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番外編・転生マールの冒険記37

番外編・転生マールの冒険記37になります。

よろしくお願いします。

『猿王ムジャルナ』の死を見届けた直後、僕の全身を包む『虹色の外骨格』は、光の粒子に変わった。


 砕けた粒子の中から、生身の僕がこぼれ出る。


 ドサッ


『究極神体モード』の反動で、僕は、その場に座り込んでしまった。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 息が苦しい。


 全身に、筋肉痛みたいな痛みも走っている。


 体内の『神気』も枯渇して、獣耳や尻尾も消えていた。


「大丈夫か、マール?」


 アメルダス陛下が、心配そうに声をかけてくる。


 僕は「はい」と笑った。


 僕らは、『猿王ムジャルナ』は討ち取った。


 最大の脅威は取り除いたのだ。


 彼女もそれがわかっているからか、笑った僕に、落ち着いた頷きを返してくれた。


(でも、まだ終わりじゃない)


 僕は、自分の腰ベルトで光っている『探査石円盤』を見つめた。


 さっきよりも輝きが強い。


 それを取り外して、洞窟の奥の闇へと向けると、円盤の中央にある魔法石の輝きは、より強くなった。


 うん、間違いない。


(この洞窟の奥に、『神霊石』があるんだ!)


 ググッ


 僕は、震える膝に手をついて、必死に立ち上がろうとした。


 すると、


「手を貸そう」


 なんと、アメルダス陛下が肩を貸してくれて、僕のふらつく身体を支えてくれた。


 触れ合った身体から、香水の匂いがする。


 トルーガの女性は、アルバック大陸の女性に比べて薄着なので、その肉体の感触も思った以上に伝わってきた。


「あ、ありがとうございます」


 ちょっと慌てながら、お礼を言った。


 彼女は、そんな僕の反応を見つめ、それから「構わない」と笑った。


 どこか安心したような笑顔だった。


(???)


 戸惑っていると、


「いや……わたくしたちを脅かし続けた『猿王ムジャルナ』を倒したさっきのお前の姿は、とても恐ろしかった。けれど今は、ただの子供に見える。それが不思議な感じでな」


 と苦笑された。


(……そんなに違うかな?)


 自分では、よくわからない。


 でも、ここまで辿り着けたのは、みんなのおかげだ。


 多くの人が力を合わせ、結果として、僕が最後の役目を担っただけで、『猿王ムジャルナ』は全員で倒したのだと思えるのだ。


 そう伝えると、


「そうか」


 アメルダス陛下は瞳を伏せて、頷いた。


 それから、


「この地で命を落とした戦士たちの魂も、その言葉には喜んでいるだろう」


 そう言って、微笑まれたんだ。


(……うん)


 僕も頷いた。


 それから僕ら2人は、松明に火を灯して、寄り添い合いながら、洞窟の奥へと進んでいった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 そこは、広い洞窟だった。


 直径20メードはある空洞が、延々と奥まで続いている。


(…………)


 ここは『猿王ムジャルナ』の巣なのかな?


 そんなことを思いながら、松明の炎を頼りに、奥へ奥へと歩を進めていると、やがて前方に白い光が見えた。


 地面の一部が、光っている。


(あ……)


 それは、白く光を放つ石だった。


 大きさは、20センチほど。


 その輝きは神々しく、元々が大きな球体の欠片のように見えるそれは、けれど、あまりに無造作に、前方の地面に突き刺さっていた。


「あれか?」


 アメルダス陛下が問う。


 僕は頷いた。


 一目見ただけで、わかる。


 感じる


 石が発する光は、間違いなく、僕の体内にある『神気』と同じもので、でも、その輝きは、僕らの何十倍も強く濃縮された力であることが理解できた。


 あれが。


 あれこそが。


(僕らの探し求めていた『神霊石』だ!)


 その姿を見つめて、心が震えた。


 僕は、アメルダス陛下に肩を借りながら、『神霊石』へと近づいた。


 その場にしゃがみ、小さな手を伸ばす。


 キュッ


 掴んだ。


 そして、その光る石は、驚くほどあっさりと地面から抜け、僕の手の中に収まった。


(…………)


 シュムリア王国を発って、およそ3ヶ月。


 長い長い旅をしながら、ずっと探し続けていた『神霊石』が、今、ここにあった。


 その輝きを見つめる。


(……ようやく、手に入れた)


 僕は、泣きそうになった。


 そんな僕の横顔を、アメルダス陛下は、とても優しい眼差しで見守っていた。


 その瞬間だった。


 グラッ


 大地が揺れた。


(!?)


