300・草原の歌う耳
ついに話数も300話となりました!(※人物紹介、番外編は除いて)
こんな長い物語をここまで読んで下さって、皆さん、本当にありがとうございます。もしよかったら、どうかこれからもマールたちの冒険を見守ってやって下さいね!
それでは、第300話です。
どうぞ、よろしくお願いします。
僕ら5人は、フォルスさんと一緒に馬車に乗って、『冒険者ギルド・草原の歌う耳』へと向かった。
王都の東側の一角で、馬車は止まった。
通りには、武器屋、防具屋、道具屋など、冒険者の利用するような建物が並んでいる。
そして、その中心に、大きな円形の建物があった。
(ここが、草原の歌う耳なのかな?)
建物の外壁は、木の柱を何本も交差させて、曲線を描いているお洒落な雰囲気だ。
僕らは馬車を降り、建物へと入っていく。
「わぁ……」
思わず、声が漏れてしまった。
ギルドの内部には、大きな窓から日差しが差し込んでいて、上品な明るさがあった。
受付のテーブル表面は、木目調になっている。
椅子は、花のような形。
フロアには、丸太のベンチや小川、池もあって、自然の中にいるようなリラックスできる癒しが感じられた。
そして、そこにいる冒険者は、ほとんどがエルフさん。
…………。
凄いや、エルフさんがいっぱいだ。
立ち尽くす僕に、イルティミナさんは困ったように笑う。
「マールは、本当にエルフが好きですね」
うん?
だって、異世界の象徴っていったら、エルフさんだもの。
前世の憧れの存在が、こんなにいたら、ついつい見ちゃうよね?
ちなみに、エルフさんたちも、自分たちのギルド長と一緒に歩いている僕ら5人に興味深そうな視線を送っていた。
「こちらへどうぞ」
フォルスさんは穏やかに先を促す。
あ、はい。
僕らはそのまま、関係者以外立ち入り禁止となっている奥の方へと歩いていった。
◇◇◇◇◇◇◇
王都で一番の老舗の冒険者ギルドは、この『草原の歌う耳』なんだって。
最初は、数人のエルフさんの集まりだった。
それがやがて、時と共に人数が増えて、気がついたら冒険者ギルドとなってしまった。
そして100年以上前、1人のハイエルフがギルドに加わった。
そのハイエルフの女性が『金印』となったことで、零細ギルドだったのが人気も知名度も一気に上がったんだとか。
「それがコロンです」
フォルスさんは、建物の中を歩きながら、そう教えてくれた。
(へ~?)
僕らの所属する『月光の風』は、まだ新興のギルドだ。
だけど、キルトさんが『金印』となったおかげで、一気に躍進したそうなので、そこは似ているんだなと思ったよ。
……コロンチュードさんと同じと言ったら、キルトさんは嫌がるかもだけどね。
やがて僕らは、地下へと向かった。
コツン コツン
魔光灯に照らされた石の螺旋階段を、長く降りていく。
「この先は、かつてコロンに頼まれて作った、彼女の研究室なんですよ」
と、フォルスさん。
今でこそ、王都の郊外の森に1人で暮らしているコロンチュードさんだけど、昔は、このギルドの地下で色んな研究や実験を行っていたんだって。
彼女の人見知りや、研究、実験の危険さから、今の森に移ったのだとか。
ギルドの建物は、長い年月の間に改築や増築もしたけれど、それでも、今もここはコロンチュードさんのために残してあるのだそうだ。
コツン
やがて僕らの足は、1つの木製扉の前で止まった。
キルトさんが口を開く。
「ここに、シュムリアを発つ前のコロンが残していったものがあるのか?」
「はい」
フォルスさんは頷いた。
懐から、魔法石のついた鍵を取り出し、それを鍵穴に差し込む。
キィン
魔法石が輝き、幾何学模様の光が扉に走った。
それは、ゆっくり消えていく。
(なるほど、魔法的な鍵もかかってたんだね?)
フォルスさんは、開錠を見届けると、僕らに場所を譲るよう扉の脇にどいた。
キルトさんが前に出る。
ガチャッ ギィィ
扉を開け、僕ら5人は、部屋の中へと入っていった。
◇◇◇◇◇◇◇
「これは……」
そこは、ドーム型の部屋だった。
家具などは一切なく、代わりに、石の床には直径30メードはある巨大な魔法陣が刻まれていた。
部屋の4隅には、魔法石のついた台座が置かれている。
それ以外、何もない。
僕らは、みんな、ちょっと呆然となった。
(……この魔法陣は何だろう?)
なんとなく、どこかで見たような気がするんだけど、ちょっと思い出せない。
フォルスさんに聞こうと思った。
でも、その前に、
「嘘でしょ……。コロンチュード様、まさか……あの魔法を完成させたっていうの?」
少女の震える声がした。
……ソルティス?
僕らの視線が集まる。
それを無視して、彼女はゆっくりと歩きながら、足元の魔法陣を確かめていった。
やがて、口元を押さえる。
「間違いないわ。これは……本物の『転移魔法陣』よ!」
そう叫んだ。
転移……魔法陣?
(あ!)
そうだ、思い出した。
前に、アルン神皇国にある『万竜の山』を登っていた時に、僕らを山頂まで転移させてくれた魔法陣だ。
ここにある魔法陣は、それにそっくりなんだ。
フォルスさんは、気づいた少女を感心したように見て、
「その通りです」
と頷いた。
「コロンは、本物の転移魔法陣を目にしたことで、その座標制御についても理解しました。そして、万が一に備えて、この魔法陣を残していったのです」
……そうだったんだ。
キルトさん、イルティミナさんも驚いている。
ソルティスが、ハッとした。
「でも待って。これを起動するには、対となる魔法陣が必要よね?」
「はい」
フォルスさんは、また頷く。
「コロンは、『エルフの国』に到着したならば、隙を見て『転移魔法陣』を作成すると言っていました。恐らく、対となる魔法陣は完成していると思いますよ」
その意味を、僕も理解する。
「じゃあ――」
青い瞳を輝かせて、
「この『転移魔法陣』を起動すれば、僕らは一瞬で『エルフの国』へ行けるんですね!?」
「はい、そのはずです」
僕の確認に、フォルスさんは微笑んだ。
(やった!)
僕は、キルトさんを振り返る。
キルトさんも力強く笑って、頷いていた。
「そうか。コロンめ、これで必ず助けに行かねばならなくなったの」
悪態も、どこか嬉しそうだ。
ソルティスは、金髪幼女の手を握る。
キュッ
「やったわね、ポー!」
「…………(コクッ)」
ポーちゃんは無表情だったけど、少しだけ安心したような気配だった。
イルティミナさんも微笑んでいる。
そんな僕らを、フォルスさんが振り返った。
「コロンは優秀な魔学者ですが、人としては未熟な点も多くあります。『金印』の責任もわからず、その義務を果たさないことも多い。このギルドは彼女の功績に支えられ、けれど、その自由さに苦しめられることも多々ありました」
……え?
突然の言葉に、僕らは戸惑う。
そんな僕らを、フォルスさんの蒼い瞳は、真摯に見つめた。
「それでも、コロンチュード・レスタは私たちの光です。大切な友人であり、家族なのです。お願いします。どうか皆さん、彼女を助けてください」
そして、深く頭を下げられる。
(フォルスさん……)
僕ら5人は、顔を見合わせる。
すぐに頷いた。
僕の青い瞳は、優しいエルフのギルド長さんを見返して、
「はい、必ず」
そうはっきりと答えた。
ご覧いただき、ありがとうございました。
※次回更新は、明後日の金曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。