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337・王の復活

本日も、書籍発売を記念しての更新です♪(毎日更新は10月30日の金曜日まで行いますよ~)


それでは本日の更新、第337話です。

どうぞ、よろしくお願いします。

 僕らは全員、目の前にある『神霊石の欠片』を見つめた。


「さぁ、マール」


 イルティミナさんが、促すように僕の名を呼ぶ。


 みんなも僕を見た。


(――うん)


 それらの視線に後押しされて、僕は9人を代表して『漆黒の棺』の前へと進んだ。 


 神々しい光が、僕を照らす。


 室内は冷たく、吐く息は白く染まっている。


 僕は手を伸ばし、


 キュッ


 美しい石の欠片を、しっかりと掴んだ。


 棺の蓋部分、そこにある魔法陣の中央に収まっている『神霊石の欠片』を、少しずつ引っ張る。


 キュポッ


 思った以上に簡単に抜けた。


(やった!)


 世界を救うための最後の一欠片――7つ目の『神霊石の欠片』を、僕らはついに手に入れたんだ。


 掲げた石の欠片に、みんなも『おぉ』と声を漏らしている。


 と、その時だ。


 ヒュオオン


 周囲の灯りが、突然に消えた。


(えっ?)


 室内に並び、作動していた魔導機器たちが全て、その働きを止めてしまったんだ。


 ランタンと『光鳥』だけが光源となる。


(何が起きたの?)


 僕は戸惑い、周囲を見回す。


 ガコン


 そんな僕の耳に、背後から重い音が聞こえた。


 振り返ると、『漆黒の棺』の蓋がゆっくりと左右に開いていた。


 ゴッ……ゴゴッ


 開いた蓋の内側からは、強い魔力の輝きが放出され、シュオオ……と白い蒸気が湧きだしている。


(あ……)


 そして、完全に開いた蓋の中、そこに1体の骸骨が横たわっていた。


 ……いや、違う。


 そこにいたのは、『骸骨の兜』を被った騎士だ。


 黒い鎧は、黄金の模様が描かれた美しい物で、肌の見える部分はどこにもなく、手足の先から関節部に至るまで全てが装甲に包まれていた。


 腰の左右には、見事な装飾の剣。


 頭部は、黄金でできた『骸骨の兜』だ。


 兜の上部には、王冠を模した飾りが作られている。


「…………」


 僕らは、その『骸骨騎士』を呆然と見つめた。


 この『骸骨騎士』こそが、人類史上最も栄えた王朝の最後の『王』の遺骸なのだ。 


 突然の邂逅。


 それに僕らは、声も出せなかった。


 もしかしたら、僕の手にある『神霊石の欠片』を引き抜くことが、棺を開くための鍵だったのかもしれない。


 僕は『骸骨騎士』を見つめて、


(……静かな眠りを邪魔して、ごめんなさい)


 そう心の中で謝った。


 カシャン


 その時だ。


 小さな音が響いた。


(……え?) 


 見れば、『漆黒の棺』の縁に、金属装甲に覆われた指がかかっている。


 それは『骸骨騎士』の指だった。


 …………。


 一瞬、思考が止まってしまった。


(え? え? ええっ?)


 僕は、慌てて後退る。


 ガシャッ カシャン


 そんな僕の目の前で、眠っていたはずの『骸骨騎士』がゆっくりと上半身を起こしていく。


 関節部から、ブシュウと蒸気が吹く。


 その上半身が、完全に直立した。


 ヴォォオン


 その眼球部分の魔法石が、目覚めを告げるように紫の光を灯す。


 僕らは誰も、声を発せない。


 そして、『骸骨の兜』にある眼球の輝きは、自らの眠っていた室内へと無粋に侵入した、僕ら9人へゆっくりと向けられたんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「まさか、あの石板の意味って、そういうこと!?」


 誰もが困惑する中、突然、ソルティスが興奮した声をあげた。


 全員、少女を見る。


「石板の意味とは、どういうことじゃ?」


 キルトさんが問う。


 ソルティスは、先ほど解読した用紙を取り出して、それを凝視する。


「石板の文章の締めくくりには『眠りについた《王》が、いつか目覚める時を望む』って書かれていたのよ。でも、それは、ただの非現実な願望じゃなかった。その真意は、実現可能な『死者蘇生』を実行しているということだったんだわ!」


(死者蘇生!?)


