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315・邪竜討滅

第315話になります。

よろしくお願いします。

 僕らは、少しずつ『邪精竜』との間合いを詰めていく。


 そんな中、キルトさんが鉄の声で告げる。


「剣を合わせて、わかった。こやつの正体は、百数十の『邪精の集合体』じゃ。恐らく、全身の目玉全てを潰さねば、こやつは倒せぬ」


 目玉……。


 キルトさんは、視線だけを動かし、僕を見た。


「マール。そなたはわらわと共に、前線に立て」


(うん)


 口に『神霊石』を咥えているので、僕は、声に出さず頷く。


 そんな僕に、彼女は、


「ただし、前に出過ぎるな。わらわたちは囮じゃ。奴の攻撃を自分たちに集中させ、そこで生き残ることをだけを考えよ」


 と続けた。


(……囮?)


 キルトさんの視線が動く。


 その先にいるのは、イルティミナさんだ。


「イルナ。そなたは、後方からわらわとマールを援護しつつ、目玉を狙え」

「はい」


 白い槍の美女は、しっかりと頷く。


 そして、キルトさんの視線は、最後に魔法使いの少女へと送られた。


「ソル、そなたの魔法が本命じゃ。わらわたちが時間を稼ぐ。タイミングは任せる。奴の目玉を全て抉り取ってやれ」

「わかったわ」


 コクン


 大きく頷くソルティス。


 その瞳には、確かな自信と覚悟があった。


(うん、そうだった)


 僕が仲間になるまでは、キルトさんが前衛、イルティミナさんが中間距離から援護、そして後方のソルティスの大魔法でとどめというのが、彼女たちの魔物の狩り方だったんだっけ。


 そして僕が加わってからは、僕は、ソルティスの護衛の役目が多かった。


 でも今日に限っては、


 ジジ、ジガァア……ッ


 少女を守る位置に、あの『白銀の精霊獣』がいてくれている。


(頼んだよ、精霊さん)


 僕は、心の中で呼びかけた。


 ジガァアッ


 伝わったのか、精霊さんは雄々しく咆哮し、その真っ赤な双眸をギラギラと輝かせた。


 うん、頼もしい。


 皆へと指示を出し終えると、キルトさんは「行くぞ!」と大きく踏み込んだ。


「鬼剣・雷光斬!」


 バヂィイン


 正面から『邪精竜』へと大剣を叩きつける。


 青い放電が弾けて、黒い巨体に生えた目玉が幾つか、黒い血液を飛ばしながら弾け飛んだ。


『邪精竜』はよろめく。


 けれど、下がりながら、その黒い触手たちをキルトさんへと放出する。


「鬼剣・雷光連斬!」


 バヂッ ギギン バヂヂィン


 振り回される『雷の大剣』が、襲いかかる黒い触手とぶつかり合い、青い稲妻と火花を散らした。


 触手の何本かは千切れ、黒い血液が散る。


(僕も行くぞ!)


 ヴォン


 背中の翼を広げて、前へと跳躍する。


 手にした『妖精の剣』と『マールの牙・弐号』に光の粒子をまとわせて、『虹色の鉈剣』と『虹色の小鉈剣』へと神化させ、一番近い目玉を狙った。


 ヒュボッ


(!)


 でも、それを防ぐように触手が襲ってくる。


 ガギィン


 左の『虹色の小鉈剣』で受けたけれど、まるで丸太で殴られたような衝撃だった。


(くっ……)


 弾くのは諦め、力を受け流す。


 その瞬間にも、3本、4本と黒い触手が増えて、僕へと襲いかかってくる。


(この……っ!)


 ガギッ ギャリン ガギィン


 2つの剣と背中の金属の翼を使って、その全てを防ぐ。


 駄目だ、これは。


『神狗』の力と速さでも、この黒い触手の群れをかい潜って、目玉を潰すのは至難の業だ。防御で手いっぱいで、攻撃までは難しかった。


(……うん)


 確かに『囮』に徹するしかないね。


 隙あらばと思っていたけれど、それは高望みだったみたいだ。


 僕は、目玉を襲うふりをしながら、けれど、それほど踏み込まずに防御に徹して、より多くの触手を引きつけるように立ち回る。


 と、その時、


 ドパァアン


 僕へと集中した触手の間隙を縫って、イルティミナさんの白い槍による砲撃が炸裂した。


 黒い血が散り、目玉が潰れる。


(やった!)


