327・再開の和み
皆さん、こんばんは。
月ノ宮マクラです。
最新(10月2日)の活動報告で、書籍版のカラー&モノクロイラストの公開をしています。
(作者名をクリックしたあと、活動報告欄から見られます)
とても素敵なイラストですので、もしよかったら、どうかご覧になってみて下さいね♪
それでは、本日の更新、第327話です。
どうぞ、よろしくお願いします。
僕らを乗せた竜車は、アルン神皇国との国境を目指して、シュムリア国内を北西へと進んだ。
窓から見えるのは、雪景色だ。
かつてのテテト連合国ほどではないけれど、街道にも所々に雪が残っている。
そんな風に窓を眺めていると、
「そなたら、少し良いか?」
ふと対面の席に座っていたキルトさんが、そう口を開いた。
(ん?)
何だろうと、僕らは顔を向ける。
そんな僕ら4人を見つめるキルトさんの表情は、いつもと少し違った。
「そなたらには話しておく」
真面目な声だ。
僕らは、姿勢を正す。
「これから向かうアルン北方のアマントリュス地方じゃが、そこに、わらわはちと因縁がある」
因縁……?
「わらわの父は、かつてその地でアルンに反乱を起こし、そして死んだ」
(えっ!?)
僕らは息を呑んだ。
キルトさんは、淡々とした口調で語る。
「前に話したと思うが、わらわは、今は亡き小国の王家の血筋だそうじゃ。そして、現在はアルンに併合された亡国は、そのアマントリュス地方にあった」
「…………」
アルン神皇国が多くの小国を制圧し、現在の大国アルンとなったのは50年前と最近だ。
そのため、現在も各地で反乱があったりする。
その1つとして、25年前のキルトさんの父親の起こした反乱もあったそうだ。
とはいえ、
「父といっても、わらわは顔も知らぬ。その反乱も、わらわや母御の知らぬ間に起き、知らぬ間に鎮圧されていた」
とのこと。
だけど、キルトさんたちはその罪で奴隷にされ、辛い過去を経験した。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
僕らは、何も言えなかった。
そんな僕らに気づいて、キルトさんは少しだけ表情を柔らかくする。
「何、だからといって、どうこうということもないのじゃ。……ただ、そなたらには話しておこうかと思うての」
キルトさん……。
僕は「うん」と頷いた。
キルトさんは笑って、そんな僕の頭を撫でてくれた。
それから彼女は、座席にもたれ、深く息を吐く。
「ふむ。しかし、その地に『タナトス王の王墓』があったとはの。わらわも知らなんだ」
(そうなんだ?)
僕は言った。
「もしかしたら、キルトさんの中には、そのタナトス王の血が流れているのかもしれないね?」
「どうかの?」
キルトさんは『どうでも良い』という顔で笑った。
その笑顔は格好良かった。
自分は自分だ、という誇りがあるからこその笑顔だから。
(でも、不思議だね)
そのアマントリュス地方に『神霊石』があり、その地の王家の末裔が、それを求めて帰還するんだ。
その末裔の美女は、窓の外を見る。
「…………」
僕は、その横顔を見つめた。
見た限り、キルトさんは、もういつもの様子に戻っていた。
でも、内心はわからない。
そうして、僕ら5人を乗せた竜車は、美しい雪景色の中を、アルン神皇国との国境目指して走っていった。
◇◇◇◇◇◇◇
王都ムーリアを出発してから、3週間が経った。
僕らは、無事、国境を通過して、現在はアルン北東部にある大きな街に到着していた。
そこにある軍施設。
その建物内の一室で、僕らは懐かしい人々と再会した。
「久しぶりだな、マール殿!」
部屋に入った僕らを、そう嬉しそうに笑って出迎えてくれたのは、軍服の麗人フレデリカ・ダルディオスさんだった。
「マール!」
「みんな、元気そうね」
駆け寄ってくれたのは、ラプトとレクトアリス。
その奥では、
「2年ぶりだの。うむ、貴殿らも、ずいぶんと成長したようだわい」
そうあご髭を撫でて笑うダルディオス将軍の姿もあった。
懐かしいアルンの4人だ。
シュムリアから来た僕らも、笑顔で再会を喜んだ。
(フレデリカさん、相変わらず綺麗だなぁ)
約1年ぶりの再会だけど、青髪のお姉さんは、ますます女性として魅力的になっている気がする。
僕の視線に気づいて、
「ど、どうした、マール殿?」
フレデリカさんは、なぜか少しソワソワしていた。
(はてな?)
僕が何かを答える前に、イルティミナさんが前に出た。
「……む」
「…………」
2人は睨み合うように視線を交わす。
う、う~ん?
このお姉さんたちは、再会するたびにいつも視線をぶつけ合うけれど、そういう2人だけで通じる挨拶なのかな?
と、
「ナーガイアは、少し背伸びたんか?」
そんな声が後ろから聞こえた。
見れば、ラプトが自分とポーちゃんの頭の上で、手のひらを水平移動させている。
「少々」
「そうかぁ。やっぱ、肉体が変質した影響やなぁ」
そんな会話だ。
(ふむ?)
