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298・楽しい誕生会

第298話になります。

よろしくお願いします。

 レヌさんと会うのは、1年以上ぶりだった。


 最後に会ったのは、ドル大陸に向かう直前で、だから、まさかここで再会するとは思わなかった。


 驚く僕に、


「キルトさんの紹介で、ここで働かせてもらってるんです」


 レヌさんは、そうはにかんだ。


(へ~?)


 思わず、銀髪のお姉さんを見てしまう。


「何、ポゴの奴が、ちょうど人手を欲しがっていたからの」


 と、キルトさん。


 そうだったんだ。


「でも、それなら教えてくれればいいのに」


 と、僕は不満を口にする。


 キルトさんは、愉快そうに笑った。


「教えたら、つまらんであろ? こうして、そなたの驚く顔が見たかったのじゃ」


 え~?


 大笑いするキルトさんに、僕は唖然だ。


 レヌさんも苦笑している。


 それから表情を戻して、


「おかげ様で、新しい生活を始めることができました。キルトさんやポゴさんには本当に感謝しています」


 と言った。


 キルトさんは笑い、ポゴさんはちょっと照れ臭そうだ。


 それから、レヌさんは僕を見て、


「もちろん、マールさんにも」

「…………」


 ……僕、何かしたっけ?


 キョトンとなる僕に、レヌさんは「ふふっ」と楽しそうに笑った。


 そして、


「それでは、2階席に案内しますね。皆さん、ついて来てください」


 彼女は、お店の階段をトントンと登っていった。


 首をかしげる僕を置いて、キルトさん、ソルティス、ポーちゃんは歩きだす。


「さぁ、行きましょう」


 イルティミナさんは、僕の背中を軽く押した。


(あ、うん)


 僕も歩きだす。


 その背中に、


「私と同じで、レヌにとってもマールは、己に生きる意味をくれた恩人なのでしょう」


 そんな声が聞こえた。


(え?)


 振り返りたかったけど、イルティミナさんがグイグイ押してくるので、振り返れない。


(…………)


 ま、いいか。


 よくわからないまま、僕は、イルティミナさんと階段を登っていった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 レヌさんの案内で、ポゴさんのお店の2階へとやって来た。


「こちらです」


 通されたのは、大きなテーブルと5脚の椅子がある個室だった。


 大きな窓からは、王都の通りが見えている。


(お~、いい眺め!)


 長く続いた通りには、たくさんのお店と様々な種族の人たちが歩いている。


 通りの先には、神聖シュムリア王城も見えた。


 僕は、窓際の席に座った。


 隣には、イルティミナさん。


 対面には、キルトさん、ソルティス、ポーちゃんが座っている。


「はい、メニューです」


 レヌさんは、僕らにメニュー表を渡してくれた。


(どれどれ?)


 それを眺めていると、ふとレヌさんの視線に気づいた。


 …………。


 なんか、ジッと見られてる。


「えっと、どうかした?」


 落ち着かなくて、僕は、素直に訊ねた。


 レヌさんは、「あ、いえ」とちょっと慌てた顔をして、それから、少し恥ずかしそうにはにかむと、


「マールさん、しばらく会わない間に、大人っぽくなったから……ちょっと驚いてしまって」


 と言った。


 大人っぽく……。


「本当に?」

「はい」


 そんなこと言ってもらえたの、初めてだ。


「嬉しいな。ありがと、レヌさん」


 僕は笑った。


 すると、レヌさんは息を呑み、両手を胸の前でギュッと握った。


(?)


「コホン」


 隣で、急にイルティミナさんが咳払いをする。


 そして、さりげなく左手をテーブル上に置いた――その薬指には、僕のあげた『ミスリル銀の指輪』が輝いている。


 レヌさんは、ハッとした。


「ご、ごめんなさい。ご注文、承りますね」


 そうして僕らの注文をメモすると、そそくさと階下に行ってしまった。


 あらら。


(……もうちょっと話したかったな) 


 残念だったけど、でも、レヌさんは仕事中だから仕方ないだろう。


 と、キルトさんが苦笑して、


「イルナは苦労するの」


 と呟いた。


(え?)


 イルティミナさんは真紅の瞳を伏せて、


「マールは、素敵な男の子ですからね。まぁ、こういうこともあるでしょう」


 と吐息をこぼす。


 ……なんのこと?


