら、そう甘く囁かれた。
…………。
ようやく落ち着いたのは、つい先ほどのことだった。
今は、だいぶ気持ちも落ち着いてきた。
そして、わかったこと。
シーツに赤い血が落ちていた。
(……イルティミナさんも初めてだったんだ)
その事実を知って嬉しかった。
でも、気遣えなかったことが、余計に申し訳なかった。
だって、女の人の初めては『とても痛い』って聞いている。
「…………」
僕は、イルティミナさんを見つめた。
優しいお姉さんは、
「?」
と首をかしげる。
汗を吸って湿った髪が、重そうに揺れた。
「えっと、その……痛かったよね? だ、大丈夫だった?」
思い切って、そう訊ねる。
羞恥と申し訳なさで、なんだか、心がいっぱいいっぱいだ。
イルティミナさんはキョトンとする。
それから微笑んだ。
「心配しなくても大丈夫ですよ。私は魔狩人ですから。もっと痛い怪我も、たくさんしてきたんですよ?」
そう言ってくれる。
(で、でも……)
言い募ろうとする僕の唇に、白い人差し指が当てられて、言葉を遮られる。
イルティミナさんは優しい眼差しで、
「それに、これはマールが与えてくれた痛み。それはとても嬉しくて、その傷は、私にとって一生の特別なものです」
そうはにかんだ。
(イルティミナさん……)
彼女は、幸せそうに自分の下腹部を撫でる。
そして、
「この世には、心を満たす痛みというものが本当にあるのですね」
うっとりした声で、そう呟いた。
…………。
なんだか、泣いてしまいそうだ。
こんなに健気に、一途に愛してもらえていることに、僕の心は溢れてしまいそうだった。
僕は上体を起こす。
「マール?」
少し驚いた顔のイルティミナさんに、上から覆い被さって、キスをした。
白い美貌は、目を見開く。
でも、それはすぐに赤くなり、表情が蕩けていく。
潤んだ瞳。
そのまま彼女の両腕が、耐え切れなくなったように僕の頭を抱きしめた。
やがて、口を離す。
「あぁ……マールっ」
でも、すぐにイルティミナさんの唇が追いかけてきて、塞がれてしまった。
キスを重ねる。
気がついたら、僕はまた元気になってしまっていた。
それにイルティミナさんは嬉しそうだった。
女の顔。
この表情は、よく言われるそういうものなのかなぁ、と思った。
でも、僕も嬉しいんだ。
だから僕は、
「イルティミナさん……っ」
今度はもう少しだけ彼女を気遣えるように、そして満足してもらえるようにがんばることにした。
まぁ、自信はないけど……。
だって彼女は、あまりに魅力的だったから。
イルティミナさんの与えてくれる快楽は、荒波のように僕を翻弄するんだ。
「ふふっ」
魅惑的な笑顔が向けられる。
その唇を、またキスで塞ぐ。
そうして僕らは、何度もお互いを求め合いながら、その夜を過ごしていったんだ――。
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