 ソルティスの言葉に、僕らは唖然だ。


 確かに、古代タナトス魔法王朝の時代の魔法は凄まじい。


 死者を生き返らせる――それは僕自身、『命の輝石』によって2度も体験しているし、イルティミナさんも経験している奇跡だ。


 でも、そこには条件がいる。


 死亡時に、『命の輝石』を身に着けているという点、復活するための肉体が存在しているという点だ。


(……もし、そういう条件がいらなかったら?)


 それは、もはや死が存在しないのと同義。


 不死の世界を創造するに等しい、まさに人類の手に余るほどの奇跡だ。


 でも、『最後のタナトス王』の死後、残されたタナトス人たちは、その恐ろしい奇跡へと手を伸ばしていたんだ。


 ソルティスは、震える声で告げた。


「400年の時間をかけて、彼らは本当にそれを成し遂げたんだわ……」


 それは歓喜か、恐怖か。


 少女は、今にも泣いてしまいそうだった。


 ガシャリ カシャッ


 その奇跡を具現した『最後のタナトス王』である『骸骨騎士』は、棺の上に立ち上がる。


『…………』


 彼は、なんだか戸惑ったように自分の両手を見つめている。


 それから黒い装甲に覆われた身体を、確かめるように触れていき、最後に『骸骨の兜』に覆われた顔に触れた。


(…………)


 その様子を、僕らは見守るしかなかった。


 正直、どうしていいのかわからない。


 キルトさんが意を決して、何か言葉を発しようと口を開きかけた。


 その時、


『……ナール、ダリアロス、グ、アイン』


『骸骨の兜』の奥から、くぐもった若い男の声が響いた。


 それが甦った『最後のタナトス王』の肉声だと、僕らは、一拍遅れて気づいた。


(古代タナトス語……?)


 恐らく、今、口にしたのは、タナトス魔法にも使われる『タナトス魔法文字』の言語だと思われた。


 でも、誰も意味がわからない。


 唯一、博識少女であるソルティスは、


「……神魔を越える肉体? ……成功したのか?」


 そう、僅かな翻訳をしてみせる。


 でも、


(神魔を越える肉体……成功……って、どういうこと?)


 僕は、首をかしげた。


 カシャン


 そんな僕らの前へ、『骸骨騎士』は、棺の上からゆっくりと歩み出てくる。


「…………」


 僕の青い瞳は、その姿を見つめた。


 そして、『骸骨騎士』の紫色に輝く眼球も、僕へと向けられた。


 ……いや、


(見ているのは、『神霊石の欠片』かな?)


 そう気づいた。


 気づいた瞬間だった。


「!」


 イルティミナさんが何かに反応して、僕へと向かって突進してきたんだ。


(へっ?)


 驚く僕。


 そんな僕めがけて、彼女の右手は『白翼の槍』を鋭く振り抜き、同時に、その左手は、僕の襟首を掴んで、思いっきり後方へと引っ張った。


 ガギィイイン


 凄まじい金属の衝突音と火花が、目の前で発生した。


 寸前まで僕がいた場所に、いつの間に抜かれたのか、『骸骨騎士』の剣があり、それ以上、進ませないようイルティミナさんの白い槍が、その剣を受け止めている。


(え……? あ)


 遅れて、僕はようやく自分が殺されそうになったことに気づいた。


「う、わぁああ!?」


 慌てて下がり、『妖精の剣』を抜く。


 ググッ


 力比べをしているイルティミナさんの表情が苦しげに歪む。


 ガチィイン


 次の瞬間、彼女の身体が簡単に弾かれ、空中高くへと吹き飛ばされた。


「く……っ」


 タンッ


 空中で回転し、壁へと着地したイルティミナさんは、そのまま床へと降りる。


(なんて力だ!)