 地震!?


 突然の揺れに、僕らはその場で転びそうになった。


 けれど、揺れはすぐに収まる。


(……ん?)


 その時、僕は『神霊石』があった場所から先にも、洞窟が続いていることに今更ながらに気づいた。


 その奥の暗闇から、悍ましい気配がした。


(!?)


 ブワッ


 全身の毛穴が開き、嫌な汗が溢れた。


 身体がガタガタと震えだし、そこで、ようやく自分が『恐怖』しているのだと理解する。


「マール?」


 アメルダス陛下が、僕の変化に驚く。


 僕は答えない。


 いや、答えられない。


 それでも、必死に右手を動かして、魔法の『光鳥』を呼びだした。


(ちゃんと確かめなければ……っ)


 その一念が僕を突き動かしていた。


 ピィン


 一鳴きして、『光鳥』は洞窟の奥へ向かう。


 5メード。


 10メード。


 そして20メードに到達した時、その光は、洞窟の奥にある()()を照らしだした。


 ――巨人だ。


 痩せ細り、干からびた巨人が、洞窟内を埋め尽くすように横たわっていたのだ。


 アメルダス陛下も硬直する。


 僕は、歯の根を震わせながら、呟いた。


「……黒の……巨人」


 この暗き大地の底で僕らが見つけたのは、かつて、この大陸を滅ぼしかけた『悪魔の死体』だった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 僕らは動けない。


 そして、目の前の『悪魔の死体』は、そこから放つ邪悪な気配をどんどんと強くしていた。


(いったい、何が……?)


 僕は、混乱した。


 そして、見た。


 その干からびた巨人の皮膚から、穴という穴から、滲み出るように『黒い水』が溢れてくるのを。


「!」


 それを見た瞬間、その『黒い水』の正体を、『神狗の本能』が理解した。


(あれは『悪魔の欠片』だ!)


 400年前、『白の巨人』に倒されながら、けれど、その『黒の巨人』の体内に残されていた『力の残滓』――あの『黒い水』が、すなわち『悪魔の欠片』なのだと、僕の中のアークインの魂が訴えている。


 それが今、僕らの目の前で活動を始めていた。


 ジュク ジュク


『黒い水』は『悪魔の死体』から際限なく溢れ、洞窟の床に広がっていく。


(なんで……?)


 なんで、こんなことに?


 そう思った時、僕は、自分の右手にある『神霊石』の存在に気づいた。


『――輝きを奪うな』


 ふと『猿王ムジャルナ』の死ぬ間際の言葉を思い出す。


(……まさか)


 この『神霊石』が今まで、この『悪魔の欠片』の存在を封じていた……?


 その予感に震えた。


 もしもそれが本当なら、僕は、とんでもない過ちを犯してしまったことになる。


 ムジャルナは言った。


『――我は、この地を守り、平和を成す王なり』


 それはつまり、奴は、この『黒い水』の封印を知っていて、だからこそ、長らくこの地に君臨しながら、人間たちから『神霊石』を守っていたということだ。


 その行為は、群れと生息地を守るためだったかもしれない。


 けれど、結果として、『猿王ムジャルナ』はこの世界も守っていたんだ。


 ガタガタ


 身体が震えた。


 自らの犯した罪が怖くて仕方がない。


 僕が……。


 僕のこの手が、封印された『悪魔の欠片』を目覚めさせてしまったんだ!



 ◇◇◇◇◇◇◇



「おい、マール!」


 アメルダス陛下に肩を揺さぶられ、僕は、我に返った。


(あ……)


 そうだ。


 後悔していても、時間は巻き戻せない。


 何より、そんな時間の余裕は、僕らに残されてなどいなかった。


 ギュッ


 僕は、アメルダス陛下の手を握った。


 そのまま、驚く彼女の手を引きながら、洞窟の外を目指して走りだす。


「逃げます!」

「何!?」


 彼女は、その赤い目を見開く。


 僕は走りながら、叫んだ。


「今の僕らじゃ、太刀打ちできません! 早くキルトさんたちと合流しないと……っ!」


 説明する時間ももどかしい。


 僕の剣幕に、アメルダス陛下は困惑しながらもついて来てくれる。


 タタタッ


 よろめく足で、必死に走った。


 やがて前方に、『猿王』の巨大な死体が見えてきた。


(っっ)


 この地を守り、世界を守ってきた守護者の死体の横を、僕は唇を噛み締めながら通り抜ける。


 ジュク ジュク


 そんな僕らの背後から、『黒い水』も洞窟の床を広がってきていた。


 そして、『黒い水』が『猿王ムジャルナ』の死体に触れた途端、その水面から無数の『黒い手』が伸びて、巨大な死体に掴みかかった。


(!?)


