334・開かずの扉
皆さん、こんばんは。
月ノ宮マクラです。
気がつけば、ついに書籍の発売が明日(10月22日 木曜日)となりました!
いやはや、もうドキドキです……。
もしよろしければ、どうか皆さん、よろしくお願いします~!
さてさて、そんな中、10月16日のHJ文庫・ノベルスの公式ブログにて、『少年マールの転生冒険記』の事が紹介されていました。
https://firecross.jp/hjnovels/series/399
(コピペのお手数、おかけします)
とても素敵に紹介なさって下さっていました。もしよかったら、どうか覗いてみて下さいね~♪
それでは、本日の更新、第334話になります。
どうぞ、よろしくお願いします。
地下3階は、今までの階層より天井が高かった。
冷たい空気も変わらない。
まるで巨人のためのような真っ暗な通路を、僕ら9人は歩いていく。
(ん……?)
僕らの前方を飛んでいる『光の鳥』の灯りに反射して、通路の壁がキラキラと輝いていた。
なんだろう?
近づいてみると、それは大きなガラスの壁だった。
自分たちの姿が、ガラスに反射している。
顔を近づけると、ガラスの向こう側の景色が薄っすらと見えた。
「あ……」
そこにあったのは、『ゴーレム生命体』だった。
巨大な金属のベッドに寝かされ、その機械部分のパーツが分解され、並べられている。
それが20体ぐらい。
生体部分は、皆、内臓部分が空っぽだった。
同じようなガラスの壁が、この通路の先まで延々と続いている。
(なんだ、これ……?)
言葉をなくしている僕らの耳に、ソルティスの声が聞こえた。
「ここ、『ゴーレム生命体』の製造工場だったのね」
製造工場?
「ここは、タナトス王のお墓なんじゃないの?」
僕は疑問を口にした。
ソルティスは、こちらを見返して、
「だから、お墓の中に、そこを警備するためのゴーレムを自動生成する部屋が造られてたのよ」
と言った。
(なるほど……)
僕らみたいな侵入者に『ゴーレム生命体』が倒されることもある。
そうして数が減っても、王の墓を守り続けるために、自動で守護ゴーレムを補充できるようになっていたってことか。
「凄い仕組みだね」
僕は、素直に感心した。
ソルティスも「そうね」と応じる。
「今は稼働していないみたいだけど、どういう条件で稼働するのかしら? 時間制? それとも動いている『ゴーレム生命体』の数が一定数を割った時とか?」
そう言いながら、ガラスの向こう側を見つめている。
…………。
ソルティスはなんだか、『ゴーレム生命体』が生産されるところを見てみたそうだ。
(今、増えられたら困るんだけどな)
それにしても、ゴーレムの自動生成施設……か。
400年前に終わってしまった古代タナトス魔法王朝、その最後の王が眠る『王墓』らしく、とてつもない魔導テクノロジーの秘められた墓所みたいだ。
みんなも無言で、透明な壁の向こう側を見つめる。
動かぬ『ゴーレム生命体』たち。
それが守る最後の『タナトス王』の亡骸が、ここにある。
「――行こう」
キルトさんが言い、僕は頷いた。
そうして僕らは、無数の『ゴーレム生命体』たちの眠る通路を歩いていった。
◇◇◇◇◇◇◇
地下3階には、幸いというべきか、稼働している『ゴーレム生命体』はいないみたいで、1度の戦闘もなく先へと進めた。
幾つかの分岐を経て、やがて、大きな広間に突き当たる。
そこで行き止まりだ。
そして、広間の正面には、直径10メードはある扇形の扉が鎮座していた。
僕らは、すぐに気づく。
「開かずの扉だ……」
『タナトス王の王墓』の最深部にあるという、過去の調査隊がどうやっても開けることのできなかった謎の扉。
そして、『神霊石の欠片』がその奥にあると推測される扉。
(……ついに辿り着いた)
僕の胸に、熱い感慨が湧きあがる。
みんなも言葉なく、その巨大な扉を見つめていた。
見た目は、重厚な隔壁みたいだ。
複雑な紋様が刻まれていて、様々な形の魔法石が埋め込まれている。
「見て。反応があるわ」
不意にレクトアリスが言った。
その美しい手の中には、小型の円盤――『探査石円盤』がある。
その中央にある魔法石は、強い光を放っていた。
(うん)
この扉の奥に、間違いなく、僕らの求める『神霊石の欠片』があることを示す反応だ。
その輝きが、僕らを照らす。
けれど、この扉の向こう側に行くには、どうすればいいのかな?
