332・ゴーレム生命体
家紋 武範様より千社札を頂きました♪
こちらは、月と夜のイメージで作って頂いたそうです。素敵な千社札、本当にありがとうございました~!
それでは、本日の更新、第332話になります。
どうぞ、よろしくお願いします。
「ぬんっ!」
金印の魔狩人キルト・アマンデスは、『ゴーレム生命体』の巨体の懐に飛び込むと、その大剣を振り下ろした。
ガギィイン
巨人の交差した金属の腕が、その重い一撃を受け止める。
激しい火花と放電が広間を照らす。
(硬い!)
あのキルトさんの一撃を防ぐなんて、驚きだった。
『ゴーレム生命体』の腕は4本ある――その内の残った生身の腕の1本が、キルトさんへと殴りかかった。
「ちっ」
舌打ちして、後方に下がるキルトさん。
ブォン
一拍遅れて、その空間を巨大な拳が通り抜けていく。
と、その瞬間だった。
ガコッ
ゴーレムの口が、顎が外れたように大きく開口した。
その中に見えるのは、黒い筒。
(!?)
「大砲!?」
僕が叫んだのと同時に、ラプトが「あかん!」と走りだした。
その砲身がキルトさんに向く。
ドゴォン
鼓膜を震わす轟音と衝撃を放って、光る砲弾が撃ちだされた。
「ぬっ!」
キルトさんが厳しい表情で、大剣で受けようとし――その前方へと、ラプトが立ち塞がる。
ガシャンッ
その腕に、直径2メードはある巨大な円形盾が展開された。
額には、2本の角。
そして、流し込まれた神気に反応して、『神武具』の円形盾は虹色に輝き、ラプトとキルトさんを光の中に包み込んだ。
ドゴォオオン
そこに砲弾が直撃し、爆発した。
(うわっ!?)
凄まじい爆風が僕らを襲う。
風圧が通り過ぎ、顔をあげると、無傷のキルトさんとラプトの姿が確認できた。
(よかった……)
僕はホッとする。
「すまぬ、助かった」
「はっ、自分は1人で何でもやろうとし過ぎや、この阿呆」
キルトさんも礼を言い、それにラプトは白い歯を見せて笑う。
ズズン
そんな2人目がけて、体長5メードの巨人は重い足音を響かせながら接近する。
キルトさんは大剣を構え直しながら、
「マール、光源を増やせ」
(あ、うん)
その指示に、僕は慌てて『光鳥』の魔法を詠唱する。
その間にも、キルトさんの指示は続く。
「ラプト、将軍は、わらわと共に前線に立て。ソルは回復魔法のために待機じゃ」
「おう」
「よかろう」
「わかったわ」
3人は、すぐに応える。
それと同時に、僕の腕輪の魔法石から新たな『光鳥』が飛び出して、合計5羽の輝きが広間を照らした。
視界は良好だ。
キルトさんは「よし」と頷く。
「マールとポーは『神体モード』を温存。そのまま、ソルの護衛に回れ」
「うん」
「ポーは承知した」
僕とポーちゃんは頷く。
「レクトアリス、そなたも後方待機じゃ。もしもの時は、その3人を守れ」
「いいわよ」
「イルナ、フレデリカ、そなたら2人は、中間距離より前線の我らをサポートじゃ。タイミングを合わせよ」
「はい」
「あぁ、わかった」
人間と神の子である3人の美女たちも頷く。
キルトさんの黄金の瞳は、強く輝く。
「ここで時間をかけるつもりはない。一気に決めるぞ!」
力強い宣言。
僕らは『おう!』と応えた。
キュィイ ズシン
そんな僕ら9人に向かって、巨大な『ゴーレム生命体』は地響きを立てて迫ってきた。
◇◇◇◇◇◇◇
金属の拳が、とてつもない質量となって殴りかかってくる。
「はっ、甘いわ!」
ガギィイン
ラプトが笑いながら、『神武具』の大盾で受け流す。
その横を走り抜けて、キルトさんが『雷の大剣』を巨人の脇腹めがけて振るった。
ゴギャン
直撃し、脇腹の金属装甲が火花を散らす。
でも、装甲は砕けない。
かすかな陥没痕が残るだけだった。
「狙うなら、やはり生身だわい」
アルンの誇る常勝無敗の大将軍アドバルト・ダルディオスは、そう言いながら、巨体からは信じられない速さで『ゴーレム生命体』に肉薄した。
狙いは足だ。
正確無比な剣は、その膝関節の装甲の隙間を狙って、その肉を断つ。
ザキュン
緑色の鮮血が噴きだした。
(!)