 首をかしげる僕に向かって、ソルティスが言った。


「アンタって、本当、無自覚よね」

「???」


 やっぱり意味がわからない。


 戸惑う僕の様子に、ポーちゃん以外の3人は顔を見合わせて、『やれやれ』と苦笑とため息をこぼした。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「ふ~ん? 今年は『本』かぁ」


 美味しい料理を食べながら、僕の渡した誕生日プレゼントに、ソルティスはそんな感想を漏らした。


 少女の手には、分厚い本が1冊。


 表紙には、『魔導学理論・その5 著コロンチュード・レスタ』と書いてある。


 それを眺めて、


「去年みたいにオリハルコンじゃないのね」


 とソルティス。


 いやいや、そんな簡単にオリハルコンなんて手に入るわけないでしょう?


 僕は言った。


「これでも、その『本』を探し出すのに苦労したんだよ?」


 前にソルティスが欲しいと言っていたので、王都中の本屋を駆け回り、11軒目でようやく手に入れたのだ。


 少女は肩を竦める。


「知ってるわ、発行部数が少ない希少本だもの。……ま、ありがとね」

「…………」


 ……反応、薄い。


 キルトさんが「意地っ張りめ」と苦笑している。 


 僕は付け加えるように、


「あと、これも」


 と、リボンで丸めた紙を渡した。


「何よ?」

「似顔絵。今年の分だよ」

「……ウヘ。もしかして毎年、渡されるの、私?」


 そう言いながらも、受け取ってくれるソルティス。


 ペラッ


 リボンをほどいて、中を見る。


 一緒になって、キルトさん、イルティミナさん、ポーちゃんも後ろから覗き込んだ。


「ほぅ?」

「まぁ……素敵ですね」

「ポーは賞賛する」


 3人は、驚いた顔で褒めてくれた。


「…………」


 一方、ソルティスは無言だった。


 子供から大人になろうとする少女の横顔――その自分の絵を見つめ、それから、また丸める。


「マールからは、私はこう見えるのね」 


 そう呟いた。


 少しだけ、頬が赤くなっている。


(気に入らなかったわけじゃなさそうだ……)


 よかった。


 ソルティスの反応に、僕も一安心である。


 次にプレゼントを渡したのは、ポーちゃんだ。


「あら、『押し花の栞』?」

「…………(コクッ)」


 孤児院では、育てた花を観光客に売ることもある――そんな経験を生かして、ポーちゃんの厳選した花を、僕のプレゼントに合わせて『押し花の栞』にしたんだそうだ。


 ちなみに、ポーちゃんに相談されたイルティミナさんの発案です。


 ソルティスは笑った。


「ありがと、ポー。嬉しいわ」


 ナデナデ


 幼女の金髪を撫で回す。


 首を左右に揺らされながら、ポーちゃんはホッとした様子だった。


 ……なんか僕の時と反応違うよ、ソルティス?


(でも、よかったね、ポーちゃん)


