表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

392/825

344・4つのお揃いグラス

第344話になります。

よろしくお願いします。

 アルンのみんなと別れてから、3週間が経った。


「あ、見えた!」


 竜車の窓から身を乗り出して、僕は大きな声をあげる。


 目の前に広がっていたのは、広大な草原の先にある巨大な都市の城壁と、そこへ向かうたくさんの竜車や馬車の群れたちだ。


 王都ムーリア。


 3週間の時をかけて、僕らはシュムリア王国の首都へと帰ってきたんだ。


「ようやく着いたの」


 キルトさんも頷く。


 ソルティスは「はぁ~、やっとね~」と吐息をこぼし、ポーちゃんが労うように少女の肩を揉む。


 その姿に、イルティミナさんは優しく笑う。


 それから、


「帰ったら、まずはレクリア王女に報告ですからね。まだ終わりではありませんよ?」

「うへ~い」


 姉の言葉に、妹は面倒そうな顔で返事をした。


 そんな姉妹に、僕はつい苦笑する。


 それから、また窓の外を見た。


 国の依頼を受けた僕らは、渋滞する一般車両の脇を抜けて、そのまま城門へと向かった。 


 10分ほどで手続きを済ませ、王都内へ。


(相変わらず、賑やかだなぁ)


 たくさんの人の溢れる景色に、なんだか懐かしい気持ちだった。


 やがて、大通りを抜けて、聖シュリアン大聖堂に辿り着く。


 そこで事情を伝えて、レクリア王女への面会を申し込んだ。


 身分確認、身体検査、荷物検査、書類の記入などを済ませ、だいたい2時間ほどで許可が下りてくれた。


(ふぅ、一苦労だ)


 ソルティスも『やれやれ』って顔だ。


「よし、行くぞ」


 そんな中でも、キルトさんは疲れた様子は見せない。


 本当にタフな人だ。


 そして僕らは頷くと、大聖堂奥の階段を上がって、湖上に建つ『神聖シュムリア王城』へと登城したのだった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「よくやってくださいましたわ!」


 いつもの空中庭園で、報告を聞いたレクリア王女は、興奮した声を響かせた。


 おしとやかな王女様が珍しい。


 僕らは、ちょっと驚いてしまう。


 それに気づいて、レクリア王女は少し頬を赤らめると、コホンと咳払いなさる。


 それから、美しく微笑まれた。


「マール様、キルト様、イルティミナ様、ソルティス様、ポー様、本当によく成し遂げてくださいました。これで人類の救済に、大きく前進いたしましたわ」


 穏やかな口調。


 でも、その声には、強い熱がこもっている。


 キルトさんも微笑み、


「ありがとうございます」


 と頭を下げる。


 7つの『神霊石の欠片』を集めることは、それだけ重要だったんだ。


 レクリア王女は言う。 


「状況を黙認した『闇の子』は不気味ですが、しかし、その行動はどう考えても悪手。わたくしたちにとっては、確かな好機ですわ」


 うん。


(僕もそう思う)


『7つの神霊石集め』という一番の困難な部分を、僕らは達成したんだ。


 あとは、しっかりと『神々の召喚』を成すだけ。


 それでおしまい。


 この世界から、恐ろしい悪魔の脅威は消え去るんだ。


 そして、それは僕らが油断さえしなければ、確実に成せる事柄のはずだった。


 レクリア王女は考えつつ、


「もしもに備えて『闇の子』と『復活したタナトス王』の行方は、こちらで調査いたしますわ。けれど、優先すべきは『神々の召喚』となるでしょう」

 

 そう告げる。


 僕らは頷いた。


 それからキルトさんが、


「召喚装置の作成は、どうなっておりますか?」


 と質問する。


 レクリア王女は答えた。


「コロンチュード様を始め、シュムリア、アルン両国の優秀な『魔学者』たちが、日々、懸命の作業をしております。けれど、かなり難航している様子。残念ながら、まだ時間がかかりそうですわ」


 とのことだ。


(そっか……)


 でも、仕方ないのかもしれない。


 神々の召喚は、400年前、古代タナトス魔法王朝の最新技術によって成された偉業だ。


 人類史の最高潮の時代の技術。


 そう簡単に、再現できる代物ではないのだろう。


 ソルティスも『それは当然だわ』という顔だった。


 それから、レクリア王女様は、僕を見る。


 そして、


「1つ、わたくしからもご報告が」


 と言った。


(え?)


「皆様のいない間に、わたしく、王国内の人員の身辺調査を行いましたの」

「はぁ」

「その結果、王国貴族の中に『悪魔崇拝者』、『破滅主義者』の者たちが幾人か見つかりましたわ。そして、彼らは『刺青の者』たちと接触をしていましたの」


 …………。


(それって、つまり『闇の子』と繋がっていたってこと?)