でも、次の瞬間、その傷口から白煙が吹いて、切断された肉が塞がってしまった。
超絶的な治癒力だ。
ヴェガ国で遭遇したキメラも、似たような回復能力を持っていた。
「むぅ」
ダルディオス将軍は、渋い表情で間合いの外に出る。
そんな彼に向かって、『ゴーレム生命体』は巨大な頭部を向けた。
その左目にある赤いレンズの眼球が、光を灯す。
(あ……)
まずい、レーザー兵器だ!
そう思った瞬間、フレデリカさんが『烈火の剣』を振り抜き、撃ち出された火球が『ゴーレム生命体』の頭部に直撃した。
ドパァアン
爆発が頭部をずらす。
左目から放たれた赤い光線は、ダルディオス将軍から外れ、そのまま僕らのすぐ横を通り抜けていった。
ジュオオオン
おぉ……金属の床に、赤く灼熱した筋ができている。
「厄介な攻撃ですね」
それを見て、イルティミナさんが呟いた。
その妹も頷く。
「多分、体内に高性能な魔導機関があるんだわ。それを潰せば、あのキメラ型ゴーレムの性能も大きく落ちると思うけど」
魔導機関……か。
考える僕の隣で、
「レクトアリス。その位置を特定できないかと、ポーは問う」
ポーちゃんが口を開いた。
「そうね。やってみるわ」
レクトアリスは頷いた。
そして、彼女は第3の眼を開いて、そこから例の赤い光を『ゴーレム生命体』へと照射する。
と、それに気づいたのか、『ゴーレム生命体』がこちらに生身の手を向けた。
その手の先に、タナトス魔法文字が浮かぶ。
(!?)
キュアアアン
そこから生み出された10本の氷の刃が、こちらに向かって放出された。
僕は慌てて『妖精の剣』を構える。
「やぁ!」
ヒュコッ カシュン
飛来する氷の刃を次々に撃墜する。
同じように、イルティミナさんの白い槍が、フレデリカさんの灼熱の剣が、ポーちゃんの光る拳が、それらを打ち砕いていった。
10本全てを、叩き落す。
(危なかった……)
まさか魔法まで使えるなんて、なんてゴーレムだ。
まさに『王墓の番人』。
そして、僕らに守られた『神牙羅』の美女は、その指を『ゴーレム生命体』の胸部へと向けた。
「その左胸よ。そこに凄まじい量の魔素を循環させる部位があるわ」
そう告げる。
ソルティスは頷き、キルトさんたちに叫んだ。
「心臓の位置! そこが弱点よ!」
キルトさんは頷き、「わかった!」と応じる。
それから、
「ラプト、そなたを信じる。次の奴の攻撃を、全て防いでくれ」
と言った。
『神牙羅』の少年は、ニヤッと笑う。
「はっ、容易い注文や」
その頼もしい答えに、キルトさんも笑顔で応えた。
そして、2人は走りだした。
防御も考えず、全力で走るキルトさん。
ラプトはその横を並走する。
そちらに向かって、『ゴーレム生命体』は、また金属の拳を振り下ろした。
ガゴォオン
ラプトの円形盾が、虹色の波紋を広げながら、それを弾く。
もう1本の拳が、キルトさんを狙う。
「舐めんな!」
タンッ
ラプトは華麗に宙を舞い、キルトさんに届く30センチ手前で、もう1つの拳も大きく弾き飛ばした。
振り返ることもなく、キルトさんはその真下を走り抜けた。
残された生身の腕は、1本がダルディオス将軍の剣によって抑え込まれ、もう1本が娘のフレデリカさんの『烈火の剣』の火球に吹き飛ばされていた。
最後に、左目のレーザー兵器と口内の大砲の照準が、銀髪の美女を捉えるも、
ドパァアン
イルティミナさんの白い槍の砲撃が、巨人の頭部に直撃し、その発射を許さなかった。