 心の中で、僕も笑顔を浮かべた。


 そして次は、ソルティスの実のお姉さんからのプレゼントだ。


「わ? 『洋服』だわ」


 受け取ったソルティスは、びっくりしている。


 それは、とてもお洒落なワンピースだった。


 ソルティスには、ちょっと大人っぽ過ぎないかな……とも思ったけれど、イルティミナさんは、落ち着いた微笑みでこう言った。


「ソルも15歳、もう成人ですね」

「…………」

「これからは、貴方も自立した1人の女性です。冒険者としてだけでなく、1人のレディとして、この服の似合う大人になってくださいね」


 ……そっか。


 イルティミナさんなりに、ソルティスへの激励を込めたプレゼントだったみたい。


 それが伝わったのか、


「イルナ姉……」


 ソルティスも、瞳を潤ませている。


 そんな妹に、イルティミナさんは、大人の女性らしくニコリと微笑んでいた。


 最後は、キルトさんだ。


 渡されたプレゼントは『ガラス細工のお猪口』だった。


「綺麗……」


 ソルティスは陽の光に透かして、その輝きに見惚れている。


 キルトさんが笑った。


「そなたも酒が飲める年になったからの。そういう物の1つがあっても良かろう?」


 そう言って、パチッと片目を閉じる。


 あはは、キルトさんらしいね。


 ちなみにお値段を聞いたら、なんと1500リド――15万円の高級品だった。


 ひょええ……。


 ソルティスも驚いていたけれど、


「ありがと、キルト! これで美味しいお酒、いっぱい飲むわ」


 そう嬉しそうに笑った。


 ……大食い少女が大酒飲み少女になってしまわないか、ちょっと心配になってしまう僕でした。


 そんな感じで、プレゼント渡しは終了した。


 それからは、みんなで食事会。


 ポゴさんの料理は美味しくて、なんとソルティスのために誕生日ケーキも用意してくれていて、みんなで分けて食べた。


 楽しい時間だった。


 みんな笑顔で、日が暮れるまで、僕らの賑やかな食事会は続いたんだ。 



 ◇◇◇◇◇◇◇



「う~、ちょっとクラクラするわぁ」


 夜、人生初のお酒を飲んでみたソルティスは、足取りも怪しくて、ポーちゃんの肩を借りていた。


 場所は、ポゴさんの店の前だ。


 キルトさん、イルティミナさん、ポゴさんは苦笑している。


「はい、どうぞ、ソルティスさん」


 レヌさんは、お水の入ったコップを持ってきてくれた。


「あんがと~」と、グビグビ飲む少女。


(……大丈夫かな?)


 昔のイルティミナさんみたいに、血中の魔力が暴走しないか心配してしまうけど、


「問題ありませんよ」


 と、イルティミナさん。


 疲労が酷かったり、体調が悪くなければ、そうそう、そういうことは起きないそうだ。


 キルトさんは笑う。


「なかなか良い飲みっぷりであった。将来が楽しみであるの」


 …………。


 早速、自分のプレゼントを使ってくれたからか、酒飲み仲間ができそうだからか、キルトさんは上機嫌だ。


(キルトさんも、いっぱい飲んでたしなぁ)


 それでも、少女のように足元がふらつかないのは、さすがである。


 ポゴさんも笑っている。


「また来てくれよな」


 みんな、頷いた。


「料理、美味しかったです。ご馳走様でした」


 僕は、そう笑った。


 ポゴさんは「お、そうか」と嬉しそうだ。


「料理の中に幾つかあった『テテト連合国の家庭料理』は、レヌが教えてくれたもんでな。今日は、レヌも包丁を握ってたんだぜ?」

「そうなんですか?」


 僕は驚き、レヌさんを見た。


 レヌさんは恥ずかしそうにはにかんで、


「お口にあったのなら、よかったです」


 と言った。


 僕は笑った。


「そうだったんだ。本当に美味しかったよ、レヌさん。また食べに来るね」

「あ、はい!」


 レヌさんは嬉しそうに頷いてくれた。


 と、


「コホン」


 横から咳払いが聞こえる。


 見れば、イルティミナさんが美しく微笑んでいて、僕の肩に白い手を置いた。 


「その時は、私も一緒に行きますね」


 …………。


 なんだろう? ちょっと寒気がした。


 見たら、レヌさんもぎこちない笑顔になっている。……んん?


 首をかしげる僕。


 キルトさんとポゴさんが顔を見合わせて、なぜか苦笑し合っていた。


(まぁ、いいか)


 そうして僕らは、ポゴさん、レヌさんに見送られながら、ポゴさんのお店をあとにした。


 5人で一緒に、夜の通りを歩いていく。


 さすがはシュムリア王国の王都だけあって、夜になっても、通りにはたくさんの人が歩いていた。


 夜風は、少し冷たい。


 ふと見上げたら、夜空には紅白の月が輝いていた。


「……月が綺麗だなぁ」


 ふと呟く。


 キュッ


 そんな僕の手が、横から誰かに握られる。


「本当ですね」


 隣から、柔らかなイルティミナさんの声がした。


(…………)


 僕らの前を、ポーちゃんの肩を借りたソルティスが歩き、すぐ横で、いつでも手を貸せるようにキルトさんが見守っている。


 周囲からは、明るく賑やかな人々の声。


 そして、夜になっても明るい店や街灯の光が煌めいている。


 左手には、愛しい人の温もりが。


 ……あぁ、いい時間だなぁ。


 そう思った。


 あと1ヶ月ほどは、こんな優しい時間が流れていくのかと思うと、自然と笑みがこぼれてしまう。


 僕らは、夜の王都ムーリアの中を歩いていく。


 ――けれど、その翌日、僕らの休息の時間の終わりを告げる出来事が起きるなんて、この時は思ってもいなかったんだ。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※次回更新は、3日後の月曜日0時以降になります。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ 第一種警戒体制発令! イルティミナレーダーに感あり!! 対象ははレヌ( ̄∇ ̄) ……相手がレヌで事情が解っているだけに、イルティミナとしても複雑な処でしょうね(…
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