第1巻発売記念SS
皆さん、こんばんは。
月ノ宮マクラです。
本日ついに、『少年マールの転生冒険記 ~優しいお姉さん冒険者が、僕を守ってくれます!~』の第1巻が発売です!
ばんざ~い!
もしよろしければ、どうか皆さん、ぜひぜひよろしくお願いしますね~!
さて本日は、そんな書籍の発売を記念しまして、『第1巻発売記念SS』をお送りします。
どうかお楽しみ頂けましたら幸いです♪
それでは、どうぞ~!
とある日の午後。
シュムリア王国の王都ムーリアで、僕とイルティミナさんは、一緒に買い物に出かけていた。
買うのは、今夜の料理のための食材だ。
「何を買うの?」
僕は訊ねる。
イルティミナさんは少し考えて、
「……そうですね。今夜は魚にしましょうか」
と微笑んだ。
(うん、いいね)
彼女の料理が大好きな僕は、それが楽しみで笑顔になった。
イルティミナさんも笑みを深くする。
それから僕らは、人の多い商業区で迷子にならないよう、お互いの手を繋いで歩いた。
やがて、魚屋に到着。
(へ~、色々あるなぁ)
大きなものは3メード、小さなものは5センチほどと様々なサイズの魚が並んだり、吊るされたりしている。
中には、鋸みたいな角や、猪みたいな牙の生えた魚もいた。
さすが異世界だ。
(……そういえば、ここ王都ムーリアは、周辺に海がない内陸の都市なのに、どうして魚が売っているんだろう?)
保存とか、どうするのかな?
そう思って、物知りなお姉さんに訊ねると、
「冷凍魔法です」
と教えてくれた。
海辺の街で、捕った魚は、すぐに魔法で冷凍されるのだそうだ。
そして、各都市に運搬。
そこで解凍の魔法がかけられて、店頭に並ぶというわけだ。
(なるほど~!)
科学技術が発達していなくても、異世界ならではの方法はあるんだね。
そして、買い物も終了。
イルティミナさんは、30センチほどの魚を何尾か購入していた。
「では、帰りましょうか」
「うん」
僕らは笑い合い、そのまま帰路についた。
◇◇◇◇◇◇◇
「あ、猫だ!」
それは帰る途中の路地の一角だった。
人のいない道に、猫たちが10匹ぐらい集まっていたんだ。
(うわぁ……モフモフだぁ)
僕は、目をキラキラさせてしまう。
ニャ~ン
僕らに気づいた1匹が、可愛い声をあげて近づいてきた。
(お?)
茶トラの猫だ。
驚いている僕の足に、頭と身体を擦りつけると、
コロン
そのままお腹を見せて寝転がる。
…………。
「触っていいの?」
ニャ~ン
僕の確認に、茶トラ猫は返事をするように鳴いた。
僕は笑った。
ナデナデ
しゃがんで、そのふっくらしたお腹を撫でてやる。
いい毛並みだ。
温かくて、柔らかくて、触り心地もいい。
(ふわぁ……気持ちいいなぁ)
猫も瞳を細めている。
イルティミナさんも「人懐っこい猫ですね」と微笑んでいた。
ニャ~ン ニャ~ン
(ん?)
鳴き声が聞こえて振り返れば、他の猫たちも僕の近くに集まっていた。
スリスリ コテン
みんなが身体をこすりつけ、そのまま仰向けに。
ニャ~ン
まるで催促するように僕を見て、鳴き声を響かせた。
(はわわ……っ)
僕は、その子たちのことも撫でてやる。
ナデナデ ナデナデ
みんな気持ち良さそうだ。
思わぬモフモフ三昧に、僕も幸せだった。
まさに、モフモフ猫天国。
もしかして僕が『神狗』だから、同じモフモフ仲間と思われたのかな?
(なんでもいいや)
だって、こんなに可愛くて、撫でてて気持ちがいいんだから。
可愛いは正義。
この子たちは、それを体現している存在なのだ。
「ふふっ、マールは大人気ですね」
そんな僕らを眺めて、イルティミナさんは苦笑していた。
不思議なことに、僕のそばには集まってくるけれど、イルティミナさんの足元には1匹も近づいていなかった。
なんでだろうね?