 そこに至って、全員が武器を構えた。


 目の前にいる『骸骨騎士』が、僕らに敵対行動を取った――その事実を、ようやく認識したんだ。


(でも、なんで?)


 この『骸骨騎士』は、いや『最後のタナトス王』は、なぜ僕を殺そうとしたのか?


 ヒィイン


 僕の手の中には、輝く『神霊石の欠片』がある。


 そして、『骸骨の兜』の眼球にある紫色の光は、その美しい石の欠片だけに向けられ続けていた。


(まさか……)


 この『神霊石の欠片』が狙い?


 キルトさんが『骸骨騎士』から視線を外さず、ソルティスに言う。


「ソル! 奴との対話はできぬか!?」

「え、えっと、やってみるわ」


 自信なさげに、少女は頷いた。


 そして彼女は、ポーちゃんの背中に半分隠れながら、


「ラルタ……オット、バ、ドゥトロ?」


 と、たどたどしい古代タナトス語を口にした。


 カシャッ


『骸骨騎士』の無機質な視線が、少女へと向けられる。


 ビクッとするソルティス。


 そして、


『ワーナ。クラス、テラ、アバンタ。ナーガ、ラティウス、アル、クティーラ』


『骸骨騎士』は、そう返答した。


(おぉ……!)


 意思の疎通ができた。


 そのことに、僕は、お互いの剣を収められる可能性を感じて、喜んだ。


 でも、少女の表情は、逆に強張っていく。


「え、えっと……下等なる愚民ども。……返還。……我が力の源。……万死の罪。……って感じの答えなんだけど」

「…………」

「…………」

「…………」 


 あまりに不穏な答え。


 そして、目の前の『骸骨騎士』から感じられる敵意にも、まるで変化がなかった。


 ガシャッ


 黒い装甲に包まれた左手が、右腰の剣の柄を掴む。


 それは一気に引き抜かれ、美しい刃の剣が姿を現した。


 すでに持っていた右手の剣と合わせて、『骸骨騎士』の左右の手に1本ずつ、美しい剣が構えられる。


 二刀流だ。


 向こうは、完全に戦う姿勢である。


 それを見て、ソルティスは真っ青だ。


 他のみんなも、それぞれの武器を構えながら、険しい表情になっている。


(どうする?)


 この好戦的な気配だと『神霊石の欠片』を返しても、許してくれなさそうだ。


 いや、それ以前に、


(僕らだって、世界を救うために、これを渡すわけにはいかないんだ)


 ギュッ


 僕は、左腕の中の『神霊石の欠片』を強く抱きしめる。


 ダルディオス将軍は、『骸骨騎士』との間合いを保ったまま、奴に視線と剣先を向けながら、


「どうする、鬼娘?」


 と、キルトさんに決断を迫った。


 彼女は、一瞬、迷った表情を見せる。


 けれど、すぐに息を吐き、覚悟を決めた顔になった。


「やるぞ。相手が『太古の王』であっても関係ない。我らは、今、この時代にある人々を守るのじゃ!」


 ジャキッ


 その決意を示すように『雷の大剣』を構えた。


(うん!)


 僕らは、強く頷いた。


『…………』


 そんな僕ら9人へと向かって、偉大なる『最後のタナトス王』は、硬く冷たい足音を響かせながら、ゆっくりと近づいてきた。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、明日の0時以降を予定しています。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ 流石はイルティミナ! マールが関わるあらゆる出来事に対して、自身のリミッターを解除して即座に対応!! そこいらの変身ヒーローよりも頼りになる存在ですね!Σd(⌒…
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