 さすが、イルティミナさん!


 僅かな隙も見逃さず、手薄となった目玉を確実に狙ったんだ。


「良い動きです、マール!」


 彼女は、こちらに微笑み、賞賛の言葉を送ってくれる。


 嬉しいな……。


 自分がちゃんと役割を果たして、彼女と連携できていることが本当に嬉しかった。


(よし、がんばるぞ!)


 僕は気合を入れる。


 そうして、また同じように黒い触手を引きつけるために動く。


 でも、『邪精竜』も馬鹿ではない。


 僕らのやり方がわかったのか、僕やキルトさんへと向ける触手の本数を減らして、イルティミナさんやソルティスの方も狙い始めたんだ。


 ズドッ ズガガァン


 迫る触手を、イルティミナさんは軽やかなステップでかわしていく。


 ソルティスの方も、


 ガギン ギィン ガギギィン


 精霊さんの鋭い牙や竜のような爪、3本の太い尾が襲ってきた触手を弾き返して、少女を守ってくれていた。


 そして、キルトさんは、


「甘いわ!」


 触手が減った途端、黒い巨体との間合いを一気に詰める。


 バヂィイン


 大剣の一撃で、また1つ、目玉を潰していた。


 おぉ……さすがだ。


(僕も負けるか!)


 タッ


 確かに、自分を狙う触手が減ったおかげで、間合いが詰め易くなっていた。


『虹色の鉈剣』を振るう。


 ヒュボン


 触手が千切れ飛び、目玉の1つを斬り裂いた。


(よし!) 


 僕もやったぞ。


 歓喜と達成感を味わいながら、油断せずにすぐに間合いを広げる。


『邪精竜』は、苦しげに巨体を捩じらせ、それから、逃げる僕へと噛みつこうと巨大な口を開きながら突進してきた。


 ドパァアン


 その横っ面へと、イルティミナさんの砲撃がぶち当たる。


(いい援護!)


 その間に、僕は悠々と間合いを確保する。


 イルティミナさんに感謝の視線を送ると、彼女は、甘やかな微笑みでもって応えてくれた。


 ブォン


 振り回された竜の太い尾を回避して、キルトさんがまた大剣を叩き込む。


 バヂィイン


 また1つ、目玉が潰れる。


 少しずつだけど、目玉の数を減らせていた。でも、まだ100以上の数が残っている。このままなら、きっと長期戦になっただろう。


 けれど、その前に、


「みんな、離れて!」


 魔法使いの少女の声がした。


(!)


 見れば、ソルティスの大杖の魔法石は、紫色の光を放ちながら、空中にタナトス魔法文字を描き終えていた。


 タンッ


 彼女の声に従い、僕は後方に跳躍する。


 キルトさんも下がった。


 それに合わせて、彼女は、大杖の先を地面へと叩きつけるように押し当て、


「大地の怒りよ! 邪悪なる精霊たちを滅しなさい! ――グラン・ダ・バルダロス!」


 周囲に、美しい詠唱の声が響き渡った。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 空中に輝く魔法文字が、大地へと吸い込まれる。


 一瞬の静寂。


 次の瞬間、大杖の魔法石の輝きが、幾本もの光の筋となって大地の上を伝わり、『邪精竜』めがけて流れていった。


 それは黒い巨体の真下に、魔法陣を描く。


 次の瞬間、


 ズガガガガガァアアアン


 何百という尖った岩が魔法陣から噴き出して、12メードもある『邪精竜』の巨体を串刺しにしていった。


(う、わ……っ)


 あまりの威力と迫力。


 黒い触手が防ぐ間もなかった。


 その巨体にあった目玉のほとんどが、一瞬で潰されていた。


 無数の岩に貫かれ、まるで百舌鳥の早贄のようになった『邪精竜』は、空中でもがくように手足を動かしている。でも、とても脱出できそうにない。


(……なんて魔法だ)


 久しぶりに見たソルティスの本気。


 その攻撃力の高さと恐ろしさに、僕の背筋はゾクゾクとしてしまった。


 少女は、「はぁ、はぁ」と呼吸を乱している。


 その美貌は、汗まみれだ。


 ふらつく身体を『白銀の狼』へと寄りかからせて、


「あとは任せたわよ」


 短い言葉。


 僕は、頷いた。


 キルトさん、イルティミナさんも頷いて、仲間の少女のもたらした好機に、3人同時に前へと走る。


 ギュババッ


 最後の抵抗とばかりに、巨体から黒い触手が放射状に放たれた。


 でも、


(甘い!)