言われてみれば、ラプトもレクトアリスも見た目は変わってない。
(本来、『神の子』の肉体は成長や老化はしないのかもね)
僕とポーちゃんは、人間の食べ物を摂取してしまったから、肉体が変質して、その『神の子』の理から外れてしまったんだろう。
…………。
まぁ、前世で『人間』だった僕からすると、あまり気にならないかな。
そんな見た目の変わらない神界の美女レクトアリスは、
「今回は、コロンは来ていないのね」
と、優秀だった教え子の不在に残念そうだった。
ソルティスも「そうなのよ……」と残念そうに同調している。
そうそう、変わらないといえば、アルンの英雄アドバルト・ダルディオス将軍もまるで変わっていなかった。
(もう50代なのにね)
出会ってから2年近く経つけど、肉体も発する覇気も衰えていない。
本当に凄い人だ。
「貴殿は、また腕を上げたようだな、鬼娘?」
そんな将軍さんは、キルトさんにそう声をかけている。
「まぁの」
キルトさんは頷いた。
「マールを守るためにも、わらわは、より強くあらねばならん。精進は怠っておらぬぞ」
「なるほど、そうか」
「うむ」
「して? そのマール殿とはどうなった?」
「む?」
はい?
キョトンとなる僕とキルトさん。
将軍さんは、大きな身体を縮こませ、娘には聞こえないように小さな声で、
「母となるか、妻となるか、覚悟は決まったのか?」
「…………」
「…………」
「…………」
「……なんじゃ、まだか。30を過ぎているというのに、女としては未熟じゃわい、まったく」
ため息をこぼす将軍さん。
キルトさんは、ニコッと笑った。
「余計なお世話じゃ」
ドスッ
ダルディオス将軍の大きなお腹に、強烈なボディブローを叩き込んだ。
(うわぁ……)
その光景に、何とも言えなくなる僕でした。
さて、そんな風にして親交を深めた僕らは、早速、アマントリュス地方への移動に関しての説明を受けた。
今回も、皇帝陛下のお計らいで『飛行船』を使わせてもらうことができるそうだ。
空の旅は、1週間ほどの予定。
そこから地上を2~3日移動すると、目的である『タナトス王の王墓』へと到着するらしい。
行くのは、僕ら9人とアルン騎士200名。
(ふ~ん?)
今回のクエストには、アルンの『金印の冒険者』であるゲルフォンベルクさんやガルンさんは同行しないみたいだ。
「残念ながら、2人はどうしても外せない別クエストがあるようでな」
と軍服の麗人さん。
(そうなんだ?)
本当に残念だ。
でも、世の中には、『金印』でしかクリアできないような高難度のクエストが存在する。
そちらで助けを求められているなら、それに応えるのも大切だろう。
うん。
(僕らは僕らで、がんばろう!)
それから、『タナトス王の王墓』についての情報も教えてもらった。
実際、フレデリカさんたちが行ったわけではないが、王墓については過去の文献などが多く残されていて、それによれば、
「それほど広い王墓ではないようだ」
とのこと。
地上部分は1階層、地下部分も3階層しかないそうだ。
ただ王墓周辺の大地には、大量のアンデッドが彷徨っているらしい。
そして王墓の中は、複数の魔法的な罠があり、それを解除しなければ、奥へと進めないそうだ。
それと、もう1つ。
「王墓の中に、どうしても通れない扉があるらしい」
(通れない扉?)
「文献を解析した魔学者たちの報告によれば、どうやら魔法的な封印がされている扉らしいのだが、その開封の鍵となる物がわからないのだそうだ」
フレデリカさんは、そう難しい顔で言った。
それから、
「その先に、タナトス王の遺体が安置されているそうだ。そして、私たちはそこに最後の『神霊石の欠片』もあると踏んでいる」
と続けた。
(……そうなんだ)
僕らは、ただ行くだけでなく、その扉を開ける方法も見つけなければいけないんだね。
意外と大変そうだ。
しわが寄ってしまった僕の眉間を、小さな指がつつく。
「なんや変な顔しとるの、マール?」
「ラプト」
「安心せい。こっちにはレクトアリスがいるんや。その扉を直に調べたら、すぐ開封方法なんぞわかるやろ」
あ……。
僕は『神牙羅』の美女を見る。
彼女は、紫色のウェーブヘアを揺らして、『任せなさい』という風に優雅に微笑んだ。
(うん!)
なんて頼もしい仲間だろう。
僕も笑ってしまった。
それでも、きっと簡単な探索ではないだろうけれど、僕らなら必ず最後の『神霊石の欠片』を手に入れられると思えた。
そうした説明が終わると、僕らは『飛行船』へと移動した。
目的地は『タナトス王の王墓』。
やがて太陽の輝く空へと『飛行船』は舞い上がり、僕らを乗せて、一路、アマントリュス地方へと飛んでいった。
ご覧いただき、ありがとうございました。
※次回更新は、明後日の水曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。