 僕は唖然としてしまった。


 そういえば、エルフの国で出会った時に、アイツは、僕らの『神霊石集め』を知っていた。そして、『人間側にスパイがいる』みたいなことを言っていたっけ。


 つまり、その人たちがスパイ。


 そして、そこから、こっちの情報が漏れていたんだ。


 みんなも険しい顔をしている。


 キルトさんが問う。


「その者たちは?」

「処断しました」


 レクリア王女は、毅然と答えた。


 ……そっか。


 それも仕方ないのかもしれない。


(……それにしても……こんな状況でも、人類は本当に一枚岩にはなれないんだね)


 そのことが少しだけ悲しかった。


 そんな僕を見つめて、


「わたくしたちの不手際で、マール様たちを危険に晒してしまったこと、本当に申し訳ございません」


 レクリア王女は、水色の髪を揺らして頭を下げる。


(わっ?)


 僕は慌ててしまった。


「別に王女様が悪いわけじゃないですよ。だから謝らないでください」


 必死に言うと、彼女も頭を上げてくれた。


 そして、


「アルン神皇国でも、同様に内通者の炙り出しを行っているようです。今後は、2度とこのようなことは起こしませんわ」


 そう決然と言ってくれた。


(うん)


 僕は、大きく頷いた。


 それからレクリア王女は、僕らに先のことについても語ってくれた。


「最優先は『神々の召喚装置』の作成です」


 とのこと。


 それが作成できるまでは、僕らも自由にしてていいそうだ。


 ただし、王都内にいること。


 何かあった時に、すぐ動けるように備えておくこと。


 そう厳命された。


 それと『闇の子』と『タナトス王』の動向に関しては、レクリア王女の方で情報を集めてくれるそうだ。


(つまり、しばらくは待機だね)


 キルトさんは、


「承知いたしました」


 と答え、王女様に頭を下げる。


 僕らも、それに倣って頭を下げた。


 レクリア王女は頷かれて、


「見通しは明るいとはいえ、この先、何があるかわかりません。皆様、どうか、悔いのない時間をお過ごしくださいましね」


 そう美しく微笑まれたんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 シュムリア王国に帰ってから、3日が過ぎた。


 あれからギルド長のムンパさんにも報告をして、恒例の家の大掃除も済ませて、僕らは日常の日々へと戻っていた。


 そして今日。


 僕とウォン姉妹は、冒険者ギルドにある『キルトさんの部屋』へと集合した。


 クエスト達成の慰労会。


 そして、僕とイルティミナさんの誕生日祝いのためだった。


 そう、アルン神皇国に行っている間に、僕らは2人とも誕生日を迎えていたんだ。


 イルティミナさんは、22歳。


 僕は、15歳。


 うん、僕はついに成人した。


 世間的には、1人前の『大人』と認められる年齢になったんだ。


『かんぱ~い!』


 カチン カチィン


 僕ら4人は、手にしたグラスを掲げて、軽くぶつけ合う。


 澄んだ音色が心地いい。


 囲んだテーブルには、ギルドに用意してもらったご馳走やケーキが並んでいる。


 そして、グラスの中身はお酒だった。


(前世なら違法な年齢だけどね)


 でも、ここは異世界なので、こちらの法律上は問題がないのだ。


 ゴクッ


 ……うん。


(ちょっと胸が熱くなる、果実ジュースって感じかな?)


 異世界初のお酒は、そんな感想だ。


 味を確かめる僕の様子を、キルトさんとイルティミナさんが優しく見守っている。


 ソルティスは1人勝手に飲んでいた。


 ちなみに、少女の手にあるのは、キルトさんから誕生日プレゼントにもらった『ガラス細工のお猪口』みたいなグラスだ。


「…………」


 僕は、自分の手元を見る。


 そこにあるのは、色違いの『ガラス細工のお猪口』だった。


 僕だけじゃない。


 隣にいるイルティミナさんの手にあるのも、また色違いの『ガラス細工のお猪口』なんだ。


 実は、これが僕らの誕生日プレゼント。


 僕の分は、キルトさん、ソルティス、イルティミナさんの3人がお金を出して買ってくれた。


 イルティミナさんの分は、キルトさん、ソルティス、僕の3人がお金を出して買ったんだ。


 そして元々、キルトさんも、更に色違いの同じ品を持っていた。


 つまり、4人でお揃い。


 全員がお酒を飲めるようになったのだし、せっかくだからと、みんなで同じグラスを持つことにしたんだ。


(えへへ)


 なんか、こういうのっていいな。


 3人のグラスを、それから自分のグラスを眺めて、僕の頬は綻んでしまう。


「あまり飲み過ぎるでないぞ?」


 キルトさんは、そう苦笑しながら、水の入ったグラスも用意してくれる。


 うん、気をつけます。


 僕は笑って、お水とお酒を楽しんだ。


 いつもは禁酒しているイルティミナさんも、今日ばかりは、お酒を口にしていた。


 2人で視線が合うと、つい笑い合う。


「…………」


 ソルティスは、その様子を眺めながら、パカパカとお酒を空けていく。


 グビグビ


 結構なハイペース。


「えっと……ソルティス、大丈夫?」


 心配になって、僕は聞いた。


 ソルティスは赤くなった顔で「ふんっ」と鼻を鳴らす。


「何よ? 私がこうしないと、あとでマールが困るでしょ? だから、いっぱい飲んでるんでしょうが!」


(え?)


