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333・王墓の番人たち

皆さん、こんばんは。

月ノ宮マクラです。


挿絵(By みてみん)

(こちら、家紋 武範様より頂いた千社札です♪)


ついに書籍の発売が、今週の木曜日と迫りましたね!(豆腐メンタルな作者は、すでに緊張していますが……)

つきましては、10月16日の活動報告で、新たなイラストの公開や限定特典の店舗情報などを公開しています。もしよかったら、皆さん、どうか覗いてみて下さいね~。



それでは本日の更新、第333話になります。

どうぞ、よろしくお願いします

「凄いわ、これ。遺失技術ロスト・テクノロジーの結晶ね」


 倒れた『ゴーレム生命体』を調べていたソルティスは、感嘆の吐息を漏らした。


 金属装甲は、少女に指示されたポーちゃんが引き剥がした。


 メキメキ バキン


 そうして見えたゴーレムの内側には、生身の内臓と機械の両方が詰まっていた。


 歯車や金属の骨組み。


 オイルパイプ。


 ボルトや魔法陣の刻まれたプレートなどが、たくさんあった。


(ちょっとグロい……)


 緑の血液に濡れた、その肉体の内側に、博識少女は躊躇なく、両手を突っ込む。


 グチャッ ギギィン


 取り出されたのは、コードとパイプが繋がれた金属の球体だ。


 小さな窓からは、中に青い液体が詰まっているのがわかる。


「ふぅん? これが心臓部ね」


 ソルティスは呟いた。


「脳もあるし、肺もある。でも胃袋はなくて、代わりに、エネルギー源の『魔素』を吸収する装置があるんだわ。そして、魔法式を宿した血液を循環させている。まるで人造人間ね」


 そういう彼女の瞳は、ウキウキと煌めいていた。


(う~ん)


 未知の技術に触れるのが楽しいみたいだ。


 もし、ここにコロンチュードさんもいたら、大変なことになっていたかもしれないね。


 そして、


「人間の発想は面白いわね。でも、少し倫理観に欠けているわ」


 神界の博識美女レクトアリスは、そう呟いた。


(倫理観……?)


 僕の視線に気づいて、


「生命への敬意が足りないわ」

「…………」


 彼女の言葉に、僕は何も言えなかった。


 この『ゴーレム生命体』は、機械でもロボットでもなく、ちゃんと『生きていた』んだ。


「そうね」


 ソルティスも、そこは少し神妙に頷いた。


「ただ、その結果、未来の人間たちにたくさんの利益を生み出すこともあるから、どちらが正しいかは、私からは何も言えないわ。だって、私の使う回復魔法だって、その時代の研究成果が生みだした魔法なんだもの」


 そっか……。


 その利益を甘受して、僕も、何度も怪我を治してもらっていたのだ。


(確かに何も言えないね)


 レクトアリスは、困った顔をした。


 ラプトは肩を竦める。


「ま、ワイらも人間のやることにそこまで干渉する気はない。それが過ちなら、きっと報いを受けるやろ」


 報い……かぁ。


 それが400年前の神魔戦争だったのかもしれないね。


 そんな風に考えていると、


「マール。アンタ、ちょっとこの辺の絵、描いておいてよ」


 ソルティスにそう頼まれた。


(ん?)


「さすがに、この大きさの遺物は持って帰れないでしょ? せめて、魔法陣とか構造だけでも記録しときたいの」


 あ、うん。


 そういうことならと、僕は荷物から、紙と筆とインクを取り出した。


 サラサラ


「こんな感じ?」

「ここの魔法陣は、魔法文字まで、もっと詳しく描いて」

「は~い」


 僕は素直に従う。


「あまり時間をかけるな」


 周囲を見張りながら、キルトさんはそう注意してくる。


(うん)


 僕らの目的は、遺跡の調査じゃなくて、『神霊石の欠片』の入手だからね。


 ちょっと焦りながら、僕は10枚ほどのスケッチを終えた。


「これでいい?」

「ん……いいわ。ありがと、マール」


 ソルティスは上機嫌だったみたいで、珍しく素直にお礼を言われてしまったよ。


(あはは……)


 驚いたけど、ちょっと嬉しい。


「お待たせ、キルト。それじゃ、先に行きましょ?」

「うむ」


 笑顔のソルティスに、キルトさんも苦笑しながら頷いた。


 そうして、僕らは探索を再開する。


『ゴーレム生命体』のいた広間には、上階への階段の他に5本の通路が繋がっていた。


 そして、レクトアリスが「こっちね」と第3の眼で確認した通路へと、僕ら9人は進んでいった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 魔法の『光の鳥』とランタンの灯りを頼りに、通路を歩く。


 だいぶ時間が経った。


(……長いな、この通路)


 まだ終わりが見えない。


「地上部分より、地下の方が規模が大きいようだな」


 黒騎士のフレデリカさんは、そう呟いた。


 そうなんだ?


