321・ようこそ、冒険者養成学校へ!
第321話になります。
よろしくお願いします。
僕ら4人は、クオリナさんと王都の通りを歩いていく。
向かったのは、商業区から少し離れた郊外の方だ。
民家などの多い区画。
(あ……)
そんな民家の屋根の向こうに、大きな時計塔が見えた。
クオリナさんが笑う。
「あそこだよ」
そうして5分ほど歩いて、目指す『冒険者養成学校』が姿を現した。
塀に囲まれた、広い敷地だ。
そこに、大きな学舎が3棟。
奥には、広大な土のグラウンドがあった。
(へ~?)
前世の学校とも雰囲気が似ているね?
ここに通っているのは、10~15歳ぐらいの子供が中心なんだって。
(つまり、小学校高学年から中学生ぐらい、かな?)
中には20歳ぐらいの人もいるそうだけど、基本は、そのぐらいの子たちがここに通っているんだそうだ。
門前には、警備員が立っている。
「こんにちは」
クオリナさんは笑顔で話しかけ、自分たちのことを説明した。
事前にアポイントメントが取れていたみたいで、警備員さんは、5分ほどの簡単な確認だけで中へと通してくれた。
今はお昼頃。
学校も、ちょうど昼休みみたいだ。
花壇や噴水のある中庭では、ベンチに座って、食事をしている制服姿の子供たちの姿があった。
「ふ~ん」
ソルティスが呟く。
彼女は、同年代の子の集まりなどに関わることがなかった。
(だからかな?)
その子たちを見るソルティスの眼差しには、物珍しそうな、あるいは羨望のようなものがあったんだ。
イルティミナさんは、そんな妹の横顔をジッと見ていた。
(…………)
そうして僕らは、学舎の中へと入っていった。
◇◇◇◇◇◇◇
「ようこそ、国立冒険者養成学校へ!」
そう歓迎してくれたのは、校長先生だ。
ここは校長室である。
クオリナさんと共に訪れた僕らを出迎えた彼の名前は、ラッセル・ブレイカーさんというそうだ。
年齢は、50歳前後。
白髪の混じった銀髪に、緑色の瞳をしたナイスミドルのおじ様だ。
そして、元『銀印の冒険者』なんだって。
僕ら1人1人と握手をするラッセルさん。
「ど、どうも」
ギュッ
僕も握手をしたけれど、手には剣ダコもあって、やっぱり強い人独特の雰囲気が感じられた。
「こんにちは、ご無沙汰です~」
クオリナさんは握手しながら、笑顔で挨拶をする。
ラッセルさんも笑った。
「まさか、突然、金印の冒険者を連れてくるとは、私も驚いたよ。クオリナ君も、なかなかやるね?」
「あはは~」
うちのギルド職員さんは、照れたように頭をかいた。
キルトさんが口を開く。
「急な来訪で申し訳ない。少し見学などしても大丈夫であろうか?」
「もちろんだ」
ラッセルさんは頷いた。
「かの有名なキルト・アマンデス。そして、イルティミナ・ウォン。両名に見学してもらえるとは、こちらも光栄だよ。ぜひ、うちの生徒たちにも会ってやってくれ」
そう言ってくれる。
その校長先生の瞳には、子供みたいな輝きがあった。
(さすがだね……)
全冒険者の憧れ、『金印』の称号は伊達ではない。
イルティミナさんも「ありがとうございます」と、大人っぽく微笑んでいた。
喜ぶラッセルさんに、クオリナさんも嬉しそうだ。
「ところで、ラッセル校長。補充用のパンフレットを持ってきたんですけど、また置いてもらえます?」
「あぁ、もちろんだ」
「よかった。目立つところに置いてくださいね~?」
ニッコリ
と、素敵な営業スマイル。
ラッセル校長は「わかった」と苦笑していた。
(クオリナさん、やるなぁ)
僕らを出汁にして、良い条件を引き出したみたいだ。
それには、キルトさん、イルティミナさんも苦笑していた。
やがて、秘書さんがクオリナさんの持ってきたパンフレットを受け取ってくれて、校長自ら案内してくれるというので、僕らはみんなで校長室を出ることになった。
◇◇◇◇◇◇◇
カラーンカラーン
午後の始業を伝える鐘の音が聞こえる。
僕らは、ラッセルさんを先頭に廊下を歩いた。
「ここの在学期間は、3年間です」
校長先生は、そう言って、色々と僕らに説明してくれた。
まず1年目は、基礎体力を身に着け、それぞれの武器の扱いを学ぶそうだ。
冒険者は、肉体が資本。
一にも二にも、筋トレやランニング、柔軟体操などで体力と肉体操作をつけていく。
そして、武器だ。
剣、槍、斧、弓、盾、魔法杖などなど、各種の扱いを学ぶ。
剣1つとっても、両手剣、片手剣、長剣、短剣、大剣、細剣、両刃か、片刃か、などなど、多岐に渡るのだ。
それらを一通り試して、自分の適性にあった武器を見つける。
そして、その武器にあった戦い方を学んでいくそうだ。
(へ~?)