 僕は両手にある剣で、それを弾き返していく。


 その間に、キルトさんは一気に巨体の懐へと飛び込んで、『雷の大剣』を叩き込む。


 バヂィイン


 青い雷光と共に、目玉が潰れていく。


 イルティミナさんも白い槍を掲げて、


「――羽幻身・白の舞」


 冷たく透き通った声と共に、自身の分身のような3体の『槍を持った光の女』たちを生み出した。


 その光る槍たちが触手を弾き、残った目玉たちを潰す。


 ザシュ ガシュシュ


 イルティミナさん自身の『白翼の槍』も、キュボンッ……と別の目玉を貫いていた。


 ――残る目玉は、1つだった。


 それは、僕のすぐ目の前にある。


 ガギィン


 悪足搔きのような黒い触手を左手の『虹色の小鉈剣』でいなして、右手にある『虹色の鉈剣』を上段に構える。


 巨大な目玉。


 その大きく見開かれた眼球に、『神霊石』を咥えた子供の姿が映り込んでいた。


 その神々しい白い輝きが迫り、


(やあっ!)


 ヒュボンッ


 美しい剣閃が鋭く振り落とされ、最後の目玉は真っ二つになった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



(ふぅ、ふぅ)


 乱れた呼吸を、ゆっくりと整える。


 そんな僕らの眼前では、無数の尖った岩に貫かれた『邪精竜』の巨体が、黒い霧に変わって、空へと溶けていく光景があった。


 ……勝った。


 その充足感が心を満たしている。


 シュオオ……


 それを見届け、僕は『神体モード』を解除した。


 金属の翼も光の粒子となって散り、元に戻った『妖精の剣』、『マールの牙・弐号』も鞘へとしまう。


「ふむ、終わったか」

「はい」


 キルトさん、イルティミナさんも巨体が消えていくのを見守っていた。


 ソルティスも、


「……あんがとね」


 ポン ポン


 寄りかかっていた『白銀の狼』に感謝を告げ、労うように鉱石でできた首を軽く叩いていた。


 美しい精霊獣は、少女に鼻先を押しつける。


 それから、僕を見た。


(……うん)


 ジジジ……


 視線で会話をして、僕は微笑んだ。


 精霊さんも微笑みの気配を残して、そのまま僕の『白銀の手甲』の魔法石の中へと帰っていった。


 これで終わった……。


 そう思って、ふと引っ掛かった。


(……あ)


「コロンチュードさん、ポーちゃん!」


 彼女たちを忘れてた。


 3人も『あ』という顔をする。


 彼女たちはまだ祠の中で、他の『邪精』と戦っているんだ。


 慌てて僕らは、祠内部に向かおうとした。


 けど、その直前、


「……お~? ……そっちも終わった?」


 そんな声が上から降ってきた。


(え?)


 見上げると、祠の壁に空いた穴から頭だけを出して、僕らを見下ろしているコロンチュードさんとポーちゃんの姿があったんだ。


「……さすがだね。……やっぱり、私の、見込んだ通り……えっへん」

「…………」


 なぜか得意げなハイエルフさん。


 ポーちゃんは、無表情のままだ。


 僕は戸惑いながら、


「そっちは大丈夫なんですか?」

「……うん」


 コロンチュードさんは頷いた。


「……精霊界との境界の揺らぎが、また弱くなったから……『邪精』の出現も、止まった、よ」


 えっと……。


(よくわからないけど、もう大丈夫ってことだよね?)