 地上に見えていた『王墓』は、1キロほどの大きさだったけど、地下はその3倍はありそうだった。


 きっとピラミッド型の建造物なんだろう。


 そして、その広大な面積に伸びる通路は、迷路みたいに分岐も多かった。


 分岐に突き当たるたびに、


「レクトアリス」

「ちょっと待ってね」


『神牙羅』の美女が第3の眼を開いて、通路の先をスキャンしてくれる。


「こっちだわ」


 そうして彼女の言葉に従い、歩いていく。


 そんな展開が2時間以上、続いた。


 そしてまた分岐に突き当たり、レクトアリスは第3の眼から赤い光を照射して、前方を確認する。


「!?」


 と、彼女は驚いた顔をした。


「どうした?」


 気づいたキルトさんが問う。


 レクトアリスは、表情を険しくしながら、左側の通路の闇を見つめる。


「この先に、さっきの『番人』がいるわ」


(えっ!?)


「なんじゃと」


 驚愕する僕ら。


『番人』って……つまり『ゴーレム生命体』のことだよね?


「間違いないのか?」

「えぇ」


 キルトさんの確認に、レクトアリスははっきりと頷く。


「少し遠回りになるけれど、右の通路に行きましょう。無駄な戦闘は避けた方がいいわ」


 僕らは顔を見合わせる。


(うん、そうだね)


 すぐに頷いて、


「よし、右の通路じゃ」


 キルトさんの号令で、右の通路へと進んでいった。


 …………。


 それから10分後だ。


 また出くわした三差路で、レクトアリスが通路の先を確認する。


「……嘘でしょ?」


 彼女は、また驚いた顔をする。


(?)


 見つめる僕らの視線の先で、レクトアリスは困ったように言った。


「この先にも、また別の『番人』がいるわ」

「何……?」


 キルトさんも驚き、神界の美女の見ている通路を見る。


(また?)


「それも2体」

「え……っ?」


 予想外の言葉に、思わず声が漏れてしまった。


 ソルティスが焦ったように言う。


「ちょっと待ってよ。さっきの『ゴーレム生命体』が、この『王墓』には何体もいるっていうの?」

「そうみたいね」


 レクトアリスは、吐息をこぼしながら認めた。


 僕らは青ざめる。


 あれだけ強力な『番人』が複数体、巡回しながら侵入者を排除しようとしているのか。


(さすが『タナトス王の王墓』だ)


 その危険度を、僕らは改めて思い知らされた。


 イルティミナさんが考え込む。


「50年前、この『王墓』に入った調査隊は、襲われなかったのでしょうか?」


 あ……。


(そうだよ)


 50年前にも、この王墓を調べた人たちがいて、だから『地下3階であること』、『開かずの扉』があることが判明してたんだ。


 フレデリカさんが迷いながら、


「もしかしたら、何か襲われない方法があるのかもしれないな」


 と呟いた。


(うん……)


 調査隊が、たまたま巡回する複数の『ゴーレム生命体』と出くわさなかったなんて、考えにくい。


 でも、


「どんな方法なんだろう?」


 僕の呟きには、誰も答えられなかった。


 沈黙が、通路内に重く広がる。


 やがて、キルトさんが大きく息を吐いた。


「わからぬ」


 そう口にした。


「残念じゃが、それがわらわたちの現状じゃ。しかし、ないものを嘆いていても仕方があるまい」


 そう続ける口調には、強い覚悟がある。


 その黄金の瞳は、僕ら1人1人を見つめた。


「可能な限り、戦闘は避けよう。じゃが階下に向かうため、どうしても障害となる位置の『ゴーレム生命体』は狩っていくぞ」


 その視線を、僕らは受け止める。


「うん」

「はい」

「わかったわ」

「承知」


 僕とイルティミナさん、ソルティス、ポーちゃんが応え、


「おう」

「いいわ」

「よかろう」

「あぁ」


 ラプト、レクトアリス、そしてダルディオス父娘も大きく頷く。


 そんな僕らに、キルトさんも頷いた。


「よし、行くぞ!」


 銀髪をひるがえし、前を向くキルトさん。


 そうして僕ら9人は、再び、戦いの待ち受ける通路の奥へと足を踏み出していった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 冷たい金属の壁に包まれた通路で、それから僕らは、何度か戦闘を行った。


