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301・発動する転移魔法

第301話になります。

よろしくお願いします。

 フォルスさんと別れたあと、僕らは、すぐにレクリア王女へと連絡を取った。


「即時、向かってくださいまし」


 金印の魔学者コロンチュード・レスタの窮地を知って、王女様は、すぐに僕らがエルフの国に向かうことを承諾してくれた。


 即断即決。


 さすが、レクリア王女様だ。


 僕らは「はい!」と答えて、すぐに出立の準備を整える。


 そして、その夜、僕ら5人は『冒険者ギルド・草原の歌う耳』の地下にあるコロンチュードさんの研究室へと集まった。


 床に描かれた転移魔法陣。


 その中へと、僕らは入っていく。


「準備はいいの?」


 キルトさんが問いかける。


 エルフの国は、この場にいる誰も行ったことがない国だ。


 しかも鎖国状態。


 コロンチュードさんが助けを求めてくるぐらいだから、どんな状況になっているかもわからない。


 最悪、転移した途端に、敵とかいるかもしれないんだ。


(しっかり、覚悟しておかないと)


 僕は、大きく深呼吸する。


 そして覚悟を決めて、キルトさんを青い瞳で見つめ返した。


 他の4人も、同じ瞳でキルトさんを見る。


 キルトさんは頷いた。


「よし」


 そして彼女は、魔法陣の外にいる『草原の歌う耳』のギルド長のフォルス・ピートさんを見る。


 フォルスさんは頷いた。


「どうか、コロンのことをよろしくお願いします」


 そう頭を下げてくる。


 僕は「はい」とはっきり答えた。


 そんな僕を見つめ、彼は儚げに微笑んだ。 


 そして、すぐに表情を消すと、手にした小ぶりな杖を持ち上げる。


 コロンチュードさんが使っているのとよく似た、長さ30センチほどの指揮棒みたいな杖だ。


 先端の魔法石が光る。


「それでは、始めます」

「うむ」


 キルトさんの確認を取ってから、フォルスさんは、部屋の四隅にある魔法石のついた台座の1つへと、その光る杖を向けた。


 ポゥ


 台座の魔法石に光が灯る。


 その輝きは、台座の模様を伝って、床に描かれた転移魔法陣にも伝わった。


 魔法陣の輝きが強くなる。


 ポゥ ポゥ


 2つ目、3つ目の台座の魔法石も光を放つ。


 魔法陣の輝きも増していく。


(眩しい……)


 もう目も開けていられない。


 他の4人の姿も、光の中に溶けて、見えにくくなっていた。


 ポゥ


 そして最後の1つの台座の魔法石に、魔力の光が灯った。


 その輝きが魔法陣に流れる。


 瞬間、まぶたを通しても眩しい光が溢れ、僕の世界を真っ白に染め上げた。


(……っ)


 一瞬だけ、高いところから落下した時のような、内臓がヒヤッとする感覚があった。


 でも、それだけだ。


 気がついたら、まぶたを焼いていた白い光が消えていた。


 恐る恐る、目を開く。


 ゆっくりと視力が戻り、まず視界に飛び込んできたのは、僕の大事な4人の仲間の姿だった。


(……よかった)


 みんないる。


 全員で転移に成功したみたいだ。


 それから周囲を見回してみれば、そこはもうコロンチュードさんの地下研究室ではなかった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



(なんだ、ここ?)


 そこは、緑色の空間だった。


 半透明の緑色の壁に覆われた、玉ねぎみたいな形状の空間で、天井までは15メードぐらいある。


 足元には、転移魔法陣。


 周囲には、魔法石のついた台座が4つ、置かれていた。


 室内には窓もなく、ただ半透明な壁を通り抜けて、穏やかな日差しが僕らに降り注いでいる。


「……転移に、成功したの?」


 ソルティスが呟いた。


 イルティミナさんは頷いた。


「どうやら、そのようですね」


 その隣にいるポーちゃんは、無言のまま、けれど興味深そうに周囲を見回している。


 キルトさんは「ふむ」と呟き、


「ここがエルフの国か。……しかし、誰の姿もないの」 


 と口にする。


 確かに、転移した途端、何かがあるかもと備えていたけれど、室内には誰の姿もなかった。


 コロンチュードさんも、エルフさんの姿もない。


 というか、


(ここから、どうやって出たらいいの?)


 この緑色の部屋には、窓だけでなく、出入り口らしい扉なんかも見当たらなかったんだ。


 壁に近づき、触ってみる。


 グッ


 少し冷たくて、かすかな弾力があった。


 そして、植物の匂いがする。


 イメージするなら、大きな太い茎みたいな材質の壁だ。


 イルティミナさんは、自分たちのパーティーリーダーを振り返る。


「これから、どうしますか?」

「ふむ」


 キルトさんは、あごに手を当て考え込む。


 と、その時だ。


 ヒィン


 玉ねぎ型の壁の一部に、縦に亀裂が生まれて、光が差し込んだんだ。


「!?」


 僕らは全員、反射的に武器に手をかけ、そちらを振り返った。


 亀裂はゆっくりと広がり、人が通れるほどになる。


 どうやら、それが出入り口みたいだ。


 そして、その出入口となった空間に、逆光となりながら、4~5人ほどの人影が見えた。


(誰……?)


 警戒しながらそちらを見ていると、


「……お~? ……ようやっと……来てくれた、ね」


 なんだか聞き覚えるのある、どこか緊張感を削ぐようなのんびりした声が聞こえてきた。


 え?