 つい3人を振り返る。


 キルトさんとイルティミナさんは『よくわからん』って顔だったけど、博識少女ソルティスが安心したようだったので問題なさそうだ。


(よかった)


 ホッと一安心だ。


 やがて、コロンチュードさんとポーちゃんの義母娘おやこも階段を下りてきて、僕らと合流する。


(あ……)


 ポーちゃんは『神体モード』だった。


 柔らかそうな癖のある金髪からは、龍の角が生えていて、肌には鱗が、そして尻尾が生えている。


 きっと祠の中も、激戦だったんだね……。


「お疲れ様、ポーちゃん」

「…………」


 コクッ


 労いの言葉に、彼女は頷く。


 それから水色の瞳を伏せて、大きく息を吐くと、『神体モード』を解除する。


 シュオオ……


 そんな義娘の髪を、コロンチュードさんは優しく撫でた。


 ポーちゃんは気持ち良さそうだ。


 その姿に、なんだか僕らは笑ってしまった。


 ザワザワ


 と、そこで僕らは、自分たちを遠巻きにしているエルフさんたちのざわめきに気づいた。


「今の姿は……」

「まさか……あの子供も?」

「……そんな」


 どうやら、今の幼女の『神の眷属』としての姿に、集まっていたエルフさんたちも気づいたみたいだ。


 皆、戸惑いと困惑の表情ばかりである。


 特にアービタニアさんは、顔色をなくしていた。


 …………。


 僕らは、その姿を黙って見つめた。


 やがて、花の形をした神輿に座っているエルフの女王ティターニアリス様が、ゆっくりと口を開いた。


「皆様、ありがとうございました」

「…………」

「恐るべき『邪精の集合体』、それを討滅せしめた実力、勇気、そして、その心に、この地のエルフを代表して、深く敬意と感謝を申しあげます」


 そして深い一礼。


 一国の王のその行いには、大きな意味がある。


 それを見たエルフさんたちは息を呑み、僕らはその場に跪いた。


 キルトさんが代表するように答える。


「いいえ。エルフの国の安寧のため、その一助となれたのならば、我らにとっても喜びです」


 そして、その視線が僕へと向く。


 いや、正確には僕の手にある『神霊石』へ、だ。


 …………。


 その意味は、エルフさんたちにも伝っているだろう。


 自分たちの手に負えない『邪精竜』を倒したことへの感謝、畏怖、敬意はある。けれど、その対価として求められる『神霊石』という宝に、エルフさんたちの表情は強張ってしまった。


(でも……)


 僕らとしても、ここは譲れない。


 そのために、僕らは命を懸けて戦った。


 そして、それは世界の未来にも関わってくる大事なことだった。


 もし……彼らがその対価の支払いを拒んだとしても、僕らは力尽くでも、『神霊石』を譲ってもらう覚悟だった。


(もちろん、そんなこと、したくないけどさ)


 だから僕らは、エルフの女王様の言葉を静かに待った。


 その決断を。


「…………」


 1万年以上を生きているというハイエルフの女王様は、静謐な眼差しで僕らを見つめていた。


 その心は、瞳からは読み取れない。


 そして、彼女は息を吸い、その唇の間から言葉が紡がれようとして、


「――アハハハハッ! なるほど、なるほど、やっぱりそういうことだったんだねぇ!」


 その直前、僕らの背後から、弾けるような笑い声が聞こえてきた。


(!?)


 僕ら6人も、エルフさんたちも驚き、そちらを見る。


 ……は?


 そこに1人の少年が立っていた。


 肩まで届く黒い髪。


 褐色の肌。


 漆黒に染まった双眸。 


 僕の知る姿よりも少しだけ成長していて、15歳ほどに見える少年だけれど、その口元に浮かべた、血のように赤い三日月の笑みは変わらない。


 僕は、目を見開いた。


 手指が震える。


 キルトさんも、イルティミナさんも、ソルティスも、コロンチュードさんも、ポーちゃんも呆然となっていた。


 そんな僕らを見回して、少年は笑った。


 そして、


「やぁ、久しぶりだね、マール?」 


 まるで親しい友人に話しかけるように、あの『闇の子』は、僕へと声をかけてきたんだ。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、明後日の金曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ 戦いと連携を褒められてやる気を出すマール。 ……チョロいな(笑) [気になる点] ここで『闇の子』の登場ですか。 『神霊石』を集める目的がバレたかは不明ですが、…
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