 驚く僕らの目の前で、『黒い手』の触れた部分の肉が溶けていく。


 ジュワワァ


 白煙が上がる。


 ものの10秒ほどで、体長7メードはあった巨体がなくなってしまった。


「なんと……」


 その脅威を実感したのか、アメルダス陛下も青ざめている。


 その間も、『黒い水』は迫ってくる。


 僕らは再び走って、必死に洞窟の外を目指した。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 やがて、僕らは、なんとか洞窟の外へと辿り着いた。


 太陽の光が眩しい。


 けれど、それに安心なんかしていられなかった。


『黒い水』は、当たり前だけれど、陽の光に当たっても止まることなく、洞窟の外の地面にも広がっていったんだ。


 更に移動しようとした時、


 ガッ


(あ……)


 僕は、足をもつれさせ、転んでしまった。


「マール!」


 陛下の焦った声。


 立ち上がろうと思ったけれど、上手く力が入らない。


(究極神体モードの反動だ……)


 僕は、唇を噛み締める。


 そして――覚悟を決めた。


 僕の青い瞳は、アメルダス陛下を見据える。


「陛下は、先に行ってください」

「何!?」


 陛下は驚いた顔をした。


「僕は、ここで奴を食い止めます。その間に、陛下は増援を連れてきてください」


 そう言って、僕は、最後の力を振り絞って立ち上がった。


『黒い水』へと剣を構える。


 アメルダス陛下は、僕の横顔を見つめた。


「……できるのか?」

「はい」


 僕は頷いた。


 それを見て、陛下は頷き、


「わかった。すぐに助けに来る! それまで、決して死ぬな!」


 そう言葉を残して、一気に山の斜面を下っていった。


 …………。


(ごめんなさい)


 僕は、心の中で謝った。


 本当は、僕にはもう『悪魔の欠片』を食い止めるどころか、1度だって剣を振る力も残っていなかったんだ。


 でも、


(誰かが知らせなきゃ)


 ここで起きていることを、『悪魔の欠片』の存在を、みんなに知らせなければいけなかった。


 動けぬ僕がいたら、陛下も逃げ切れない。


 どちらも死ぬことは許されない。


 ならば、彼女を逃がして、ここで死ぬのが僕の役目だ。


 ジュワ ジュワ


 周囲に『黒い水』が広がっていく。


 その水面から、長く伸びた無数の『黒い手』が生えてきた。


(……あぁ)


 それを見つめて思った。


 やっぱり、死にたくない……って。


 でも、どうしようもない。


 僕は、荷物の中から『赤い発光信号弾』を取り出し、それを空に向けると引き金を引いた。


 ヒュルル シュパァン


 赤い魔法の光が、空に輝く。


 それは『危険』の合図。


 自分がもう助からないと悟り、他の仲間たちに『ここには来るな』と知らせる合図だった。


(まさか、自分が使うことになるとは思わなかったよ……)


 その輝きに照らされながら、僕は苦笑する。


 …………。


 これで、やるべきは終わりだ。


 僕は、大きく息を吐いた。


 ユラユラと無数の『黒い手』が揺れながら、僕の方へと近づいてくる。


 ふと、『あの人』の顔がよぎった。


 とても悲しそうな顔だった。


 そんな思いをさせてしまうことが、本当に申し訳なかった。


 だけど、


(だけど……これしか方法がなかったんだ)


 どうしようもないとわかっていても、自然と涙がこぼれた。


 泣きながら、言う。


「……約束、守れなくて、ごめんなさい」


 それが、僕の最後の言葉だった。


 ヒュパッ


 次の瞬間、伸びてきた1本の『黒い手』が僕の心臓を貫いて、背中側まで貫通していった。


(あ……)


 痛みよりも、強い熱を感じた。


 コポッ


 口から血が溢れる。


 全身に力が入らない。


 視界が、周囲からゆっくりと黒く染まっていく。


 やがて、思考がまとまらなくなって……何も……わからなくなった。


 ………………………………。


 ……………………。


 …………。


 そうして僕は、この暗黒大陸の大地で死んでしまった。

ご覧いただき、ありがとうございました。


※番外編・転生マールの冒険記は、終了まで毎日更新の予定です。どうぞ、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ 今回は『悪魔の欠片』が目覚め、『悪魔の死体』から『黒い水』。 そして『黒い水』が『黒い手』を操ると云う一連の流れが語られていただけに、緊迫感がありましたね! […
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