323・柄打ち!
皆さん、こんばんは。
月ノ宮マクラです。
実は前回の更新で、ついに200万文字を越えました。
こんなに長いマールたちの物語をここまで読んで下さって、本当にありがとうございます!
これからも皆さんに楽しんでもらえる物語になるよう、精一杯頑張ります!
それでは本日の更新、第323話になります。
どうぞ、よろしくお願いします。
僕は、学校の備品である木剣を渡される。
グラウンドの一角にある訓練場、そこで僕は、黒髪の少年と向き合うよう立たされた。
「…………」
彼のきつい視線がぶつけられる。
いい闘志だ。
一方の僕は、正直、あまり乗り気ではなかった。
(だって、勝たなきゃいけない理由がないんだもの)
むしろ僕は、『キルトさんと戦いたい』というムハイル君の気持ちがわかる側だ。
(……わざと負けようかな?)
そんなことまで考えちゃう。
と、そんな僕の表情を、他の生徒さんと一緒にいるキルトさんが見ていた。
「ふむ」
1つ頷いて、
「ムハイル。もし勝てたなら、そのマールに代わって、そなたをわらわの弟子にしてやるぞ」
(え?)
思わぬ発言に、僕とムハイル君は唖然となった。
「ほ、本当ですか!?」
「うむ」
確認する彼に、キルトさんはしっかりと頷いた。
(え、えええ……)
酷い。
こんな条件を出されたら、僕は、絶対に負けられないじゃないか!
師匠を恨みがましく見る。
気づいた銀髪の美女は、ニッコリと笑顔を返してきた。
くぅ……。
ムハイル君は、やる気も、集中力も、一気に高まったみたいだ。
思わぬ条件も加わって、見学している生徒さんたちもざわついている。
そんな中、イルティミナさんだけは、隣にいるキルトさんを非難するような視線を送る。
キルトさんは苦笑した。
今更、撤回できる空気でもなさそうだ。
(仕方ない)
僕は、気持ちを切り替える。
悪いけど、負けられなくなった以上、僕も本気で戦うことにした。
青い瞳で、目の前の少年を見つめる。
それから、正眼へと木剣を構えた。
ピリッ
空気が引き締まる。
広がるその気配に、周りに集まっていた生徒さんたちのざわめきも消えていった。
ムハイル君は、息を呑む。
小さく深呼吸すると、彼も、手にした木剣を正眼に構える。
(…………)
彼の方が、僕より身長があった。
手足も長くて、リーチは向こうの方が長そうだ。
でも、戦局を左右するほどじゃない。
イルティミナさん、ソルティス、クオリナさん、ラッセル校長も、無言のまま、向き合う僕らを見つめている。
そして、
「では、始めい!」
キルトさんの鋭い声が開戦の合図を下した。
◇◇◇◇◇◇◇
ダンッ
ムハイル君は『始めい!』の『い!』の声が終わらぬ内に、踏み込んできた。
(!)
しまった!
油断はしていなかったけれど、予想外の1秒で先手を奪われた。
ガンッ
放たれた攻撃を、慌てて木剣で受ける。
けど、丁寧に防げなかった。
重心が少しだけ崩される。
黒髪の少年は、その隙を見逃さず、すぐに攻撃を重ねてきた。
ガツッ ゴッ ガギン
必死に防ぐ。
まずい。
初手から完全に流れを奪われてしまった。
(ここは、防御だ!)
学年首席だけあって、鋭い攻撃ばかりだ。
反撃する隙なんて、とても与えてもらえない。
ここは防御に徹して、チャンスが来るのをジッと待つことに決めた。
「やっ! はっ!」
「っっ」
ガキン ゴギッ
そうは決めても、本当にいい攻撃ばかりだ。
気を抜いたら、すぐにやられる。
(集中だぞ、マール!)
自分に言い聞かせて、彼の攻撃に食らいつきながら、必死に耐え続ける。
ガツッ ガカン
見ている生徒さんたちも、自分たちのクラスメートが圧倒している姿に、「おぉ!」と歓声を上げていた。
そうして、どれくらい耐えたのか?
「このっ!」
僕の防御を崩せなくて焦れたのか、ムハイル君は、今までより少しだけ大きく剣を振り被った。
(! 今だ!)
タンッ
その瞬間、僕は前に出た。
驚くムハイル君。
そのまま彼は、剣を振り落とす。
その木製の刃へと、僕はカウンター剣技で、自分の剣の『柄』をぶち当てた。
ガチンッ
「なっ!?」
驚愕の声。
強い衝撃に、彼の剣が止まった。
「やっ!」
ヒュッ
そこめがけ、僕は自分の木剣を振り落とす。
バギィン
ムハイル君の手にしていた木剣が、半ばからへし折れて、そのまま地面へと叩きつけられた。
返す刀で、僕は木剣を跳ね上げる。
ビタッ
少年の首に触れる位置で、木製の刃を停止した。
(よし!)
「そこまでじゃ!」
同時に、キルトさんの声があがった。
僕は、木剣を引く。
ムハイル君は、呆然と折れた木剣を見ていた。
見ていた生徒さんたちから「すげぇ!」、「ムハイルが負けたぞ!」、「最後はカウンターか?」、「よく見えなかったわ」などと、驚きの声が広がっていく。
(ふぅ……)
よかった、勝てて。
僕は安堵の息を吐きながら、それらの声を聞く。
キルトさんが頷いて、
「勝者はマールじゃ」
と、僕に向かって手を上げようとした。
その時、
「待ってくれ!」
ムハイル君が叫んだ。
彼は、その緑色の瞳でキッと僕を睨みつけ、
「今のは、なしだ! 剣での戦いで、あんな『柄』を使う戦い方はあり得ない! そんな卑怯な技、俺は認めない!」
(え……?)
突然の訴えに、僕は驚いた。
キルトさんや他の生徒さんも驚いている。
彼は、顔を赤くしながら、
「今の勝負は無効だ! やり直しを要求する!」
そう叫んだ。
(えっと……)
僕は困惑してしまった。
今の戦い方は、そんなに卑怯だっただろうか?
(……むしろ、合図が終わる前に仕掛けてきたことの方が、卑怯じゃないかなぁ?)
などと僕は思うのだけど。
それでも、ムハイル君は必死に訴えていた。
生徒さんたちは、ざわついている。
イルティミナさんは少し険しい顔をし、ソルティスは呆れた顔をしていた。
クオリナさんは、ちょっと困った顔。
そして、ラッセル校長が彼を止めようと前に出ようとして、その前に、
「よかろう」
キルトさんが頷いた。
「そなたがそう言うのならば、今の勝負は無効でも構わぬぞ」
(えっ?)
思わぬ言葉に、僕は目を瞬いた。
ムハイル君自身も、まさか自分の主張が通ると思っていなかったのか、驚いた顔をしている。
いや、その決断には、見ているみんなが驚いていた。
そして、黒髪の少年は瞳を輝かせて、
「じ、じゃあ?」
「うむ。もう1度、戦いをやり直すが良い」
キルトさんは、そう言った。
(本気……?)
正直、ちょっとショックだ。
僕としては、『柄』を使うのは、そんなに卑怯な技だったのかと困惑が強い。
逆にムハイル君は、
「よし!」
と拳を握っていた。
けれど、そんな僕ら2人に対して、キルトさんは静かな眼差しを向ける。
そして、
「――ただし次の勝負では、双方、真剣を用いて戦うのじゃ」
そう言葉を続けたんだ。
ご覧いただき、ありがとうございました。
※次回更新は、3日後の月曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。