 あとで僕が困る?


 意味がわからない。


 イルティミナさんと視線を合わせるけれど、彼女も首をかしげていた。


 キルトさんは苦笑する。


 ソルティスは、据わった目で僕を睨みつけ、


「ふんだ、この馬鹿マール!」


 グビビ


 またお猪口のお酒を一口に飲み干してしまった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 1時間ほどして、慰労&誕生日会は、終わりの時間となった。


「うにゅう……」


 案の定、ソルティスは真っ赤になって、近くのソファーに横になっている。


 ……全くもう。


(これで家まで帰れるのかな?)


 最悪、僕かイルティミナさんが背負っていくしかないなぁ、と思っていた。


 けれど、


「キルトォ」


 突っ伏したまま、ソルティスが言う。


 キルトさんは、まだお酒を楽しみながら、「ん?」と呟く。


 酔っ払い少女は、


「悪いんだけど、今日、アチシだけ泊めてぇ」


 と言った。


(おいおい)


 と思ったけれど、


「構わんよ」


 キルトさんは、ソルティスの方を見ずに、お酒のグラスを空けながら、あっさりと了承した。


 でも、その声は妙に優しい。


 そしてソルティスは、僕とイルティミナさんに向かって、


「ってことで、明日の昼ぐらいまで、アチシは帰らないからさぁ……。それまで、2人きりでゆっくりしててよね……」


 と言った。


(……え?) 


 驚く僕とイルティミナさん。


 ソルティスは、ずっとソファーに伏せているので、柔らかそうな紫色の髪に隠れて、表情は見えない。


 キルトさんの視線が、こちらを見た。


「そういうことじゃ。ソルは、今夜はわらわが面倒を見る。――そなたらは、もう帰れ」

「…………」

「…………」


 その意味に気づかないほど、僕らは子供じゃない。


 僕は、成人した。


 そして2年前、僕らはヴェガ国である約束をしていた。


 僕が成人するまでは、と。


 誰にも咎められることなく、イルティミナさんへの想いを伝えられる時が来るまでは、と。


(…………)


 その時が来たんだ。


 ドクン ドクン


 鼓動が一気に早くなる。


 酔っていた熱が、別の熱に代わって、頭と心を焼いていた。


 僕は、隣のお姉さんを見る。


「…………」

「…………」


 イルティミナさんも僕を見ていた。


 熱っぽく、緊張したような、泣きそうな、それでいて期待しているような顔だった。


 …………。


 それから僕ら2人は、キルトさんの部屋をあとにした。


 外は夜だ。


 晩冬の空気は冷たくて、吐く息は白くたなびいている。


 でも、不思議と寒くない。


 冒険者ギルドをあとにして、僕らは、家までの道を歩きだす。


 コツ コツ


 石畳の道を歩く足音だけが、真っ暗な夜の世界に響いていた。


「…………」

「…………」


 キュッ


 どちらからともなく手を握った。


 彼女の手は、とても熱い。


 僕とイルティミナさんは、何も喋ることなく、ただ前を向いて、2人だけの夜の家路を辿っていった――。

ご覧いただき、ありがとうございました。


次回は、きゃ~な展開となりますので、皆さん、どうか心していて下さいね~♪



また書籍マール、1巻が絶賛発売中です!

もしよかったら、どうか、ご購入のご検討をどうぞよろしくお願いします!


そして、すでに購入して下さった皆さんには、本当に、本当にありがとうございます~♪



※次回更新は、明後日の金曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コミックファイア様よりコミック1~2巻が発売中です!
i000000

i000000

ご購入して下さった皆さんは、本当にありがとうございます♪

もし興味を持たれた方がいらっしゃいましたら、ぜひご検討をよろしくお願いします。どうかその手に取って楽しんで下さいね♪

HJノベルス様より小説の書籍1~3巻、発売中です!
i000000

i000000

i000000

こちらも楽しんで頂けたら幸いです♪

『小説家になろう 勝手にランキング』に参加しています。もしよかったら、クリックして下さいね~。
『小説家になろう 勝手にランキング』
― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ ソルティスの心遣いからくる深酒。 いい娘やぁ~(´∇`*) [気になる点] 竜玉と違って、此方は7つの欠片を集めた後も大変なのね。 あっちの玉はすぐに『おいでま…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