328・蒼き空の食事会
第328話になります。
よろしくお願いします。
飛行船は、冬の空を飛んでいく。
窓の外を覗けば、眼下には、雪の積もったアルン神皇国の大地が広がっていた。
(何度見ても、凄い景色だなぁ)
空からの眺めは、本当に格別だ。
今も、目の前にある雲たちが、後方へと凄い勢いで流れていく。
その景色に魅入っていると、
「マール? 行きますよ」
イルティミナさんに呼ばれた。
(あ、うん)
僕らは今、夕食を取りに船内食堂へと向かうところだったんだ。
廊下の先にいるイルティミナさんを、慌てて追いかける。
その先には、キルトさん、ソルティス、ポーちゃんもいて、「何やってんのよ? 早くしなさい、馬鹿マール」と、食いしん坊少女に怒られてしまった。
ごめんって。
謝りながら、僕らは食堂に入った。
そこには、たくさんのアルン騎士さんたちも食事をしていて、
「ここだ、マール殿」
食堂の一角にあるテーブル席で、僕らを見つけたフレデリカさんが手を上げながら、僕らを呼んだ。
そこが僕らの食事の席みたいだ。
長テーブルには、すでに料理も並んでいる。
また同じ席に、ラプトとレクトアリス、ダルディオス将軍の姿もあったんだ。
「ありがと、フレデリカさん」
準備をしていてくれたことに、僕は感謝を述べる。
フレデリカさんは、
「何、これが私の任務だ」
と優しく微笑んでくれた。
和やかな僕らに、イルティミナさんは『むむ……っ』という顔をしていた。はて……?
それから、僕らは席に着く。
「いただきまぁす」
僕は両手を合わせた。
「いただきます」
「いただこう」
「いっただきまぁす!」
「ポーは、いただきます、と告げる」
4人も手を合わせて、食事を始めた。
(うん、美味しい!)
さすが皇室所有の『飛行船』で出される料理だ。
味に文句などなく、僕らは贅沢な味わいを存分に堪能した。
そのまま、お互いの『神霊石の欠片』探しの冒険話や、それ以外の他愛ない日常話に興じていたけれど、最後に『闇の子』の話題が出てきたんだ。
「その『闇の子』とやらの活動の痕跡が、アルン国内で見つかった」
って。
◇◇◇◇◇◇◇
「アルン国内で?」
さすがに僕らは、食事の手を止め、驚いた。
将軍さんが頷く。
「うむ。実はここ2年ほど、アルン各地では反乱が幾つも起きていてな」
(ふむ?)
そういえば、去年、愛の女神モア様に会いに『万竜の山』に向かった時も、ダルディオス将軍は反乱の平定のために来れなかったんだっけ。
そんなことを思い出す僕に、
「その反乱の裏に、どうやら『魔の勢力』の暗躍があったようだわい」
「!?」
思わぬ言葉に、僕らは驚いた。
「本当か?」
キルトさんが思わず確認する。
反乱鎮圧に自ら動いたアルンの大将軍は、大きく頷いた。
「反乱を起こした者たちの証言や、各地の目撃情報もあった。奴らの拠点らしき場所も見つけ、そこでは破棄しそこなったらしい計画書も発見できたわい」
なんと……。
金髪碧眼の少年ラプトが、光る水――神饌である『癒しの霊水』のグラスを片手に、
「強い負の感情を持った人間ほど、強力な魔物にできる――自分たちの勢力を強化するための『闇の子』の策やろな」
そう呟いて、グラスの中身を飲む。
レクトアリスも同意するように頷いた。
「今回、ガルンとゲルフが別行動になったのも、もしかしたら『闇の子』のせいかもしれないの」
「そうなの?」
僕は、また驚いた。
レクトアリスは、長く美しい髪を手で耳の上にかき上げながら、
「確証はないけれど、タイミングが良すぎるもの」
「…………」
「『神霊石の欠片』を集めようとするこちらの動きに合わせて、戦力を分散させようとしたのじゃないかって、私たちは考えているわ」
それにアルンの3人は頷く。
……なるほど。
(でも、確かにアイツならやりかねないよね)
僕も、その可能性を疑ってしまう。
キルトさんは「ふむ」と腕組みをして唸った。
「ということは、『闇の子』はアルン神皇国を中心にして活動を行っていたということか?」
「恐らくな」
軍服の麗人フレデリカさんは、それを認めた。
「我らがアルンが国土を制圧してから、およそ50年。しかし各地には、まだ火種が燻っている状態だ。だからこそ『闇の子』には、アルンの国勢は利用し易いはずだ」
その言葉に、みんな沈黙した。
なんだか空気が重い。
イルティミナさん、ソルティス、ポーちゃんの3人も黙ったままだ。
(……でも)
ギュッ
僕は拳を握った。
「でも、7つの『神霊石の欠片』を集めることができれば、僕らの勝ちだ」
顔を上げて、そう言い切った。
神々の召喚さえできれば、アイツがどう足掻こうと関係ないんだ。
「そうじゃな」
キルトさんは頷いた。
「しかし、じゃからこそ『タナトス王の王墓』の探索に対して、奴はそれを阻止するために、必ず何かを仕掛けてくるじゃろう」
(うん)
それは全員が想定済みだ。
つまり、そこが未来を決める正念場になるかもしれないのだ。
「何をされたって、絶対に負けない」
僕は言った。
「もちろんです」
イルティミナさんも即、力強い声で同意してくれる。
フレデリカさんも頷いた。
ラプトも「当たり前や」と言い、レクトアリスとポーちゃん、2人の『神の眷属』も頷いてくれる。
「無論だわい」
ダルディオス将軍も雄々しく告げる。
ソルティスも、珍しく真面目な顔でコクンと頷いていた。
キルトさんは笑った。
「そうじゃな。奴の思い通りには、決してさせぬ」
「うん!」
僕らは全員で大きく頷いた。
誰もが強い覚悟で、このクエストに臨んでいる。
そんな仲間が集まっていることが、本当に頼もしかった。
決戦まで、もう少し。
――やがて7日間の空の旅は終わり、僕らは、世界の命運を左右するアマントリュス地方へと到着した。
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