「ふむ」
キルトさんが近づき、その手で扉に触れた。
それから体重をかけて押したけれど、彼女の力でもビクともしない。
「やはり駄目か」
押すのをやめたキルトさんは、表面を軽く拳で叩く。
コォン コォン
金属の重く澄んだ音色が、広間内に反響して響く。
そしてキルトさんは、3歩後ろに下がると、背負っていた『雷の大剣』を抜き放った。
「ぬん!」
それを振り下ろす。
ガゴォオオンン
大剣と扉の衝突音が響き、衝撃波のような風圧が周囲へと広がった。
(うわぁ)
その風で、僕らの髪が暴れる。
やがて、それが収まり、改めて扉を見てみるけれど、キルトさんの大剣がぶつかった扉には、小さな凹み1つ、できていなかった。
キルトさんは、銀髪を揺らして首を左右に振った。
「頑丈な扉やな」
ラプトも呆れたように呟く。
彼は、その身でキルトさん剣を受けたことがあるからこその、実感のこもった感想だった。
フレデリカさんが呟く。
「やはり物理的な衝撃を弾く魔法が、かかっているのだろうか?」
うん、そうかもしれない。
僕は『妖精の剣』を引き抜いて、空中にタナトス文字を描いた。
そして、
「あの扉を破壊して。――フラィム・バ・トフィン!」
腕輪の魔法石から『炎の蝶』を生み出す。
空中を飛翔した数十羽の『炎の蝶』たちは、キルトさんが大剣を叩きつけた箇所へと殺到した。
ドパッ ドパッ ドパパァアアン
連続する爆発音。
弾ける炎が『王墓』の中を明るく照らしている。
やがて、全ての魔法の蝶が弾け散り、
「……やっぱり駄目かぁ」
僕らの目の前には、無傷のままの扉だけが残されていた。
イルティミナさんは優しく微笑み、その手が慰めるように僕の髪を撫でてくれる。
それから彼女は、みんなに向けて言う。
「物理、魔法、どちらの攻撃も無効のようです。これは、やはり正しい開錠方法を見つけるべきではないでしょうか?」
その提案に、ダルディオス将軍も同意する。
「う~む。それが一番の近道かもしれぬわい」
(うん)
僕も、そんな気がする。
ポーちゃんは促すように、神界の同胞である美女を見た。
「わかったわ」
気づいたレクトアリスは、前に出る。
ギュルン
その額に、第3の眼が開かれる。
そして、赤い光が巨大な扉に向けて照射され、ゆっくりとスキャニングが行われた。
…………。
レクトアリスは、5分ほど時間をかけた。
ずいぶんと長い。
そう思っていると、ようやく額の眼から光が消えて、彼女は大きく息を吐いた。
「どうだったの?」
待ちきれないようにソルティスが問う。
レクトアリスは、少し疲れた表情だった。
「思ったより複雑な構造だったわ。人間たちの技術もなかなかのものね」
そう感想を言って、
「結論から言うと、やはり『鍵』が必要だわ。それも特定の魔力の波長パターンを入力する必要があるみたい」
と続けた。
(……えっと)
「もっとわかり易く言うと……?」
僕は、申し訳なく思いながら、そう訊ねた。
でも、レクトアリスは優しく笑ってくれる。
「そうね。数億の数字を組み合わせるダイヤル錠みたいなイメージかしら?」
「……数億」
僕は、ちょっと呆けた。
フレデリカさんは、少し焦ったように問いかける。
「それで、この扉は開錠できるのか?」
皆もレクトアリスに注目する。
彼女は、紫色のウェーブヘアを揺らしながら、ゆっくりと首を横に振った。
「現時点では、無理ね」
「…………」
「その特定の魔力の波長パターンがわからなければ、この扉を開けることは不可能よ。それを生み出す『鍵』を見つけなければ、どうしようもないわ」
美しい声は、暗い広間に淡々と響く。
(鍵……か)
それは、いったいどこにあるというのか?
僕ら9人は、『タナトス王の王墓』の地下にある巨大な扉の前で、しばらく言葉を失ってしまったのだった。
ご覧いただき、ありがとうございました。
次回の更新は、明日10月22日の0時以降に、書籍発売日という事で『書籍発売記念ショートストーリー』を公開したいと思います。
もしよかったら、皆さん、どうか読んでやって下さいね~!