「弱点は、左下腹部!」


 ソルティスが叫び、イルティミナさんが白い槍を突きだした。


 キュボン


 刃は正確に『ゴーレム生命体』の左下腹部を貫き、そこにあった魔導機関を破壊する。


 ブシュウウ ズズゥン


 大量の血液を噴き出し、その血だまりへと巨体が倒れる。


 痙攣した肉体は、起き上がらない。


(ふぅぅ……)


 僕は大きく息を吐き、構えていた『妖精の剣』を下ろした。


 これで4体目。


 あれから僕らは、3体の『ゴーレム生命体』を倒していた。


 出くわすたびに、レクトアリスが第3の眼でスキャンして、弱点となる魔導機関の位置を見つけてくれる。


 それをソルティスが叫び、みんなでその弱点を破壊した。


 その繰り返しだった。


 キルトさんも「ふむ」と頷き、『雷の大剣』を背中へと負い直す。


「皆、無事か?」


 その問いかけに、全員が頷く。


 幸いなことに、怪我人はいなかった。


 あのキルトさんとダルディオス将軍が前線に立ち、更に、鉄壁のラプトまで加わって、パーティーの防御力は、これまで僕が経験したことのないレベルの高さだった。


 更に、イルティミナさんとフレデリカさんの援護。


 その後ろには、レクトアリスとポーちゃんもいる。


 そして、僕やソルティスもいるんだ。


(ここまで僕、1回も戦ってないんだよね……)


 レクトアリスがすぐに弱点を見つけてくれるのもあると思うけど、本当にみんな凄い。


 ただ、レクトアリスの消耗が激しいかな、とも思った。


 たった1人で、分岐のたびに正しい通路を確認したり、『ゴーレム生命体』の弱点をスキャンし続けている。


 そう心配したけど、


「大丈夫よ」


 紫色の髪を揺らしながら、彼女は笑った。


「確かにスキャニングばかりしてるけど、逆に言えば、それしかしてないもの。結界を張ったり、攻撃に力を使ったりしてるわけでもないわ。消耗はそこまでしてないから」


 そう……?


(それならいいんだけどね)


 ホッと安心する僕に、ラプトは苦笑する。


「マールは心配症やなぁ」

「あら? 心配される側としたら嬉しいわ」

「…………(コクコク)」


 レクトアリスが優雅に微笑み、ポーちゃんは同意を示すように何度も頷く。


(あはは……)


 3人の反応に、僕は困ってしまった。


 と、


「その優しさが、マールのいいところですよ」


 ナデナデ


 いつの間にかそばにいたイルティミナさんが、優しく笑って、僕の頭を撫でてくれた。


 ソルティスは肩を竦める。


 キルトさんは片手を腰に当てて、


「そなたら、無駄話はそのぐらいにしておけ。次の『番人』が巡回に来る前に、先に進むぞ」


 そう促した。


(あ、うん)


 僕らは気持ちを切り替えて、また通路を進んだ。


 やがて、30分ほど。


 僕ら9人は、また見知らぬ広間へと辿り着く。


 そこで、横を見ていた黒騎士のお姉さんが「あ……」と気づいた。


「あったぞ、キルト殿。下への階段だ」


 皆がそちらを見る。


 フレデリカさんの示した指の先に、確かにポッカリと黒い穴が開いたような階下への段差が続いていた。


 地下3階への階段だ。


 そして、そこは『タナトス王の王墓』の最下層。


(…………)


 そこに『神霊石の欠片』があるはずなんだ。


 しばらくの間、全員が、静かにその階段の先の暗い闇を見つめた。


 やがて、


「よし、皆、行くぞ」


 キルトさんの強い決意の声に、僕らは頷く。


 そうして、最下層へと通じる階段を1歩1歩、ゆっくりと降りていった。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、明後日の水曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ ソルティスも、倒したキメラ型ゴーレムを躊躇なく解体出来たなぁ(笑) 金属主体だからバラせると思ったのか?( ̄∇ ̄) まぁ、結果的には弱点の有無も判明したけれど、…
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