やがて、イルティミナさんは買った魚の1匹を、携帯していたナイフで切り分け、猫たちに配ってあげた。
優しいお姉さんだ。
猫たちは、我先にと美味しい魚に食いついている。
それを眺めて、
「それじゃあ、またね」
ニャオ~ン
猫たちと別れの挨拶を済ませて、僕とイルティミナさんは、その猫集会の場をあとにしたんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
その日の夕食の魚料理は、絶品だった。
刺身、焼き魚、焚き込みご飯などなど、イルティミナさんは色んな魚料理を作ってくれた。
「最高だわ~♪」
食いしん坊のソルティスも上機嫌だった。
(うん、美味し♪)
僕も、絶品の魚料理をお腹いっぱい堪能した。
「ふふっ、よかった」
そんな僕ら2人を眺めて、イルティミナさんは嬉しそうに表情を綻ばせていた。
…………。
やがて、夜も更けた。
夕食の後片付けも、とっくに終わらせ、もう就寝時間。
(そろそろかな?)
自室にいた僕は、そう思って部屋を出た。
行くのは、イルティミナさんの部屋。
理由は、抱き枕のため。
今夜は美味しい料理を作ってくれたので、ご褒美にイルティミナさんは、久しぶりの抱き枕をご所望されたのだ。
(ということで、マール君、出動です)
僕は、暗い階段を下りていく。
めざすイルティミナさんの部屋は、1階にあるんだ。
角を曲がって、廊下を歩く。
(おや?)
いつもなら真っ暗な廊下なのに、少し明るい。
見れば、イルティミナさんの部屋の扉が少しだけズレていて、隙間から光が漏れていた。
(あらら)
珍しいことに閉め損ねたみたいだ。
イルティミナさんでもこんなことあるんだね、なんて思いながら、近づいていく。
1階にはソルティスの部屋もある。
もう眠っているかもしれないので、足音と気配は殺していた。
そして扉に近づいて、
「にゃ~ん」
(ん?)
その隙間から、妙な声が聞こえた。
なんだろう?
こっそりと近づいて、隙間から部屋の中を覗いた。
「うにゃ~ん」
部屋の中央で、なぜかイルティミナさんが両手を耳のように頭に当てて、猫の鳴き真似をしていた。
(…………)
もしかして僕、夢を見てるのかな?
思わず、頬をつねる。
……痛い。
夢じゃない。
すると、混乱している僕の耳に、
「……私も猫だったら、昼間の猫たちみたいに、いっぱいマールに撫でてもらえるのでしょうか?」
そんな呟きが聞こえた。
…………。
少し寂しそうなイルティミナさん。
それから、彼女は頭に両手を当てて、
「にゃ~ん」
と、切なげな鳴き声を響かせた。
その時だった。
ギィィ……ッ
僕が近づいたことで空気の流れが変わったのか、扉が勝手に開いてしまった。
「あ」
「え?」
固まる僕ら2人。
イルティミナさんは、まさに両手を猫耳にして、可愛らしくしなを作っている真っ最中だった。
その美貌が真っ赤に染まる。
「ち、違うんです、マール! こ、これは……その……あの……っ」
慌てふためくお姉さん。
両手をパタパタして、なんだか泣きそうな顔だ。
(……え、えっと)
とりあえず僕は室内に入って、パタンと扉を閉めた。
そのまま、彼女に近づく。
イルティミナさんは涙目のまま、僕を見つめてくる。
それを見つめ返して、僕は右手を伸ばした。
ナデナデ
そのまま、イルティミナさんの細くて柔らかな深緑色の髪を、優しく撫でてやった。
「……あ」
驚きの表情。
僕は恥ずかしさを我慢しながら、
「よ、よしよし、いい子だね」
猫たちにしたように、そう声をかけながら、イルティミナさんの綺麗な髪に指を通したりして、ゆっくり丁寧に撫でてやった。
イルティミナさんは真っ赤だ。
でも、逃げない。
僕の手を払うこともなく、されるがままだった。
ドキドキ
僕の顔も、きっと赤くなっている。
「にゃあ……ん」
小さな鳴き声が、彼女の唇の間からこぼれる。
とある夜。
そうして僕はしばらくの間、素敵な猫イルティミナさんを、いっぱい可愛がってあげたのだった。
ご覧いただき、ありがとうございました。
次回更新は、明日の0時以降を予定しています。
また書籍の発売記念として、来週の金曜日(10月30日)まで、なんと本編の毎日更新をしたいと思います!
もしよかったら、皆さん、どうか読んでやって下さいね~!