そして、僕とソルティス、ポーちゃんが見守る中、
「鬼剣・雷光刺突斬!」
キルトさんの放った『雷の大剣』による必殺の突きが、金属装甲の隙間から左胸部へと吸い込まれた。
バヂィイイン
そして、凄まじい放電。
『ゴーレム生命体』の巨体が痙攣し、金属部位の隙間や、その口から白煙が上がる。
ズリュッ ブシャアア……ッ
大剣を抜くと、傷口から大量の血液が噴き出した。
タタンッ
後方にステップを刻み、再び剣を構えるキルトさん。
僕らも全員、警戒を解かずに見守る。
巨大な『ゴーレム生命体』は、しばらくその場に立ち尽くしていた。
焼けた傷口は治癒していない。
やがて、
ガツッ ズズゥン
膝から崩れ、その巨体が床に倒れた。
生身の部分は痙攣し、金属部位のコードからは火花が散っている。
(……やった?)
その姿に、その疑問が浮かぶ。
と、レクトアリスの第3の眼から放たれる赤い光が、再び『ゴーレム生命体』をスキャンした。
「魔導機関、停止。生命力低下、活動限界。……生命反応、停止」
「…………」
「大丈夫、もう死んだわ」
冷静な声が宣告した。
僕とソルティスは、顔を見合わせる。
(うん!)
お互いに大きく頷いた。
キルトさんを始め、他のみんなも大きく息を吐いて、武器を下ろしていく。
「終わったか」
「うむ。ようやったぞ、鬼娘」
パンッ
ダルディオス将軍が笑って、彼女の背中を叩く。
ラプトも『やれやれやわ』って顔で、『神武具』の円形盾を変形させていく。
カシャ カシャ カシャン
扇子のように折り畳まれ、最後は、長さ5センチほどの長方形の金属板になってしまった。
それをポケットにしまう。
(使いこなしてるなぁ)
その慣れた様子に、僕は感心してしまった。
きっと、これまでの『神霊石の欠片』探しでも、たくさん『神武具』と共に戦う機会があったんだろう。
…………。
僕も負けてられないな。
なんて、ちょっと対抗心を燃やしてしまった。
「どうかしましたか、マール?」
すぐにイルティミナさんには気づかれる。
僕は「ううん」と誤魔化して、
「みんな、本当に強いなぁ……って思ってさ」
そう正直な感想を口にした。
あの恐ろしそうな『ゴーレム生命体』との戦いも、終わってみれば、全員、無傷の完勝だったんだ。
頼もしい限りだ。
イルティミナさんも、みんなを眺めて、その真紅の瞳を細める。
「そうですね」
そう頷いた。
まだ探索は終わっていないけれど、この9人なら、この先も『大丈夫』と思えたんだ。
僕は笑った。
イルティミナさんも微笑んでくれる。
フレデリカさんは、キルトさん、ダルディオス将軍、ラプトの3人の下へ向かい、ソルティスは興味深そうに『ゴーレム生命体』の死体へと近づいていた。
ポーちゃんは、少女を守るためか、そのそばにいる。
レクトアリスは、そんな神界の同胞に付き合ってか、人間の生徒を気遣ってか、自身も興味があったのか、ソルティスたちの方に歩いていく。
「…………」
「…………」
僕とイルティミナさんは、それを眺めた。
――こうして『タナトス王の王墓』の地下2階で行われた、僕ら9人と『ゴーレム生命体』との戦闘は、終わりを迎えたのだった。
ご覧いただき、ありがとうございました。
※次回更新は、3日後の月曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。