 その声に気づいて、僕らは驚く。


 特に、いつも無表情のポーちゃんは、その水色の瞳を限界まで見開いていた。


 4~5人の人影は、全員、耳が尖っていた。


 スタ スタ


 その真ん中にいた声の主が、前に出てくる。


「……あ」


 室内に入ったことで姿が見えて、僕はつい声をあげてしまった。


 そこにいたのは、1人のエルフさんだ。


 長い金髪を床まで垂らして引き摺り、本来プロポーションは抜群なのに、猫背がそれを台無しにしている残念美人のエルフさん。


 でも、着ているものは、いつものくたびれたローブではなくて、上質な絹のような素材で作られたドレスのような服で、耳飾りや額飾りなども身に着けていて、どことなく高貴な雰囲気が漂っていた。


 そんな彼女の翡翠色の瞳が、眠そうに半分閉じたまま、ゆっくり順番に僕らを見つめる。


「…………」


 それがポーちゃんに向いた時、瞳が開き、少しだけ優しく細められた。


 そして、息を吐き、


「……キルキル、マール、みんな、待ってたよ」


 僕らを呼んだコロンチュード・レスタその人が、唖然としている僕らに微笑みかけたんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「コロン! そなた、無事であったのか!?」


 キルトさんが呆れたような、怒ったような声をあげる。


 それを受け、金髪のハイエルフさんは、


「……無事?」


 と不思議そうに小首をかしげた。


 …………。


(あれぇ?)


 その反応に、僕らは茫然となってしまう。


 キルトさんは確認する。


「そなた、風の精霊を使って、『助けてくれ』とフォルスに連絡をしたのであろうがっ」

「…………」


 コロンチュードさんは、眠そうな顔で考え込む。


 それから、「あぁ……」と呟いた。


「……うん、したよ。……ちょっと手伝ってもらいたいこと、あったから……『助けて』って」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 あっさり言うハイエルフさんに、僕らは言葉もなかった。


 コロンチュードさんの『助けて』を、僕らは緊急事態の救いを求めるものだと思っていた。


 でも、違った。


 彼女は、ただ気軽に『手伝って~』というニュアンスで連絡して来ただけだったんだ。


(……まさかの『助けて違い』だ)


 言葉って難しいね。


 僕とイルティミナさんは、思わず顔を見合わせ、ソルティスは拍子抜けしたように両肩を落としている。


 ポーちゃんは、義母ははの無事なことに安堵の息を吐く。


 そして、キルトさんは頭痛がするのか、こめかみを片手で押さえて、


「そうであった……。こやつは昔から、そういう奴なのじゃ。わかっておったはずなのに、わらわは……わらわは……」


 額に青筋を立てながら、怨嗟の声を漏らしている。


 ……あはは。


 そんな僕ら5人の様子に、当のコロンチュードさんはキョトンとしていた。


(まぁ、いいか)


 無事であるなら、それで何よりだ。


「コロンチュードさんが元気なら、それで大丈夫です」


 僕は笑った。


 コロンチュードさんは首をかしげ、


「……うん。……私は、元気……だよ?」


 と不思議そうに言った。


 ふと見れば、そんなコロンチュードさんの後ろにいた4人のエルフさんは、戸惑ったように僕らを見ていた。


「アプス、チ、ポナ?」


 その1人が、コロンチュードさんに声をかける。


(?)


 聞いたことのない言語だ。


「あれは、恐らくエルフ語ですね」


 僕の表情に気づいて、イルティミナさんが教えてくれた。


(エルフ語?)


 確か、エルフだけが使う言語だったっけ。


 ずっと昔、初めて王都を訪れる時の山の村で、イルティミナさんにそういう言語もあるって教わった記憶がある。


「ポムリ、ア」

「エ、プロム、ポッポスカ」

「タリア」


 コロンチュードさんとエルフさんたちがエルフ語で会話をする。


 なんとなく、困惑している4人のエルフさんたちに、コロンチュードさんが何かを説明して、説得しているような感じだった。


 やがて、話は終わった。


「……やれ……やれ」


 コロンチュードさんは、そう吐息をこぼしていた。


 僕は首をかしげ、


「それで、コロンチュードさん? 僕らに手伝って欲しいことって、何ですか?」


 と訊ねた。


 彼女は「ん?」とこちらを見る。


 いくら常識外れのことをするコロンチュードさんでも、この遠いエルフの国まで僕らに手伝いを求めるのならば、それ相応の事情があると思ったのだ。


 彼女は少しだけ、真剣な瞳になった。


「……それは、女王の前で説明する……よ」


 そう言った。


(女王?)


 僕は目を丸くする。


 キルトさんが確認した。


「それはつまり、このエルフの国を治める御方か?」

「……そ」


 コロンチュードさんは、素っ気なく頷いた。


 それから彼女はこちらに背を向けると、「ついて来て」と言葉を残して、光の差し込む亀裂の出入り口へと歩きだす。


 4人のエルフさんも、それに続いた。


 思わず、僕らは顔を見合わせる。


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 でも、すぐに無表情のポーちゃんが、義母のあとを追って歩きだした。


 スタスタ


(わ?)


「ちょ……待ちなさいよ、ポー!」


 ソルティスが少し慌てたように、金髪幼女を追いかけた。


 キルトさんもため息を1つこぼして、あとに続く。


「私たちも行きましょう、マール」

「うん」


 僕とイルティミナさんは頷き合うと、転移魔法陣の描かれた部屋を出て、先に行ったみんなを追いかけたのだった。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、3日後の月曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] まぁ、コロンだしね…仕方ないね…うん。 キルトはどんまい。
[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ 極秘潜入ミッションかと思いきや、普通に入国出来たとか……。 そもそも付け耳なんて必要無かったのか(笑) [一言] 言葉足らずなコロンチュードのせいで、マール達の…
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