2年目は、1年目で学んだことを発展させる。
学んだ戦い方を、より細分化させて、前衛、中衛、後衛での戦い方に特化させていく。
そして、連携を学ぶのだ。
また魔狩人、護盾士、真宝家、魔学者などの適正ごとの能力も伸ばしていく。
自分にあった冒険者の形を、自覚させるのだ。
(ふむふむ)
そして3年目は、総決算。
実際に生徒同士でパーティーを組ませて、教官付き添いの元、本物のクエストを経験させたりする。
ここで現実を知る生徒もいる。
死の恐怖を実感し、退学する生徒も、少なからずいるそうだ。
でも逆に、ここで才能を示して、冒険者ギルドからスカウトされる優秀な生徒もいるのだとか。
「今年は、いい生徒さん、います?」
と、窺うクオリナさん。
ラッセル校長は、
「もちろんだよ。とはいえ、そういう生徒は、他のギルドからも目をかけられているからねぇ」
と意味深に微笑んだ。
(なるほど)
ちなみにスカウトが競合した場合は、本人の希望が優先されるそうだ。
…………。
僕は、ふと思った。
「もしかして、やっぱり冒険者ギルドごとに人気の差ってあるんですか?」
と聞いてみる。
すると、
「もちろん、あるよ」
とラッセル校長。
そうして教えられたのは、やっぱり一番人気は『黒鉄の指』だということ。
最大手の冒険者ギルドは、福利厚生も手厚く、何より世間からの信頼もあるため、クエスト依頼が途切れることがない。
要するに、安定して仕事があるのだ。
(冒険者という職業に、安定を求めるのもどうかと思うけど……)
でも、現実はそうらしい。
「じゃあ、『月光の風』は?」
と気になる質問。
ラッセル校長は、あごを撫でながら、
「そうだね。かなり人気上位だと思うよ」
とのことだ。
(おぉ!)
やった、ちょっと嬉しいぞ。
ソルティスも同じだったのか、僕らは顔を見合わせて、頷き合ってしまった。
ちなみに人気の要因は、やっぱり『金印』が2人も在籍していること。
(そっか)
憧れの冒険者がいるから、同じギルドに入りたいって思ってもらえるんだ。
うん。
「さすが、キルトさんとイルティミナさんだね」
僕は、2人に笑いかけた。
「ふむ」
「ありがとう、マール」
2人は、なんだかくすぐったそうに笑っていた。
そういう意味では、『黒鉄の指』は、『金印』であったエルドラド・ローグさんが亡くなって、人気は少し落ちたらしい。
でも、命懸けで大魔獣を倒し、王国を救ったという彼への憧れは、やはり根強いそうだ。
逆に『月光の風』は、
「『魔血の民』が多いというのが、ネックでもあるかな」
とのこと。
元々、『月光の風』は、ムンパさんが迫害される『魔血の民』の受け皿となるために、15年前に設立したという経緯がある。
だから、『魔血の民』が多い。
なので、『魔血のない人』は、入り辛い風潮があるのだとか。
そして、冒険者養成学校は学費が必要なため、貧しいことの多い『魔血の民』の入学者は少ない。
結果として、ここの生徒には『魔血のない人』がほとんどなのだ。
なので、人気はあるけど、入学希望は割合的に少ないらしい。
(なるほど)
そういうこともあるんだね。
でも、差別的な理由で拒否されていないのなら、よかった。
ちょっと安心だ。
まぁ、そんな感じで、この冒険者養成学校での3年間は過ぎていくのだそうだ。
あ、もちろん、座学もあるんだって。
討伐や探索、護衛など、クエスト種類ごとのやり方を教わったり、魔物の特徴についても勉強したり。
他にも、装備や道具の手入れの仕方。
野営の仕方。
怪我をした時の治療方法。
などなど、色んなことも教えてくれるんだそうだ。
(本当に凄いや)
ちなみに、それらのお値段は、
「3年間で、6万リドだよ」
600万円!
な、なるほど……これは相当、お高いのだね。
…………。
そう考えると、僕は、3人から無償で色々なことを教わってしまった。
イルティミナさんからは、冒険者の心得を。
キルトさんからは、剣を。
ソルティスからは、魔法を。
それを思うと、
(僕って、本当に恵まれてたんだなぁ)
しみじみ思ったよ。
例えば、ほぼ毎日、キルトさんに稽古してもらってるけど、普通に考えたら『金印』の指導料とか、とんでもない金額だよね?
「……えっと」
僕は、窺うように3人を見た。
僕の視線で言いたいことを察したのか、
「いらぬぞ」
「いりません」
キルトさん、イルティミナさんは即答した。
そして、
「アチシは、もらってもいいわよ~?」
と笑うソルティス。
コツッ
その頭を軽く叩いて、「こら」と叱る姉。
ソルティスは、小さな舌を出した。
(……あはは)
ありがとう、3人とも。
そんな僕らのやり取りに、クオリナさんとラッセル校長は、なんだか楽しそうに笑っていた。
ご覧いただき、ありがとうございました。
※次回更新は、明後日の水曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。